超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
浮遊要塞での戦闘記録を処理しているキャロラインが、社内オフィスでコンソールを叩く。その交戦記録を無感情に流していくと、ため息をついた。
「まったく、こちらの最高戦力を用意しておきながら不甲斐ない……」
減俸ものだ。何をしていたというのか。しかし、侵入者三名のうち二体は沈黙。残る敵性反応は一体だけ。撃退も時間の問題だろう。
「社長。アンサーの侵入者三名内二名が沈黙。浮遊要塞は移動を開始しました。ラステイションを射程圏内に捉えるまで、およそ……三時間といったところでしょうか。しかしながらアルカトラズ砲は機関部を破壊されております。現状のダメージでは厳しいかと」
《俺はそんなことを聞いちゃいないさ、キャロりん。アルシュベイトの全身エステはあとどれくらいだ?》
「もう間もなくかと。彼の所持していた銃器のメンテナンスも終わっています」
技術の集大成。リーンボックスの中でも随一の軍事企業の力を舐めてもらっては困る。アルシュベイトの持つ突撃砲の内部機構をスキャン。口径から給弾機構、使用素材。弾薬に至るまでの解析して、それに見合う部品を全て作り直して消耗部品と交換。弾丸も一から鋳造した。
《それで、どうだい?》
「彼の武装ですか? ええ、確かにこちらとは異なる技術で興味深いと思います。しかし、似通った点もありますね。それほど問題ではありませんでした」
《アルシュベイトの装甲は》
「ええ、万全を期しています。新品同様、塗装膜にも“色を付けさせて”いただきました」
冷静にして冷徹、それでいて感情の乏しいキャロラインの珍しい冗句に、プレジレントは心底嬉しそうに手を叩く。
『社長。全身エステが完了いたしました。そちらへご案内いたします』
《オッケェイ! そりゃあ愉しみだ!》
キャロラインからの通信に、社長室直通エレベーターが点灯した。向き直り、今か今かと落ち着きなく室内を歩き回る。
そして、エレベーターの扉が開かれると全身を修復されたアルシュベイトが立っていた。
《ヘーェーイ、アルシュベイト! どうだった、うちの全身エステは》
《……実に、悪くない経験だった。まさかこの体で風呂に浸かる感覚を味わえるとは思いもしなかった、実に。うむ、実に良い体験をさせてもらったぞ、プレジレント。感謝する》
頭を下げるアルシュベイトに、プレジレントは片手を挙げた。
《いやいやいや、感謝されるほどじゃあないさ。なんてったって、大事なお客様だ。もてなすのは当然だろう? そうだ。それと預かった銃器だがこちらでメンテナンスも終わってる。確認してくれ。万が一にでも不備があったら整備班の奴らは溶鉱炉行きで薬莢に詰めてやる》
指を鳴らすと、社長室のオフィス。その壁面がせり上がっていく。シャッターの下から覗くのはシューティングレンジ。しかし、その的が……隣接している支社なのはいかがなものか。
《おっと、狙撃用だった。まぁいいか。キャロりん。“コーヒー”はまだか?》
『既に運搬中です』
《ぐぅ有能すぎて涙が出る。俺の立つ瀬がない》
わざとらしく肩をすくめてみせるプレジレントに、アルシュベイトも同じようにおどけてみせる。
武装企業本社ビル──グランドマザーウィルの社長室は、オフィスの長テーブルと巨大モニター。そして、外来の客人用に備え付けられているソファーとローテーブル。白を基調にしていながら、それがどこか鉄臭さを感じさせている。割れた窓ガラスは既に修理されていた。だが、天井には投げつけた街灯が刺さりっぱなしになっている。
《プレジレント。それはいいのか?》
《ん? あー、アレか。記念品だ、引っこ抜いて直すのも勿体なくてね。ホームランバットみたいなものさ。俺への宣戦布告記念ポール、ってな。ハハハハハハハ!!》
腰に手を当てて大笑いしていた。それが終わるか否やというところで、逆側のシャッターが開かれる。
そこは整備工場から直通のベルトコンベアで回転寿司よろしく。アルシュベイトの銃器が流されてきた。マガジンをしっかりと添えて。それぞれ四つずつ。
《試射会は好きにしな。それくらいならいくらでも用意してやるさ》
《ならば、その言葉に甘えよう》
《背中のサムライソードはいいのかい?》
《お前は商売道具を手放して商談をするか?》
《こりゃ失礼。どうぞ》
プレジレントがアルシュベイトにシューティングレンジに立つように促す。
高層ビルの強風が吹きすさぶ。それを観測したプレジレントが指を鳴らすと、上層が降りてきた。即席の密室空間が出来上がり、それに驚く。
《いや、中々使う機会が無くてね。たまに用意を忘れるんだ》
《そうか。気遣い感謝する》
《律儀だねぇ》
突撃砲を構え、狙いをつける。まずは単射。的の中心を撃ち抜く。続けて三点射。多少バラけながらも、全弾命中。アルシュベイトはそこで一度セットし直し、腰を僅かに落とす。フルオートに切り替えてマガジンを空にする。
一番近いターゲットに全弾命中させたことを確認すると、マガジンキャッチを外して再装填。二つ目の弾倉でクイックショット。その動作に問題がないことを確認すると、プレジレントに空箱を手渡した。それをベルトコンベアーへ乗せると間もなく動き始める。
続けて中隊支援火器、トーネード。こちらは単射と三点射のみ。しかし、アルシュベイトはこちらも空になるまで撃つとプレジレントに手渡した。
《お見事》
《良い精度をしている。アゴウの兵器工場でも指折りに入る》
《恐悦至極。さて、ウォーミングアップは済んだか?》
《準備体操がまだだ、話ならばこのまま聞こう》
そう言ってアルシュベイトが屈伸運動を始める。
《おっと、そういや。そちらさんの腰のブースター》
《跳躍ユニットか》
《ジャンプユニットだが、中々うちでも手こずっててね。推進剤は問題ないんだが、どうにも中身が特殊なようで。そちらの技術を甘く見てたよ》
《こちらこそ。恐れ入る》
《いやいやご謙遜を。そんなわけで、今しばらくは待ってもらいたい。とはいえ予定していた一時間まで残り三分くらいあるわけだが……うちは五分前行動が肝でね。ヘェーイ、整備班! あと一分で仕上げてくれぇー……え? いま終わった? あ、そ》
言っている間に、追加のマガジンと一緒に腰部跳躍ユニットが運ばれてきた。
アルシュベイト専用の跳躍ユニット。出力と加速性能に特化させているだけに、燃費はあまり良くないが技量で埋めている。
腰部モジュールに接続すると、腰を捻って人工筋肉を慣らしていた。
《どうだい、つけ心地は?》
《フィット感が素晴らしいな。新調したクッションに体重を預けているような気分だ》
《ありゃ素晴らしいものだ、気持ちは分かるぜ! ただ問題は俺が座ると一発でボカンってことだ。見ての通りの重装甲なものでね》
ハッハッハ! 豪快に笑いながらプレジレントはテーブルを挟む。
《──さて! お色直しも完璧だ! それじゃあ、まずは話し合いだ。ビジネスの基本からいこうじゃないかアルシュベイト!》
《応。その商談、聞いてやろうではないか》
腕を組み、アルシュベイトはテーブルの前に立つ。
プレジレントの手がリモコンを掴むと、そこにはアンサーが映し出されていた。その威容、威圧感は画面越しにでも伝わってくる。続けて、リーンボックス洋上で交戦している三女神。加えてひとりのイレギュラー。黒髪の男性がズームアップされる。時折、胸を押さえて苦しそうにしながらも周囲を取り囲む自律兵器を破壊していた。
《……あれはお前の知り合いか? アルシュベイト》
《ああ。俺の
《そうかいそうかい、そりゃよかった。なんてったって、うちの精鋭部隊が過半数あれに撃墜されてるからな。知らん顔されたら
──浮遊要塞内部。中央アリーナで繰り広げられる縦横無尽の機動戦闘。高度優勢を取りながら自在に飛び回るナイルスと、応戦しているゼロワン。画面を見たプレジレントが二度見していた。
《おいおい嘘だろ、アイツについてくのかよ。予想を裏切ってくれるね》
《当然だ。あれは俺の親衛隊隊長だぞ》
《なら、アイツは。ナイルスはうちの最高傑作だ。社長代行と国王親衛隊が火花散らして、こっちじゃ俺とアンタが睨み合ってる。最高のシチュエーションだと思わないか?》
《思わん》
《そうかい。さて、と──じゃあまずは状況をお互い確認しようじゃないか。へいキャロりん、テレビ中継はオッケーかーい!》
『またですか社長? いい加減にしてください』
《加減知らずのバカの方が楽しいじゃないか!》
『わかりました。それと社長。キャロラインです。以上』
指を立てて、プレジレントは咳払いを挟む。アルシュベイトもスタンスを組み直していた。
『──へぇーい、ゲイムギョウ界のみんな! 見てるー!? プレジレントの放送テロのお時間だ! 今日はゲストを紹介するぜ! なんとうちの兵器群を単機で突破して本社まで遥々来てくれたアルシュベイト国王だ! よろしくなぁ!』
『うむ、苦しゅうない』
モニターに大きく映し出されるプレジレントの後ろで、アルシュベイトはピースサイン。さりげないお茶目をアピールしていた。
『さて、今日の放送は他でもない。俺とアルシュベイトの商談から決闘、はては決着まで生放送でお送りするぜ! チャンネルはそのままだ! 決闘罪で通報とかナンセンスは止してくれよ視聴者のみんな! 金なら出す。ちなみにどっちが勝つかうちの社運を賭けてもいいぜ!』
『ハッハッハ、そういうことならば俺は国を賭けるしかないぞ』
『おっとこりゃつり合わない、ギャンブルは無しな方向で!』
いつもの軽快な調子で始まる放送を聞いていたエヌラスが息を吸い込む。潮風でむせていた。
「えほっ、げほ。仲いいなぁあんにゃろうども!」
『さて、それじゃあ近況をまとめるか。まずはうちの浮遊要塞だがね、移動を開始している。この調子でいけば残り三時間程度でラステイションを射程圏内に収めるだろう』
「なんですって!?」
『たーだ、侵入者によってアルカトラズ砲が破壊されている。参ったねこりゃ。返り討ちにしてやったが……ネズミが一匹残ってる』
「っ……トライデントの二人が……」
『そちらさんも撃退は時間の問題だろうがね! なぁに女神様なら二十四時間で世界のひとつ救えるだろう!』
「好き勝手、言ってくれやがるぜ!!」
ホワイトハートがロイの機体を殴りつけ、大きく後退る。シェアドライブによって機体を保護している緑色の粒子によって思った以上のダメージが与えられない。
「コイツら、いい加減に倒れやがれ!」
「……このままじゃ、ラステイションが」
「わかってるわよ! こんな奴らさっさと魚の餌にしてあのふざけた要塞壊しに行くわよ!」
ブラックハートの大剣と、ウィンのレーザーブレードが衝突して弾かれる。
「…………」
エヌラスはバルザイの偃月刀を投てき。周囲を取り囲む自律兵器を撃墜すると、手元に戻ってくる偃月刀をキャッチして甲板に突き刺した。
息を吸い込み、吐き出し──意識を集中させる。
「ブラン」
「なんだよ!?」
「あとで顔面ハードブレイクだろうが裸踊りだろうが何でもしてやる」
「おまえ、ちょ─…!?」
「
「あなた右腕使えないでしょう!?」
「何のために左腕あると思ってんだノワール!! 行くぞハンティングホラー!」
残り少ないシェアを消耗してブラッドソウルが空を爆走する。ナイトロシステムを点火させてアンサーへ一直線に飛び去っていった。
「あの、バカ。戻ってきたらきっついお仕置きが必要ね!」
「ええそうね。そのためにはまず、ジェラルド達を倒さないといけないわ」
「なんで嬉しそうにしてんだ、ネプテューヌ」
「……え? わ、わたしそんな顔してたかしら」
《してますね》
《気の緩んだ顔も美人だな。イテ、イテテ! なにをする、ウィン!》
《うるさいぞ色男。任務に集中しろ》