超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──降り注ぐミサイル群を避ける。迎撃する。空になった弾倉を交換して、ゼロワンは横に跳んだ。一瞬前まで立っていた場所に弾痕が穿たれる。ナイルスの照準から逃れるだけでも一苦労だが、何よりも機体を覆うエネルギーシールドが厄介だった。生半可な銃弾では弾かれてしまうために、強装弾を使わざるを得ない。
ジョッシュの使用していたシェアシールドではなく、機体そのものの有する防御性能。ナイルスはそれが人体に、ひいては環境にとって有害物質であることを承知している。そのうえで、自らの命を削ってその機体に乗り込んでいた。
『ナイルス、右腕弾倉、残り少ないわ。リロードを』
フィオナからの指示に従う。遮蔽物に身を隠して、弾倉を廃棄。オートローダーで装填する。僅か一秒に満たない隙ではあるが、命取りにならないとは決して言えない。戦場では常に不測の事態がついて回る。
『アンサーの内部構造解析中。もう少しだけ待って』
「……」
『データ送信? ナイルス、これは……ありがとう』
送信されたアンサーのマップ。施設内部の構造にフィオナが笑って礼を言う。
現在の浮遊要塞は、疑似シェアクリスタルによって大半の浮力を有している。ゼロワンの爆破工作が成功した場合は任務失敗ということになり、多額の報酬も無しだ。
『アンサーに接近する反応があります』
『少し待て。こちらで対応する。守護女神か……? いや、一人だと?』
『ナイルスは戦闘に集中してください』
言われなくてもそのつもりだ──。
ゼロワンと銃弾を交差させながら、互いに回避する。お互い決定打に欠ける状況下が続いていた。ナイルスの背面武装である分裂ミサイルも残弾を考えればそう気安く撃てる代物ではない。そして、ゼロワンの海神も残り二発限りだ。
ナイルスが着地し、ゼロワンが銃を向けた瞬間、アンサー全体が振動した。
『アンサー、攻撃を受けています! スミさん!』
『わかっている! こちらから要塞の制御が出来れば苦労しない! ……おい、ナイルス。なぜ貴様が浮遊要塞のメインコンピューターのアクセス権を持っているんだ。こちらへよこせ! それでいい。後は任せろ』
なぜ持っているのか、と聞かれれば。後の二人が撃墜されたからだ。もとは三人で分担していたものだが、全て自分に委譲されている。手に余っていたのだから丁度いい。
『まったく、こんな物を浮かべるとはな。あの変態企業には毎度毎度、辟易させられる。メインコンピューターアクセス完了。こちらで迎撃する、そいつは任せたぞ』
『機体損傷、20%。まだこちらが有利です、落ち着いて。そのまま継続してください』
了解した。ナイルスは静かにコックピットで頷き、機体の腕を突き出した。
──ブラッドソウルは、ハンティングホラーに跨ったままアンサーの戦闘空域まで突入。交戦を開始。
「ハンティングホラー!
空を駆ける大型自動二輪が変異する。赤く色づき、トライクへと。そしてその前輪が開き、後輪も横倒しへと。直線的な加速性能は落ちるが、旋回性能はこちらが上だ。
早速一発目の螺旋砲塔を撃ち込んだはいいが……、胸が締めつけられる痛みに苛立つ。いつもならこの程度、どうということはない痛みのはずだが無性に気にしてしまう。
「っ、あ~クソ! なんだってんだ!! 俺の身体なんぞいくらぶっ壊れても文句でねぇだろうが、いまさら──! だぁぁぁ、ちくしょぉぉぉ!!」
どうしても。
どうしても──みんなの笑顔が脳裏にちらつく。
浮遊要塞から発射されるミサイル、その総数は数えるのが馬鹿らしくなる。トリプルシックスのアクセルを全開に吹かして追尾から逃れていた。後ろへ向けてイタクァを連射して迎撃するものの、数が多すぎる。
トリプルシックスから飛び上がり、ブラッドソウルは自分に向かってくるものだけをバルザイの偃月刀で迎撃。反転してきたトライクに再び着地して、残りを投てきした偃月刀によって全弾撃ち落とした。
ズキズキとした右腕の痛みと、全身を苛むジワリとした痛覚。それが今になって、どうしてこうも鬱陶しく感じるのか。
自分が傷つけば、皆が笑顔でいられると思っていた。
自分が戦えば、皆を救えると信じていた。
──絶望の魔人である自分が。世界の敵が、どれだけ壊れようと誰も気にしないと。
初めましての呪詛。何度見ても変わらない風景。何が起きても変わらない毎日。繰り返されるリセットの毎日に、誰も気にしないと思っていた。忘れ去られるのだと。
『ちょっとエヌラス! あなたそっちで無理してないでしょうね!』
『おい聞いてんのかバカ! お前こっち終わったら覚えてやがれ!』
『そうよエヌラス。お仕置きよ、お仕置き! 楽しみにしてなさい!』
「テメェらいっぺんに喋るなぁっ!!!」
気が散る。魔力が集中出来ない。やかましい女神の声に、戦闘の邪魔なのに。
どうしてか──笑みが溢れる。
浮遊要塞に接近する。傘のように開いた装甲には無数の砲台が張り付いている。これが元はライブ会場として設計されていたのだから恐ろしい話だ。
地道にひとつずつ破壊していくしかないだろうか。そう思っていた矢先、黄金の鏃が砲台を撃ち抜いた。
「……手間のかかるバカ弟子め」
ルウィー教会。その裏山の麓──に建てられた雪像……の、頭で大魔導師はシリウスをつがえていた。
「あー、おじちゃんまたなんかやってるー!」
「わぁ……! おっきな、ドラゴンだ……」
「ラム様、ロム様、危ないのでどうかお下がりにー……あぁかわいい……」
「ちょ、ちょっと! そこの方ー! お願いですからどうか!」
「やかましいぞ貴様ら、この俺お手製のスノーマンと遊んでいろ」
「雪だるまぁぁぁぁぁ!!」
ボコボコと生えてくる八頭身雪だるまを前にして教会職員は逃げ出し、ロムとラムには雪うさぎがぴょこぴょことなつき始める。
「かわいいー、なにこれー!」
「本物のうさぎさんみたい……えへへ……かわいい」
「……さて」
遠くから人々の悲鳴が聞こえてきたような気がするが、多分気のせいだろう。
大魔導師の足元に魔法円が浮かび上がり、シリウスの弾道調整にいくつもの魔法陣を形成。魔術行使に最適な陣地作成、その簡略版。最低限かつ最大限の効果を発揮する物を選択。
黄金の弓に、黄金の矢をつがえる。その鏃が十字架を模した物へと変化する。
「……」
大魔導師の瞳が、遥か地平線の先。水平線に浮かぶ要塞の姿を捉える。そこで単騎、間抜け面を晒しているエヌラスの顔も含めて弦を引く。
「弾種選択:円環──」
黄金の炎を灯して、大魔導師の手から矢が放たれる。
青空を裂いて大陸を横断する黄金の軌跡がゲイムギョウ界の一面記事になったのはまた別なお話……。
アンサーの固定砲台が撃ち抜かれる。貫通した矢は、そのまま円を描くように次々と砲台を破壊していく。蛇に食い荒らされているかのような光景にブラッドソウルが引きつった笑みを浮かべていると──何故か、こちらに向かって飛んできた。
「待て待て待ておかしいおかしい!! なんで俺まで目標に設定してんだぁっ!!」
ハンティングホラーで浮遊要塞に接地すると、そのまま装甲を走る。それを食い破りながら大魔導師の放った一矢は執拗に追尾してきた。その勢いが留まるはずもなく、ブラッドソウルはアンサーを走り回る。
「バルザイの偃月刀! ロイガー、ツァール! 嘘だろまだ止まらねぇのかよ! イタクァ! ちょっと待てどういう魔術強度で組んだ師匠っ!!! クトゥグアァァァ!」
右腕が銃の反動で悲鳴を上げた。骨が折れたかと錯覚して思わず涙ぐむ。
「ぬぅぅんんっ!! 助けろ誰かぁーーーーっ!」
そんなブラッドソウルの悲鳴を聞いてか、聞かずか。パープルハート達は視線を合わせると一度頷いた。
ジェラルドとの距離を一瞬で詰めたパープルハートがクリティカルエッジで強烈に頭部を打ち付ける。機体制御を失って高度を落とすそれを、横からブラックハートとホワイトハートがすれ違いざま、入れ替わるように大剣と戦斧を打ちつけて武装を破壊した。
「次!」
ロイが射撃で応戦するが、ホワイトハートが受け止めて、その後ろからブラックハートが飛び出す。大剣を突き刺し、蹴り飛ばした機体をパープルハートが太刀で一刀両断。
《はっ──ダセェな、俺も……》
「最後!」
パープルハートが切っ先を突きつけると、ウィンは首を横に振って武装を解除した。それに目もくれず、パープルハート達はリーンボックス洋上から移動を始める。
「思った以上に時間を食ってしまったわね。それじゃ──」
「まったく、厄介極まりないのよ。それで──」
「ああ、そうだな。何はともあれこれで一件落着だ──」
『浮遊要塞には私が行くわ』
「…………」
「…………」
「…………」
パープルハートが止まる。ブラックハートも止まった。ホワイトハートもそれから一瞬だけ遅れて止まる。三人共、なぜか怪訝な表情を見せていた。
「ねぇ、ちょっと。私が行くから二人はリーンボックスに向かって大丈夫よ?」
「何を言っているの、ネプテューヌ。それは私の役割よ。あなたこそ」
「二人はすっこんでたらどうだ? あたしが行く」
『…………』
しばし、無言が続く。
「……おかしいと思わない? わたしの出番、あなた達よりちょっと少ないのよ?」
「それを言ったら、ネプテューヌなんて序盤で大盛り上がりだったじゃない。別におかしくないんじゃないの? ケモナールのおかげで」
「おい、それを言い出したらR18アイランド編で出番皆無だったあたしはどうなんだ」
「ちょっと待って二人とも! メタ発言は主人公であるわたしの特権よ、やめて! これじゃただ争いの火種を撒いているだけよ! ここは協力しないと」
「とかなんとかいって出し抜けるつもりなのはお見通しよ!」
「ぎくり。そ、そんなはずないじゃない、ノワール! ほらブランからもなにか」
「お前達だけにいい思いさせてたまるか。あたしが行くったら行くんだ! 邪魔すんな!」
お互いに譲らず、最後は武器を突きつけていた。
「……どうやらここまでみたいね」
「ええ、残念よネプテューヌ、ブラン」
「最後はこうなる運命か……」
『三人共、お揃いのようで何よりですわ。浮遊要塞にはわたくしが参ります。そのままリーンボックスへ』
『ベールッ!?』
『ええ、元はわたくしが建設を予定していた空中ライブ庭園。こちらに落ち度がありますもの。当然ではなくて? それに、あれにはシェアドライブが多数搭載されていることが確認できましたわ。そうなれば、三人がかりでも相当な苦戦は避けられません。ですが信仰対象であるわたくしならば、そのシェアを上乗せして破壊が容易になります。戦略的にも異論はないでしょう?』
「くっ……この、大人特有の余裕のある正論」
「悔しいけど、さっきまで苦戦していたばかりだし……」
「…………気に入らねぇ。だけど、それが一番か」
『話はまとまりましたわね。それじゃあ、そのように』
通信を切り、三人はリーンボックスへ進路を変更。まっすぐに向かった。
「……わたし達、いいようにされてないかしら。ベールに」
「考えてみればこれって完全に一人勝ちよね?」
「後で覚えてやがれ、ベールめ……」