※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード294 「さよなら」に別れを告げて

 

 

 頭部ユニット半壊。網膜ユニット損傷。網膜レンズに表示される機能障害の数々から目を背けて意識の外に、火花と紫電を散らしながら立ち上がる白い死神を睨む。脚部損傷。胴体損傷。肩部装甲破損。跳躍ユニット、推進剤残量危険領域。それがなんだ、それが、どうした──失った仲間と部下たちは帰ってこないんだ。俺の身体はまだ動く。俺の魂は敗北を認めてなんかいない!

 

 頭部カメラ損傷。左腕破損。右腕部も警告メッセージが出ている。脚部損傷。マシンガンの残弾は、多くはない。どろりとした感触に、血が出ていた。先程の衝撃で怪我をしたようだが──ああ俺が求めていたのは、この感覚だ。視界が赤く染まる。それでも操縦桿は離さない。赤い首輪に繋がれた機体との同調システムが切断されない限り──俺の意識と、この機体が動く限り、戦いは止まらない。止められない。

 

《ナァァァイルスッ!!!》

「────!!!」

 ゼロワンが叫ぶ。宿敵の名を。

 ナイルスが睨む。宿敵の姿を。

 突撃砲と、マシンガンの弾丸が装甲を削り取っていく。白い死神の周囲に再び緑色の粒子が集まりつつあった。防御膜が再展開される。突撃砲の弾丸が弾かれて四散した。マシンガンを突撃砲の銃身で防ぎながら、ゼロワンは背面の武装ラックを持ち上げる。

 暴発する突撃砲の衝撃に二人の機体がぐらつき、それでも手にしたのは──電磁加速投射砲、機人の切り札、海神(ヘシン)。残弾二発。

 サイドブースターによるクイックブースト。跳躍ユニットの短距離跳躍(ショートダッシュ)。お互いの射線から逃れながら、ナイルスがゼロワンの背中を追う。しかし、急制動を仕掛けて反転する。

 

「──、」

 機体を急上昇させて衝突を逃れようとしたが、その銃口がピタリと狙いを定めて外さない。

 メインブースターの急点火と同時にサイドブーストの逆噴射、空中で超信地旋回という無茶な機体制御にエラーメッセージが更に増える。いくつかバーニアが焼ききれたようだが、一発を回避することに成功。マシンガンを突きつけ、マガジンが底を尽いた。空になった弾倉を廃棄、再装填までの隙を狙う姿に、突撃型マシンガンを突き刺す。装甲を突き破り、胴体を貫通する。

 

《────、》

「…………」

 もつれ合いながらも、壁に激突してようやく──二人の動きが止まった。

 機体損傷97%──辛うじて動くのが奇跡的な状況で、決着がついた……残り時間は十秒を切っている。

 ナイルスが突撃型マシンガンを引き抜いて、そして。

 

 ゼロワンの腕が、海神を持ち上げた。

 

「───…………、!」

《……最後だ、持っていけ》

 回避しようと飛び退いた機体コアに超至近距離による海神の直撃弾。初弾の衝撃から遅れて電磁パルスが拡散する──機体の駆動回路がパンクした。仰向けに白い死神は倒れていく。

 カウントを終えたカーネイジ爆薬の起動。疑似シェアクリスタルの土台から、アンサーの浮力源が消失する。エネルギー供給が絶たれ、同時にグリーンハートとブラッドソウルによる破壊活動によって持ち堪えていた浮遊要塞が徐々に高度を落としていく。

 中央アリーナ会場が崩壊していく中、ゼロワンは空を見上げていた。全てを使い切った、全力を出した。死力を振り絞った。悔いはない決着だった──。

 ナイルスは、暗闇に包まれたコックピットの中で僅かに点滅しているモニターを睨む。そこには青空だけが広がっていた。あんなにも追い求めていた空が。

 機体の腕を伸ばす。軋みながら伸ばした腕が、やがて止まった。

 

 アンサーは、その動力を失ったことにより、各所でどうにか持ち堪えていた損害が一斉に爆発していく。行き場を失ったシェアエネルギーをグリーンハートが引き受け、これまでにない槍の冴えで障壁と隔壁を貫いていく。

 そして、ブラッドソウルもまた、いまだに追尾してくる黄金の一矢を正面から紫電を纏う細剣でやっとの思いで相殺させた。

 

「クソが、今日一番手間取ったわ!」

「アンサーの破壊工作を確認、エヌラス! ここを離れなければ」

「いいやまだだ! トライデントの生き残りを連れて帰るぞ!」

「崩壊は始まってますわよ!」

「知ってらぁ! だがここまで来て見殺しにできるか!」

 ハンティングホラーで走り出すブラッドソウルに、グリーンハートは頬に手を当てて困った顔をするものの。

 

「……仕方ありませんわね」

 そんな背中を追い始めた。

 

 

 

 ──ラステイション南部。

 リーンボックスを水平線に臨む海岸で、剣姫は腕を組んで後から追ってきたブラックシスターと合流した。

 

「おう、遅かったな!」

「あ、あの……足、速くないですか……!?」

「当然だ。おれはアゴウ最速最強ナンバーワンのお姫様だからな、ハッハッハ!」

 飛行していたにもかかわらず追いつけなかった。アダルトゲイムギョウ界の女性は、強い。そんなことを心底思い知らされる。

 

「しかし、海か。海はいいな! おれは好きだぞ、海!」

「ですから、リーンボックスに行くには船を使うか、あたし達みたいに空を飛ぶかしないと……なんで準備体操しているんですか?」

「ん? なぜかとは?」

 おいっちにーさんしー、にーにーさんしー。腕を伸ばし、肩を伸ばし、アキレス腱を伸ばし。剣姫はストレッチで身体を十分にほぐすとその場で二回三回と跳ねる。

 

「ユニに運んでもらうのは、なんだか申し訳ない」

「いえ、まぁ……そうですけど……」

「だから、走る」

「…………はい?」

「おれはアゴウの女神だからな、海ぐらい走れなくてなぁにが女神だ!」

「あー、剣姫さん。本気ですか?」

「本気だが? 大体それぐらい出来るだろう」

 出来ません。ユニは断言したかった。しかし、目の前で身体を慣らしている守護女神を見ていると嫌な予感しかしない。

 空を移動している浮遊要塞が、突如爆発した。それは次々と無数の部品を海に落下させながら高度を落としている。

 

「浮遊要塞が……」

「……」

 ラステイションへ向けて移動していたアンサーの陥落。あれはすぐに海中に没することになるだろう。その爆風によって部品がブラックシスター達目掛けて吹き飛んできた。

 

「お?」

「危ない!」

 X.M.Bで迎撃していたが、いくつか撃ち漏らしてしまう。それは無人の砂浜に突き刺さった。だが剣姫は事もなげに涼しい顔、素手で払い除けている。

 

「トライデントは任務を果たしたか」

 その中から飛び出す二つの影があった。一人はブラッドソウル、酷く損傷したゼロワンを担いでいる。もう一人はグリーンハート。その手には、白いもふもふとした毛並みの生き物を抱えて。

 

「っ、だぁぁぁぁぁ重てえぇぇぇぇぇっ!!! 痩せろテメェ! 総重量何キロだ!」

《機械に痩せろとは無茶を言う……》

「エヌラス、無理をなさらないように──つるちゃん!?」

「ハァ!? つ……──!?」

《御姫!?》

「おう、おれだ! 元気そうだなお前達! うむ、なによりだ!」

 驚く面々など素知らぬ顔、いつもの満面快活な笑みで出迎えた。

 降り立つブラッドソウルもシェアエネルギーが再び底を尽き、変神が解除される。そして担いでいたゼロワンの自重に押し潰されそうになったが、剣姫が片腕で身体を支えた。もはや満足に立てる身体でもない。

 

《御姫、おやめください……自分は……》

「ゼロワン。報告せよ」

《…………》

 破損した網膜ユニットが映すのは、自分と死闘を繰り広げた白い生き物。ナイルス。それが、自分達を死地に追い込んだ正体だった。しかし、恨みはない。自分達は、任務遂行の為に戦場へ向かったのだから。そこで引き金を引いた相手を恨めるはずもない。

 

《……トライデント分隊は浮遊要塞アンサーの爆破工作を、達成しました。生還者……一名》

「そうか。ご苦労だった」

《…………御姫、俺は。自分は……部下を、仲間を失いました》

「それだけか。お前が失ったのは、本当に“部下”と“仲間”か」

 剣姫の言葉に、ゼロワンは言葉を閉ざす。貴方から預かった百名の精鋭を自分は失った。二人といない親衛隊も失った。どのような処罰であろうと、甘んじて受けるつもりだった。

 しかし、剣姫は違った。ボロボロのゼロワンに手を回して、抱きしめた。煤で汚れることも、熱く焼け付いた装甲など意に介さず。油で汚れようと気にせずに、ゼロワンの首に手を回していた。

 

「アゴウ国王親衛隊一番機。ゼロワン、お前が本当に失ったものはなんだ。言葉にしてみろ」

《……御姫……俺は……──》

「おれは知っている。おれは覚えているとも。お前が訓練学校より時間を共に過ごした(ともがら)達の顔を。編成された初日に、喧嘩をして補導されたことも覚えている。前代未聞だったからな」

《……自分は……》

「お前が何を背負う必要がある、ゼロワン。お前達を戦場に送ったのはこのおれだ。お前達を死なせたのは他でもない、このおれだ。恨み辛みもおれが引き受けよう、おれが背負うものだ。死にたくなければ、お前達は逃げ出せばよかったんだ。だが……、最後まで。おれの“(つるぎ)”であろうとしたお前達はおれの誇りだ。アゴウの誇りだ、胸を張れ」

《……俺は──俺が、本当に失ったものは────!》

 言葉が出てこない。だが、言葉にしなければ。目を背けることなど出来やしない。お前達の死を俺は越えなくてはならない。自らの言葉で。

 

《俺は……“親友”を……友達を、戦友たちを──うしない、ました……ッ!》

「……報告、ご苦労。士道、忠義。大義である! おれの為によく死んだ。そして、よく生きて戻ってきてくれた、ゼロワン──“シルフィ”! お前が捨てた名だが、おれは忘れるものか!」

《ぁ──あ、う……ぐ……──あぁぁああああああああっっ!!!!》

 涙が出てこない。こんなにも。こんなにも、胸が張り裂けているのに。この人は、この守護女神は──。

 

「お前の涙を笑うものか。笑わせるものか。世界の誰にも、お前達の戦いを笑わせなどせんよ。戦って死んだのだ。最前線で、誰かの為にお前達は死んだのだ。おれは、お前達を忘れない。その命の全てを、明日へ生きるお前達を。おれは愛している。だからな、シルフィ。

 ──“生きろ”。それが、死者への最大限の敬意だ。大切な者達への贖罪だ。死へ逃げるな」

 俺に、これほど残酷な仕打ちをしてくれる。死別への撤退を許さず、最前線に立ち続けろと。

 逃げるものか──ああ、逃げるものか。俺の命に“次”など無いんだ。

 他の誰にも“やり直し(コンティニュー)”なんて、無いのだから。

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