超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイションでは、相変わらず瓦礫の撤去と負傷者の救護が続いていた。その現場には、袖を捲ったドラグレイスが持ち前の腕力で鉄骨を担ぎ上げて手を貸している。
「ありがとうございます。それにしても……その、力持ちなんですね」
「……ふん。田舎生まれでな、自然と身体が鍛えられていたというだけだ」
兵士達と最低限の交流をしながらも、ドラグレイスは肩にかけていたタオルで汗を拭う。フォートクラブもガチャガチャと瓦礫を大量に運搬している。修理を終えた機人達も現在はラステイション領土でしぶとく抗戦している残党を処理していた。
結局、アームドソウルスの国家解体戦争は失敗に終わったということだ。残るは首謀者であるプレジレントの撃破を残すのみ……浮遊要塞の攻略は手間取っているようだが、そちらも時間の問題だ。
「……少し休憩する。俺は水分補給に戻るぞ」
「は、はい! どうぞ!」
言葉少なく、ドラグレイスは首都からラステイション駐屯地に戻り──その中が騒がしいことに眉を寄せながらもキセルを取り出した。
そして、機人が一人。吹っ飛ばされてきたのを片腕で跳ね除けながら金属バットを手元に召喚して引きずる。今度はまた、どんな厄介事がやってきたというのか。
「おう、ドラグレイス! 相変わらず不健康そうで顔つきが悪いなおまえ、はっはっは!」
「………………………………」
危うく、命の次に大事な黄金のキセルを落としそうになった。
軍事国家アゴウ守護女神、剣姫が何故かラステイションに遊びに来ている。その顔を見た瞬間少なくともドラグレイスは呼吸が止まった。心臓も一瞬だが止まったかもしれない。
そして、何故か片手で機人が一人持ち上げられていた。それをぞんざいにぶん投げて、大股で歩み寄ってくる姿に、本能的に金属バットを構える。
「いや、お忍びで様子を見に来たのだがな? なんでも女神が不在と聞いた。おれとしては挨拶のひとつしたかったところだったんだが、残念だ」
「帰れ」
「おいおい、手厳しいなおまえ。なんなら、力づくで来るか?」
手招きする剣姫に、ドラグレイスは踏み込もうとして、思い留まった。どうせ勝てるはずがないのだから──と。ふと思い立つ。
「おい、御姫。お前女神化できるか?」
「知らん。それがどうした」
「──気が変わった」
別次元ならば、あるいは女神としての力が失われているのではないだろうか。それならば、一度くらいは苦汁を味あわせてやれるかもしれない。そう思った。
ドラグレイスが駆け出し、金属バットを渾身の力で振り下ろす。剣姫はそれに手をかざして、柔らかく受け流すと同時に胸板へ手を当てて力を込める。ミシ、と。骨の軋む音と共にドラグレイスの全身から嫌な汗が吹き出して膝を着く。
「ふむ」
小首を傾げて、剣姫は捻った手を今度は逆に回転させてドラグレイスの身体を宙高く吹っ飛ばした。
全身を包む浮遊感に、ドラグレイスは一瞬でも勝てるかもしれないと希望を持った数秒前の自分を全力で殴り倒したい気持ちでいっぱいになりながら──時間を掛けて地面に激突する。
「ゲェッホ、ゲホ! ゴフ、ゴホッ!」
「なんだ、この程度か。つまらん……」
忘れていた──この守護女神、自分が暇だからという理由ひとつで訓練をひがな一日飽きもせずやっているような超人だった。ドラグレイスは咳き込みながら、身体を起き上がらせてたそがれる。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、ラステイションの女神候補生であるブラックシスターが飛んできた。駐屯地は多少なりとも荒れているが、敵襲というわけではないらしい。
「一体なんの騒ぎ!?」
「ブラックシスター様!? 申し訳ございません、その、今……別世界の守護女神を名乗る方がご来訪されてまして……えー、となんと言いますか」
「おう、おれだ! うちの
「貴方が……?」
「うむ。おれこそは軍事国家アゴウ守護女神、剣姫こと、つるちゃんだっ!」
胸を張って堂々と宣言してみせるが、ブラックシスターからの視線はちょっと冷たい。首を傾げて。
「……つーちゃんでもいいぞ?」
「いや、呼び方の問題じゃありません……」
「なんだぁつれないなぁ……ベールはもっとのってくれたのに……ぶつぶつ……」
「……あの、ドラグレイスさん。この方、本当に守護女神なんですか?」
「これが本当に守護女神であるという現実から目を背けて死について全力で考え抜きたい」
「あの、なんか、ごめんなさい……」
目に見えて落ち込むドラグレイスに、触れてはいけないことに触れてしまったらしい。本人はとても気にしているようだ。
改めて、ブラックシスターは目の前の守護女神、剣姫を観察してみる。軍服姿なのはまだ軍事国家の守護女神らしいといえばらしい。が、その性格。豪放磊落にして天真爛漫。子供っぽいところがあるようだが……。
「それで、クソメガ──こほん。ソラはどうした? 姿が見えないようだが」
「睡眠中だ。朝方まで一人でトライデントを修理していたからな」
「不覚を取ったというのか? まったくあの三羽烏はあとで説教だな」
剣姫の説教=特別教習。もちろん肉体言語。
「それは無理だろう。既にトライデントは二人、死亡した。残りは一人だけだ」
「そうか。だが、それがどうした、それがなんだと言うのだ。あいつらは軍人だ、おれの国の誇りだ。一人でも生きているのならば、トライデント分隊は生きている。三人分まとめて説教してやる」
「それも無理を言ってやるな、相手はあの仮面の邪神だったのだから」
「ふむ……良いだろう。百歩譲って一人分だな」
それでも説教はするのか。
「どおりで送り出した兵の数が大幅に減ったわけだ。しかし不測の事態において最善の結果を残してこそだろう?」
「貴様ではあるまいし」
「それが出来ずして兵を名乗れるものかよ。出来ぬから死んでいくんだ。だが──そこが散っていった奴らの最前線とはな」
少しだけ目を伏せて、剣姫は物憂げな表情を見せて。すぐに切り替えた。
「よし決めた! おれもリーンボックスへ行く! どちらの方角だ!?」
「……え、アタシ!? 本気で行くんですか?」
「もちろんだ! おれは行くと言ったら行くからな!」
「というか御姫。国の執政はどうした」
「ユウコに投げた!」
この適当女神め。ドラグレイスは深くため息をつく。
「ああそうだ。ところでそちらの名前を尋ねてなかった。よければ聞かせてもらえないだろうか?」
「……ラステイションの女神候補生、ブラックシスターのユニです」
「おう、そうか! 女神候補生か、くぁいいのぅかわいいのぅ、うりうり」
「ちょ、ちょっとやめてくださ、あうぅ」
「お前のその節操の無さはあの馬鹿に匹敵するな」
「おれの身の回りのバカなど腐るほどいるわ! 心当たりしかいないわ、たわけめ!」
「正論で腹が立つ。エヌラスだ」
「そうか? あれはあれで相手をちゃんと選んでいるだろう?」
「いいから。その女神候補生を離してやれ」
「きゅう……」
剣姫にもみくちゃに撫でられて、ブラックシスターが目を回していた。それを慌てて離し、頭を撫でる。
「いやぁ、ついかわいくて。そうかそうか。守護女神だけでなく、女神候補生とやらもいるのだな、こちらの世界は。実に興味深い」
「まぁ、いまはそれどころではないようだがな」
「らしいな。近況は兵士より尋ねている。浮遊要塞がラステイションへ移動中なのだろう?」
「それで、お前の恋人は武装企業社長と一騎打ちだ」
「? 訂正があるぞ、ドラグレイス。おれとアルシュベイトは恋人ではない」
「…………そうか」
妙な沈黙を挟んでドラグレイスは一言だけ謝罪した。
「リーンボックスに行くなら勝手にしろ。俺は手伝わんぞ」
「うむ、好きにさせてもらう。それで、ユニ……ちゃん付の方がいいか?」
「呼び捨てで構いません」
「そうか。ユニはどうする? 一緒に来るか?」
「アタシはラステイションを空けるわけにはいきませんので」
「俺が見張る。クソメガネも必要なら叩き起こす。御姫に付き添ってやれ」
「だ、そうだが?」
「いいんですか?」
「そいつを一人にすると何が起きるかわからないが、それでもいいか?」
ドラグレイスが指し示す先。機人が倒れている。先程剣姫が投げ飛ばした相手だ。
「いつまで寝ている! 立てぇい!」
《は、はい! 申し訳ありませんでしたぁ!》
「よし! では仕事に戻れ」
《了解です!》
敬礼すると、すぐに機人の一人が走り去っていく。
「さて。では道案内を任せたぞ、ユニ! リーンボックスはどちらの方角だ!」
「あちらの方角ですが、リーンボックスは──」
「あいわかった!」
言うが早いか、剣姫が踏み込んで跳躍する。カンガルーのように──どころではなく、みるみる遠ざかって豆粒ほどにまで。十メートルはジャンプしたのではないだろうか。
唖然としているブラックシスターの後ろで、ドラグレイスはキセルを吸い始めていた。
「言い忘れていたが、あいつの身体能力は機人を遥かに凌駕しているからな」
「…………」
「ところで、追わないのか」
「──はっ!? ま、待ってください!」
慌てて飛んで追いかけるブラックシスターを見送って、ドラグレイスはようやく目的である水分補給に辿り着く。
そして、それだけの騒ぎがあったにもかかわらずソラは毛布にくるまって爆睡していた。無性に腹が立ってドラグレイスは、飲み干したペットボトルで頭を叩く。
「……んー……? なんだよ……なんかあった……?」
「別に、何も。人が働いている横でぐーすか寝ている貴様に腹が立っただけだ」
「しらないよ……すやぁ……」
リーンボックスに接近する三女神。グランドマザーウィルの主砲を回避したが、その弾幕の濃度には舌打ちひとつこぼさずにはいられなかった。
主砲六門。大型ミサイル砲台、武装甲板八枚。本社管制塔含め、支社による大量の火器管制装置制御。無数の機銃による弾幕のみならず、武装甲板には狙撃型重装甲の機体が並んでいた。
「意地でも、こちらを近づけさせないつもりみたいね!」
「そういうことなら、女神の力見せてあげるわよ!」
「ああ、ノワールの言う通りだ! この程度の弾幕であたしの防御を抜けると思うなよ!」
たかが実弾兵器。シェアの力で──、そう思っていた矢先に下方からの対空防御システムに三人が回避する。
グレートウォール、並びに武装列車の特急便が停車していた。その先頭車両には震電が両腕のグレネード砲を構えている。
《こちらは正面から挑ませてもらおう。それしか脳が無い》
「っ──上等!」
「ノワール、顔! 顔! ちょっと女神がしちゃいけない顔してるわよ!」
「獲物見つけた獣みたいな顔してるぞ」
「だからなによ! エヌラスなんてもっと怖い顔してるじゃない! とにかく私はあの機体を撃破するわ!」
「エヌラスは元から怖い顔してるじゃない」
「……そうか? あたしは、嫌いじゃ……」
「戦場で惚気けない! さっさとしなさい二人とも!」
「はいはい。そう怒らないの、ノワール。エヌラスに嫌われちゃうわよ?」
「そん……! そんなわけないでしょぉぉ! 適当なこと言わないで!」
「そんなマジで怒鳴るなよ、うるせぇ! いいからまずはアイツからだ! このままじゃ前に進めねぇんだからな!」