超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
背後から迫るロボットの脚力は、人間の脚とは比べ物にならない。ぐんぐん迫ってくるアルシュベイトにシーシャが舌打ちをひとつ。
「あぁもう、なんだってあんなに足が速いかねロボットってのは! だけどケーシャの見立て通り、腰のブースターは使ってこないね!」
「そうですね。追ってくるなら、噴射してるはずですから!」
「ビーシャ。そっちはどうだい」
《バッチリ! も~任せて。三千万クレジットは貰ったも同然なんだから》
「あはは、頼りにしてるよ」
森を抜けるよりも先に、アルシュベイトの足音が接近してくる。
「まずいね、このままじゃポイントに誘い込むより先に追いつかれる」
「シーシャさん、そのまま」
チェックスカートのポケットを探り、ケーシャが何処からともなく手榴弾を取り出すとピンを抜いて後ろへ投げた。
アルシュベイトは、投げられた起爆物を確認すると一瞬だが足を止めて突撃砲で撃ち抜く。空中で爆発した手榴弾の衝撃波を追い風にして二人との距離が再び開いた。
「うひゃあ、危ない危ない」
「空中で撃ち抜くなんて、なんて射撃精度……」
感心している暇など無い。もうすぐ合流ポイントだ。ケーシャは続けて、足元に爆弾を設置して走る。
追いかけてくる姿を一度だけ見ると、タイミングを見計らって手元の起爆ボタンを押した。足止めにはなったのか、先程よりも距離が開く。
「よし。これなら合流ポイントまで間に合いそうです」
「ねぇケーシャ。アンタ、それどっから出してるんだい?」
「無限バンダナです」
「カチューシャじゃなくて? まぁいいさ、予定のポイントまでもうちょっとだ」
ビーシャとエスーシャの待つポイントに到着し、二人が息を整えながら武器を構える。
アルシュベイトは、焦らず歩いて接近してきた。手には近接戦闘用のナイフ。背中に主兵装をマウントして、残弾を温存しようという魂胆が見えている。
《ふむ、誘い込まれた。ということか》
「来たなー、三千万クレジット!」
「こらこらビーシャ。お金に換算するんじゃないよ。それに」
「……どうにも、一筋縄じゃいかないようだ」
エスーシャが呟く。
《一応聞いておきたいのだが。この俺の賞金目当てか、それともプレジレントの手の者か?》
「こっちは賞金目当て。アタシは、強いやつと知ったらちょっと挑戦したくなっただけさ」
《なるほど。腕試しということか。ご所望とあらば受けて立つ──と、言いたいのだが》
アルシュベイトが関節を確かめるように何度か慣らす。
《こちらも連続稼動時間限界まで近い。手短に頼む》
「はは、悪いね。……それじゃ」
拳を固めて、シーシャが先陣を切る。それにエスーシャが続き、ビーシャはバズーカ砲でアルシュベイトを狙う。ケーシャは両手にサブマシンガンを持つと、横へ移動する。
シーシャの打拳をアルシュベイトが装甲で受け止めた。右手に持った格納ナイフでエスーシャのソードを払い、二人を押し返す。ケーシャのサブマシンガンを避けたところへ、骨の大剣を手にしたシーシャがなぎ払う。
《ふっ!》
ジャンプして避けたところへ、ビーシャのバズーカ砲が飛んでくる。砲弾を殴り飛ばしてあらぬ方向へ。着地と同時にエスーシャが再び接近してきた。
《良い連携だ。しかし、こちらも先を急ぐ身分でな。すまないが──》
ナイフを投げてシールドで防がせる。右肩の武装ラックが持ち上がり、アルシュベイトの手に長刀が握られた。
《加減はせんぞ!》
「っ……」
エスーシャに向けて、豪剣を振るう。踏みとどまろうとしたが、押し負けて吹き飛ぶ姿をビーシャが受け止めきれず二人まとめて倒れた。一気に旗色が悪くなったのを感じ取り、ケーシャは煙幕を数個まとめて投げつける。
相手が機械ならば、とおまけでチャフ・グレネードも用意するが、手元から投げた瞬間に撃ち抜かれた。
残量が心もとない跳躍ユニットを吹かして、回転斬りの剣圧だけで煙幕を晴らすと、シーシャが骨の大剣を全身で振り下ろす。
「おぉぉりゃぁぁ!!」
豪剣と大剣が衝突し、僅かにだがアルシュベイトの足場が沈む。
なるほど、鍛えられた良い膂力だ。感心しながらも、両手で柄を握りしめると剣を引いた。前のめりに倒れ込んでくるシーシャに剣の腹を当てて引っ掛けるように投げ飛ばす。
「いたたた……」
「すまない、ビーシャ」
「いいよ、だいじょうぶ?」
「ああ──」
そして、ビーシャとエスーシャがシーシャを受け止めて転がった。
移動していたケーシャが、対物ライフルを構えて──突撃砲と目が合う。横に寝かせた銃口に睨まれて、間もなく両手を上げて降参した。
あっという間に蹴散らされて、ビーシャが一番悔しそうにしている。
「うぅ~~、一攫千金のチャンスがぁ~……」
「まぁ、無理だとわかっていたしな……それに興味ないし」
「エスーシャ、手を抜いてたでしょ!」
「いいや? 本気だったさ。少なくとも斬りかかる時は」
勝てるはずがないのはわかっていた。だが、少なくとも善戦くらいはしようとしていた。それが届かなかっただけのこと。
「いやぁ、参った。アタシの大剣もダメだね。もうちょっと強化しとくべきだったなぁ……素材はともかくクレジットも厳しいからねぇ……」
「シーシャはご飯と武器にお金使いすぎ」
「仕方ないだろう、ハンターは身体が資本なんだから」
アルシュベイトは長刀を地面に突き立てて、腕を組む。
《そこまでの大金、必要な理由が?》
「いや、実は。リーンボックスには旅行で来てたんだけど帰りのフェリーとか、空港とかの旅費がちょっとばかり厳しくて……」
「そんな時に、貴方の懸賞金の話が放送されて……すいません」
《はは、うむ。いや気にしていない。それに良い狙撃だった、いいセンスだ》
「ありがとうございます」
《しかし帰りの金銭が足らぬのは、些か計画不足では?》
「ここまでの長期滞在になるとは思ってなくて……お恥ずかしながら」
事情は察した。とはいえ自分も手持ちは無い。
《それなら、プレジレントにヘリでも出してもらうとするか》
「えっ、いいんですか?」
「というか、出してくれるかね?」
《出すというまで交渉するだけのことよ》
「それ、脅迫って言うんじゃあ……」
《ならば勝ち取るだけのことだ》
「……アルシュベイト、もしかしなくても脳筋?」
「し、シーシャさん。この方、一応別次元の国王様ですよ。そんな失礼なこと」
《ふむ、昔から言われていたことだが。まさかこの身体でも言われるとは。つまり俺は昔から変わっていないということだな。脳筋で結構》
サムズアップするアルシュベイトにケーシャが一応頭を下げていた。
長刀を背負い、ナイフを前腕部に格納すると武装企業本社ビル──グランドマザーウィルを望む。さて、あれほどの巨大要塞。どう突入するか……。考え込むアルシュベイトに、ケーシャが挙手する。
「あの、いいですか? アルシュベイトさん」
《どうした? ……名前を聞いてなかったな》
「ケーシャです。今回の件については謝罪します、ごめんなさい」
《そちらに非はなかろうよ。無礼不躾無作法、恥じらうならばそれも良し》
「ありがとうございます。それで、私でよかったら先に武装企業本社ビルの警戒網を把握してきますが、どうでしょうか? こう見えて潜入は得意なんです」
《良いのか? こちらとしては助かるが》
「はい、任せてください。昔とった杵柄のようなものですし、お役に立てるなら」
「そっちも稼動時間が限られてるんだろう? なら今のうちに休んでおいた方がいいと思うよ」
「うぅ~、三千万クレジット……」
「はいはいビーシャは諦める。勝てっこないんだから」
「そうするぅ……」
しょんぼりと項垂れるビーシャの頭を撫でて、シーシャは帽子で膝の汚れをはたき落とす。
《ならばすまない。そちらの厚意に甘んじるとしよう》
「はい。おまかせください。明朝には戻ってきますので」
「気をつけるんだよ、ケーシャ」
「いざっていう時は万能ダンボール箱で逃げてきます、大丈夫です」
「だ、ダンボール箱って……」
それは……本当に大丈夫なのだろうか? 不安な表情で武装企業本社ビルへ向かって走り出すケーシャを見送る。
「さて、アルシュベイト。ここで休むのかい?」
「あの砲台がこちらを狙わないとも限らないし、移動するなら市街地の方がいい。街への被害は極力避けているみたいだ」
《ならば、出来るだけそうしよう。そちらも街から遥々森林まで大変だろう。乗り心地は悪いかもしれんが、俺の肩に乗るか》
「いいの!? わーい、乗る乗る!」
ビーシャを肩車して右肩と左肩にシーシャとエスーシャを乗せると、アルシュベイトは歩き出した。そして、リーンボックス近郊で休息を挟む。
夜が明ければ、武装企業本社への突入作戦が待っている。
──武装企業本社ビル・グランドマザーウィル社長室。
プレジレントは、腕を組んでいた。リーンボックスの夜景を見下ろしている。
背後に現れる不吉な気配に振り向くと、仮面を割られた邪神が立っていた。
《よぉ。また遭ったな、邪神様。謝礼金を払おうと思ってたんだが連絡が取れなくて困ってたところさ》
「謝礼などいらんさ。あれはお前への礼儀だ」
《そうかい? ブラックハートを撃退し、ラステイションを突破。ルウィーでもパープルハートとホワイトハート、イレギュラー二名を含めての大激戦。大活躍だったじゃあないか》
「……見ていたのか」
《当然。俺を誰だと思ってるんだ。リーンボックス製の軍事衛星から、ちょちょいとね》
どこまでも食えない奴だ、ヌルズ・エクス・モルテスは肩をすくめた。
《もうじきこの戦争も終わる。B2AMは生き残り、アークは滅び、ルウィーは健在。世は事も無し。俺達の国家解体戦争は失敗に終わった》
「だが? それを良しとした」
《見せつけてやったさ。俺達の国は。俺達のリーンボックスは。俺達の女神様は、こんなにも。そう、こんなにも強い。三国を相手にして戦えるということをゲイムギョウ界中に見せつけてやった。力の誇示は軍事力の基本だろう?》
「それに意味はあったか、プレジレント」
《あったさ、諸悪の根源。アンタは俺達を前にして戦えるか?》
「俺一人で十分だ」
《なら俺達は、全戦力で持って迎え撃つさ》
プレジレントのモノアイと邪神の視線が衝突する。ビジネスパートナーであった頃とは違う。今は敵同士だ。女神の狂信者、絶望の叛逆者。理解しあえるはずがなかった。
五体満足ではあるが、ヌルズ・エクス・モルテスは明らかな疲労の色を見せている。
「事の顛末を見届けるだけの余裕はなくてな。こう見えて、かなりまずい容態だ」
《うちのベッドで休んでいくかい。キングサイズだ》
「遠慮しておこうか。今しばらくは静養に努める。どっかの、バカと。違ってな」
皮肉をたっぷりとこめて、邪神は黒い霧を纏った。
「次に遭うことがあれば敵同士だ」
《昨日の友は今日の敵、てな。商売敵にはよくあることだ》
そして──ヌルズ・エクス・モルテスはゲイムギョウ界から消え去る。
邪神の脅威から、超次元は免れた。今は、まだかろうじて。
だがいつか、いつの日か。
《……届かない明日を夢見て戦う俺達を笑うがいいさ、邪神様。俺達は何度だって立ち上がる。何度でもこの世界で叫ぶさ。女神への信仰を》
終わらないハッピーエンドが女神たちを祝福すると、信じている。その為ならば、なんだって構わない。
たとえこの身体が朽ち果てようと、女神達に笑顔が灯るというのなら構わない。
どんな絶望にだって、撃鉄を鳴らしてやろう。戦場に華を散らそう。
そこが俺達の居場所なのだから──。