※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード296 守護女神快進撃

 リーンボックス首都でプレジレントの弾幕を凌いでいたアルシュベイトが攻勢に出ようとした直後、その異変は起きた。

 魂にヒビが入る。有りもしない記憶が溢れ出す。それは、滅びゆくアゴウの姿。荒野を埋め尽くす異形の群れ。国王として君臨し、女神亡き国を率いた武勇伝。

 

《────────》

 剣を突き立てて膝をついたアルシュベイトの額にショットガンを突きつけるプレジレントだが、引き金から指を離していた。

 

『社長?』

《アーハー? 大丈夫か、アルシュベイト。調子が悪そうだな? うちのエステになにか不具合でもあったか、キャロライン》

『いいえ、社長。工程は全て完璧でした。もちろん細工もしていません、潔白です』

《そいつを証明できる物は?》

『こちらのログをどうぞ』

 

《──俺の、記憶は……俺が、国王になるのは必然だったか…………》

 機械の身体になることも。国王と定められるのも。全ては、次元神の手のひらの上。

 そして、何よりも──エヌラスとの死闘の記憶。繰り返される塔争の歴史。その全てに反旗を翻した因果律操作。邪神狩りの真実を、言葉ではなく記憶で理解してしまった。

 そうまでして、お前は俺達を救いたかったのか……好敵手(せんゆう)よ。

 

《……涙など、出ないものだと思っていた。機械の身体なら、当然のことだと》

 それに怒りも悲しみもない。そうせざるを得なかったのだから。

 拳を握る。心鉄の燃焼稼働率が上昇していく。感情が昂ぶる──。立ち上がるアルシュベイトにプレジレントは一歩、二歩と後ろへ下がった。

 

《……大丈夫か?》

《ああ、心配をかけたな。すまん》

《ハハハ、気にしてなんかいないさ!》

《仕切り直そう、プレジレント。いざ》

《オーケェイ。そうこなくっちゃなぁ! 女神様もリーンボックスにご到着ときた、二人水入らずの決闘に茶々入れてくれるようなナンセンスは期待しちゃあいないんだがねぇ、オーライ!》

 ショットガンとマシンガンを両手に携えたプレジレントに、アルシュベイトは長刀を構える。

 肩に担ぎ上げる武者上段。堂に入った構えに、一寸。照準が鈍る。

 

《────》

 ようやく本気というわけか、アルシュベイト。プレジレントは、機械の眼で対敵を睨みながら嬉しく思った。そこに感情など無いはずなのに。キャロラインも、モニタリングされているアルシュベイトの戦闘データは常に解析している。相手の戦闘パターンは戦乙女に送信されている──はずだった。しかし、不意にチェックしたデータリンクが途切れていることに気づく。それを片手間に確認しながら、社長に気付かれないように検索する。

 地下の隔離倉庫で、古王がその接続ケーブルを断線していた。

 

「……なんのおつもりですか、古王」

『野暮なことをするなよ、秘書官殿』

「どうやってあの拘束を抜け出したのですか?」

『それを明かすような間抜けじゃあないさ。三女神が来ているんだろう? せいぜい刺激的にヤラせてもらうぜ』

「どうぞ、お好きに?」

 グレートウォールと武装列車、グランドマザーウィルの弾幕を前にして遅々として進まない三女神を相手にどれだけ持ちこたえられるか……。キャロラインはその突破時間を予測し、それはそれほど遠くないと計算した。

 

『社長、リーンボックス洋上を移動するグリーンハートと未確認勢力があります。敵の増援かと』

《ならこっちもパーティー会場を変えないと水臭いことになるな》

『こちらで手配しておきます。ご乗車を』

《了解だぁ、キャロライン!》

 ショットガンの引き金を引く。ショットシェルが拡散して無数の弾痕を穿つ。そこにアルシュベイトの姿はなかった。跳躍ユニットを噴射した、高度優勢かの打ち下ろし。その破壊力は決してプレジレントの装甲が頑強といえど無視は出来なかった。

 

《おぉ──!!》

《ハッ》

 鼻で笑い、マシンガンを向ける。その照準が睨むよりも先に、長刀が振り下ろされた。剣圧だけで銃身が歪み、咄嗟に手放して引き下がる。見れば、長刀には陽炎が纏わりついていた。即座にキャロラインが解析を始め、それがシェアエネルギーであることが判明する。

 

『社長、お気をつけください。あれは女神の一撃と大差ありません』

《オッケェイ、耐えてやろうじゃないか!》

『……話を聞いていましたか?』

 プレジレントはマシンガンの代わりにハンドキャノンを持ち出す。

 再び銃弾と剣戟が交差する戦場に、刻一刻と接近する姿があった。

 

 

 

 ──海面を殴り、蹴り、身体を跳ね上げながら移動していた剣姫だったが、艦船の残骸に着艦すると動きを止める。

 頭を押さえる。忘れ去られた魂の記憶の数々が溢れ、酷い頭痛とともに膝をついた。

 

「つるちゃん。どうか、しましたか?」

「……ベールはなんともないか?」

「ええ」

「…………ふむ、そうか」

 まだ痛む頭を振り、剣姫は改めてリーンボックスを睨む。

 

「……つるちゃん?」

「いや、すまない。つまらんことだ。今は目の前の事に集中する、いくぞ」

「はい」

 そう言って、再び剣姫とベールは移動を始める。

 

「ネプテューヌ、ノワール、ブラン。こちらは浮遊要塞を撃墜、今はそちらにつるちゃんと向かっていますわ。もう少しの辛抱です」

《つるちゃん? 誰?》

「アゴウの守護女神ですわ」

《本当に? というかなんでいるのよ!》

「様子見と言いますか、お忍びで……」

《とんでもねぇ女神様がいたもんだ、な!》

 砲声と銃声が近づいてきていた。リーンボックスの港町にグリーンハートが降り立ち、剣姫は着地すると潮風のまとわりついた服を払い落とす。その足取りに一寸の迷いなし、城壁のように立ち塞がるグレートウォールを睨むと肩を回した。

 

「どうやらあそこに他の三人もいるようですわ」

「なら、そちらへすぐに向かおう」

 腰を落とし、クラウチングスタートから剣姫は駆け出す。脚力たるや、女神の飛行速度と差がない。パルクールのしなやかな動作によって障害物などまったく意味を成していなかった。アゴウの街中を走り抜けて誰にも止められること無く国外に出るという日頃の行いがまさかこのような形で役に立つとは、剣姫も思っていない。

 ──余談だが、それに追いつける脚力はユウコかムルフェスト。吸血鬼でもないと無理である。

 

 剣姫とグリーンハートが三女神とようやく合流を果たした。しかし、その戦場は無数の自律兵器とグレートウォールの砲撃、その管理者である震電のグレネードによる戦場となっている。

 パープルハートの太刀が無数のドローンを撃墜しているが、一向にその物量が止む気配がない。そのうえ、グランドマザーウィルからの砲撃も飛んできていた。

 ブラックハートの大剣が震電の分厚い装甲を殴りつけるものの、起動不能に陥るまでには至らない。機動力を完全に殺してこその重武装タンク。

 ホワイトハートもグレートウォールの砲台を破壊してはいるが、キリがない。かといって無視をすれば背後から挟み撃ちとなる。

 

「ベール、やっと来てくれたのね! これじゃ一向にキリがないわ!」

「あぁ、もう! 何なのよあの戦車は、硬すぎるのよ! 女神の一撃に耐えるってどんな装甲してるのよ、バカじゃないの! この変態!」

「あれが輸送車両って言うんだからどうなってんだよリーンボックスは! 変態の集まりしかいねぇってのか!」

「わたくしを変態代表みたいに言うの、やめてくださいません?」

 言いたいことを言ってから、視線が剣姫に集中した。アゴウの守護女神──パープルハートとブラックハートは、次元神セロンとの勝負の際に一目だけ会ったことがある。とはいえ、その時は模倣体と呼ぶべき存在だったが。

 改めて姿を見直す。軍服姿の凛とした女性。黒髪ロングヘアー。ポケットからリボンを取り出すと、髪を結い上げてポニーテールにして歩き始める。

 

「話は後だ、自己紹介はまとめて聞く」

「あ、ちょっと……」

「一撃だ──それ以上はまかり通らんぞ」

 拳を固く握りしめ、剣姫は震電との距離を詰めていく。相手も腕と背中のグレネードを向けていた。

 

「おい鉄くず、おれの邪魔をするな」

《異国の女神であろうと、通すわけにはいかんよ──!》

 一斉に砲門を放ち、榴弾が剣姫に向かう。迫る砲弾を避けようともせず、瞬き一つせずに裏拳で砲弾を()()()()()()。明後日の方向で爆発する榴弾に、震電も動きを止める。ずんずんと大股で歩み寄っていた。

 

「二度は言わんぞ」

 拳を引き絞り、その刹那、女神の力を解放して震電の正面装甲を打ち据える。リーンボックスで制式採用されている戦車の装甲を越える分厚さと強度を誇るはずの傾斜装甲が、拳の形に穴を開けていた。背中から部品を撒き散らして震電は沈黙する。

 

《──この、震電を……打ち抜くとは……!》

「どけ」

 機関部大破、駆動系統大破。戦闘行動不能に陥った震電を、掴むと剣姫はゴミでも捨てるように投げ飛ばした。地面を二回、三回と転がり、横転している。そうなった場合の自力で復帰は不可能だ。事実上の戦線離脱となっている。

 上空を埋め尽くす無数のドローンに、剣姫は呼吸を整えた。そして、再び拳を引いて構える。

 

「鬱陶しいぞハエ共。七十二式『烈風』──!」

 空を穿つ拳の一撃。シェアエネルギーを乗せた拳の風圧に負けて、ドローンが一体、二体。次々と誘爆していく。その遥か遠方で、青空を陰っていた雲が晴れていた。パラパラとドローンの残骸が降り注いでくる。鬱陶しそうに肩のゴミを払い除けて、グレートウォールに近づいていくと、その先頭車両に手を当てた。

 動く城塞とも称されるリーンボックスの輸送車両に、剣姫は拳を引き絞っている。

 嫌な予感がした。

 息を吸い込み、足を広げて腰を落とす。

 

「──チェェェェストォォォォオオオオオッ!!!!」

 バゴンッ!!!!

 グレートウォールの装甲が、ひしゃげる。そして、軋んだ音を立てながら先頭車両が徐々に徐々に傾いていく。

 

『艦内警報! 艦内警報! 機関部、大破! 第一から第四前輪破損!』

『限界仰角間もなく! グレートウォールが横転するぞ! 総員ショック態勢!』

『なんなんだあのバケモノはーーー────!!!!』

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 四女神が絶句していた。言葉を失う。

 蹂躙と呼ぶべき他にない破壊行為だった。あれほどまでに苦戦した武装企業勢力が、たった一人の守護女神によって崩壊していく。

 拳一つ、己の身体一つを武器にして。リーンボックスの軍事技術の結晶達がスクラップにされていた。

 

「……おい、見ていないで手伝え。おれに全部やらせる気か?」

「あの、つるちゃん……?」

「なんだベール。おれは見ての通り忙しいぞ? 邪魔だなこの鉄くず」

 ベゴォン。無人機が裏拳で殴り飛ばされていく。

 

「女神化は、なさらないんですか?」

「する必要がない。大体シェアに頼りすぎだ。そんなものあろうがなかろうが、おれがアゴウで一番強い」

「……アルシュベイトもそうだけれど、守護女神がそれ以上の脳筋だとは思わなかったわ」

「力の無い奴が人の上に立てるものかよ。国を率いるならば尚更だ」

 そう話している間にも、剣姫は戦車を蹴り飛ばして横転させている。

 

「アゴウの民が望むのであれば、おれはこの体一つで国を落とす覚悟だ。なにが守護女神だ、バカバカしい。蝶よ花よと愛でられて生きていけるほど華奢ではない性質でな。愛されて当然だ、おれは望まれて生まれたのだから。ならばおれがアゴウを愛するのは、当然だろう? 違うのか」

「確かに、それには一理あるけど……その強さとは関係が……」

「ふむ? そうか? 仕事が無くてあまりに退屈で毎日自己鍛錬に励んだりしていただけなんだが。それと軍事演習に殴り込んでいるだけで」

「とんだ女神様がいたものね!?」

「おれが不在の間、国を任せる戦力なのだから弱くては話にならん。女神の一人くらい倒せるほどではないと使い物にならん、よって実演してやっている。まぁ今まで一度も負けたことないんだが」

「…………言っていることとやっていることが滅茶苦茶なのに、反論できねぇのすげぇと思う」

「ちなみに女神化しての話よね?」

「? する必要、あるのか? 生まれついて女神なのに」

「あ、話が通じないタイプの女神だわ」

「したところで結果は変わらんし、そもそもにしておれが女神化するのは敵を認めた時と生かして帰さない時だけだ」

 戯れに一日女神化した時のアゴウと来たらまるで独裁国家のような体裁だったという。あのアルシュベイトですら敬語で接していた。つまらん、という理由で二度とやらなくなったが。

 

「さて、この辺りの制圧は終わったか? もう少し骨があると思っていたが、なんだまったく拍子抜けだな。うちの機人達の方がまだ手強い」

「そ、そうね……大体終わりみたいだし、早く向かいましょう」

「あとはあの首謀者をとっちめて終わりよ!」

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