超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
和気あいあいと和やかな雰囲気の駐屯地へ、焦げたスーツの上着を肩に掛けたドラグレイスが戻ってきた。どうやら敵の排除を終えて戻ってきたらしい。眉をつり上がらせて不機嫌そうにしているが、悪気はない。
「そっちはどうだった?」
「なぜ俺が国中駆け回ってロボットを叩きのめさないといけないのか激しく憤りを覚えているぞクソメガネ。レンズ割れろ」
「そう言うのなら、キミ一人で邪神を足止めでもしてくれていたら僕らももっとマシな働きを今頃していたと思うよ。この田舎者」
「はん、日がな一日喫茶店に座り込んでキーボード叩いているインテリメガネがよく言う」
「毎日汗水垂れ流して畑仕事ご苦労様」
『やんのかコラァ!』
《うぉぉい、喧嘩しないで作業してくれー!?》
《そうですよ、メガネさーん。我々も戦線復帰したいんですから》
「ああ、それとだな。この国の守護女神だが、意識が戻ったらしい。俺は知らんがな。適当に休憩したらまた出るぞ」
ドラグレイスはタオルで汗を拭うと、ネクタイを外してポケットに突っ込んだ。白スーツは椅子の背もたれに掛けておき、水分補給をしてキセルを取り出す。
「ああ、そう。ノワールさん、だっけね。妹さんも頑張ってたんだろう?」
「姉を心配して気が気じゃない様子で邪魔だったがな」
「で? お姉ちゃんが心配なら先に戻ってろって言って、敵を全部引き受けたのは誰だっけ?」
「俺だ。俺の分の働きはお前の給料から差し引いてやる」
「おーい? 僕の給料と君の仕事は無関係だろうドラグレイス?」
「貴様が寝ている間、誰が戦線を持ち直したと思っているクソメガネ」
「クソメガネ以外に言うこと無いのかトカゲ野郎」
「……童貞メガネ」
「ぶち殺すぞテメェ!!!」
「やってみろ貴様!!!」
《頼むから復旧作業を急いではくれないだろうか……》
「うるさいゼロワン! 今ちょっと取り込み中だ!」
「黙ってろ機械人類! この野郎しばき倒した後だ!」
《最悪の場合、私の方から御姫に緊急回線で援護要請が出来るが。いいだろうか?》
ピタリと二人の動きが止まる。御姫の名前を出された途端、互いの胸ぐらを掴み合っていたソラとドラグレイスが苦い表情で手を離した。
「……わかった。作業に専念する」
「ここにいたら休まるものも休まらん。俺はさっさと出るぞ」
一息にペットボトルを空にして、ドラグレイスは金属バットを片手に再び駐屯地を後にする。
《メガネさん、現在の戦況はどうなっていますか? 今の我々では索敵機能も不調でして》
「名前を覚えてたら教えてあげてもいいよ、ゼロツー」
《ソラ国王》
「実は僕もよくわからない」
《クソメガネさん》
「ゼロツー。君、実は相当性格悪いだろ……」
とはいえ、現在把握できている状況としては――。
リーンボックスに到着したアルシュベイトの一騎当千ぶりがゲイムギョウ界中に放映されている。教会ではグリーンハートがグリムリーパー隊と激戦の真っ最中。
ルウィーでは邪神――ヌルズ・エクス・モルテスとエヌラス達が衝突。今もなお一進一退の攻防を繰り広げている。
深くため息をつく。手も足も出なかった。一足先の戦線離脱に、自己嫌悪に陥りそうになる。だが、自分にしか出来ない仕事は山ほど残っていた。気持ちを切り替えて、ソラはメガネを拭くと飲み物に手を伸ばす。
どいつもこいつも、こっちに仕事を投げてきやがって。なんて、少しだけすねた愚痴をこぼしながら作業を再開した。
ルウィーの雪原に、デッド・エンド・ソウルが着地する。舞い上がる積雪を溶かしながら、ブラッドソウルが喰らいついていた。丁々発止、互いの肩を貫く刀を引き抜きながら胸板を同時に蹴り飛ばす。上空からネクロソウルが
四人が肩で息を整える。乱れた呼吸が白い吐息をこぼしていた。
額から流れる血を拭いながらも、デッド・エンド・ソウルは笑っている。プロセッサユニットが破壊され、左腕もネクロソウルによって斬り落とされて、窮地に追い込まれていながら不敵な笑みを貼り付けている。
「はぁ、はぁ……エヌラスそっくりね。なんでこんなにしぶといのよ」
「ああまったくだ。まるでゴキブリみてーだな、オイ……」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、人をゴキブリ程度と一緒にすんじゃねぇ」
「おいクマムシ」
「誰がそこまで言えっつったクソ師匠!」
守護女神二人、神格者一人、旧神……魔人が一人。四人がかりで、全力を出していながらまだ邪神は立っている。しかし、確実にこちらが上回っているはずだ。
「はは、どうした? 随分とおつかれじゃあないか」
「テメェこそ、強がり言ってんじゃねぇぞ! ボロッボロじゃねぇか!」
「ええ、そうよ! ここまでやられていながら笑っていられるなんて、Mっ気のあるところもエヌラスそっくりね!」
「ネプテューヌ、テメェちょっと黙ってろ」
「そういえばお前、割りとイジメられる方が好きだったな」
「大魔導師、死んで詫びろ」
「大体好き好んで俺の修行に付き合う奴が普通なわけないだろう、このド変態」
「テメーはそれ理解してて付き合わせてんのかよ鬼畜ド外道サイコパス!!」
「――ふ、ふふ。ハハハッ、フハハハハハハハハハ!!! ハーッハッハハハハハハ!」
デッド・エンド・ソウルの哄笑が響き渡る。底抜けた笑いに、パープルハート達も押し黙って構え直していた。
血の付いた刀を捨て、右手で髪をかきあげる。指の隙間から、金色の瞳が覗いていた。
それに、寒気が走る。今まで抑圧されていた神気を開放するかのような、薄ら寒さ。
「――“コンティニュー”だッ!!」
その言葉に一番衝撃を受けたのは、他でもないブラッドソウル。エヌラスだった。
何度繰り返してきた言葉だろう。呪詛のように自分を縛り付けていた言葉。何度でも、何度でも、心なく呟いてきた呪縛。
それが今、目の前で宣言された。悪夢に打ちのめされて、だが、ブラッドソウルは膝をつかなかった。歯を食い縛り、涙を堪えて、立ち上がる。前に進む。
デッド・エンド・ソウルの傷が瞬く間に再生していく。破壊したはずの殺戮院・鏖花も鳳凰院・凶魔も破片が集まって元通りに組み上げられていった。
言葉を失い、呆然とするパープルハート達に、デッド・エンド・ソウルは厭味ったらしい笑みを浮かべて肩をすくめている。
「……どうした、なにを驚いている? 別に不思議なことではないだろう。この左眼は、次元神の左眼だ。その力の一端を俺が使うことに何ら不思議はあるまい。なぜならセロンも俺も。同じような邪神なのだからな」
次元神、セロン。箱庭の管理者。壊次元の監視者。誰の味方でもなく、誰の敵でもない。次元世界で起こるありとあらゆる事象に興味を持たず、ただ悪戯に失われていく時間に辟易していながらも空白の未来を期待している。トランジスターの力を一時的にとはいえ借り受けたパープルハートにしてみれば、確かに強大な存在だ。
その力を悪戯に使い、絶望に陥れるデッド・エンド・ソウルにますます表情を険しくする。だが相手は素知らぬ顔で再生した左手を握りしめていた。
「アイツは何一つ見返りのない邪神だが、俺は違う。俺は全てを終わらせてやれる。悪夢も、微睡む甘い夢も、何もかもだ。絶望の魔人、出来損ない、偽りの旧神――エヌラス。お前の終わりも近いな? いい加減楽になったらどうだ」
「うるせぇ……! 俺はハッピーエンド至上主義だ。デッドエンドはお呼びじゃねぇんだよ! とっとと超次元からご退場願おうか!」
「ハッピーエンド至上主義か、結構なことだ。ならばやはり貴様が死ぬべきだな、出来損ない。お前がいなければこの次元はこうも乱れなかったろうに」
「っ……!」
そうだとしても――そうと理解していたとしても、放っておけるはずがない。その甘い夢が自分を殺すと知っていながら、抗えない。
「いいえ。例えそうだとしても、エヌラスにはわたし達がついているわ。超次元から立ち去るべきなのは貴方よ、デッド・エンド・ソウル!」
「貴様ら守護女神の“希望の空論”は飽き飽きだ。夢と希望など聞き飽きた。それがどれだけ多くの心を惹きつけて、叶えきれずに殺してきた? 信仰など救いでも何でもない。救われない弱者が縋る偶像に過ぎん――貴様らのようにな」
「それが何だと言うの。それでもわたし達は諦めないわ。ゲイムギョウ界でわたし達を信じてくれる人達がいる限り、戦い続けるわ」
「ならば――
「……例え、ゲイムギョウ界から忘れ去られてもわたし達が戦わない理由にはならないわ」
「ああ、ネプテューヌの言う通りだ。お前がどんな手品を使ったとしても、ここでやめちまったら何もかも台無しだ! 誰もテメェをお呼びじゃねぇんだよ!」
「ふん。守護女神には言うだけ無駄か……まぁいい。些か、貴様らの相手も飽きてきたとこだ。覚悟はいいな? 強がっていられるのも今のうちだ」
デッド・エンド・ソウルの言葉に、舌打ちをもらすホワイトハート。苦い表情のパープルハート、その後ろでネクロソウルは小さく息を吐いた。
「……師匠」
「なんだ、エヌラス」
「…………“銀の鍵”は、使えるか?」
「何を――いや。本気か? 今のお前の身体は、それでやっとの状態だぞ」
銀鍵守護器官の自己再生能力でどうにか、立っていられる状態だと言うのに。しかし、ブラッドソウルの目に迷いはなかった。言うだけ無駄なのは懲りるほど知っている。だからこそ、ネクロソウルは静かに頷いた。