超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「エヌラスさんの、力……?」
ジャバウォックの攻撃を避けていたネプギア=パープルシスターにマジェコンヌの偃月刀が当たる。飛行のバランスを崩したそこへ、巨大な腕が薙ぎ払われた。
「ネプギア!」
風圧だけでも軽々と吹き飛ばされそうな勢いだ。どうにか踏み留まり、痛む身体を押さえながらネプギアは別なことを考えている。
“でも、どうしてエヌラスさんの力を秘めた宝玉が私達の世界に? ううん、今はそれよりも”
――考えるのは後回しにして、今はとにかくマジェコンヌとドラゴンを倒して宝玉を取り返さないと。
しかし、宝玉によって神化したジャバウォックの力もマジェコンヌの力も圧倒的だった。
「フハハハ、どうした女神ども。私を倒すのだろう? 二対二だ、よもや反則などとは言うまいなぁ? 積年の恨み、晴らさせてもらうぞ!」
「クッ……エヌラスの力を借りているのだとしたら、やっぱり見た目相応に凶悪みたいね」
「陰口言うのはちょっと感心できないよ……」
「だって、今でも私のことなんて言ってるか分からないのよ!? 今頃『アイツほど酷い女神はいねぇ』とか言ってるに違いないわ!」
「もうちょっと信頼してあげてもいいんじゃないかな!?」
――ぶぇっくしょい!?
どこかでくしゃみの声が聞こえた気がする。
「ええい貴様ら、何をゴチャゴチャと! 丁度良い、貴様の治める国ごと滅びてしまえ! 往くぞ我が下僕よ!」
KYYYYYYAAAAAAA――!!
金切り声じみた咆哮と共に頭上に両腕を掲げて翼を大きく広げるジャバウォックに、膨大な魔力が集まっていく。それはすぐに形を成した。灼熱の光球が太陽の如く殺人的な熱を持って収束していく。それを制御しているマジェコンヌは剣を振りかざした。
「もっとだ……もっと、私に力を与えよ――! この世界に終焉を!」
そのサイズはプラネテューヌを破壊するに足りうる一撃だ。そうでなくとも甚大な被害が出ることは間違いない。二人でも防ぎきれるかどうか――決死の覚悟でネプテューヌ=パープルハートがジャバウォックの作り出す光球を破壊しようとして、突然ミサイルがジャバウォックの翼と両腕に撃ち込まれた。その爆発から霜が降りていく。
対災害用冷却弾頭『アブソルード』の六発はその魔力を保持するための集中力を奪うのに十分な威力を見せ、マジェコンヌの頭上で制御を失った灼熱の暴力が暴発を始めた。
「なに!? おのれ……おのれ、まさかこんなことで……!?」
死に直面して、歯噛みしたマジェコンヌだったが突然足場が揺れて振り落とされる。ジャバウォックの凶暴な手に乗せられて、驚きに目を見開いた。
「お前……私を――?」
爆発から庇うようにして身を屈めるジャバウォックの背後で灼熱の光球が焼失する。その余波だけで草原が焼き畑のようになっていた。苦悶の絶叫があがる。雄々しい翼は見るも無残なボロ布と化していた。
ネプテューヌ=パープルハートもネプギア=パープルシスターも健在である。その衝撃で二人共にダメージを負ったが、まだ戦う気概を見せた。
《“悪竜”ジャバウォック!? 何故こちらの世界に……!?》
「バルド・ギア、今のミサイルは貴方だったの?」
「ありがとうございます、ソラさん。助かりました」
《え……あの、こちらの方は?》
「酷いわね、私よ。ネプテューヌよ! どうしてわからないのかしら、ネプギアと一緒なんだからそれくらい察してもいいじゃない」
《無理》
「無理!?」
《ごめんなさい、無理です……》
「重ねて言うこと!?」
ネプテューヌが変身した姿、パープルハートが同一人物であるとバルド・ギアは信じがたいのか機械の顔でありながら猜疑の視線は隠し切れない。だがネプギアと行動を共にしていることから一応納得したようだ。
ジャバウォックが手からそっとマジェコンヌを地面に降ろす。
「……ふ、ふん。バカな奴め。自分の攻撃で自滅していては、元も子もないではないか。だが、感謝するぞ」
唸り声をあげながら顔を上げたジャバウォックの視線の先は、バルド・ギアがいた。同郷の出身であることを第六感から感じ取ったのだろう。それが自分の天敵であるということも。
《ジャバウォックは私がやります。姿形が多少違いますが、あの一匹程度に遅れを取っていては国王の名が泣きます》
「なら、マザコングは私達がやるわ」
「マジェコンヌは任せてください」
《え、マザ……? マジェ……? マジョコング?》
「ブッ――! まじょ、マジョコング……! 魔女ゴリラ……だめ、ちょっと待って。ツボに入ったから……マジョコン、グ――プッ、フフ……だ、だめお腹痛い……!」
魔女のゴリラとはこれ如何に。思わぬ不意打ちにネプテューヌ=パープルハートが口を押さえて笑いを堪えていたが、無理だった模様。
《それより、二人共。時間がないのでは? ステラから話は聞いています。転送までそう時間は長くありません》
「あっ、もうこんな時間……! お姉ちゃん!」
「へ? え、ええ。ささっとマジョコン――ぶふぅっ」
「もー、しっかりしてよぉ! 笑ってる場合じゃないんだから、早くマザコンヌ倒さ――ぷっ……マジェ、マジェコンヌ? 倒して行かないと……」
《なんかもう、本当にごめんなさい》
「やかましいわぁ! 人の事をマザコンだのゴリラだの、散々言いおって貴様らぁぁぁぁ!!」
逆上したマジェコンヌが更なる力を宝玉から引き出す――魔女の衣装からパンク調の衣装に変わり、その背には烏の羽根を彷彿とさせるプロセッサユニットを展開して飛行する。それと入れ替わるようにバルド・ギアは地面へ急降下した。
《ステラ、
ジャバウォックのデータ照合。解析完了。対象の能力値、測定完了。肉質解析――完了。弱点属性解析終了。――電界突破推奨……了解。
《バルド・ギアよりインタースカイ、メインサーバーへ! ポート解放、次元隔壁解放! 二十六次元拘束、解除!》
もはやあれは“悪竜”ジャバウォックとして見なすのではなく、“悪神竜”ジャバウォックという一個体だ。その属性は炎の神性を宿している。それと対を成すようにマジェコンヌは風の神性を宿していた。それは、紛れも無くエヌラスが持っていた力――失った能力の一つである。
《貴様も私も“こちら側”の住人ではない! 電界突破――
変神は出来ない。あるのは
バルド・ギアは誰かの為の自分で在りたかった。肉の器を失った機械の身体であっても、心に吹く風の冷たさには耐えられなかった――その隙間風を一人の仲間が埋めていたことに気づくのが遅すぎたのだ。
アプリケーション開発の為の仲間。ただそれだけの関係だと思っていた、しかし。今ならば確信を持って言える。ステラの為にしてきた今までの苦労は、何一つ無駄骨ではなかった。充実した時間、電子世界で意識を見つけた時の高揚感、安堵感――心の欠片を埋めるような感覚は消し去れない記憶として残っている。その時から決めたのだ。
自分は世界の為ではなく、彼女の生きる箱庭の王で在り続けると。
《覚悟はいいか、爬虫類!》
次元の壁を超えて開放されるバルド・ギアの持つ拡張性能が呼び出したのは、飛行ユニットだった。その主翼の下に四基のミサイルポッドが装着されている。高起動特化型の装甲から更に装甲をスライドさせて冷却性に特化させる。防御などもはや紙切れ同然だ。だが“当たらなければ”どうだと言うのか。
翼を失ったジャバウォックの眼下で、バルド・ギアの姿が掻き消える。音速の壁を突破してロールしながら放たれるミサイルが四基。分裂した子機が十六発。巨体に避ける術もあるはずもなくその生命力で持って全て受け切った。だが、反撃の手を許さずバルド・ギアの両肩にはバズーカ砲が担がれている。装填数三発、両腕で合計六発。更には脚部ミサイルランチャーの六発、合計十二発が腹部の宝石を爆炎で飲み込んだ。
《――――》
解析完了。腹部に魔力障壁確認。質量兵器による攻撃非推奨。光学兵器による魔術攻撃推奨。了解。武装召喚アプリケーション
ジャバウォックがよろける、黒煙の立ち込める腹部へ狙撃銃を向けてスコープを覗くまでもなく発射する。赤い弾頭は着弾点に魔法陣を展開。着弾点の肉質構成、及びその構成物質を脆弱化させる特別製の弾丸は、勿論インタースカイの技術ではない。魔術的要素が加えられているのは九龍アマルガムによる加工の賜物である。
《“ありったけ”だ、持っていけッ!!》
神速にして光速の転送と召喚を繰り返す。狙撃銃榴弾砲二挺突撃銃射突式ブレード機関銃多目的ミサイルポッド設置式無反動砲――ありとあらゆる火器がバルド・ギアの手元に召喚されては光の如く瞬いて弾倉を空にして消えていく。強固な外皮も、鱗も貫通して内部から肉が爆ぜる。爆炎に呑まれて血が爆ぜる。血風が更に蒸発して傷口を黒く染め上げた。それでもまだ止まない砲撃攻撃銃撃は光の奔流。
それでも、まだジャバウォックは倒れない。片目を失い、翼を失い、爪も牙も砕かれて、それでもまだ倒れない。生命力が命を繋ぎ止めていた。その口から熱が漏れ出す。業火の息吹を吐き出すが、バルド・ギアの展開した災害用防御隔壁『ジークフリート』の前に凍りつく。腹部に撃ち込まれた魔法陣がその影響を受けて宝石にヒビを入れた。
削ぎ落ちたはずの肉が、破壊されたはずの体組織が再生していく。驚異的な生命力はマジェコンヌの持つ宝玉から送り込まれていた。
《――憎いか、悪竜。この世界が》
憐憫の情すら湧いてくる。誰のためでもなく、ただ己の為に生きる。他人を犠牲にしてでも己の道を往く。そこに情熱はあるのか。そこに理由や意味はあるのかと問う。だが相手は人の言葉すら解さない爬虫類だ。
《憎いか、悪竜。この私が》
同じ人でありながら、なぜ悪道を往くのか。なぜ正道を歩まないのか。正しく生きるという意味は、どうであるのか。バルド・ギアは――琴霧ソラは、分からない。だが、誰かのために生きることを決して悪いこととは思わなかった。自分の為でなくても、心はこんなにも救われている。
《私は、お前が憎い。悪の限りを尽くす暴虐の竜である貴様が憎い――》
犯罪国家、九龍アマルガム。その国王、エヌラス。あれはあらゆる悪の頂点に立たざるを得なかった可哀想な王だ。だからといって加減はしない、容赦もしない、同情もしない。それを必要としないほど“強い”からだ。それが羨ましかった。それが恨めしかった。
悪の只中にあっても尚、折れない心がひたすらに眩しかったのだ。逆境の渦中にあっても、彼は諦めない。
孤独な王と、孤高の王。救われた王と報われない王。
《貴様程度の“悪”は、私の敵ではない》
そして――、ジャバウォックは電界突破したバルド・ギアの次元装備『EXE FORCE』の前に敗れた。自らを次元間光速回線に載せた突撃は、脆弱化した腹部に風穴を開けてジャバウォックの生命活動を停止させる。
鮮血と臓腑が溢れ、そしてそれは悪夢のように血の霧となって風に消えた。残されたのは悪夢のような焼け野原だけ。