超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──降り注ぐミサイル群。踏み込み、弾道予測。その隙間を縫うように身体を捻りこみながら跳躍ユニットを吹かし、回避する。
《ハッハァ、お見事!》
開いた右のマルチミサイルが閉じる。続けて左手のミサイルポッドを向けたプレジレントが引き金を引いた。
バグン、と留め具を外された弾頭部分が花開き、白煙の尾を引きながら降り注ぐ炸裂弾頭。数にして二十四発。両手合わせて四十八発。その全てをアルシュベイトは己の身体一つ、長刀一本で文字通りに切り抜けた。
《チェェェストォォッ!》
剣の風圧だけで起爆させ、迎撃させてみせる。跳躍ユニットの噴射口を巧みに切り替えながら時には加速し、時には旋回の補助力とし、時には制止する際に。惜しみのない飛行技術にプレジレントは内心喝采していた。
『社長。聞こえますね? こちらでサポートいたします。どうぞ存分に』
《ハハハハハ、ありがとうキャロライン! 上手く俺の手綱を握ってくれよぉ!》
『善処致します。アルシュベイトの解析データは必要ですか?』
《ゴミ箱にぶち込んで焼却炉行きだ!》
『了解しました。勿体無いことをしますね』
《何事も思い切りと行動力、だッ!》
内部機構による弾薬の装填中、その大きな隙を見逃さないアルシュベイトが接近してくる。長刀を横薙ぎに振るい、それを後ろに下がりながら避ける。手を返しての逆袈裟に、プレジレントは足を乗せて宙に飛び上がった。
《ぬっ!?》
《ハッハァ、悪いなぁ足蹴にして! そいつは重量任せにぶった斬る代物だろう、サムライソード! そうらお返しの“タンドリーチキン”だッ!》
『装填完了です、社長』
キャロラインからの通信よりも先に、プレジレントは両手のマルチミサイルを全弾発射する。それに無線越しの呆れたため息が聞こえてきた。アルシュベイトが逃げ場を失って爆炎に消えていく。
背面の大出力スラスターで機体を制御しながら着地する。
『マルチミサイル残弾、ゼロです。いったい幾らかかるとお思いですか?』
《ツケといてくれ》
『請求書の名義は社長宛にしておきます』
《ハハハハハハハハ! ハァ……俺の今月分の給料が火の車だ》
『敵機健在。来ます』
《オッケェイ!》
晴れていく白煙を打ち払うのは、両手に大型シールドを構えたアルシュベイト。その表面には炸裂装甲が規則的に埋め尽くしていた。
制式採用七十二型大型防壁・陽炎。機人の身体を覆い隠す程の大盾であると同時に、炸裂装甲によって攻勢へ転じることも可能とされている。
《プレジレント、言い忘れていたが俺は猫舌だ!》
《そいつぁ失礼したッ! っていうかかわいいなオイ!》
《訂正しよう。猫舌
《おーっとこいつぁ笑えないブラックジョークだ、ハハハハハハ!》
突進してくるアルシュベイトに、プレジレントは背面の特殊重装甲機動コンテナを開いてマルチミサイルポッドをしまい込む。手にするのはハンドキャノン。装弾数六発。口径にして七十口径。可能な限りまで詰めた銃身に、つり合わない反動。なぜそんな真似をしたかと聞かれれば社長は一言──《アーハー? 質問の意味がわからない。詰めちゃ駄目なのか?》……つまりは、ハンドガンで戦車撃破とか浪漫だからこまけぇこたぁいいんだよ。である。通常の対物ライフルの口径より一回りも二回りも大きいのは、そういうことだ。
『残弾は六十発です。慎重に、とは言うまでもありませんね』
《今日は大盤振る舞いだ! ケチくさいことを言うなよぉキャロりーん! あぁたまらねぇなこの反動、ギャハハハハハハハ!》
『キャロラインです』
淡々と返答しながら、プレジレントの機体データを流し見ていく。それに併せて、社内の通常業務にも手を抜くことはない。
対物ハンドキャノン、ブルズハンターの反動でプレジレントの腕が跳ね上がる。その弾頭を受け止めて、アルシュベイトが防壁を斜めに構えて弾いた。曲面装甲の部位に当てさせる防御技術も慣れていればお手の物だ。
装弾数を撃ちきった弾倉をスイングアウト、シリンダーロッドで排莢。バックパックからスピードローダーを取り出して再装填。その間にアルシュベイトが陽炎で殴りつけてくるが、それを自前の体重で押し返す。
《失礼、デスクワークで体重増えててなぁ! ハッハッハァ!》
《不摂生極まりない、痩せろ!》
《ダイエットは趣味じゃあなくてねぇ、フォイヤー!》
『社長の負荷に耐える家具のご用意も楽ではないのですが?』
《ご用意だけに、容易じゃないってか、ハハハハハハ! こりゃ手厳しい!》
《リアクティブ!》
防壁の裏側、グリップのトリガーを引いて炸薬装甲を起爆させる。直撃を受けたプレジレントが衝撃で吹き飛ぶが、すぐに姿勢を直してハンドキャノンを収納した。
損傷、軽微。
『この程度ですか、アゴウ国王』
《ちょいと焦げただけさ。朝のナパームよりかはシャレてるな》
《ほう、流石は武装企業社長。装甲も相当な上物と見た》
《分かるか? いやぁ嬉しいねぇ、実はこいつは》
『社長? 戦闘中に極秘情報を漏洩するおつもりですか?』
《──……あー、今度。こっそりな? さぁ続けるか!》
《応ッ、そうだな!》
『仲がよろしいことで』
キャロラインは呆れながらも、つい頬が緩んでいた。こんなに楽しそうにする社長は久しぶりだ。そしてそれ以上に、アルシュベイトの戦闘データは興味深い。コンソールを叩き、通常業務とプレジレントのオペレーターと兼用して、その戦闘記録を隔離倉庫で眠る戦乙女に送信。データを蓄積させていく。
これまでの女神との交戦記録も全て。キャロラインは事務的に処理していく。
「もし、彼女が目覚めることがあればその時は……」
楽しみだ。きっと女神たちは敗北するだろう。自分たちの戦闘データの全てを解析されたとあっては、データ以上の力を発揮する他にない。そんなことが出来るものか。キャロラインは確信を持っていた。最後に笑うのは我々だと。
プレジレントがガトリングを持ち出して、アルシュベイトと交戦を続けていた。それを横目で処理しながら、キャロラインはリーンボックスに接近する女神たちを補足する。
『社長。三女神がリーンボックスへ突入してきます』
《おおっと、思ったより早かったな! 撃ち落とせ!》
『了解しました。グランドマザーウィル、迎撃を開始します。総員、戦闘準備。砲撃開始』
《最高のおもてなしってやつをくれてやりなぁ!!》
空転を終えたガトリング掃射によってヘリポートが無数の風穴を空けられていく。背面スラスターと大腿のサブスラスターによって巧みに射線と軸を移動しながら、アルシュベイトの接近を許さない。だが、それ以上に弾丸が当たらなかった。相手もまた、空戦機動能力によって翻弄している。
突撃砲を構えて、アルシュベイトが弾丸を浴びせかける。しかし、装甲に弾かれていく。それを確認してからの対応は早かった。本体ではなく、武装へ向けて銃撃を浴びせる。銃身と弾倉が損壊し、プレジレントがトリガーから指を離した。
《ホーリィ、シットッ! やってくれるぜ! だがまだこいつが残って──》
《ぉぉりゃあぁぁぁ!!》
開いた背面コンテナめがけてアルシュベイトが長刀を投げつける。開いたカバーと武装を固定しているフックの隙間に突き刺さり、プレジレントが後ずさった。勢いを殺さず、駆け出したアルシュベイトはそのままプレジレント諸共ヘリポートから身を投げる。
《次はなんだ! 言ってみろ!》
《ハッハァ! 腹ごなしの運動でもするか! チャンバラは趣味じゃあないが、ストリートファイトは大歓迎だ!》
《ご所望とあらば応えよう!》
長刀を引き抜いて武装ラックに固定すると、蹴り飛ばす。空中で跳躍ユニットと背面スラスターを吹かしながら、激突する機体。拳を打ちつけ、投げ飛ばし、姿勢制御。ビルの壁面を滑り落ちながら、ガラス片と共に地上へ落下していく。
──強い。互いにそう思う。鋼の拳をお互いの顔面に叩きつけながら。鋼鉄の四肢で殴り合いながら、蹴り合いながら、地面へ激突して、スラスターで体勢を立て直して、すぐに立ち上がり再び取っ組み合う。
《アームレスリングか、負けねぇぜッ!!!》
《激しく同意するッ!》
マニピュレーターを組み合わせて、力比べをして。生身の喧嘩と何が違うのだろう。リーンボックスの街中はいつもどおりの平和な日常を送っていた。しかし、そこに降り立った二人が道路で立ち往生しているもので急ブレーキを掛けた車を避ける。互いに同じ方向へ跳躍して、アルシュベイトが蹴りを入れた。しかし、プレジレントの前腕部が伸長して足を避ける。元々背面コンテナから武器を取り出す為のギミックだが──。
《おぉっと、足癖が悪いなぁ!》
背面コンテナを開き、プレジレントの武装が一斉にアルシュベイトを睨む。そのトリガーにサブアームの指が掛けられていた。
《俺も手癖が悪くてね、仕事は盗むもんだ》
《ちぃっ!!》
至近距離でバズーカ砲二門の直撃を受ければ、ひとたまりもない。だが、アルシュベイトは腕を捻った。それによってプレジレントの身体と照準もあらぬ方向へ逸れていく。外れた砲弾が武装企業支社の窓ガラスを突き破り、社内が爆発炎上する。リロードを挟んで、ハンドキャノンを装填するがそれもまた、互いの手を組みながら回転してアルシュベイトは避けてみせた。
《ハハハハハハ、まるでメリーゴーランドだ! 近隣住民の皆様には多大なるご迷惑をおかけしておりまぁーす、ギャハハハハハ!》
『被害総額の計算は滞りなくうなぎ登りですので、どうぞ存分に? 会社の経営が傾くくらいです』
《そりゃあ一大事だ》
『問題児の間違いでは?』
《キレッキレだねぇキャロりん! だが俺が負けるわけにゃいかないだろう? なぜなら! 俺が! 武装企業アームドソウルス代表取締役だからだ!》
プレジレントが足を止めて、その場でアルシュベイトを投げ飛ばす。そして、右手にガトリング。左手にバズーカ砲を担いだ。スタンダードに連射性能と破壊力を兼ね備えた組み合わせ。
身体を捻りながら着地したアルシュベイトが顔を上げた瞬間、砲弾と容赦のない弾幕が展開される。それを咄嗟に陽炎で防ぎ、地面に突き刺してアンカーで固定した。爆風に煽られながら、長刀を抜き放つ。
その上空を、規格外の口径を持つ砲弾と無数のミサイル群。機銃による一斉掃射が通り抜けていた。女神達を迎撃するために武装企業一丸となって社内でも待機していた予備兵力が総動員されている。