超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
二人を見送ってから、ソラはイストワールに改めて現在のゲイムギョウ界の被害状況とステラから逐一送信されるデータを照らし合わせた説明をする。
「プラネテューヌとラステイションは分かりました。けれど、リーンボックスやルウィーの方は立ち入って大丈夫だったんですか?」
「ええ、まぁ。人間の姿をしていればそう怪しまれることもありませんし、何より観測手段にも色々ありますからね」
そう言いながら手元に召喚したのは、災害救助用のヘビ型ロボット。動物を模したものはそう珍しくもない。
「それで、調査で分かったことなんですが……インタースカイの仲間たちもこの現象は不可解らしく、原因はやはり次元震動だと思われます」
「次元震動というのは、異なる次元同士の歪みで起きるものなのですか?」
「はい。並行世界やパラレルワールド、そういった世界が隣接している以上は可能性がゼロではないんです。まして、此処は隣の次元と一部分が繋がった状態ですからね。その影響で一層色濃いんだと思います」
「何か手はないんですか?」
「……被害を抑える形であるというなら、やはりまずは隣接している次元と手を断つこと。恐らくは、あちらのゲイムギョウ界でも同様の現象が起きていると推測します。そうなれば、次元震動の規模もまた桁違いですから」
「三つの世界が、崩壊に向かっているですか……困りましたね」
「我々の戦争の早期集結が望ましい、とはいえそう簡単に決着が着くわけでもありません」
ですが、とソラはそこで区切ってからイストワールの目を見て続ける。
「ですが。方法がないわけでもないんです」
「本当ですか!」
「とはいえ、問題の先送り程度の対策ですけどね」
苦笑しながらソラは万策尽きたことを遠回しに伝えた。アダルトゲイムギョウ界ならいざ知らず、ゲイムギョウ界では手を加えることは難しい。それでも、自分に出来る手段ならばより好みしている暇はない。
「アダルトゲイムギョウ界とこちらでは、崩壊にタイムラグがあるんです。次元の壁を隔ててるのですから当然と言えます。私達の世界では既に消滅している場所がありますが、まだこちらではそのような現象は見受けられません。ですので、こちらとあちらの回線を歪曲させることで災害を一時的に遅延させることが出来るでしょう」
それがどれほど危険なことかもわかっている。下手をすればもっと酷いことになるかもしれない、とはいえ他に方法がないのだ。そうすればゲイムギョウ界間の行き来も段違いに難しくなる。もしかすると帰ってこれない可能性だってある。
「ですけれど、それは」
「はい。それはつまり、向こうからネプテューヌさん達が帰ってこれなくなる可能性もあります」
「私もそちらの世界を検索するのは三日でも出来るかどうか……」
ちなみにバルド・ギアの検索時間は0,3秒だった。インタースカイのバックアップもあってだが。
「とはいえ、信じて送り出すしかありません。ネプテューヌさん達ならきっと止められると信じて私は待ちます」
「ボクも一度、あちらへ戻って作業に取り掛かろうと思います。いーすんさん、もう少し詳しい情報を探しておいてもらえますか?」
「構いませんけれど、私は検索機能がちょっと……」
「えっと……どれぐらい」
「……」
顔を赤くしながら目をそらし、指を三本立ててみせる。
「……三時間、ですか?」
「――三日かかりますぅ……」
「みっか……」
「はい。みっか……」
「……分かりました。では、また三日後にこちらへ来ます。次元歪曲の準備が整い次第――」
そこで、突然言葉を区切ったソラがある一点を見つめた。その視線の方角には何もない草原がある。ネプテューヌとネプギアが向かった場所だ。インタースカイのサーバーと直結しているバルド・ギアには観測した亀裂や裂け目の進行速度が統計されている。その数値に異常が出たらすぐにでも分かる、今がその時だ。
「どうかされました?」
「……おかしい。誰かが手を加えている」
「えっ!?」
「しかもあの方角、ネプギア達が向かった場所だ――」
ネプテューヌとネプギアが予定の時間より早く来たのには理由がある。単純にピクニックがしたかったというネプテューヌのわがままだった。
爽やかな草原の風にのって、胸いっぱいに空気を吸い込む。
「ンッン~、やっぱり外の空気は美味しいな~。最高にハイって気分になるな~、鉄と硝煙の香り漂う森の中とは大違いだよ」
「あれ? お姉ちゃん、あそこに誰かいるよ?」
「え? 誰だろ、こんな何もない草原に来るのなんてスライヌぐらいだと思うんだけどなぁ」
二人が近づくに連れて、徐々に嫌な予感が大きくなってきた。というのも、それもそのはずだ。彼女達はその姿に見覚えがある。因縁深い相手だ――過去幾度となく現れては懲りずに邪魔ばかりしてくる悪党。紫色を基調とした魔女の衣装。
二人に気づいたのか、相手も振り返る。その手には光り輝く宝石のようなものを持っていた。
「お、お前は――!」
「マジェコンヌ!? どうして貴方がこんなところに?」
「マザコング、今度は何をしようってのさ!」
「ええい貴様はいい加減に名前を覚えんか! マ・ジェ・コ・ン・ヌ、だ! ふん、まぁいい。今回の私は一味違うぞ」
「一文字変えればマザコンだもんね」
「うるさいぞ小娘! マジェコンヌだと何回言わせる気だ!」
マジェコンヌが持っている宝玉に二人の視線が集中していることに気づいたのか、不敵な笑みを浮かべる。
「何が原因かは知らんが、今ゲイムギョウ界が崩壊に向かっている。これを逃す機はない」
「んもー、なんで余計なことばっかりするのさ! 私達これからアダルトゲイムギョウ界に行かなきゃならないんだから邪魔しないでよー!」
「貴様らの都合など知らぬ! 災害続きでナス農園にまで被害が及んで私は苛立っているのだからな!」
「ナス農家になったんですね……」
「当然だ! 有り金はたいて買った土地、みすみす手放せるものか!」
「ぅげ……思い出したくないなぁ……」
「だが、荒れた茄子畑を耕しているうちに偶然、こんなものを見つけてなぁ……? 美しいだろう? この宝玉からはシェアを感じる。量はそれほどではないが、使わん手はないだろう」
確かに――女神であるネプテューヌとネプギアもその宝玉からはシェアエネルギーを感じていた。しかし、それと同時に何か他の力も感じられる。マジェコンヌはそれがゲイムギョウ界のものではないと察したのだろう。
「この異次元からの贈り物を使って、今度こそ貴様らに絶望を味わわせてやる」
「何回やったって負けるんだからいい加減真っ当に生きたらいいのに」
「ええいうるさい! 私は絶対に諦めんぞ! この世界を絶望に染め上げて、終焉に導くまではな!」
マジェコンヌが宝玉を掲げると、光が増していく。それは徐々に膨れ上がり、確かな質量として顕現する。確信を持って、それが異次元から招喚される自らの下僕であることに高笑いが響き渡った。
「お姉ちゃん、あれ!」
“空が割れていく”のをネプテューヌは見た。
“空間が砕ける”のをネプギアは見た。
時空の崩壊を目の当たりにして二人は言葉を失う。
「素晴らしい……素晴らしいぞ、この力は! まさに天からの贈り物だ!」
「マザコング、何をするつもり!? それ以上使ったら容赦しないんだからね!」
「マジェコンヌだと何度言えば覚えるのだ!? 何をするつもりかだと? そんなもの決まっておるだろう! 貴様に絶望を味わわせてやるのだ」
引き裂かれていく青い空。こじ開けられていく白い雲から降り立つのは――竜だった。
アダルトゲイムギョウ界では“悪竜”ジャバウォックとして知られるドラゴンはその大きな翼を広げると、マジェコンヌに仕える奴隷として跪く。頭を寄せ、撫でられると嬉しそうに低く喉を鳴らした。
「フフ、可愛いやつよ……」
「で、でかぁぁい!? 説明する必要ないくらいデカイドラゴン!? エンシェントドラゴンよりデカァァァイ!」
まるで怪獣映画だ。ネプテューヌ達ですらその膝に届くかどうか。その頭にマジェコンヌが飛び乗ると、二人を見下ろす。
「ハーッハッハッハ。まるでお前らがゴミのようだ! やってしまえ、異次元の我が下僕よ!」
足を振り上げて、落とす。ただの動作一つで二人は文字通り蹴散らされる。巨体であるということは、それが持つ質量だけで十分な脅威だ。ましてや、それが生物であれば尚更。腕を振り上げて鉤爪を草原に叩きつける。地面が揺れ、青い芝生がめくれ上がった。さぞ破壊の光景にご満悦だろうマジェコンヌは、二人の予想通りにこれ以上ないほど上機嫌な笑みを浮かべている。
「あぁ、もう! これじゃ普通に戦っても勝ち目はないよ。ネプギア!」
「うん! 女神化、だね!」
「刮目せよ、これが勝利の鍵だ! なーんちゃって、アクセス!」
「見せてあげます、これが私の……変・身!」
「ほう、まだ冗談を言えるだけの余裕があるか……ふん、忌々しい!」
その怒りに呼応するかのように“悪竜”ジャバウォックが吼えた。威嚇ではなく、敵対者に向ける咆哮はそれだけで木々が戦慄く。だが、気圧されることもない。所詮はデカイだけのドラゴン。
「さぁ、マザコング! 残念だけど貴方の天下も三日と待たず三分で終わらせてあげるわ!」
「ふん……女神化したところで貴様らに勝ち目などないわ! 私を誰だと思っている。私がただ異次元の下僕の頭に乗って得意げなだけだと思ったか、馬ー鹿ーめー!」
「なによ、貴方までそんな子供みたいなこと言って……――!」
「これは……魔力の波動……? お姉ちゃん、コレって」
「ええ、間違いないわ。この力、アダルトゲイムギョウ界からきてるみたいね」
GRRRRRR……。
口から熱気を漏らし、その身体に異変が起きた。硬質化された鱗を突き破り、皮膚の下から宝石が突き出る。頭、胸、爪、背中、尻尾の先端に現れた濁った光を放つ宝石は明らかに“悪竜”ジャバウォックの本来持つべき肉体ではない。マジェコンヌの魔力と宝玉の力によって引き出される神化の力だった。
「そうなると、マジェコンヌの持っている宝玉は向こう側の」
「ネプギア、まずはドラゴンをどうにかしましょう。これ以上あの力を使われたら堪らないわ」
「うん!」
「……でも流石にこれはでかすぎると思うのよね。何メートルよ」
「十メートルくらいあるんじゃないかな?」
「ええい貴様ら! これから真面目に戦おうという時に何を言っている! 捻り潰してしまえ!」
GAAAAAAAAA――――!
両腕を振り上げた先に、光球が浮かび上がる。流星の如く降り注ぐ魔弾を避けながら接近して、一撃。鱗には傷一つつかなかった。外敵から身を守る為に進化した外皮ではなく、脆いはずの腹の内皮ですら宝石に阻まれる。ならば、と頭部に向けて飛翔するネプテューヌ=パープルハート。マジェコンヌの手から宝玉を奪ってしまえば――。
「はぁぁぁ――!」
「ふん、甘いわ!」
しかし、宝玉の力によってマジェコンヌにその刃が届くことはなかった。その手には歪曲した剣が握られている。それは杖でもあった。それに酷似した剣を思い出す――偃月刀。
二人の剣が火花を散らす。
「どうして貴方がその剣を!?」
「あぁ、これか? 分からんよ、ただ私は自分の手に力をイメージしただけだ」
「くっ……!」
「こんな、風になぁ!」
偃月刀が冷気に覆われ、マジェコンヌは投擲した。回転しながら舞うその剣を軽やかに避けて再び接近しようとしたネプテューヌ=パープルハートは、風切り音が戻ってくるのが聞こえ、急反転する。案の定、間一髪。だが、安心する暇もなくその偃月刀は追尾してきた。
「ハッハッハ、踊れ踊れ。舞え、小娘! その剣は死ぬまで喰らいつくぞ!」
どれだけ回避しても軌跡を自在に変えて食らいついてくる。ネプギア=パープルシスターもその援護に割り込み、二人で偃月刀を迎撃した。回転の威力が落ちてマジェコンヌの手元に戻っていく。その足元――“悪竜”ジャバウォックが吼えた。
「貴様らの敵は、私だけではあるまい?」
灼熱の飛礫が襲いかかる。直線的な弾道でありながら、二人は掠めるだけでもその熱気で汗が吹き出てきた。直撃すればひとたまりもない。その暴力的な熱もまた、偃月刀を覆った冷気も――エヌラスの“