超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ホワイトハートと共にルウィーを出て、ラステイションとプラネテューヌの国境近辺へ。エヌラスは極力シェアを温存したいのか、現在はハンティングホラーに跨っていた。
いつ見ても、空中を走るバイクには違和感を覚えるのか、並走しながらホワイトハートは眉を寄せている。
「なんだ、どうしたブラン?」
「……空中走るのに、タイヤいるのか?」
「は? そりゃバイクだから当然だろ」
「タイヤいらなくねーか?」
「いやいやいや、大型自動二輪の意味ないだろ」
「だから、空を走るんだったら……あぁもう面倒くせぇ!」
「いいだろバイクー、格好いいだろー!? 別にいいじゃねぇか!」
「結局はそういうことかよ!」
朝から痴話喧嘩をしながら大空を行く二人をパープルハートとブラックハートが見つけると、首を傾げていた。はて、あんなに仲が良かっただろうか……?
「ブラン、それにエヌラスも……あなた、ケガは大丈夫なの?」
「まぁな。それより、ノワール。お前の方こそ大丈夫か」
「ええ。心配してくれてるの?」
「当たり前だろ……何言ってんだ。それと──あー……」
「?」
言いにくそうにしているエヌラスを、ホワイトハートが肘で小突いた。それに背中を押されて頬を掻きながら言葉を続ける。
「その、ごめんな。お前が戦っている時に、助けに行けなくて」
「…………」
キョトンと、面食らった様子でブラックハートは目を白黒させていた。
「エヌラス、どうしたの? あなた、頭でもぶつけた?」
「なんでだよ!? 人が謝ってんのにそういうこと言うか普通!」
「え、だって……ねぇ? ネプテューヌ」
「どうしちゃったの、エヌラス? 本気で死にかけて、それでまともになっちゃったのかしら」
「……へぇ。ちょっと詳しく聞かせてもらえない、ネプテューヌ」
「そういえばノワールは知らなかったのね。実はね……」
──かくかくしかじか。
「へ~え、ふ~ん。そ~お。心臓まで、バックリ……」
「あれは本当に、見ていたこっちが寒気がしたわ。あんな無茶するなんて思っていなかったもの……」
「エ~ヌ~ラ~ス~! アナタは毎度毎度、毎回毎回、どうしてそう──」
「だから、悪かったよ。反省してます、もうしません。……出来るだけ」
「………………そ、そう。わかってるのなら、いいのだけど──」
居心地が悪そうに視線を逸らして「……すいませんでした」とボヤくエヌラスの顔が、少しだけ赤い。らしくもないしおらしさに怒りと毒気を抜かれて、ブラックハートもそれ以上言及するのをやめた。
「怒られるくらいなら最初からするなよ」
「うっせ。しょうがねぇだろ。アイツ殺すので頭一杯だったんだから」
「それで自分が死にかけてたら自業自得だろうが」
「へぇいへいそうですね、俺がわるぅございましたー」
「お前本当にわかってんのか? 本当にもう無茶しねぇんだろうな?」
「だーから、もう無理しねぇって言ってんだろうが。そんなに疑うなよ、ブラン」
パープルハートとブラックハートが、疑いの視線を向ける。
「……あなた達、そんなに仲良かったかしら?」
「言われてみれば、そうよね? どう思うかしら、ノワール?」
「怪しいわ、はっきり言って」
「奇遇ね。わたしも同じことを考えていたわ」
「な、なんだよ二人揃って! 別にあたしとエヌラスの間には何もねぇよ!」
「あら、そうかしら? その割には、顔を赤くして焦っているわね」
「嘘が下手ね、ブラン。それじゃ疑ってくださいと言っているようなものじゃないかしら?」
「え、あ……」
しどろもどろになりながら、助け舟を求めてホワイトハートの視線がエヌラスへ。
「抱きました。以上」
「!? そ、そんな前フリもなくカミングアウトするやつがいるか、このバカ!!」
「仕方ねぇだろ……俺だってシェア尽きてたし……」
「それなら仕方ないわね……と、言いたいところだけど。エヌラス、本当にそれだけ?」
「ブランに誘われてそのまま為す術もなく……」
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!! あぁぁぁぁあぁぁ!!!」
これ以上無いほど真っ赤になりながらホワイトハートがエヌラスの口を封じた。耳まで真っ赤にして涙目になっている。それを見て、二人が楽しそうにニヤニヤと意地悪く笑った。
「へ~ぇ、聞いた? ネプテューヌ」
「ええ。確かに聞いたわ、ノワール。ブランが、自分から誘って、ねぇ……?」
「瀕死の重傷を負っていながら、よくもまぁそんな真似が出来るわね、エヌラスは。まぁいつものことだけど」
「そうね、いつものことだけど。それにしてもブラン? あなた、いくらなんでも重傷人に夜這いはちょっとやりすぎじゃないかしら」
「ちげぇぇぇ!! あたしは、その、そういうつもりで言ったわけじゃなくて!」
「あら、じゃあどういうつもりだったの? 詳しく、聞かせてもらいたいわ」
「そうね。どういう感じだったのか、わたしも気になるわ」
「だ、大体あたしが全部悪いわけじゃねぇ! エヌラスだって」
「いや、お前あの状況で俺に断れって、本当に酷だからな? 右手動かねぇってのに、思い切り握っ──」
「わぁぁぁああああぁぁぁっ!!! 思い出させるんじゃねぇこのバカァァァァァ!!」
「右手……?」
「思い切り──?」
青空に響き渡るホワイトハートの絶叫。誰もいなくてよかったと心底思う。エヌラスは口をへの字に曲げたまま、包帯を巻いた右手を二人に見せる。
「アルカトラズ砲防ぐのに、機神召喚やって右腕ぶっ壊した。今はなんとか動くって感じだ」
「あんな瀕死の身体でそこまでやって……」
「それじゃ、満足に動けなかったんじゃないの? ……あ。あぁ~、ふぅん。そういうことねぇ? ふ~~~ん。ニヤニヤ……」
ブラックハートが笑顔でパープルハートに耳打ちすると、「ああ、そういうこと」と納得していた。ホワイトハートは小刻みに震えている。
「ブラン。あなた、頑張ったのね」
「大変だったでしょ? まぁでも。エヌラスだったら、リードも上手──」
「……ふ、ふふふふふ。フフフフフフフフ……」
「……ブラン?」
「あははははは、そうだ。うんそうだな。記憶がなくなるまでぶっ叩きゃいいだけだよなぁ! そうだよなぁ! あはははははは!!」
「ぶ、ブラン待って!? 落ち着いて! きゃあああ!?」
怒り狂ったホワイトハートが戦斧を振り回し始めた。パープルハートとブラックハートが逃げ出し、エヌラスは置いていかれる。頬を掻いて、緊張感の無さに笑った。
「いやー、はは……飽きねぇわ、あいつらといると」
「見てないで、助けなさいよぉぉぉぉぉっ!!」
ブラックハートからの悲鳴に、仕方なくハンティングホラーのアクセルを吹かす。
リーンボックスの上空に浮かんでいるアンサーへ向かって飛んでいく機影が三つ──。
濃紺色の機人は、背中に追加でジェットパックを背負って飛行していた。普段の跳躍ユニットでは決して出来ない、正真正銘の“飛行”にゼロスリーが歓喜の悲鳴を上げている。
《イィィィィヤッホォォォォォォォィ!!! なんだなんだ最高だなぁオイ! こんな隠し玉持ってたんなら最初からよこしとけってんだ、メガネの王様もよぉ!!》
《おい、うるさいぞゼロスリー。静かにしろ》
《仕方ありませんよ、隊長。バカとなんとかは高いところが好きなんですから》
《なんとかってなんだ、なんとかって!!》
バカの方に反応しない辺り、本当にバカなんだな。ゼロツーはあえて言わなかった。面倒なので。
《いいか、三番機。いま我々が背負っている飛行ユニットは本来、我々機人専用に用意されたものではない。バルド・ギアが運用する電子戦闘、シュミクラムユニットの──》
《隊長。ゼロスリー聞いてません》
《おい、あいつから銃殺していいのか》
《落ち着いてください隊長。我々二人で要塞攻略しなければならないのですよ。弾除けは一枚でもあった方がいいでしょう?》
《……それもそうだな。そのほうが効率的だ》
《恐れ入ります》
《人のこと好き勝手言ってくれてんじゃねぇぇぇぇぇ、イヤッホォォォォォ!!》
《やっぱ撃墜しますか隊長。一発で仕留めます》
《やめろ、ゼロツー。無駄弾は控えろ》
使用前に運用方法は直接記憶容量にインプットしてあるおかげで通常飛行には問題ない。だがゼロスリーは無駄にバレルロールしたりと、燃焼剤を無駄遣いしている。
《仕方ねぇだろ、ガキの頃から空飛ぶのが夢だったんだから!》
《夢が叶ってよかったな、ゼロスリー》
《ああまったくだ! こんな気分が良いのなんて久しぶりだぜ!》
《作戦領域に突入します。隊長》
《了解。──しかし、》
遠近感が崩れそうなほどの巨大な浮遊要塞。これが、本来はライブ会場として建設されていたのだからとてもではないが信じられない。街一つ浮いているようなものだ。搭載されている武装も生半可な量ではない。
ゼロツーが主翼に積んでいるレドームから網膜ユニットをリンクさせて浮遊要塞の外観から推測される武装の数々を解析する。
《砲塔とかミサイルポッドとか、数えるの馬鹿らしくなってきました》
《オーケー、両手の数より多いな?》
《どうするんだい、大将! このまま突っ込むか!?》
《お前が着艦に成功したらその作戦採用してやる》
《言いやがったな? やってやろうじゃあねぇか! 一番槍貰うぜ!》
《敵浮遊要塞、ミサイルの発射を確認》
《アッハッハッハ、なんだあの馬鹿げた量は! 前言撤回、ありゃ無理だ!!》
《
トライデントは、それぞれ回避行動に移る。チャフを撒いて、突撃砲で迎撃して、フレアをばら撒いてそれぞれ三方向へ。
その回避行動を見つめる機影があった。
武装企業役員ナンバー1、テルミドール。標準型逆関節の機体の背後には無数の配管に繋がれた結晶体。シェアドライブによって形成された、疑似クリスタル……それを形成しているのは動力源でもある環境汚染物質。
《ふん……あの程度避けられないようではな》
そして、その隣には純白の機体が控えている。
《いけるな? ナイルス……》
《…………》
《おい……聞いているのか、貴様》
無線からは、静かな寝息。それに呆れた。こんな状況下でよくもまぁ寝られるものだ。
《そう目くじらを立てるなテルミドール。我々と違い、こいつは生きている》
《ふん。空気にもなれんか……》
《言ってやるな。今は寝かせておけ、迎撃用意》
敵はミサイルを回避、あるいは迎撃して再び集合すると一直線に高度を上げた。確かにこの浮遊要塞は下部に兵器が集中している。だが、そうだと言って備えが無いわけではない。
傘の骨とも言うべき四方に広がった羽根から展開される無数のレーザーキャノンが再びトライデントを狙い撃つ。しかし、それを難なく回避した。
《アルカトラズ砲の再稼働を急がせろ。ジョッシュ、貴様は動力部だ。こちらは機関部に回る》
《了解した。ナイルスはどうする?》
《放っておけ。目が覚めたら此処は戦場だ》
《我々に挑むというか……思い切ったことをするものだな》
《あの三機、ラステイションで戦局を覆した連中だ。手を抜くなよ》
《当然だ。その為に我々が此処にいるのだから》
ガードロボ達の稼動も急がせる。
最後に、テルミドールはナイルスを一瞥した。棒立ちの機体に、頭部カメラがズームアップされる。
《……ふん》
かつて。この首輪付きを相手にさせられた時の戦闘データが残っている。
驚異的とも言える反応速度。脅威的な闘争本能。悪夢と呼ぶに相応しい生存本能。機械の自分たちでは決して起こせないイレギュラー要素を見込まれてナイルスはその席を勝ち取った。
武装企業役員ナンバー9。だが、その実力は──ナンバー1を語る自分に劣らない。勝るとは思いたくなかった。
館内警報が鳴り響く────敵機、着艦を確認。迎撃を開始せよ。