超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
砲声。砲撃――光条。銃声。夕焼けに燃えるダイアルゼブラ荒原では、未だアルシュベイトの撃破に至らず、集まってきたロボット達は時折同士討ちしながらも莫大な懸賞金を前にして血眼になって執拗に追撃していた。
アルシュベイトの肩には、アブラ艦の砲撃によって左半身の大破したバルバロスが担がれている。軽量級機体であることが幸いしたのか、それほど持ち運びは苦ではない。
《……なぜ、私を下ろさない。私は貴方を狙っていたのだぞ》
《ふむ、何故か、と聞かれたら。俺もわからん》
《離してくれ》
《断る。俺の首が欲しいのではなかったのか?》
アルシュベイトの網膜ユニットには、尋常ではない数の敵機が接近中だ。数えるのも面倒になってくる。
《……確かに、そうだ》
《ならばこのような形で幕引きはお互い、望むまい》
《あくまでも、正々堂々と?》
《俺は少なからずそのつもりであったがな。揺れるぞ》
跳躍ユニットの推進剤残量を確認し、アルシュベイトは一度噴射を切ると着地して、自らの脚で跳んだ。一瞬遅れてから、敵のグレネードランチャーが着弾する。爆風に煽られて二人はさらに増加する敵影から離れていた。
《アレだけの数、相手にするつもりか》
《ふむ。後先考えなければ相手をしてもいい、だが俺はプレジレントの相手をしなければならないのでな。出来ることなら速やかに突破を望みたい。なにか案はないだろうか、バルバロス》
《なぜ私に……つい先程まで互いに銃を向けていただろう》
《だが今は二人揃って逃げ回る身だ。触れ合う袖のなんとやら》
《道連れにはされたくないぞ。私にはまだ守るべきものがある》
《お互い生き残るための方法を考えてくれ。私はリーンボックスの地理に疎くてな――砲撃回避するぞ! 掴まれ!》
バルバロスのレーダーには無数の敵機、それから逃げ回りながら自分を担いでいるアルシュベイトの機動力には驚かされている。アブラ艦からの砲撃を回避して、廃墟の立ち並ぶ区画へ滑り込んだ。だが、中継ヘリによって居場所はバレている。休む暇もなくミサイルの雨あられ。
跳躍ユニットの推進剤を交換して、再びアルシュベイトはダイアルゼブラ荒原を駆ける。
《しかし、多いな》
《貴方の懸賞金が二百万から三千万クレジットに引き上げられた》
《ははは! うむ、それほどまでに脅威と認定されては嬉しくなるな! 正しい観察眼だ、プレジレントめ! これは直接礼を言いたくなるな!》
《……貴方は、もしや頭のネジが足りていないのか?》
《ふむ、定期検診では異常なしと診断されたはずだが》
本気で言っているのか冗談なのか、バルバロスには分からなかったが――呆れるほどまっすぐなその気概に、とうとう根負けした。
《アルシュベイト。こちらからダイアルゼブラ荒原の地形データを送信する》
《ありがたく頂戴しよう。…………確認した。回避するぞ》
左の推進力を一瞬だけ切って、横っ飛びに回避する。待ち伏せしていた四脚の敵影からの奇襲を難なく避けると、バルバロスが散弾ミサイルで廃墟を崩し、瓦礫で追撃の手から逃れることに成功した。
《良い判断だ》
《そちらこそ、良い機動力だ。この先にある炭鉱に、今は使われていない地下鉄道がある。そこから敵の追撃を逃れることが可能のはずだ》
《了解した》
アルシュベイトに担がれて、バルバロスは地下鉄道からリーンボックス首都近郊までの道筋をナビゲートした。確かに、このルートなら地下から武装企業本社ビルまでの道のりは格段に楽なものになるだろう。
《あそこだ》
《突っ込むぞ!》
跳躍ユニットの
《何を……まさか貴方はアレを相手にするつもりか!?》
《バルバロス。いずれ再戦を》
《何のために地形データを送信したと》
《地の利を得るためではないのか? このデータがあれば十分だ》
突撃砲の残弾はまだ余裕がある。長刀も刃こぼれ一つない。気がかりなのは推進剤の残量ぐらいだ。多少の被弾は覚悟の上。
長刀を担ぎ直し、アルシュベイトは地下鉄道の入り口に向けて腰を深く沈めた。
《俺は逃げん。プレジレントが用意した催し物であるならば、大いに盛り上げてやろうではないか。チェストォォォォォッ!!!》
豪剣一閃。そして、地下鉄道の入り口を瓦礫で埋め尽くすとアルシュベイトは静かに振り返った。
暁の地平線を埋める鋼鉄の人形が大挙を成して迫っている。
《夜は長い。だが俺は、地平線、水平線の彼方より昇る朝日が何よりの楽しみだ。機械の身体でもなお、あの美しさだけは鮮明だ。鮮烈で、強烈な命の灯火を感じられる》
長刀を突き立てる剣礼から腕を組み、威風堂々とした仁王立ち。包囲するリーンボックス製のロボット達を見渡してから、アルシュベイトは《ふんっ》と鼻を鳴らす――フリをした。
《この俺の首に三千万クレジットの価値だと? まとめてかかってこい。はした金欲しさに命を捨てた金の亡者共! 俺は逃げん、貴様らが背を向けて逃げ出すのを笑ってやるとも!》
長刀を掴み、肩に担ぎ上げる。
《俺と共に夜明けを望みたくば機体の性能を十全に活かした上で来るがいい! 軍事国家アゴウ国王アルシュベイト――推して参るッ! チェェェェストォォオオオオオッッ!!!!》
ダイアルゼブラ荒原に、アルシュベイトの魂の咆哮が響き渡った。
『……社長。教会で交戦していたグリムリーパー隊が敗北いたしました』
《おー、そうかい。結構結構》
『女神グリーンハートによる教会奪還までは予定通りですね?』
《そもそも勝てるわけがないだろう信仰してる守護女神に。何を言っているんだキャロりん、お疲れかい? 寝ぼけてるかい? 休憩でも入るか?》
『長い有給を申請したいところですね。キャロラインです』
《それで? グリムリーパー隊はどうなった》
『全機、生存を確認しています』
《慈悲深くて涙が出る》
いや、その優しさは一種の残忍さなのかもしれない。だが、今のプレジレントにとってはそんなことはどうでもよかった。
ただモニターに映し出されるアルシュベイトの姿に見惚れている。
豪剣一刀で重装甲タンク脚の機体を叩き割り、突撃砲で軽量逆関節を蜂の巣にして、中隊支援火器によって標準二脚の胴体を撃ち抜く。まさにワンマンアーミー、一騎当千、ラスト・スタンド・ヒーロー。三千万クレジットでも足りない程の、鮮烈な武勲を掲げてアルシュベイトの豪剣がアブラ艦の無限軌道脚部を覆う装甲を粉砕した。
『……生産工場、走行停止。自律兵器の展開を開始しました』
《あれの再稼働にいくら掛かると思ってるんだ、アルシュベイトは?》
『社長』
《なんだい、キャロりん》
『計画をお忘れですか?』
《最初から最後まで徹頭徹尾・初志貫徹、忘れるわけがないだろ~う?》
『腹立たしいお言葉ですね。貴方のやり方は些か、エンターテイメント性に富んでいます。求めていたのは――』
《ああそうだ、キャロライン。ひとつ、言い忘れていた》
言葉を遮って、リーンボックスの夜景を見下ろしていたプレジレントは立ち上がる。
《俺が求めていたものは見つかったよ。アイツがその答えだ。間違いない、確信を持って言える。だから俺は期待しているのさ。まさか俺の答えが別次元にあるとは思いもしなかった》
『……そうですか』
《だが、それとこれとでは話が別だ。ジョッシュに連絡しろ。主砲の準備を急がせる。教会を奪還された以上はこちらものんびり笑ってられない》
『少々遅かったようですが?』
《構うものか。ケツに火が着いてヒートアップしてからが本番だ!》
――プレジレントの人工知能は、やはりどこか欠陥を抱えているのではないか? キャロラインは不思議に思いながらも、そんな社長の間の抜けた思考が嫌いにはなれなかった。
『それと、例の国王、アルシュベイトですが展開された自律兵器を相手に手間取っているようですよ』
《はははそりゃそうだ!》
『ですが、自律兵器も手当たり次第に攻撃するもので、乱入者も数が減らされていますが』
《はははそりゃそうだ!》
『……社長。倒産の可能性は危惧しないのですか?』
《身体で返すさ!》
サムズアップをしてみせるプレジレントに、キャロラインはほとほと呆れたため息をつく。
なんでこの方はこんなにも人間らしくなってしまったのだろうか、と。
『ですがアンサーの主砲でルウィー教会を狙撃した場合、現状での命中率は七割程度となっております』
《うーん、ちょいと不安だが……まぁいいだろう! ぶっぱなしちまいな!》
『はぁ……分かりました。ジョッシュ、聞こえますか? アンサー主砲……『アルカトラズ砲』の手配をお願いします。急務で申し訳ありません。社長の気まぐれですので、ええ。よろしくお願いいたします』
《なぁに、こちらにグリーンハート様が“ご来店”の際はもてなしてやるさ!》
両手でサムズアップするプレジレントは、アルシュベイトの奮闘に小躍りしていた。
《ああ楽しみだ! 楽しみで愉しみで、俺の思考回路がパンクしちまいそうだ! 早く来いアルシュベイト! 次元を越えて俺と楽しもうぜ! ぶっ壊れちまうほどイカれたパーティーをしようぜ! 守護女神なんかより、お前は俺の心を鷲掴みにしちまったんだ、惚れた弱みを握ってるんだ! さぁ早く来いよ! 遊んでないで此処まで来いよ、最強――!!》