超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
珍しく笑う大魔導師とエヌラスの上空を通過する、光の渦。それは、まっすぐにルウィー教会を掠めて――雪山に直撃した。顔を見合わせて、教会へと急ぐ。
「いででで、やっぱ怪我に響く」
「肩車してやろうか」
「逆効果だわアホか!」
「お姫様抱っこでも構わんが?」
大魔導師がエヌラスのアトラック=ナチャによって足を引っ掛けて前のめりに雪の中に突っ込んだ。アホなことを言っているからだ、と先を急ごうとするエヌラスの足に黄衣の王が絡まりついて頭から雪の中に突っ込む。
足の引っ張り合いをしながらも二人でルウィー教会に到着すると、掠めた砲撃によって教会の一部が崩壊していた。舌打ちをもらし、正面玄関からブランの下へ急ぐ。
「ひぃ、また出た!?」
「今度はなんだ!?」
「ははは、警備職員諸君。今日もご苦労。黙って立ってろ」
朗らかな笑顔で横を通過する大魔導師に教会職員は震えていた。エヌラスはすでに扉を蹴り開けて教会の廊下を走り出している。それに続いて大魔導師もルウィー教会の長い廊下を走っていた。
先程の衝撃で転んだのか、廊下に倒れているフィナンシェを見つけてエヌラスは駆け寄る。
「フィナンシェ、大丈夫か」
「は、はい。ちょっと転んだだけです」
「ブランはどこだ?」
「ブラン様なら、先程執務室の方に」
「わかった。ありがとよ」
立ち上がらせると、すぐにエヌラスは執務室へ走っていった。
「……あの、エヌラスさん。確か四時間くらい前に瀕死の重傷で病院に運ばれて絶対安静と聞いていたんですが?」
「そうだな」
「止まったら死んじゃう方なんですか?」
「心臓が止まったら死ぬと思うが?」
「いえ、そういう意味ではなくて……」
もしかしてこの人、話が通じないタイプの人種なんだろうか。フィナンシェは大魔導師と距離を置いた。
執務室へ駆け込むエヌラスが扉を開けると、そこには本に埋もれたロムとラム。同じように倒れているブランがいた。だが、なんとか自分で起き上がるなり、エヌラスの顔を見て青ざめている。
「ブラン、怪我は――」
「エヌラス!? あなたの方こそ何考えて……!」
「俺の怪我なんかどうでもいいだろうが、ロムとラムも大丈夫か!?」
本棚から崩れた本の山に埋もれた二人を発掘して、エヌラスは服を叩いて埃を落とした。
「どうでもいいってなによ。あなた、瀕死の重傷って……」
「次元神の野郎に叩き起こされた。くそったれ、こういうことか。あれから戦況はどうなった」
「……それほど変わりはないわ」
「そうか。それにしても、今の砲撃はなんなんだ?」
「わたしが知りたいくらいよ。大魔導師の意趣返しじゃないの?」
「もしそうだとしたら一番弟子として師匠に代わって土下座しとく」
ロムとラムがブランに駆け寄り、手を繋ぐ。この状況下で、夜のルウィー教会を狙撃してくるなんてことが出来るのは、それこそプレジレントくらいだ。
相手が分かっているだけ動きやすいのだが、連戦続きで満足に戦えないことが分かっている。邪神の次は武装企業代表取締役の兵器群。そのうえ、ルウィーからリーンボックスまでゲイムギョウ界の大陸を横断しなければならない。
そんな時、再びプレジレントによる放送が始まった。
『よーぉ、ゲイムギョウ界のみんな! いい夜だな、良い子は歯を磨いたか? 悪い子はお仕置きだ! ついさっきこちらの秘密兵器をぶっ放したところだ! 残念ながらルウィー教会には命中しなかったみたいだがね。そちらさんのやった狙撃の意趣返しと思ってくれ! さて、さっきの攻撃にびっくりしていることだろうからタネ明かしだ! 俺はマジシャンじゃないんでね、手の内はおおっぴらにさせてもらう。今のはうちの最終兵器、アルカトラズ砲ってんだがね。何度も撃てる代物じゃあない! ちなみに後二発撃てるが……十二時間に一発ってところだな! 時間外労働ガン無視決め込んでフル稼働してやれば八時間に短縮できるが!』
「なんってふざけた野郎だッ!!」
『ちなみに現在次弾装填中だ! あと一時間しないうちに二発目いくぜ、ホワイトハート! そこから先はさすがに砲身が限界なんで……そうだな、見積もって二十四時間は猶予があるわけだ。そうなったらそれこそこちらの打つ手はないわけだ! ギャハハハハハハ!! そんなわけで二発目を防げるものなら防いでみな!』
すぐに放送が途切れて、室内に静寂が訪れる。一発目から誤差を算出して、修正された弾道を防ぐ方法があるのならば苦労しない。ブランが歯ぎしりの音を立てる。
――エヌラスは、自分の右手を見下ろしていた。ロムとラムが不安そうにしている。
「……一時間だって? 一時間で、どうしろって…………」
「あー、ブラン。悪いな、俺の師匠のせいでなんかカウンターされてて。代わりに謝っとく」
「あなたも今の砲撃見たでしょ! そんな悠長なこと言っていないで、なんとか……! ……できるわけ、ないわよね。わかってるわ」
「……一発だけなら、俺がどうにかできる」
「――――えっ?」
「それよりもさっきの砲撃のせいで、雪山から雪崩起きてないかどうかの方が心配だ」
ブランの驚いている顔に目もくれず、執務室から引き返して様子を見に行こうとするエヌラスの前に大魔導師が立っていた。腕を組んで、呆れた様子だ。
「師匠。雪崩が起きてないか? さっきのすげぇ衝撃だったしな」
「あとで見に行く。自然現象ぐらいなら今の俺でも十分対処できるが――お前は」
「決まってんだろ、さっきの砲撃を食い止める」
「今のお前はシェアエナジーが尽きているのにか。それと回復に専念させている銀鍵守護器官だが、防御に割いている余裕はないはずだ」
「全部お見通しってか」
「当然だ。俺を誰だと思っている」
「退屈極めたクソ師匠」
「バカ弟子。機神召喚でもやる気か」
「よくわかってんじゃねぇか。そっちは任せるぜ」
大魔導師の肩を叩いて、エヌラスは教会を抜けてルウィーの街へと。出来る限り前で防ごうというのだ。
呆れて言い返す気も起きない。
「エヌラス……」
「なんだ、心配か?」
「当たり前でしょ……つい数時間前まで瀕死の重傷人だったんだから」
「それもそうだが」
「分かっているのなら、止めなさいよ。本当に死んじゃうわよ……?」
「……止めてやりたいのだがな。俺ではもう、止められんよ。どうしても、というのなら。それはお前たち守護女神の役目だ」
「わたし達の?」
「皮肉な話だな。何もかも諦めたはずなのに、何も諦めていないアイツに振り回されるなど」
自嘲気味に笑って、大魔導師はブランを見下ろしていた。ロムとラムは以前の女神候補生誘拐事件から苦手意識が勝っているのか、警戒している。
「……だが、アイツの隣にいると退屈せずに済む。雪崩は私に任せろ」
「エヌラスのシェアエナジーが、尽きているってどういうことよ」
「そのままの意味だ。邪神相手に根こそぎ持っていかれたようだな」
「それなのに……アルカトラズ砲を――」
「お前のためだろうな。アイツは口にするより行動に移すから勘違いするやつが多い。それと自分でも気づいていない場合も稀によくある。呆れるほどの馬鹿だ、付き合うのは苦労するぞ?」
「なっ――つ、付き合うってなによ……?」
「言葉通りだ。さて、では俺は雪崩の処理でもしてくるか」
そして、大魔導師も執務室を後にした。
ブランの脳裏に繰り返される言葉。エヌラスに、付き合う……。
「…………~~」
胸のもやもやした感情に、何故か顔が熱くなる。一体なにを考えているんだ――惹かれる要素なんて何処にあるというのか。顔は怖い。暴力的。無鉄砲。甲斐性なし。それでいて、女神の敵だ。絶望の魔人なのに――あんなにも、邪神から存在を否定された。出来損ないの魔人。偽りの旧神。偽物の神様。本当は、世界を破壊して、世界を滅ぼす存在のはずなのに。
女神を守ろうとして。アダルトゲイムギョウ界を救おうとして。あんなにも傷ついて。
こんなにも、胸をかき乱してくる。それが不愉快でたまらない。
(……なんでよ。なんで、わたしがこんな気分にならなきゃいけないのよ)
この怒りを何処に向けたらいいのだろう。この気持ちをどこに吐き出してしまえばいいのだろうか。――決まっている。わたしをこんな気持ちにさせている張本人に、全部ぶつけてしまえばいいんだ。
『アンサー主砲、アルカトラズ砲の熱量負荷限界まで残り60%』
『エネルギー充填40%突破』
『次弾装填完了。いつでもいけます』
《こちらでも確認した。教会を消し飛ばすには十分過ぎる威力だ》
ジョッシュは、アリーナに張り巡らされた動力パイプを巡るシェアエナジーに異常がない事を再三確認して、静かに頷いた。
《プレジレント。二発目はいつでもいける。初弾からの誤差修正完了。命中率は90%を超えている》
『ハッハァ、何事も備えあれば憂い無しってな! やっちまえジョッシュ!』
《了解した。白の大地もこれで終わりだな》
『あちらさんはうちのVIPが大暴れしてくれたお陰で守護女神もダウン中だ! 謝礼金を払いたいところだったんだが行方不明の音信不通でちょいと困ってる!』
《アルカトラズ砲、発射!》
『グーッドバァーイ、ルウィー! 女神ホワイトハートッ!』
今頃社長室ではプレジレントが大きく手を振って、アンサーからの主砲を見届けていることだろう。夜空を切り裂いて駆け抜けていく緑色の光。搭載されたシステムシェアドライブから還元された信仰心を主砲のエネルギーに充填する。SSDを搭載した機体が破壊されても生存しても変わりはない。
海を越えて、山を越えて、ラステイションの国境を、プラネテューヌの国境を越え、ルウィーへ――だが、不意にルウィーの空が白く輝いた。
無数の歯車と螺子によって組み上げられていく。召喚されたのは、巨大な機械の腕だった。ルウィー教会を守ろうとするように街の前で五指を広げている。その掌には、防御魔法円が展開されていた。
『これが本当の“奥の手”ってかぁ!! ハハハハハハハ、ハーッハハハハハハハハハハ!! 最高だ! 最ッ高のイレギュラー事態発生だぁ、ギャハハハハハハハハハ――――!!!』
エヌラスが駆け出す――ルウィーの街の中を、自分の足で。
シャツのボタンを開けて、右半身をはだけさせて露出させると、銀鍵守護器官の回転数を上げる。心臓の鼓動が強くなる。これ以上は無理だと身体からの危険信号を無視して、右腕に魔力を集中させていく。指先から肩まで埋め尽くす魔術回路を稼動させて、吼える。
「機神召喚――――ッ!!!」
口の中に血の味が広がる。だが、構うものか。飽きるほど堪えて飲んできた。
ルウィーの夜空に浮かぶ鋼鉄の機神。その右腕が、アルカトラズ砲を防いだ。
リーンボックスの信仰心を上乗せしたエネルギー砲。ハァドラインの狂信。アームドソウルスの野望と陰謀、プレジレントの大願。すなわちルウィーの陥落。
「だ、れが――テメェらなんぞにぃぃぃぃッ!!!」
ノワールは、ヌルズ・エクス・モルテスに敗北した。あの時、自分がいれば守れたかもしれない。血の臭いが広まる。鼻血が出ていた。
防御魔法円にヒビが入る。やはり、十分な魔力を供給できない今の自分では護れないのか……『諦めろ』と言われた。他でもない自分から。『お前に世界は救えない』とも、言われた。
だったら世界の全てでなくていい。世界の全部じゃなくていい。この手が届く場所だけでもいい。
「負ぁけ、て……!!」
黄金の蜂蜜酒を手にして、服用すれば間違いなく死は免れない。ドラッグシガーも同様だ。それでもエヌラスは躊躇うことなく、小瓶を手にして中身を飲み干した。
「たぁまるかぁぁぁぁああああああッッ!!!!」
ふざけるな――ああ、ふざけるな機械人形ども。お前たちなど所詮、生まれてから死ぬまで機械の身体で死んでいくだけだ。そこに生身の魂など欠片も込められていない。死んでから出直してこい!
お前たちが守護女神に牙を剥くというのなら、いいだろう。いくらでも掛かってこい。
「俺の――大切な人達に指一本でも触れてみやがれ!! ぶっ壊してやる――、ああ全部だ! 全部! ひとつ! 残らず――跡形もなくッ、綺麗さっぱりぶち壊してやる!!」
防御魔法円が破壊される。掌は裂けて血が滴っている。だが主砲の威力はまだ相殺しきっていない。機神の右手で、直接受け止めた。
機神のダメージはエヌラスの身体にもフィードバックされる。右手を溶鉱炉にでも突っ込んだ激痛と呼ぶのも生温い。右腕の皮膚が裂ける。機神の装甲が徐々に溶解し始めていた。
「テメェ等ハァドラインの狂信なんざ、俺の目じゃねぇッ!! 俺が――――!!!」
――決して失いたくない笑顔がある。
「――俺が! 世界で! 一番女神を愛してんだっ!!!
文句あんのか、バァァァァァァーーーーカッッ!!!」
指がメチャクチャな方向に折れ曲がっている。アルカトラズ砲の威力に押し負け、エヌラスが後ずさる。しかし、踏み止まった。
殴り返すようにエヌラスが拳を突き出し、ルウィーの夜空に静寂が訪れる。
エヌラスは息も絶え絶えで、全身から湯気が上がっていた。右腕など、指先は複雑骨折している。手の甲からも骨が突き出していた。肘まで皮膚が裂け、魔術回路が焼き切れている。投与した黄金の蜂蜜酒の効能は一瞬にして燃え尽きた。
無事に動く左腕で、リーンボックスを指差してエヌラスは不敵な笑みを浮かべる。
「こちとら見の程知らずの弁えない天下無敵の大馬鹿野郎だ。もうちっとネジ取っ払ってから出直せ、狂信者」
心臓が破裂しそうだ。深く息を吸って、吐き出す。
ルウィーの冷えた空気が今は素肌に心地良い。
それから、改めて自分の右腕を見下ろした。感覚が無くなっている。
「…………まぁた師匠に怒られっかな、これ」