超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
リーンボックス軍事企業区画。首都から離れた工業地帯では、資源採掘や旋盤加工などの軍事力生産工場が数多く密集していた。その区画間の物資運送を担っているのがアームドソウルスの誇る武装列車。外周を定期便で移動するグレートウォール。
その管理人である有沢重工業の社長――現在は武装企業役員のナンバー16。本社への貢献は程々に、タンク脚に武器腕。それは自社の製品アピールも兼ねている。
《まったくプレジレントには困ったものだ……》
定期便の運行に変更は無し。現在、アルシュベイトと交戦中。グレートウォールに接敵するものの、連結された車体がそう簡単に後略されるはずもなく、砲撃とミサイルによってアルシュベイトは最後尾の車両に乗り込んだ。
身体の調子を確かめる。機体、損傷無し。突撃砲の弾薬はまだ十分。
《……いやしかし、大した相手だ。我が有沢重工業のグレートウォールに着艦するとは》
『震電社長! どうされますか?』
《構わんよ。このまま相手をする。定期便の運行に変更は、なしだ。だが、次の便は遅れると各部署へ通達しておくように》
あくまでも、プレジレントとはビジネスパートナーだ。互いの出す条件に合意した上で企業提携した。こちらの損害は、こちらで帳尻を合わせなくては。
グレートウォールが線路の上を走る。それに並走する形で武装列車がアルシュベイトを狙っていた。
《なるほど、これがグレートウォールとやらか――いいな。動く城壁、まさに移動要塞。アゴウへの導入も検討しよう!》
アルシュベイトは長刀を手にしたまま、グレートウォールの内部へと突入する。武装列車からの銃撃と砲撃からはこれで逃れることが出来たが、その内部にはまた、警備ドローンがまるで奴隷船さながら、すし詰め状態となっていた。
――敵性反応の不法侵入に、一斉に起動する。
『震電社長。緊急事態です』
《どうした》
『敵機侵入、現在第八車両にて交戦中』
《許容範囲内だ。戦闘続行》
『第七車両へ移動中です。どうやらこちらを目指しているようですが』
《迎撃しろ》
『了解――第六車両へ移動中』
バカな、速すぎる。だが、その様子を映していた監視カメラから、納得した。アルシュベイトはこちらの警備ドローンなど一切眼中に無し。積荷にも手を出していなかった。兵糧攻めも出来ただろうに、会社への損害も与えられる機会だと言うのに――第五車両、第四車両とさらに扉を蹴破って、陣取っている第一車両まで目前となっていた。
機関部は先頭第一車両だ。その破壊を目標としているのならば、確かにまずい話だ。
《仕方あるまい。こちらから出るぞ》
『ご武運を、震電社長』
《任せておけ。こちらは正面から行くしか能がないのだから》
伊達に重工業社長ではない。実弾防御に偏らせた高重量の装甲を断ち切れるものか。そう簡単に辿り着かせはしない。有沢社長は折り畳んでいた大口径榴弾砲を展開する。両腕と一体化したグレネード砲も扉に向けていた。
相手は第三車両を突破。連結部である前に陣取る――が、しかし。
『敵機、進路を変更! 天板砲台を突破してきます!』
《なんだと? なめられたものだな》
《――貴官を、グレートウォール管理人と見たうえで一つ尋ねたい!》
アルシュベイトが震電を見下ろしたまま呼びかける。背後の砲台は一つ残らず沈黙させられていた。
《私は軍事国家アゴウ国王、アルシュベイト! 名を聞こう!》
《有沢重工業社長。震電だ、用向きは》
《交渉に》
《聞こう》
《そちらに、こちらへの敵意の有無を尋ねたい!》
《肯定しなければならんのが企業の辛いところだ》
《承知した。ならば、これより連結部を破壊するが、よろしいか》
《奇妙なことを言うものだな》
堂々と目的を宣言するなど、止めてくれと言っているようなもの。
《ならばこちらから尋ねたい》
《許可する!》
《我々と本気で矛を交える気か?》
《正確には、プレジレントとだ。不必要な戦闘はこちらも避ける。リーンボックスの国益に損害は極力控えたい》
《なにを、今さら……》
大艦隊を壊滅しておきながら。
《止めたくば削り切ってみせるがいい。こちらはそのための装甲だ、安々と通すわけにはいかんよ》
《交渉決裂か。最後に一つだけ伝達事項がある!》
《いいだろう》
《このグレートウォールは素晴らしい城塞だ。感心している。我が軍事国家アゴウへの導入も検討したいが、如何か》
《……私の一存では決めかねる。プレジレントと交渉を》
《承知した! では――!》
片刃型長刀を担ぎ、アルシュベイトが腰を落とす。震電もまた、両腕のグレネード砲と背面の長大な榴弾砲の照準をリンクさせる。
《いざ、参るッ!》
アルシュベイトの落下に合わせて、グレネードが二発。その弾道を予測して身体を捻り、回避する。緩んだ速度から逆算した偏差射撃で大口径榴弾砲を発射。一際巨大な砲弾がアルシュベイトに迫り――だが、跳躍ユニットを反転させて一瞬だが推進剤を全開にして停滞する。
《なに!?》
避けた――。次弾装填。その間にアルシュベイトは連結部に向かって長刀を振るう。斬撃がグレートウォールの第二車両から第八車両まで揺らした。
『震電社長! 第一連結部損傷! 第二車両との接続に障害発生!』
《わかっている!》
車体を後退させて、背面の大口径榴弾砲“
無限軌道脚部の特性を活かした、超信地旋回。その場で回転して、長い砲身を利用した横殴りの打撃に対して、アルシュベイトは左手をかざした。格納武器があろうが、砲身を斬り落とそうが震電の腕部グレネード砲二門を至近距離で食らえば無事では済むまい――。
しかし、そう高をくくっていた震電の予想を遥かに裏切った。
アルシュベイトはかざした左手で砲身を受け止めると、跳躍ユニットで身体を浮上させて避ける。鉄棒の逆上がり――、震電は咄嗟に敵機を新たにロックするが、同時にアルシュベイトは連結部に跨って長刀を担ぎ上げていた。
グレートウォールの震動が、二人の機体を揺らしている。老神が装填を終えていた。
《……こちらに近接兵装は無いが、なぜ一息に叩き斬らなんだ》
《言ったはずだが。私は、この連結部を狙うと。そちらへの不利益と時間を考慮しての行動だ》
《戦争を仕掛けておきながら、甘いことを》
《生き死にを別つだけが戦場ではあるまい、震電》
もし、このまま連結部を破壊された場合……。
利益の損害を計算して――震電は、老神を畳んだ。両腕のグレネード砲も下げる。アルシュベイトはそれに、長刀を背面ラックに格納して応えた。
《感謝する》
《いやはや参ったものだ。こちらもこのような事で倒産はしたくない》
《突破させてもらうぞ》
《ああ。ただし、アルシュベイト国王。ひとつ注意しておくことだ》
《なにか》
《武装列車は我々の管轄ではない。気をつけることだ》
《忠告、重ねて感謝する》
アルシュベイトは連結部より並走していた武装列車を見下ろす。その砲塔が一つ残らずまだこちらを睨んでいた。だが、その砲弾が飛んでこないのは誤射を恐れてのことだろう。万が一グレートウォールの連結部がフレンドリーファイアで破壊、なんて日には笑いものだ。
進行方向に視線を向けて、網膜ユニットを拡大する。トンネルが見えた。それから、本社ビルを眺める。最後に、空を見上げた。晴れ渡る青空に浮かぶ、鋼鉄の浮遊要塞。
《……ふむ》
腕を組み、アルシュベイトは考える。
《気後れしているようだな?》
《いや、なに。大したことではない――素晴らしいものだなと感心しているのだ。少なくとも我がアゴウにおいて、企業そのもの。商社を武装させるという思考は無かった。それが今、こうして私の前に立ちはだかっていると思うと、中々に感慨深いものがあるな》
《別世界との邂逅、こちらも興味深いものと見解している》
《この戦いを終えたのち、互いの交流を深める機会があれば良いのだが……さて》
トンネルに差し掛かり、武装列車とグレートウォールが分断された。その機を見計らってアルシュベイトは連結部より飛び出す。
《それではな、震電。そちらの砲撃、悪くなかったぞ》
《そちらこそ。肝を冷やしたわ》
互いに健闘を褒め称えながら、別れを告げる。そして、震電は車両の厳戒態勢を解除した。
アルシュベイト国王――なるほど、最強か……。伊達ではないらしい。だが、自分の知る最強の機体はどのような相手だったか。震電は戦闘記録から該当するデータを引き出す。
……かつて、それは誰もが認める“不適合者”だった。ただのモルモットのはずだった。しかし、その獣の生存本能か、はたまた闘争本能か。気づけば彼は最強の名に相応しい災厄とまで呼ばれた。黒い鳥、似つかわしくない純白の戦機、戦場の渡り鴉。
《……果たして、どちらが本物か。楽しみにさせてもらおう》
『震電社長、ご無事ですか』
《請求書は弾代くらいのものだ》
『それはなによりです。もうじき、第三集荷場へ到着致します』
《積荷の点検をしておけ。確認は怠るな》
『はい、わかりました』
グレートウォールが速度を緩めていく。震電の頭部カメラの先で、砲声と銃火がまばらに見えていた。どうやらアルシュベイトはあのまま直進したらしい。
――ダイアルゼブラ荒原。そこには“荒野の一匹狼”が潜んでいる。軽量級機体のライフルとショットガンによるダブル・トリガースタイル。武装企業の初期メンバー、バルバロス。現在はその席を失っており、現在は一人で傭兵稼業を営んでいる。企業傘下では無いためにそのメンテナンス費用も自腹だ。弾薬費も。
しかしながら、なぜそんな生活をしているのかは誰も興味がなかった。プレジレントも。
ただ、守るべきものがあるとだけ。
ダイアルゼブラ荒原で、バルバロスのダブル・トリガーが弾痕と銃創を作りながらアルシュベイトを追い回す。跳躍ユニットと機体の体幹制御によって巧みに回避すると、岩陰に滑り込んで銃撃を防御した。バルバロスもまた、マガジンを交換する。
《なるほど、確かに。できる相手だ……》
《そちらの名を聞こう》
《フリーランスの傭兵、バルバロス。そちらはアルシュベイトと聞いている》
誰から、とまでは野暮なことだ。
《貴方の首には、懸賞金が出されている。悪く思わないでいただきたい》
《ほう。いくらほどだ?》
《――二百万クレジット》
《はした金だな》
《だが、大金だ》
それはそうだ。だが、たかが二百万でくれてやれるような首ではない。アルシュベイトは左肩の武装ラックから突撃砲を掴むと、岩陰から相手の様子を覗く。散弾ミサイルに、その場から飛び出した。
《なるほど、プレジレントめ――この俺を楽しませてくれる! これは、直接会うのが楽しみで仕方ない!》