超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ダイアルゼブラ荒原での戦闘は、アームドソウルスの中継ヘリを通してゲイムギョウ界へ報道されていた。その様子を社長室でそわそわしながら画面にかじりついているのは、他でもないプレジレントだ。
『社長、楽しそうですね』
《ああもちろんだ、これほど熱中できるエンターテイメントはない! 二百万くらいポンと出してやるさ! バルバロスもやるな、だがアルシュベイトの奴はもっとやる!》
『しかしながら、懸賞金の情報をかぎつけた外部の者が現在ダイアルゼブラ荒原へと向かっているようです。いかがしますか?』
《構うものか! そこでやられたらそこまでの話! なんなら金額を引き上げたっていい!》
『予算より捻出できる懸賞金の限度額は三億クレジットまでとなっておりますが?』
《三千万まで出すと言っておけ! おーっと、ここでアブラ艦の乱入か! いいねいいねぇ》
プレジレントのかじりつく60型モニターでは、砂埃を上げながら夕焼けの荒原を走る巨大な生産工場、アブラ艦が映し出されていた。即時提供、速達生産、産地直送。できたて新鮮の警備ドローンを確実にお届け。武装企業の持つ警備戦力に一役買っている。
工場内で生産、整備、修理、配達を全て兼ね備えた武装企業の一つ。自衛兵器としてのミサイルやロケット砲を景気良く撃ちながらアルシュベイトへ襲いかかっていた。しかし、その戦闘にバルバロスも巻き添えを食らっているが知ったことではない。フリーランスの傭兵などどうなろうが痛くも痒くもないのだから。
《ハハハハハッ! アイツの装甲はうちの中でも随一だ、ぶち抜くなら本社の主砲でも使わなきゃ無理だ!》
『無限軌道脚部を覆う装甲を破壊された場合は絶体絶命ですが』
《仕方ないだろう? 上部の本体に生産能力全部注ぎ込んでるんだから》
『それはそれとして、社長。外部からのエントリーが続々参入中です』
《アハハハハハハ、盛り上がってきたねぇ!》
『数にして二百人はくだらないかと』
中継ヘリからの映像はまだ鋼鉄と硝煙の戦場を映している。だが、キャロラインからの通信に答え、その映像が薄暗い格納庫へと切り替わった。
《プレジレント、こちらジョッシュだ》
《コマーシャルか? いいところだったんだが》
《それはすまないことをした。アンサーのエネルギー充填率が六十%を越えた》
《そいつは、主砲何発分だ?》
《よくて二発といったところだ。そこで、指示を仰ぎたい》
《あ~……》
全開にして、一発で使い切るというのもあるが……博打が過ぎる。客人はラステイションからルウィーに向けて大暴れしたようで、綺麗さっぱり、お互い痛み分けと言う形で大打撃だ。
《オーケー、二発だ。初撃はルウィー教会だ》
《了解した。二発目はどうする?》
《ルウィー教会だ》
《なるほど。確実に命中させる》
アンサーには現在、三体の役員が待機している。
一人はアームドソウルス副官、ジョッシュ。武装企業役員ナンバー1、テルミドール。
そして――ナンバー9、ナイルス。アームドソウルスが用意できる最高戦力だ。
それ以外にも自律兵器を配備しているが、期待はしていない。元々、あちらは他国への牽制用あるいは威嚇用に制圧しただけだ。こちらの動きに対して四女神が平和ボケするようならば教会を狙う為に。そうすれば嫌でもこちらへ進軍してくるだろうと思っていたのだが……想定外の事態が連続している。しかし、プレジレントはそれが嬉しくて堪らなかった。
《ところで、三発目まではどれぐらいだ?》
《二日は要する。砲身の冷却も考えれば、一日に一発が限度だろうな。なにぶんこちらも急な稼働だった》
《そりゃあそうか、それもそうだった。もう少し後だったら万全だったが、文句を言っても始まるものでもない》
《すでに計画は始まっている、今さら引き返せるものでもない》
《そうだな、ジョッシュ。機体の調整は?》
《感度良好。いつでもいける。前世代の遺産とはいえ、中々どうして……時に、そちらの戦乙女はどうだ?》
《ああ、アークから引っ張ってきた箱入り娘さんか。現在調整中さ。それよりどうだいジョッシュ、お前さんも。中々エキサイティングな試合だぜ?》
《ふっ。わたしは遠慮しておく》
ジョッシュは一言残して、通信を切る。そして、60型モニターでは再びアルシュベイトの奮闘が映し出されていた。
二百人いたはずの乱入者はだいぶ数が減らされている。というのも、アブラ艦からの砲撃に巻き込まれているからだ。友軍信号ぐらい出せばいいものを。出したところで巻き込むが。
《しっかしまぁ……アブラ艦にはさすがのアルシュベイトも手を焼いているな?》
無理もない話だ。しかし、ズームアップされたアルシュベイトは砲撃に巻き込まれたバルバロスを担いで物陰に隠れている。随分と余裕のある態度だ。それは今しがたお前に銃口を突きつけていた敵だろうに。甘いやつだ。プレジレントはその様子に、少なからず落胆した。
《キャロり~ん、放送の準備だ》
『構いませんが、どちらに?』
《アルシュベイトの懸賞金を三千万に引き上げる》
『太っ腹ですね。放送の準備を進めておきます』
――リーンボックス首都。平和な街並みに、いつもより少しだけ鉄の香りが濃い。というのも慌ただしくダイアルゼブラ荒原へ向けてロボット達が次々と向かっているからだ。
そんな中、一軒のカフェテリアで丸テーブルを囲む四人の女性がいた。
「うーん、なんか大事になってるねー」
「まさかアタシ達がリーンボックスに旅行に来た間にクーデター発生だなんてねぇ」
「でも、フェリーは通常通り運行されてましたよね?」
「いやぁ、そうなんだけどさぁ。ロボットに見送られて船旅なんて落ち着かないじゃないか」
ペレー帽を直しながら、ストローで飲み物をかき混ぜる。
「でも二百万だよ、二百万クレジット! あのロボット倒すだけで大金持ちだよ!?」
「いや、確かにそうなんだけど……アタシ個人としては、強そうだから戦ってはみたいんだけどね」
「シーシャさんの言い分はこうですよね。ロボットだらけの戦場に生身の自分たちが行くのは場違いじゃないか、と」
「あはは。うん、ケーシャの言う通り。そうだね。ビーシャはお金目当てだし。エスーシャはどうなんだい、そこのところ」
アイスコーヒーを飲んでいた、銀髪の女性はストローから口を離して少しだけ考える素振りを見せて。
「興味ないね」
そう小さく呟いた。
「まぁ、そりゃそうか。しっかし、リーンボックスの小旅行がとんだお祭り騒ぎで、いつ帰れるのかねぇアタシら」
「リーンボックス洋上大艦隊の壊滅による撤去作業で本格的に帰りの便に遅延が発生してますし……かといって空港の利用も難しいですもんね」
「高いからねぇ。アタシもそんなに余裕はないし」
「シーシャは食べ過ぎなんだってば。もー、どこにそんな栄養消えてるの?」
「そうだねぇ……筋肉とかじゃないかな? アタシは鍛えてるし」
「……胸じゃないの?」
「いや、ちょっと最近またきつくなってきてね……」
「いいなー、シーシャもケーシャもスタイル良くて」
「ビーシャはこれからに期待だよ、うん」
和やかな雰囲気のテーブルだったが、テレビの映像が切り替えられると途端に緊張感が走る。
「またこの放送か……いい加減にしてもらいたいね、アタシは」
「……」
不機嫌さを隠さないシーシャに、真剣な眼差しで映し出されるプレジレントを見つめるケーシャ。それにビーシャは首を傾げていたが、エスーシャだけは興味なさそうにゴシップ記事をパラパラと捲っていた。
『よーお、リーンボックスのみんな! グッドイブニング! プレジレントだ! オーケー? アンダスタン? よーし、日も暮れてきた! そこで俺から最高にグッド・ニュースをお送りしようじゃあないか! まずはこちらの映像を。ヘェーイ、カメラ!』
プレジレントが手招きすると、モニターに映し出されるのは、現在も孤軍奮闘中のアルシュベイト。単騎で未だ増加する乱入者達を相手に立ち回っている。
『嗅ぎつけた目ざとい奴らもいることだろう、だが感心しないな。そこで俺からの発表だ! 現時点を持ってアルシュベイトの懸賞金を二百万クレジットから――三千万クレジットに引き上げる! わーぉ、太っ腹だな俺! ギャハハハハハハハ!』
「ぶっ!!」
「うわぁ、コーヒー吹き出さないでよエスーシャ!?」
「だ、大丈夫ですかエスーシャさん! えっと、ふきんは……」
「ほら、大丈夫かい?」
「あ、ああ……あまりに突拍子のない金額の引き上げに驚いただけだ」
『コレぐらいしたほうが盛り上がるだろう! それじゃあ金に目の眩んだ亡者諸君、君たちの善意ある健闘を祈るぜ! シー・ユー・アゲイン、ハバナイスデーイ!』
大きく手を振って、プレジレントの緊急報道は終わった。だが、やはりケーシャの表情は険しいまま。
「どうしたんだい、ケーシャ? さっきもあのロボットが出てきた時、すごい顔してたけど」
「……あのロボットの背中に積んでいるバックパック。コンパクトな外観からは想像もつかない兵器の保管庫のはず。確か、大昔に開発された特殊機動重装甲コンテナで、生産されたのは僅か二台。今じゃもうどこも開発できないはずなのに……どこからあんな古いのを――」
「なんでそんなミリタリーアイテムを知ってるのか、逆にアタシが聞きたいくらいなんだけど」
「えっ、あ、あの。これは、その……昔、ちょっとそういうのに興味があって調べてたら偶然知っちゃった企業秘密っていうかなんていうか……!」
「そんなことより、聞いた!? 三千万だって、三千万クレジット! これはもう行くしかないと思わない!? あわよくば漁夫の利とか狙っちゃってさ!」
「あーあー、ビーシャがその気だよ。どうするんだい、エスーシャ」
「……あんまり、興味ないね。確かに提示された金銭は魅力的だけど」
「そうだね。大金に目がくらんだわけじゃないけども、折角だ。そのアルシュベイトってロボットを一目見に行こうか」
「そうですね、ここで時間を潰していても仕方ありませんし」
「そうこなくっちゃ! すいませーん、店員さん。お会計いいですかー」
四人はカフェで会計を済ませると、軽く身だしなみを整えてからダイアルゼブラ荒原を目指して歩き出す。