超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
フィオナとスミカは、言葉を失う。ナイルスとの交戦時間を更新していくゼロワンに。
「…………すごい」
思わず、言葉がこぼれていた。画面に次々と流れていく被弾と回避のログ。
武装企業が技術を結集させた最高傑作機。それを駆る最強の首輪付き。その二つを掛け合わせた切り札。それに──それに、ゼロワンは互角の激戦を繰り広げていた。
「……機体損傷、50%──そんな。こんなことが……?」
「おい、聞いているかナイルス! これ以上の被弾は機体制御に支障をきたすぞ。わかっているのか!」
左腕部はゼロスリーとの交戦で損傷している。銃の保持力が落ちているのを誤魔化してきていたが、それにも限界が訪れようとしていた。その前に、なんとしても敵機の撃破だけでも。
『ナイルス、無理だけはしないで!』
──フィオナからの言葉に、静かに首を横に振る。それは出来ない。無理だ。それだけは出来ない相談だ。
かつてここまで、俺を愉しませてくれた相手はいなかった。俺とここまで張り合ってくれた相手はいなかった。
ずっと。
ずっと──探していた。手を伸ばして、届かない空に手を伸ばしていた。青空を縦横無尽に駆ける守護女神の姿をずっと追っていた。
いつか自分もあんな風に──黒の守護女神のように、空を飛びたいと。
それが叶った。この機体だけが俺を唯一、青空に導いてくれた。
俺の手足のように動いてくれる。思考するよりも早く、反応してくれた。これほど嬉しいことはなかった。感謝している。
俺の願いを叶えてくれたのは女神でもフィオナでもない、武装企業だった。
最高の機体、最高の舞台、最高の戦場──最高の敵。国家解体戦争、守護女神代理戦争というゲイムギョウ界全てを巻き込んだ大規模軍事クーデター。
俺の求めていた戦場が、此処にある。無理をするなと言う方が無理な話だ。
俺は、この戦場を求めていたのだから。
『機体損傷、60%……!』
当ててくる。確実に、こちらが少しずつ追い詰められていた。
……ああ、大した相手だ。
『ジェネレーター出力上昇──、待って! ナイルス! ダメ、それだけは!!』
すまないフィオナ。俺を止めないでくれ──俺は、俺の全てを賭けてアイツと、ゼロワンと戦いたい。
俺の命の全てを持っていけ、最高傑作機──
ナイルスの機体に変化が起きる。全身の波動制御装置が一斉に稼働していく。次の瞬間、機体から衝撃波が発せられた。周囲に乱雑に置かれていたコンテナすらも吹き飛ばすほどの威力に、ゼロワンは動きを止める。
《っ……! なんだ……?》
それが収まると、ナイルスの機体は緑色の粒子を纏っていた。シェアエナジーではない。シェアドライブの起動……でもない。
『──聞こえますか、ゼロワン』
《……聞こえているとも、ナイルスのオペレーター》
『彼は本気です。貴方を倒すまで、止まることはないでしょう』
《そうか。それはありがたい話だ。こちらもおめおめ逃げ帰るつもりはない》
『……それだけではありません。もし、戦いが長引くようなことがあれば、彼の命も無いでしょう。ですから、どうかお願いします。彼を止めてください』
《断る。俺は──俺は、任務を最優先事項とする。そちらの事情を考慮する必要性はない》
『そうですか……分かりました。それでは──さようなら、青いイレギュラー』
フィオナから冷たく別れを告げられ、ナイルスと向き合う。
視界にノイズが走る。索敵機能障害にゼロワンは、レーダーをカットした。完全に視界だけが頼りとなる状況でナイルスの高速機動に果たしてついていけるかどうか。そして、目の前から再度ブースター音と共に機体が消える。
先程までの戦闘よりも、更に速度が上がっていた。機体のスピードにパイロットがついていけるとは限らない。しかし、この相手に関してはゼロワンは掛け値なしに評価していた。
ナイルスは、そのスピードに追いついている。まったくもって恐るべき反応速度と動体視力と反射神経だ。惚れ惚れする。
《嗚呼、まったく──俺を飽きさせてくれないな、お前は!》
マシンガンとライフルの弾道が掠めていく。跳躍ユニットを切らすことなく回避行動に移りながら、機体を左右に振るナイルスと弾丸を交差させた。肩部装甲損傷。分裂ミサイルの射出に突撃砲を上空に放り投げて、腰から手榴弾を外して投げつける。それを中隊支援火器で撃ち抜き、落ちてくる突撃砲をキャッチしながら離脱。
それに回り込んでいたナイルスと銃口を突きつけて、互いの身体を同時に銃弾が打ちのめす。
『機体損傷、70%──! ナイルス、お願い! 離脱して!』
『おい、バカ野郎が! それ以上の交戦は無理だ。今すぐ離脱しろ! お前がもたないぞ! わかっているのか!!』
オペレーターからの言葉を無視して、ナイルスは機体制御に全神経を費やす。視界からゼロワンの機影だけは外さずに、左右に振った機体を上空を通過させる。しかし、それでも相手の射線は外せない。恐るべき反射神経に、思わず口元に笑みが貼りつく。
《ああ、畜生! 何だと言うんだ貴様は──!!》
ゼロワンもまた、足元に撃ち込まれる弾丸を避けて、壁に足を掛けて宙返りしながら中隊支援火器でナイルスに反撃した。曲芸のような飛行に驚きながらも、左腕部で弾丸を受け止める。それにエラーメッセージが表示された。
『左腕部損傷。これ以上の被弾は……』
保持していたマシンガンを取りこぼしそうになりながら、ライフルで相手を狙う。やがてそれは右肩の装甲を撃ち抜き、破損させた。ミサイルを撃ち込んで距離を詰める。ゼロワンとナイルスが両腕の銃を突き出して互いに引き金を引いた。
『ッ──、機体損傷80%! 貴方がここまで追い込まれるなんて……』
胴体に直撃したスラグ弾によって大きく装甲が引き剥がされている。内部機構が剥き出しにされていた。しかし、ゼロワンも頭部から胴体、左腕部に銃弾を浴びて無事ではない。
《────タッチダウンだ、ナイルス……》
「…………」
『……敵機、アンサー動力部に到達……我々の、敗北か』
ゼロワンの左手。カーネイジ爆薬が疑似シェアクリスタルの制御装置にセットされていた。しかしナイルスはまだ両腕の銃を突きつけて戦闘の意思を示している。
もはや、浮遊要塞の護衛などどうでもいい。多額の報酬も。戦闘への執念にはゼロワンも感服していた。敵としてではなく、共に肩を並べる出会い方であれば、こうはならなかっただろうに。
《……ナイルス。残り百八十秒で決着を付けよう》
『何を、言っているんですか貴方は?』
《お前はこのような決着を望んではないだろう。俺も──お前をこのまま野放しにするわけにはいかないんだ。ナイルス……お前は
こちらの機体損傷もまた、決して無事ではない。弾丸の一部は神経伝達ケーブルにまで達している。下半身の稼働率が危ぶまれていた。それでもまだ動けるのは、機械の体に痛覚というものが存在しないというだけのこと。
機械を駆る獣と、機械の身体。結局は動かなくなるまで潰し合うしかない。
タイマーをセットしてゼロワンは、改めてナイルスと再三、対峙する。アンサーの損傷もグリーンハートとブラッドソウルの手によって稼働率が大幅に落ち、撃墜は時間の問題だった。
《……六十秒を、ゼロスリーの黙祷に捧ぐ》
スラグ弾を装填する。
《六十秒を、ゼロツーの黙祷に捧ぐ》
左腕の格納ナイフを足元に突き立てる。
《……そして、最後の六十秒は──この俺自身の黙祷だ。ナイルス、決着をつけよう。お前の最前線は此処だ。俺が終わらせてやる》
「────」
……感謝を、ゼロワン。言葉の発せない、俺に出来る最大限の礼はこれしか出来ない。
機体の頭部を静かに頷かせて、ナイルスは両腕のマガジンを廃棄。新たに装填した。
タイマーがカウントを開始する。それと同時に、ゼロワンとナイルスは相手めがけて突撃した。何度目になるだろう、弾丸がお互いの脚部に突き刺さる。
『こちらでタイマーをカウントする。残り百七十秒だ、急げよ』
『貴方は……そこまでして……』
中隊支援火器を持ち替えて、交差する瞬間にゼロワンが横殴りに叩きつける。機体のバランサーが損傷し、咄嗟にサイドブーストで機体を押し出す。肩口からの突進に、大きく装甲が歪む。即座に下がりながら銃弾を撃ち込み、離れた。それを横に跳んでゼロワンが避ける。
再び二人が正面から激突するかに思われ──ゼロワンが機首を上げ、それを跳躍ユニットの推進力で回転しながらナイルスの分裂ミサイルに銃弾を撃ち込んで離脱した。
クルビット──アゴウ機人の空戦機動でも上等技術とされる飛行技術。ナイルスは左の分裂ミサイルをパージ。クイックターンと共に右腕のライフルを突きつける。上下逆転した体勢から、バレルロールで避けながら着地、突撃砲で応戦。
持てる技術の全てをぶつけ合う応酬。
──残り時間、百五十秒。
《…………》
ゼロワンは、思いを馳せる。ゼロスリーと、ゼロツーとの思い出に。……ああ、そういえばアイツはオールナイトカラオケで貸した金を返してもらってない。金を返せ、バカ野郎が。それと貸した本もどこに無くしたんだ。アゴウに帰ったらお前の部屋をガサ入れしてやる。
突撃砲のマガジンを交換する。手榴弾を転がして、上空に避けたナイルスにスラグ弾を叩き込む。右肩の装甲がひしゃげ、マシンガンが掠めていく。相手も照準が定まらない射撃精度に損傷が大きいと見た。
ゼロツー。お前は嫌なヤツだったな。人がギターの練習をしている横で、平然と弾いてみせやがって。なーにが、隊長もすぐ出来るようになります、だ。俺は結局弾けずじまいだったぞ、嘘つきめ。それとお前にはひとつ言い忘れていたことがあったな……。いつも掃除を手伝ってくれてありがとう。
思い出すのは、くだらない日々の他愛もない出来事。軍事国家アゴウで過ごした平和なひと時。
──残り時間、百二十秒。
『機体損傷、90%……』
『…………もはや止めん。勝て、ナイルス』
ライフルの残弾が尽きる。空撃ちすると同時に、左腕部の損傷が限界を迎えた。取りこぼす突撃型マシンガンを右手でキャッチして左腕部への動力をカットする。ゼロワンのスラグ弾を動かない左腕で受け止め、頭部カメラを防御スクリーンで保護する。
攻防一体のエネルギーバースト。その再補充までにかかる時間は膨大な隙となるが、今はこれしか手がない。
《────、》
「────!」
それに合わせて、ゼロワンもまた最後の手榴弾を投げていた。
爆発。衝撃に機体が揺れる。壁に激突して、二人は動きを止めていた。
時間だけが過ぎていく。──残り時間、九十秒。
「……………………」
『──! ────!』
こえが、聞こえる。朦朧とした意識の中、ナイルスは操縦桿を握っていた。だが、身体が動かなかった。
《……………………》
『~~♪ ~~~~♪』
うたが聞こえる。ラステイション兵士から借りた音楽プレーヤーが、雑音混じりだが曲を鳴らしていた。戦闘の衝撃で再生ボタンを押されたらしい。
《……────》
ああ、いい歌声だ……。聞き惚れるような、天使の歌声。
『────!!』
「…………」
聞き慣れた声が、涙を流している。必死に名前を繰り返して。
《────》
「────」
嗚呼、そうだ……。
《……、っ。ぉ、ああああああぁぁぁっ!!!!》
俺はまだ倒れるわけにはいかないんだ。すでに装甲は撃ち抜かれ、砕け、ひしゃげてボロボロの身体だけど。
それでもまだ、俺には歌がある。心に響く、歌が──!
「…………! ────、っ!」
《起きて、ナイルス! お願いだから……、生きて、帰ってきて!! ナイルス──!!》
まだだ。まだ俺は、戦える。まだ俺の魂は戦場を求めている。これで終わるわけにはいかないんだ、ゼロワン。
俺は、生き残るために戦ってきたんだ──!
──残り時間、六十秒。二人が、機体を同時に立ち上げた。