超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
突撃型ライフルの弾丸が外れ、突撃砲の弾をクイックブーストで避ける。火器管制装置の照準に合わせて互いに狙っているはずだが、装甲表面を掠めていくだけ。それは純粋な機体性能だけでなく技量の差でもある。
逆関節脚部で配管を蹴り、射線を切って試作型レーザーライフルでゼロワンを狙う。跳躍ユニットではなく、自らの脚で駆け出して無造作に放置されているコンテナに身を隠した。
《ちっ》
舌打ちと共にテルミドールは充填したレーザーライフルをそのままコンテナへ向けて撃つ。溶融していく機材から身を離し、ゼロワンは宙を飛ぶテルミドールへ牽制しながら移動する。
《ゼロツー、そちらはどうだ!》
『苦戦中! くそ、コイツ……!』
『こちら三番機! ハハハ、どうした二番機! へっぽこガンナーに転向すっか!?』
『うるせー! 冗談言ってる暇があるならさっさと片付けて手伝え、オケラ野郎!』
『あんだとこらぁ、見てろよテメェ! 即効で終わらせて罵詈雑言浴びせてやっからな!』
いつもの調子。いつもの軽口。叱咤する隊長の無線。特殊任務の状況下にあっても、これだけは変わらなかった。
先行するゼロスリーは網膜ユニットの暗視装置を起動させて暗闇の中を直進する。甲高い噴射音だけが何重にも響く。いつまでも続くかに思われたが、設計図のデータによればこの先に不可思議に空けられた空間が存在していた。
元々、中央アリーナ以外のライブ会場として空けられていた空間は、今や無機質な光源によって不気味に照らされている。まるで鋼鉄の内臓、血管に繋がれた心臓がそこにはあった。
《こちら三番機、目標に到達────、んだ、ありゃあ?》
『こちら一番機。どうした!』
アルカトラズ砲の機関部を前にして、ゼロスリーは広大な空間に着地する。
一体だけ、ポツンと捨て置かれるように棒立ちとなっていた。暗視装置から通常モードへ。念の為、赤外線センサーに切り替える。
《……あぁ?》
他の機体にはない、生体反応。機体のコアとなる部分に、熱源を感知した。
『三番機、状況を報告──流石に速いな、ナンバー1を語るだけはある!』
《……》
二メートル大の機体に押し込められた生体反応。それが僅かに動く。輪郭の細部を確認していくと、ますますゼロスリーは首を傾げた。
なぜ──どうして、此処に配置されているのか。重要施設に、ケダモノが一匹。ロボットに乗っているのだろうか?
「…………」
《ッ……動きやがった……》
────まず、目を覚ましたのはただの直感だった。驚くほど自分の目は冴えていた。
そして、自分の隣に役員と顔なじみがいないことから、防衛に回ったのだと察した。
眼の前に、未確認の勢力を確認。敵だと判断した。
濃紺色の機体。中身があろうが、無かろうがどっちだっていい。
俺には戦場が必要なんだ。
白い機体。その全身にエネルギーが巡ると、途端にゼロスリーは寒気を感じた。機械の身体で気温の変化などでは寒気など感じないはずだったが、今、たしかに自分は背筋が凍る思いをしたのだ。それは、生前に経験した“死の気配”“死神の足音”のような薄ら寒い、魂に刻まれた恐怖。
《──こちらゼロスリー、交戦開始ッ!》
「…………」
敵機の武装を確認。近接兵装二種、確認。背面武装確認、突撃型ライフルと暫定。
敵機接近。トリガーロック、解除。サイドブースター点火。メインブースター着火確認。動作チェック問題なし。交戦開始──。
ゼロスリーの眼の前で、閃光と共に視界から消える。そして、網膜ユニットが辛うじて目の端に捉えたのは銃口。ダブル・トリガースタイルの二挺持ち。咄嗟に屈み、初弾を回避する。
左手で振るう長刀を跳んで避けた相手に、右を返す。しかし……、その
《……嘘だろ、オイ》
ライフルではたき落とされたのは初めてだった。そんなことをしてきた相手など今までいなかった。ゼロツーですら模擬戦で成功した試しなどない。感激と動揺と、精神的ショックで鈍ったゼロスリーに突きつけられる二挺ライフル。左手の長刀を両手で構えて相手の攻撃を凌ぐ。
跳躍ユニットを噴射して取りこぼした長刀を拾い上げ、ゼロスリーは構える。
《……ハ、ハハ。なんだ、テメェ……なんだテメェは、なんなんだテメェは! オイ!》
レーダー照射を受けている警告音。相手の両方に積まれたミサイルハッチが開く。マルチミサイル、四発。分裂した八発がゼロスリーに迫る。横っ飛びに駆け出し、追尾してくるのを確認してから、長刀を地面に刺して跳躍ユニットで反転。目標を咄嗟に見失ったミサイルがあらぬ場所で爆発する。
そして、その姿を冷静に補足してライフルを突きつける複眼の頭部カメラにゼロスリーは撃ち抜かれた。姿勢制御を崩されて床を転がるも、体勢を直して飛び退く。一瞬遅れてミサイルが更に撃ち込まれていた。
《なんなんだぁテメェはぁ!!》
「…………」
敵機からの怒声。激昂する相手はそう珍しくもない。対処可能。
「……?」
──確かに、珍しいタイプだった。戦場を楽しむ輩もいる。コンバットハイになるのも無理はない。自分もそうだ。戦場の緊張感はいつになっても慣れない。どうしても、心が躍る。
長刀を突きつけて、ゼロスリーは宣言した。
《名乗れよ! 俺はトライデント分隊三番機ゼロスリー! 面白みのねぇ名前で悪いな! 生前の名前は捨てちまった! 俺をここまで燃え上がらせたのは国王以来だ!》
「…………」
名乗れ、と言われても興味はない。俺はお前の敵だ。お前は俺の敵だ。戦場で出会ったんだ、答えはそれだけでいいだろう。
ナイルスは答えずに、銃を突きつける。
《ストイックだな、ますます気に入った! 悪いが俺はバカやかましくオラオラ叫んでく野郎でねぇ! いくぞぉぉぉぉっ!!》
──ああ確かにやかましいやつだ。闘争本能に手と足が生えているかのようなやつだよ、お前は。
「……?」
両手に持った長刀を、一本。その場に突き刺してゼロスリーは両手で構えている。その意味がわからないが、ナイルスは気にせず銃を撃つ。だが、弾丸を切り落として突き進んでくる姿に目を見張った。
《ハッハァァー! こちとら弾丸切り落とせないくらいで切り込み隊長名乗っちゃいねぇぞ、調子乗んなよォォォ!! チェェェストォォォッ!!!》
「────」
思わず、笑みが溢れる。ああそうか。お前も俺を楽しませてくれるというのか。三番機、そう名乗るからには残りの二人もさぞ楽しませてくれるんだろうな。
《ハハハハハハ、アッハッハッハッハ!!! 悪いな、ゼロワン! 俺の最前線はここまでらしい!!》
『──なに、を。何をバカ言っている、馬鹿野郎!!』
剣礼。アゴウの守護女神、剣姫の名を冠した作法。そして、それを戦場に捨て置く、ということはすなわち……“剣の墓標”であるということ。ドッグタグではない、自らをアゴウに捧げた剣の一振りであることの象徴。
《こりゃあ無理だ! ハハハ、アンタといい勝負だ!》
ナイルスのライフルで、装甲は確実に破損していく。ミサイルで逃げ場を塞ぎ、その進路に立ちふさがるだけの機動力。長刀を振り下ろせば、蝶のようにヒラリと避ける。空中で回転しながら確実に当ててくる射撃精度。機械では決して成しえない戦闘機動。網膜ユニット半壊。片目が潰されるが、痛みがないことにゼロスリーは改めて機械の身体に感謝した。
──弱い自分が、嫌だった。痛みに呻く自分が、自分の全力に付いてこれない身体が。怪我をした程度で動かなくなる肉体が。心はこんなにも生きたがっているのに。
《この俺が、手も足も出ねぇだぁ!? ふざけんな、ふざけんなよ畜生!!! だが俺だってなぁ、アゴウ国王親衛隊三番機だ! 腐ってもアゴウ最強の一角だ、ざっけんじゃねぇぞコラァァァァッ!!》
ナイルスの二挺ライフルが、肩部装甲を、跳躍ユニットを撃ち抜く。脚部破損、左前腕貫通。だが──まだ、動く。戦える。
ゼロスリーは長刀にカーネイジ爆薬をセットして、全身で振りかぶった。それを難なく横へ避けたナイルスへ、突撃砲を構える。右から左へとクイックブーストで射線を切りながら、相手の射撃精度は恐ろしいまでに正確無比にトリガーに掛けた手を破壊してきた。
《テメェの腕一本、貰ってくぞぉぉぉ!》
──ガキィン!
金属の衝突音。格納していたナイフを取り出して、ゼロスリーは辛うじてナイルスに組み付いていた。
「………………」
ダメージチェック。左前腕部損傷、稼働率低下。戦闘行動に支障なし。戦闘継続。
蹴り飛ばされてゼロスリーは壁に激突した。腕と脚を破壊されて、そのままずり落ちる相手にナイルスは銃口を突きつける。
──ああ、楽しかった。短い間だったが、久しぶりに、少しだけだが……戦場に満たされた。
《……ハッ、》
「……?」
だが、なぜだろう。相手の機械音声に、鼻で笑われた。なにがおかしいのか──。
《こちらゼロスリー。任務達成、だ》
つい、と顎で指し示された。そちらに頭部カメラを向けて……。
アルカトラズ砲の機関部、その装甲に突き立つ長刀を発見した。刀身にカーネイジ爆薬がセットされている。
《あぁ、クソッタレ……任務じゃなくて、喧嘩したかったぜ、テメェとは──》
迷わず、胴体と頭部を撃ち抜いた。二発ずつ弾丸を撃ち込み、それと同時にカーネイジ爆薬が起爆してアルカトラズ砲は沈黙する。爆風によるダメージ、軽微。
ナイルスは無感情に、ゼロスリーを見下ろす。
──俺は戦場でお前に会えたことを嬉しく思うよ、三番機。
残り二人だ。残る二人も、渡さない。誰にもだ。テルミドールにも、ジョッシュにも。
これは俺の獲物だ。
ナイルスは沈黙したゼロスリーを一瞥して、アルカトラズ砲を見て。
そして、中央アリーナへと向かった。