超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
反応の途切れた三番機に、ゼロワンは無線を繰り返す。テルミドールの猛攻に晒されながらも直撃だけはお互いに避けていた。
《おい、三番機! ゼロスリー、応答しろ! 聞こえてるのかバカ野郎!》
《……この衝撃は……チッ、ナイルスのやつめ。遊びすぎだ》
アルカトラズ砲の沈黙により、艦内は騒然としていた。アンサーに問題はない、疑似シェアエナジーの分配を本体に回せばいいだけのことだ。
《高度を上げろ。浮遊要塞を移動させる。本社の防衛は社長に任せておけばいいだろう、直接ラステイションへこちらから乗り込むぞ》
《──! ─────、─────!!》
テルミドールは、まだ応答しない無線へ叫び続けているゼロワンに向けて突撃型ライフルを突きつける。
《お前もすぐに後を追わせてやる》
《──うるっせぇぞ、取り込み中だ!!》
《なっ──!?》
避けるのではなく、突っ込んできた。弾丸を最低限避けて、突撃砲を放り投げる。跳躍ユニットで飛行すると同時に、テルミドールに接近して海神の銃口で胴体を貫く。装甲に押し留められるが、動きを制限することに成功していた。残り三発。
離れると同時に、突撃砲をキャッチしてグレネードを投射。二重の衝撃で機体の制御を失い、アリーナ席を転がっていく。
辛うじて止まるが、ドーム型天井が開いていく。移動を開始するために一部の装甲を開き始めていた。
《メインブースターがイカれただと……》
火花を散らしながら復帰しようとする機体を足蹴にして、ゼロワンは手榴弾を装甲の隙間に埋め込むと蹴り落とす。
《これが私の最期だと──認められるか、そんなこと》
《黙って逝け》
海神、残り二発。落下していく機体が二発目の電磁弾頭に撃ち抜かれ、手榴弾の爆発によって四散していった。
《……二番機、聞こえるな》
『聞こえています、戦闘継続中! ゼロスリーはアルカトラズ砲を停止させたみたいで、なによりです──!』
《ああ、そうだな……だが》
『分かっています、隊長。我々だけでも、生きて戻りましょう』
ゼロワンは、それに《そうだな》とだけ、短く返答した。浮遊要塞が移動を始めた以上はこちらも動力部を一刻も早く破壊しなくてはならない。
疑似シェアクリスタルに近づき、カーネイジ爆薬をセットする。
そして、急速に接近する反応を検知。顔を上げて──、
白い死神と、目が合った。複眼の頭部カメラ、左腕に突き立てられている格納ナイフ……それが、誰のものであるかなど明白だった。
《──お前が……!!》
「…………」
ナイルスは、動力源に設置されようとしていたカーネイジ爆薬を視認して、引き金を引いた。ゼロワンは咄嗟に飛び退き、動力源と距離を離す。
《……何者だ、貴様。こちらはトライデント分隊隊長、ゼロワン》
「…………」
敵機兵装確認。突撃砲一挺、近接兵装一種確認。背面武装、荷電粒子砲確認。手榴弾、並びに爆薬を確認。隊長機……なるほど。
ナイルスは状況を確認する。テルミドールは撃墜を確認している。ジョッシュは現在交戦中。そして目の前の敵機は、動力源である疑似シェアクリスタルの破壊工作を目論んでいる。
そうなれば、自然と答えは決まっていた。任務は、あくまでも浮遊要塞の“護衛”だ。アルカトラズ砲は追加報酬に含まれていなかったから見捨てただけのこと。
両手のライフルを突きつけるナイルスに、ゼロワンは突撃砲を構えた。
《……ゼロツー、すまないがそちらの救援はいけそうにない。単機で切り抜けられるか》
『ええ、なんとかやってみます!』
《……とは、言ったものの……》
かなり、厳しい状況だ。
相手の機体は重装甲高機動ときて重武装。なんとか直撃を避けてはいるが、こちらもそう長くは保たない。すでに左腕の神経伝達ケーブルが損傷しているせいで左手の指の動きがぎこちなかった。跳躍ユニットの推進剤も消耗量が激しく、予備は残り一個だけである。背面の追加ジェットパックも切り離していた。
バックヤードから、資材倉庫にまで誘導したはいいものの──あの火力を前にして立つ度胸などない。一瞬で蜂の巣にされて終わりだ。
……こんな時、あのバカだったら。いつもの調子で背中を押してくれたのに。
猪突猛進で、後先考えずに敵陣に突っ込んで、露払いを任せるくせに撃ち漏らすとすぐに揚げ足を取って。
嫌な奴だった。バカみたいにうるさくて、まぁ実際バカだったけど……、だけど。誰よりも勇敢だった。誰よりも先に敵陣に切り込んでいた。死にたがりのバカだった。それで一度は死んだくせに、機械の身体になってから顕著になった。
そしてまた、一人で勝手に死んだ。もういない。この世に、アゴウに。三番機はもう何処にもいない。
《……死んでからも人の足を引っ張る、嫌な野郎だな》
死んで当然だ。俺達の中で、一番最初に死ぬのを覚悟していた……だというのに、嗚呼畜生。
お前はいつもそうだ。人の射撃の腕を鈍らせる。
《休憩は終わりか、こちらからいかせてもらうぞ》
《勘弁してくれ、違法改造さんよ……》
突撃砲の残弾は有り余っているが、中隊支援火器のマガジンが残り一つだ。
(覚悟を決めろ、二番機。俺も親衛隊の一人だろうに。あのバカに遅れを取るってのか!)
ガトリング掃射によって遮蔽物が噛みちぎられたダンボールのように宙を舞う。資材倉庫に降り注ぐ鉄片に、ジョッシュは頭部カメラで索敵する。
ほふく姿勢からの狙撃を避けて、ジョッシュが上からレーザーライフルを向けて……ゼロツーは突撃砲で仕掛けた爆薬を一つ撃ち抜いて起爆させる。
爆風に煽られるが機体制御に問題はない。防御膜が威力を減衰させている。
《くそ、今のでもダメか!》
《名残惜しいが──貴様とは、もっと別な形で出会いたかったものだ》
ゼロツーは地を這う体勢から跳躍ユニットを超音速巡航モードで噴射させた。地面を滑り、胸部装甲が火花を散らしながら閃光を避ける。しかし、右脚が逃げ切れずに溶解した。身体欠損をただのデータとして網膜ユニットが表示してくる。
ほふく状態から仰向けになって身体を起き上がらせ、ゼロツーは中隊支援火器を置いてジョッシュに向かって手榴弾を投げた。突撃砲を両手に構えてグレネード投射。全弾直撃──だが、爆炎の中から現れた敵機は、無傷だった。
《墜ちろ》
《誰が──!》
突撃砲二門を掃射する、ジョッシュの装甲がそこで初めて──目に見えて削られていく。
六連装ガトリング五門の掃射から逃れて、ゼロツーは資材倉庫から離脱する。
《ほう……あの状態からよく避けたものだ》
《そちらさんも、よく耐えたよ。おかげで勝ち筋が見えた》
カーネイジ爆薬、残り二個。勝算はある。──覚悟を決める。
《隊長。任務を最優先してください。──以上》
無線を切る。突撃砲のマガジンを再装填して、背面の武装ラックに戻す。最悪、両腕が無くなっても問題はない。武装ラックの追加機能である遠隔操作で背負ったまま射撃行動が可能だからだ。
右脚欠損。膝から下が無くなっている。弾痕も無数に残っていた。神経伝達ケーブルも損傷、帰還さえすれば修復は可能だが……。
此処が、俺の最前線だ。覚悟を決める。誰がお前に遅れを取るか、三番機。
《……シェアシールド再展開》
ジョッシュの機体が再び防御膜を纏う。緑色の粒子は、恐らく機体から放出されているシェアエナジーだろう。とはいえ、それで身を守るのも限界があるらしい。
資材倉庫から飛び出すジョッシュとすれ違う形でゼロツーはカーネイジ爆薬を機体にセットした。滑り込むように中隊支援火器を手にして、片膝を立てて照星を合わせる。相手はその場で旋回しながら銃口を向けてきた。レーザーライフルの銃口を睨み、中隊支援火器を三点バーストに切り替える。速射された三発は内部機構を損傷させ、エラーを吐き出したレーザーライフルを下げて六連装ガトリング五門を突きつけていた。
給弾機構が次弾を装填すると同時に、ゼロツーは腰に貼りつけたカーネイジ爆薬を狙撃する。今度こそ衝撃によって体勢を崩した敵機へ突撃して貼り付く。
《ウオオオオオオォォォォッッ!!!》
《チッ──!! 貴様!》
胴体に突撃砲と中隊支援火器の火力を集中砲火で叩き込む。削り取られていく装甲に、内部構造が剥き出しになりつつあった。だが、最後のひと押しで残弾が尽きる。マガジンの弾薬もそれから遅れて空撃ちしていた。ジョッシュがゼロツーを貼りつけたまま、壁面にブースターを噴射させて激突する。
腰部損傷。跳躍ユニット全壊、脊椎ケーブルの断線によって脚部の稼働率が激減した。中隊支援火器を取りこぼし、武装ラックも破損。──だが、まだ両腕は動く。
カーネイジ爆薬が一つだけ残っていた。それに思わず笑ってしまう。
《……まったく、本当に嫌なヤツだ──》
ジョッシュが離脱するより先に、ゼロツーは頭部カメラを掴んで胴体にカーネイジ爆薬を押し付ける。
──三度目の衝撃。アンサーが再び揺れた。それにゼロワンが姿勢を崩し、ナイルスの射撃は隙を見逃さない。
《二番機! 応答しろ! 二番機! ──ゼロツー、聞こえているか! 返事をしろ!》
無線からはノイズだけが返ってきた。ナイルスの射撃を避けながら、ゼロワンは通信を試みる……しかし、ゼロツーも、ゼロスリーからも返事はなかった。
白い機体は恐ろしいまでの射撃精度で追撃してくる。堅実な戦闘スタイル。その上運動性能も他と比べ物にならない。地面をターンしながら横っ飛びに避けたかと思えば、次の瞬間には上を取られていた。まるで
《──馬鹿野郎、馬鹿野郎! なにが任務を最優先してくださいだ、バカ野郎ども! また俺を置いて先に逝きやがって、ふざけるなよお前ら! ふざけるな! ふざけんじゃねぇ、チクショウ──! チクショウ、ちくしょう……! 貴様らぁぁぁぁぁぁッ!!! ウォォォッ!!》
感情を爆発させながらゼロワンが叫び、ナイルスに向けて突撃砲を連射する。
「……!」
いい腕をしている。こちらの動きについてきている。これほどとは思いもしなかった。この機体で、まさかこれほど苦戦する相手とは──僥倖という言葉が脳裏をよぎる。
直撃とまではいかないが、至近弾にまで迫っていた。機体の動きを読みつつある事に、背筋が震えた。
──そうだ、この感覚だ。戦場に身を置いて、ずっと欲しかった高揚感。……そのはずなのに何かが足りなかった。自分の胸に空いた穴がある。
『──ザッ……───……』
「……?」
その時、機体の無線からノイズが走った。通信は切っていたはずだが……。
『──える──……──! 聞こえ……──!』
「────」
『──ナイルス、聞こえる! 聞こえていますか!?』
『おい、聞いているんだろうな貴様。帰ったらみていろ、山程説教を食らわしてやる』
『こちらフィオナ。貴方、どうしてその機体に……』
…………。嗚呼、そうか──。俺が銃を手にした理由は、きみだったな。
『待って、すぐに機体のチェックを……問題なし。戦闘を続行してください、ナイルス』
『こちらでナビしてやる。見せてみろ。お前の実力……私の最高傑作なのだからな』
『スミさん、顔が怖いですよ……』
『いいから仕事に集中しろ!』
『は、はい! すいません!』
俺に銃を握らせたことも。
俺に戦場を教えてくれたのも。
俺に、戦う力を与えてくれたのも、全部──。
雨の降るラステイションの地下で手を差し伸べて拾ってくれたのも。
『ナイルス。生きて、帰ってきて』
『戻ってこい。それがお前の責任だ』
「────」
自分でも、不思議だと思っている。彼女の声が、こんなにも心地良い。
俺は戦場に帰ってきたのだと、そこで初めて──胸が満たされた。
──始めよう、トライデント分隊隊長一番機。ゼロワン。俺達の