超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エピソード272 相席よろしいですか? 割り勘で
徐々に、戦局は終戦へ向かいつつある。ラステイションに侵攻を続けていたアームドソウルスの残存部隊はドラグレイスの手によって破壊され、ラステイション軍もソラが追加で用意した災害救助用フォートクラブを借りて負傷者を運び出している。
プラネテューヌもまた、レオルドの率いる国境警備隊によって敵の撃退に成功。ラステイションほどではないにせよ街に被害が出ていた。しかしそちらはアイエフが手慣れた調子で操作用他タブレット端末を駆使して早期の対応が行われている。混乱が収まるのも時間の問題だった。
そして、ルウィー。邪神の登場により、軍は大打撃を受けている。しかし、それもホワイトハートがパープルハートと大魔導師、エヌラスと共闘したことにより撃退に成功した。
リーンボックスではまだ、アルシュベイトが単機でアームドソウルスと交戦中。
「……と、いうのが現在のゲイムギョウ界の状況でしょうか」
「さすがいーすん! あらすじをわかりやすくまとめてくれるなんて、親切なんだからー」
「お姉ちゃん、一応重要な場面なんだからもうちょっと緊張感を持ったほうがいいんじゃないかな?」
プラネテューヌ教会――イストワールがネプテューヌの緊張感の無さを軽く流す。アイエフは現在も負傷者と被害状況の確認、病院の手配と大忙しだ。コンパも怪我人の手当と忙しい。
そして、そこにはレオルドも居た。何故か床に正座している。
「さて、レオルドさん。なぜ貴方は正座しているのですか?」
《い、いえ……なにせ自分、万年ビリケツドベ太郎だったもので……その、プラネテューヌの教祖様とこうしてお言葉を交わしているのが恐れ多いあまり……あの、生まれてきてごめんなさい……》
「ご安心ください。あなた達の活躍のおかげで、プラネテューヌの被害は最小限に食い止められました。一部の地区で被害が出ているようですが、大目に見ましょう」
《はは~、慈悲深きお言葉……!》
「レオルドさん、本当に腰が低いですね……」
美しい形の土下座にはさしものイストワールも感心していた。だが、用件というのは他でもない。シロトラのことだ。
「さて、レオルドさん。貴方を呼び出したのは他でもありません、シロトラ教官についてです」
《……教官のことで?》
「はい。彼がクリスタルを使った時のエネルギー波形は、本来このゲイムギョウ界に存在しないものです。そのことから、彼は何らかの形でこの世界に送り込まれた存在である可能性が非常に高いのですが、何か心当たりは?」
《申し訳ありません。何もないです。俺も、シロトラ教官のことは……》
「彼が使ったクリスタル。守護女神のシェアクリスタル。それと反する形のアンチクリスタル。エヌラスさんのゼロクリスタル――まぁ本来、こちらも存在してはいけないものですが」
「ちょっといーすん、そういうこと言わないでよー!」
「分かっています。エヌラスさん達のおかげで邪神も撃退できたことですし。それよりも、一番厄介なものが――シロトラの手にした、V・クリスタル」
「……ヴァーディクト・クリスタル?」
《それは……?》
「女神を選定する、というクリスタルです。これは、事象への干渉を可能にする効果をもたらします。ネプギアさん、女神の転換期については知っていますか?」
「え、えーっと……確か、守護女神のシェアが低下する時期、でしたよね?」
「まぁ、おおむね正解ですね。詳しくはまたの機会に。本題はここからです」
イストワールは一度そこで区切り、ネプギアが息を呑む。
「このV・クリスタルは、かつてゲイムギョウ界の歴史に葬られたものです。それがなぜ起こったのか、理由は不明ですが……少なくとも、女神にとっての天敵。なにせシェアエナジーを無効化してしまうものです」
「そんなの反則だってばー! チートだよ! 垢BAN待ったなしだってー! そんなのなんで敵が持ってるのさー。逆境を乗り越えてこその主人公だけど、エヌラスはちょっとやり過ぎなんだってば!」
「お、お姉ちゃん。ちょっと言いすぎじゃ……」
「だって何回言っても何回言っても無茶して、あれじゃ残機がいくつあっても足りないよ!」
「ですが、V・クリスタルにも弱点が無いわけではありません」
「いーすんからのツッコミ無し!?」
「女神の天敵である、ということは……女神を信仰している者たち全てにとっての敵となることです。大げさに言ってしまえば、シロトラは世界の敵である、ということになりますね」
《……シロトラ、教官が……世界の敵……》
「ショックを受けるのは仕方のないことだと思っています。ですが、これだけは伝えておこうかと思いまして。特に、今B2AMを率いるリーダーであるレオルドさんには」
「でも、いーすんさん。それじゃ、シロトラさんが出てきたらわたし達守護女神は逃げるしかないんですか?」
「……残念ながら、そういうことになります。最悪の場合、消滅も考えられます」
「そんな…………!」
守護女神を支えるシェアエナジーを無効化してしまうV・クリスタル。選定の結晶。もしもシロトラの刃に晒されることがあったその時は――。
「ですが、対策が無いわけではありません」
泣きそうなネプギアと、落ち込むネプテューヌに、イストワールは言葉を続けた。その視線の先には……正座しているレオルド。
《…………え、俺っすか?》
「V・クリスタルは女神に対して絶大な効果を発揮します。ですが、それだけです。対女神専用兵器と言っても過言ではありません。守護女神以外、例えばレオルドさんや、ミリオンアーサーさんといった方達であれば十分に対処が可能です」
「そうなんですね! よかったぁ」
「そこで。レオルドさん。あなた達をプラネテューヌ国境防衛隊改め、守護女神近衛機兵団に任命致します。シロトラとネプテューヌさん達守護女神が接触する事があれば、それを妨害することが任務です」
《え、無理っすそんなの!? 恐れ多いとかそういうレベル突破してなんかもうこう、夢みたいな話じゃないっすか!? これドッキリとかじゃないですよね! 無理無理無理、無理っすホントマジパネェスモイ仕事、俺には出来ませんって!?》
「出来る出来ないではありません。あなた達がやるんです。守護女神を守る為に。これは、エヌラスさんでは出来ない仕事なのですから」
エヌラス――その名前に、レオルドは少しだけ動きを止めた。B2AM本部を強襲し、壊滅させた張本人。だが、そのあとネプギアの懸命な説得により、不透明な部分もあるが一応納得はしている。あれからまだ顔を合わせる機会に恵まれないが、次に会うことがあれば……腹を割って話して仲直りしたいと、レオルドは思っていた。
考える。守護女神を守る、という仕事の意味を。今のままで、十分だった。十分幸せだった。機械が幸福を感じるなど変な話かもしれないが、レオルドは少なくとも今の環境だけで間に合っていた。
仲間がいる。信仰する守護女神がいる。プラネテューヌはいつものように平和で、笑顔が溢れる国。それ以上は何も望まなかった。だが、それを脅かす存在がいたのだとしたら……。
《……イストワール様。俺達は、ただの国境警備隊です。シロトラ教官指導の下、訓練を重ねてきました。そんな俺達が束になっても、シロトラ教官は越えられませんでした。仲間を一人、失って……他のみんなと同じように逃げ回ることしか出来ませんでした》
グラーフがオペレーターの二人に送った最後の交戦記録。まずは、第一歩。
《悔しいです、俺。何も守れないままなのは嫌です。今日の平和を俺達が守ったとしても、一番大切な女神様を守れなかったとしたら、俺はメチャクチャ嫌です。だから――やります。国境警備隊は、守護女神近衛機兵団として。女神パープルハート様をお守りします》
「ありがとうございます。そう言ってくれると信じていました」
「でもエヌラス、その話聞いてもシロトラと戦っちゃうと思うんだけど?」
「そうですよね……」
《そ、その時は! エヌラスさんと俺でお守りします!》
「そういえば、ネプテューヌさん。エヌラスさんは……」
「あー、うん……」
現在はルウィーの病院で隔離中だ。面会謝絶、医者曰く「なんで生きてんのコレ」状態だったらしい。本当に、辛うじて心臓が動いている容態だったとのこと。致命傷を負っているにもかかわらず身体の再生がすでに始まっていたことから、担当医も不気味がっていた。
しばらくは絶対安静。だが、果たしてエヌラスがおとなしくしているかと聞かれれば……その答えは「絶対にNO」の一言に尽きる。そもそもアダルトゲイムギョウ界にいた時もそうだ。自分の右腕を潰してでも助けるくらいだ。今回もそうなるであろうことは容易に想像できる。
「……心配だなぁ、エヌラス。もう、無理しないでほしいんだけど」
今度は右腕と言わず、自分の生身の心臓まで潰した。それでも生きているのは銀鍵守護器官による驚異的な再生能力のせいだ。だが、だからといって不死身かと聞かれればそうでもない。大魔導師は言っていた。『そのレベルの肉体損傷は無理だ』と。そもそもにして、無限の魔力貯蔵庫による再生は、魔術縫合と呼ばれる。傷跡を魔力で繋ぎ止めているだけだ。魔力を回せば加速度的に回復し、完治するがそれでも真新しい皮膚は脆く弱い。エヌラスは今まで、そんな身体を引きずって戦い続けていた。邪神狩り――、塔争の代償に払った対価。
心配だった。心の底から、もう戦わないでほしいと思うほど。ネプテューヌは思い出すのも嫌な気分になる。
どれだけ血を流しても。どれだけ涙を流しても。どれだけ膝を折っても。どれだけ打ちのめされても。立ち上がって、歩き続けた。戦い続けてきた。……そして、それでも何も救えなかった自分が嫌で嫌で、たまらなく嫌いで。殺したいほど憎くて。殺したいほど恨んで。一人でずっと抱えてきて。そんな悩みを誰にも打ち明けられなくて。
壊れていった。気がつけば元に戻らないほどエヌラスの心は壊れていた。平気なフリをずっとしていた。邪神がゲイムギョウ界に現れて、それがとうとう耐えきれなくなった。
――嫌だった。笑ってくれないエヌラスが、嫌だった。笑ってほしかった。笑顔で一緒にいてくれて、一緒にゲームをして、一緒にプリンを食べて。痛いことや、つらいことや、悲しいことなんて全部後回しにして。楽しい事を一緒に楽しそうにしてくれるだけで幸せだったのに。
……ケモミミはちょっと、タイミング悪かったかもしれないけど。喜ばせようと思って。
「もう、あんな無理しないでほしいな……わたし達がいるんだから」
するな、という方が無理なのかもしれない。そうでもしなければ、邪神と戦えない。世界に潜む脅威と真っ向から戦うなんてこと出来ないのかもしれない。ならせめて。せめて、隣にいる時だけでも、休んでほしい。頑張って笑顔にさせるから――。
「ネプテューヌさんは、エヌラスさんのことが好きなんですね」
「ね、ねねねねねぷぅ!? な、なにを言ってるのさ、いーすん!? いや、そりゃわたしもエヌラスのこと最初はどうかなーって思ってたけど、今は……その、ええっと……」
「そんなに真剣なネプテューヌさんの顔、初めて見ましたよ?」
「ま、まっさかぁ。だってわたしだよー? いつでもお気楽能天気、主人公オブザイヤー皆勤賞のネプテューヌだよ? そんな、真剣になるわけが……えっと…………」
赤面して、尻すぼみになっていくがとうとう耳まで赤くして黙り込んでしまった。イストワールはそんなネプテューヌに微笑みかける。
「わかっています。そんなネプテューヌさんだから、エヌラスさんくらい過激な方のほうがコントロールできるわけですから。甘やかすととことんダラダラとして、ネプギアさんまでそれに」
「うへぇ、いーすんの長いお話が……」
「あの、いーすんさん! レオルドさんは」
「――ああ、そうでした。わたしからの話は以上となります、長らく呼び止めてしまって申し訳ありません」
《え、あ、いやそんなことありませんですしおすし! 俺、国境防衛隊のみんなに連絡してきます。補給と点検受けたら、夜間警備も頑張るっす!》
「詳細はこちらから追って連絡致します。みっかはかかると思いますので、それまではどうかいつも通りに」
《は、はい! それでは、失礼しましたっ!》
レオルドは立ち上がろうとして転倒した。脚部関節アクチュエーターが金属疲労を起こしている。原因を探ると、なんだかんだ一日中戦い続けていた事を思い出した。出力が上がったおかげで戦闘機動は他の皆に引けを取らないほど向上している。だが、まだ新しいフレームに慣れない点が多かった。その点、レオルドを除く国境防衛隊は難なく馴染んでいる。
「……それと、ネプテューヌさん。交戦した、というネプギアさんのそっくりさんですが」
「うんうん。なにかわかった、いーすん?」
「なんと仰ったらいいか……。あれは、確かにネプギアさんです。ですが、クリスタルから感じられる反応は守護女神であるというよりは魔人の類でした」
「うーん、やっぱりアレもネプギアかぁ。ネプギアと黒いネプギアでプラネテューヌの女神が三姉妹になって、ブランと同じだね! これでわたしがもう一人いれば四人でプラネテューヌの圧勝だよー!」
「いーすんさん、その、黒いわたしは……」
「名前はクロギアでいいんじゃないかな? 黒いネプギアだったし。髪の毛もネプギアよりちょっとダークな感じで、悪って感じだもん」
「クロギア……クロギアちゃんかぁ。もう一人のわたし……」
「ですが、ネプギアさんがこうして目の前にいる以上あちらが偽物ないし、別次元のネプギアさんである可能性が考えられます」
「別次元のネプギアかぁ。あ、それとクロギアの持ってた剣なんだけど……」
「そちらはまだ解析中ですね」
「やっぱりみっかかかっちゃう?」
「分かりません、とだけはっきりと言えますね」
とにかく、今は戦況も落ち着いてきた。ようやく一段落といった様子で、イストワールはネプテューヌとネプギアに休息をとるように促した。