超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──リーンボックス洋上では、三女神による戦闘によって続々と投入される防衛戦力が蹴散らされていた。エヌラスだけは船の残骸の上を飛び移りながら倭刀で一閃、銃の反動が身体に響くからか、レイジングブル・マキシカスタムは使わず、両手で刀を振るう。その姿に、やはり本調子ではないのが窺えた。
「おい、エヌラス。無茶すんなよ。お前は目を離すとすぐ無理やるからな」
「無茶やったら顔面ハードブレイクだろ、やんねーよ」
倭刀を回し、整息。接近してくる機影を胴体から両断する。
「お前達の足を引っ張らないようにするので精一杯だ」
「大丈夫よ、少しくらいならカバーしてあげるわ。ハァァ!」
パープルハートの太刀が銃弾を弾き、クロスコンビネーションによる斬撃で敵陣を突破。それに銃口を向けた片端からブラックハートが大剣でまとめて海に叩き落とした。
《ゴボボボボボボボ!!! この海、深ぶぶぼぼぼぼ!!》
《河童が! 河童の呪いじゃぁぁぁぁ!!! ぶくぶくぶく……》
「……ねぇ、海面に足を着けた瞬間から勝手に水没していくんだけど」
「ここまで来ると逆に見ているこっちが悲しくなってくるわね。職場は選んだ方がいいと思うわよ、あなた達」
「ま、ロボットだから気にしないけどね。アハハハハ!」
ブラックハートが軽々と大剣の腹でロボット達を海に沈めていく。楽しそうに笑っているブラックハートを遠巻きに眺めながら、エヌラスは実体剣を振るう機体に苦戦していた。
腕を覆う手甲、その肘から飛び出す刃が髪を掠めていく。引いた左手を振り下ろされ、後ろへ飛び退いた。
「つぅ──!」
胸を押さえる。身体が軋む。まるで油の切れた機械人形のように。呼吸がつらい。視界もぼやけてくる。
メインブースターを吹かしながら接近してくるアームドビットが、横殴りにふっとばされて甲板の上を転がり回った。
「本当に大丈夫かよ! 無理すんな、アタシ等で倒すから」
「……ざまぁねぇな、クソ。足手まといはゴメンだ」
「あ、おい! ……ていうか、どうやって斬ってんだ。あんなただの刀で」
内気功──魔道を教わるより以前、基礎体力作りの為に教わったのは魔術ですらない。とあるサイバネティック・マフィアに籍を置く一人の人間に習ったものだ。とはいえ、その極地へと至った二人よりも練度は低く、そのうえ魔術回路混じりの“魔道式内勁”と、気功術と語るのもおこがましい。だが、魔力の消耗量と身体への負担はエヌラスにとって今の最適解となる。
アームドビットの右腕を切断、左脚部を切断して身動きを封じると反撃してくる左腕を避けると同時に胴体を蹴り飛ばして距離を取る。あえなく空振った敵機は、無防備にホワイトハートの戦斧によって殴り飛ばされ、海へと沈没していった。
「エヌラス。あなた、やっぱり変神した方がいいわよ。そんな調子じゃこの先無理よ」
「そうは言われてもなぁ……ネプテューヌ。多分、今の俺は変神した身体に追いつかないぞ」
「あなた、よくそんな身体で一緒にリーンボックスまで来る気になったわね」
「以前、俺を似たような状況でR18アイランドに無理やり連れて行ったのはどこの黒の女神様だったかちょーっと言ってみようかブラックハート?」
「あ、あれは……あれは私悪くないじゃない!? 貴方が難癖つけて断るから仕方なく」
「えーえーはいはいそっすねー、俺のせいでしたーすいませんねーほんと手間のかかるバカで」
「なんかムカつくわねその言い方……! 帰ったら覚えてなさいよ!」
「生きて帰れたらな」
「縁起でもないこと言わないの」
「……五体満足で帰れたらの方がいいか?」
エヌラスはメチャクチャ怒られた。
女神たちの説教を涙目になりながら乗り切って、ハンティングホラーで並走するエヌラスの目に映るのは、三体のアームドビット。
「あれは……」
「知り合いか?」
「ええ。ジェラルドよ。他の二体は初めて見るタイプね」
「なんにせよ、あたし達の邪魔をしようってつもりらしいな」
《……お客さんだぜ、ウィン》
《予定通りか》
《申し訳ありませんが、これより先は通すわけにはいきません》
ジェラルド。ウィンと呼ばれた黄色の機体。それに声を掛けた赤い機体はロイ。いずれも武装企業の抱える上位ランカー。
《まさか、オレ達が三女神の相手をすることになるとはね》
《言葉が過ぎるぞ、ロイ。感心するのは勝手だがな》
《我々の役割をお忘れなきように。──シェアドライブ起動開始》
《了解、シェアドライブ起動》
《起動開始》
そして、三機のエネルギー出力が桁外れに上昇していく。機体が纏うオーラは、確かに女神達に酷似していた。疑似シェアエネルギーによる機体性能向上。原動力は信仰心。しかしながら、その欠点として信仰対象からの攻撃には酷く脆くなる。
その三体を前にしてパープルハートは、自分が仕留め損ねていたジェラルドに太刀を突きつけていた。ウィンの前にはブラックハート。残るロイの前にはホワイトハートがそれぞれ大剣と戦斧を構えて宣戦布告をしている。
「エヌラス。援護は任せてもいいかしら?」
「ああ、背中は任せろ。周りの雑魚共も増えてきたしな」
「お前あたし達が見てないからって無茶したら……」
「大目に見てくれたり、しないか……?」
「ダメに決まってんだろうが!」
ホワイトハートに怒られて、エヌラスは仕方なく倭刀を構え──意識を集中させた。イメージするのは一振りの刃。
「魔刃鍛造──! バルザイの偃月刀!」
炎の中から鍛造した大きく刃の歪んだ偃月刀を掴むと、女神達に背中を預ける。
「雑魚は任せたわよ、エヌラス」
「へぇいへい、頑張る」
左手をひらひらと振って、エヌラスは周囲を取り囲む浮遊ドローン、ならびにビット達の群れへとハンティングホラーで突っ込んだ。それを合図に三女神もまた、ジェラルド達と交戦を開始する──。
浮遊要塞アンサーでは、ゼロワンとゼロスリーが敵陣を突破して第三搬入路で敵の待ち伏せによって足止めを食らっていた。
《クソッタレ、早く来いっつうのゼロツー! テメェの仕事だろうが厄介払い!》
『無理言うなバカスリー! こっちは手一杯だ!』
《だそうだ。我々だけで切り抜けるぞ、装填完了》
突撃砲の弾倉を交換してゼロワンがグレネードランチャーを防衛戦力に向けて撃つ。更に手榴弾を投げて、一拍。爆発と衝撃波が過ぎ去ってからゼロスリーとアイコンタクト、相槌を打つと同時に遮蔽物から飛び出して跳躍ユニットで敵陣へ突入する。半ば強行突破という形で切り抜けて、ゼロワンは置き土産に海神を一発撃ち込んで離脱。
残弾、残り四発。追撃の手がトライデント分隊に伸びることはなかった。
《ヒュー、さすがは大将! 伊達に訓練学校最優秀戦績賞には輝いてねぇーな!》
《昔の話だ、私語厳禁!》
《三番機了解だぁ! 突っ込むぞぉぉ!!》
いつもは指揮系統の統率、部隊運用によってこうして最前線で戦闘することが分隊の中でも数少ないゼロワンだが、ゼロスリーは知っている。本当は誰よりもアゴウ国王に近い能力の持ち主であると。守護女神、国王を除いたアゴウ国内における最強の一角。
それがトライデント一番機。総合成績においてはアルシュベイトと僅差だった。しかし当人の意思により、国王の座は辞退している。
《ゼロスリー、この直上が中央アリーナだ!》
《わかってらぁ!》
《停止! データによればこのポイントの壁が薄い! ぶち抜くぞ!》
《はいぃ!?》
言うより先に、ゼロワンが天井に向けて中隊支援火器で穴を空けた。そこへカーネイジ爆薬をセットして距離を取る。
《発破!》
そして、目的地である中央アリーナへ突入した。
《──よし、突入成功だな》
《大将。時々思うんだがアンタ、脈絡もなく行動に移すのやめてくれねーか?》
《付いてこれるだろう、ゼロスリー》
《はんっ、何年アンタと組んでると思ってんだ! 当然だろうがよ!》
三人の中では、一番付き合いが長い。
周囲を見渡しても敵影は見当たらない。だが、中央アリーナのライブ会場には無数の配管が繋がれたクリスタルが浮いていた。
その前に立ちはだかる敵影が、一体──武装企業役員ナンバー1。
《来たか、お前達》
《道を開けろ》
《断る。通りたくば倒してみせろ、この武装企業役員ナンバー1、テルミドールをな》
《おーおー、大した自信じゃあねぇかテルミさんよ。大将、俺がやっちまってもいいかい》
《……いや。お前が先行してアルカトラズ砲の動力部を破壊しろ》
相手武装を観察して、ゼロワンは三番機との相性が悪いと見た。加えて、逆関節型。変則的な機動を主軸にした立ち回りが主な戦法だろう。ならば、即時対応可能な自分が適任だと判断したことに、ゼロスリーは納得した。
《了解。三番機、第一目標を最優先事項とする。俺が戻ってくるまでくたばんじゃねぇぞ──》
ゼロワンの生前の名前を呼んで、ゼロスリーはテルミドールの横を抜けていく。素通りする機影を追うことなく、ただ両者は睨み合っていた。
《……お前達、腐っては生きられんか》
《腐敗した世界情勢などに興味はない。我々は職務をまっとうするだけのことだ》
《この世界は守護女神の加護の下、人々が安寧を謳歌している。それを脅かす存在が現れたその時、無力な人々に何が出来る。諦めるか、信じることだけだ》
《私の信念だ。今日、戦うことを諦めれば明日を生きる資格などない。だが、誰もが銃を手にして戦える強さを持つわけではない。我々が銃を手にしたのは、怯える弱者を守るためだ》
《その弱者こそが世界を腐らせるとしてもか》
《腐り落ちる程度で生きられぬならば、その程度だ。切り捨てろ》
ゼロワンは突撃砲を構え、テルミドールは右腕のレーザーライフルと左腕の突撃型ライフルを突き出す形で銃口を向けている。
《だが。それすらも守護女神は救わなくてはならない。この世界を壊死させる存在であろうと》
《そうだろうな。それが彼女たちの生き方だ》
《信仰すべき女神が腐り落ちていく様を黙ってみていろというのか、貴様は》
《その前に私が切り捨てる。たとえどれほど血で汚れようと構わん》
ゼロワンの脳裏に浮かぶのは、かつての恋人──邪神に命を奪われ、銃を手にした理由。
その復讐の涙に手を差し伸べたのは他でもない、剣姫だった。
『おれは、お前の復讐を止めない。それがお前の生き方ならば存分に走るが良い。おれはお前を愛そう。その生き方を続ける限り、おれはアゴウに生きるみなを愛しているからな』
《……俺は国王親衛隊一番機。トライデント分隊隊長、ゼロワン》
生前の名前など捨てた。今の俺は、国王の誇る最強の一人でいい。
生身の感情などいらない。捨ててきた。
《いかなる理由があろうとも、女神信仰へ銃を向けたことを後悔させてやる。狂信者》
《今のお前と、我々の何処に違いがあるというのか……お笑いだな。だがいいだろう。そこまで言うのならかかってくるがいい。その正しさを証明してみせろ、その銃で》
《戦場に正義の有無など有りはしない、何処にもな。今、この瞬間だけは》
──もう取り戻せない、恋があった。もう戻らない命があった。還ってこないことに涙を流した。だから。
だから、もう二度と。目を背けないと決めたのだ。
生身の身体と生身の感情を捨てて、失って。この全てはアゴウに尽くす為に。
女神の為に戦い、生きて、死ぬのだと誓った。
《──今この瞬間だけは、純然たる殺意と暴力が全てだ》
ゼロワンとテルミドールが左右へ飛びながらマズルフラッシュで相手を照らす。