超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──ベール達守護女神がリーンボックスでグレートウォールの迎撃を切り抜けた頃。
同時刻、ラステイションへゼロワンとナイルスの両名をスピカとカルネの手を借りて運び、片方は病院へと搬送させる。
ゼロワンをブラックシスターと共に駐屯地へ連れて戻ったエヌラスは、すぐさまハンティングホラーに跨るとリーンボックスへ向かおうとしたが、殺気を感じ取る。
影が降りる──ドラグレイスと視線が合った。その手には金属バット。空中から奇襲を仕掛けてた姿に、反応が遅れてエヌラスは横殴りに吹き飛ばされた。
「っ、くそ……!」
「エヌラスさん!? あなた、何のつもりですか!?」
「……黙っていろ、小娘」
立ち上がろうとしたエヌラスの周囲の空間が歪む。電脳世界からの空間アクセス、銃口が覗き容赦なく追撃してきた。
硝煙に呑まれるエヌラスにブラックシスターが驚いていると、欠伸をしながらソラが青く輝くカードを手にして姿を見せる。電脳国家インタースカイの次元間通信回線とのアクセス権、一国の武器庫をデバイス一つで転送するという破格の性能を小型化させた端末。その圧倒的物量の展開速度は脅威の一言に尽きる。
「……ステラ、シュミクラムユニットの復旧は? そうか。まだそれくらいか──今は、半径二百メートル以内がボクの射程圏内だ。覚悟しろよ、エヌラス」
「ソラさんまで、どうしたんですか急に!」
「あぁごめん、ユニちゃん。下がってて。巻き込んでも文句言わないでね」
「お前ら……! どうしたんだ、一体!?」
「どうもこうもあるか、エヌラス? お前……」
「貴様……どうして黙っていた」
「────なんの、話だ……」
「とぼけるつもりらしいよ、ドラグレイス?」
「ああそうか。貴様は、俺達をまだ笑うつもりか。……塔争の記憶を忘れた、俺達を!」
背筋が凍りつく。ドラグレイスが地面を金属バットで殴りつけて、アスファルトがヒビ割れていく。怒りをぶつけて、その矛先が止まる気配はなかった。
エヌラスは、立ち上がれなかった。その口から出るはずのない言葉が出てきた衝撃に打ちのめされて。そんなはずはない。そんなことが起きるはずがなかった。塔争の記憶は、全てリセットされているはずだ。他でもない次元神の手によって、壊次元は新たに作られたはずなのだから──!
「嗚呼、思い出した。全てな。貴様が俺達を殺し続けてきたことも、貴様が無駄にしてきた命の全ても。何もかもな! 理由などどうでもいい! 塔争の記憶が甦った今、貴様と肩を並べる理由などどこにもない!」
「腕の一本くらいはボクの分も残しておいてくれよ、ドラグレイス。どうしようもなく腹が立っているのは同じなんだから」
「ご自慢の通信回線でどうにかしろ」
「はいはい、そうさせてもらうさ──」
ソラは眼鏡を直し、デバイスを突きつける。ドラグレイスは金属バットを引きずりながらエヌラスへ向けて走る。ブラックシスターが咄嗟にX・M・Bを向けようとするが、その身体を突き飛ばされた。
「エヌラスさ──!」
「──ぉぉぉおおおおっ!!!」
やり直すものか──。誰が、もう二度と──!
もう二度と、目を背けないと決めた。もう逃げないと。
絶対に、諦めない。例え、どんな困難が前に立ち塞がろうとも。
神格者同士の争い。キンジ塔を巡る、最後の一人が生き残る生存競争。壊次元のバトルロワイヤル。それに終止符を打つために、セロンの手を借りたんだ。邪神を狩り続ける事で、世界の均衡を保つ為に。
お前達は、手を取り合って生きていてくれればいい。戦うのは俺一人で十分だ──。
戦うのは──。
「“
「────」
ブラックシスターの前で、エヌラスが絶望の魔人として変身する。赤黒いプロセッサユニット。それは、絶望の邪神ヌルズ・エクス・モルテスと同型の
絶望の魔人は、光差す世界にも、闇堕ちる世界にも居場所はどこにもなかったのだ──。
真実はこんなにも残酷で、目を背けたくなるばかりの現実で。エヌラスは、まだ立ち向かう。
もう逃げない。目を背けて、やり直すものかと決めたのだ。
このゲイムギョウ界で、女神達を傷つけた。このゲイムギョウ界で、彼女達と再会した。ちっぽけな奇跡を起こした。失ったものもある。だが──ゼロワンは言った。
『俺達にやり直しなんてものはないんだ──』
ゼロツーを失った。ゼロスリーを失った。だが、それでもゼロワンは諦めないと言った。それは生き残った自分が出来る、精一杯の贖罪なのだと。
目頭が熱くなる。気づけば、泣いていた。それでも今、前世の記憶を取り戻したドラグレイスとソラの二人を前にして投げ出すわけにはいかない。逃げ出すわけにはいかない。身体は絶不調で、右腕もまだ満足に動かず、シェアエネルギーも尽きているが万策が尽きたわけではない──。
まだ、やるべきことが残っているのだから。
バルザイの偃月刀と正面から打ち合う金属バットの衝撃に取りこぼす。そして、その身体を打ちのめすベアリング弾に膝を着くと、ドラグレイスが担ぎ上げた金属バットで後頭部を振り抜いた。ブラッドハートが宙で一回転、二回転して、その身体を更に蹴り飛ばす。コンテナや機材を巻き込んで倒れる姿に、ドラグレイスは舌打ちをした。
「チッ……まだ生きているか」
「普通なら死んでるんだけどねぇ」
頭部から血を流しながら、ブラッドハートが立ち上がる。ふらついた足取りで二人に向かって歩き出し、ブラックシスターがその身体を押し留めた。
「待って! 事情は分からないけれど、そんな身体で」
「うるせぇ! 黙ってろ、ユニ! 話し合いで解決できるような状況じゃねぇんだよ!」
「……エヌラスさん」
「ああそうだ、そこのバカの言う通りだ。俺達の殺し合いなど、今に始まったことではない」
「ずっと繰り返されてきたことだからね。何を今さら、って感じ。懐かしい気分だ」
呆れながら肩をすくめるソラだが、ブラッドハートの動きを射抜くようにバリスタを射出する。腕と足を貫き、そこへドラグレイスが間髪入れずに打ち上げるとソラが追撃した。
「お互いの動きがわかってると、やりやすくていいね」
「黙ってろクソメガネ」
「はいはい、クソ野郎クソ野郎」
神格者二人を相手に、エヌラスが手も足も出ない状況にブラックシスターは酷似した状況を思い出す──あれは、自分が大魔導師に捕らえられた時──そして、その時も今のように。傷ついて、ボロボロになって、立ち上がって打ちのめされて。まだ、エヌラスは起き上がる。
「っ──! X・M・B最大出力!」
「おっと」
ドラグレイスを狙った攻撃を、ソラが電磁シールドで防御する。その間に射線から逃れると、一瞬遅れてシールドが破壊された。そして、その二人の足元に黄金の矢が突き刺さる。
大魔導師が、上空から降りてきた。服装も浴衣姿からいつものラフなスタイルになっている。
「……大魔導師」
「貴様も記憶を取り戻したか?」
「いいや? 私は少し前に思い出していたが?」
「なんだと……? ならば、どういうつもりだ」
「どうもこうも、あるか? こいつは、俺の愛弟子だ。たった独りの弟子だ。それが為す術もなくバカ二人にやられているとあっては黙ってもいられないだろう」
片手を挙げて、それに二人が眉を上げると、その場から飛び退く。重縛結界を避けたドラグレイスとソラに「ほう?」と感心したような声をもらす大魔導師は足元に魔法円を展開した。
「見くびるなよ、大魔導師。今となっては貴様の魔術も通用すると思うな」
「魔法術式の解析データを引っ張り出せないのが悩みのタネくらいだ」
「クソ野郎とクソメガネが手を組んだクソの二乗が相手ではな」
「それに、だ。大魔導師? 貴様自身、相当な無理強いをしているだろうに。九龍アマルガムならいざ知らず、死霊秘術は──」
「それが、どうかしたかドラグレイス?」
静かに呟いた大魔導師の言葉に、背筋が凍る。魔法円から漂う冷気が白い霧を漂わせていた。まるで墓地の中にでもいるかのような──。そして、ソラが思い出す。邪神との戦闘でラステイションで亡くなった人達を。
「クソメガネ、お前がいながらにして仮面の邪神が出した犠牲者は何人だ。言ってみろ」
「…………」
「望むべくして死んだのならば成仏するだろう、だが違うのだよ! 如何な理由であろうとも生の輪廻から外れた命であるなら、この俺の死霊秘術は余さず違わず取り込むぞ! ハハハハハハ! どうしたドラグレイス、先程までの威勢は。──私は、構わんぞ?」
大魔導師が新たに纏う死者の冷気。魂を束縛するという外法の極地。それは、ラステイションで亡くなった兵士達と、機人達を自らの力として補充していた。嫌悪感を隠しもせずにドラグレイスが眉をつり上げる。
「外道が……」
「ゆえにこそ、覇道だ。エヌラス、私に任せろ。お前はリーンボックスに行くのだろう?」
「……師匠」
「負けるとでも?」
絶対的な余裕の笑みを見せて、大魔導師はエヌラスに片手を振った。
ハンティングホラーに跨り、リーンボックスへ向かう姿をソラが逃すまいと展開しようとした銃口をブラックシスターが撃ち抜いた。
「やらせませんよ、ラステイションでこれ以上の暴挙は」
「……やりにくいな、女の子相手は」
「さて、ユニ。奇妙な縁もあるものだな? こうして肩を並べるとは」
「言っておきますけれど、まだ許してませんから。何かあったらすぐ撃ちます」
「だ、そうだ。残念だったな大魔導師。実質三対一だ」
「三人まとめてかかってきても私は負けないが?」
「次元連結装置で世界を破壊しようとしたやつがよく言う!」
ドラグレイスが駆け出す。ソラが電脳空間から銃火器を転送し、それをブラックシスターが迎撃する。大魔導師は両手を広げて超常の魔術で持って応戦する。
死霊秘術。死者の魂を己の力とする、外法の極地。魔道の終着点。その完成には未だ至らず。だが、それによって信仰心を得ている大魔導師にはドラグレイスもソラも苦戦に追い込まれた。
黄金の矢をつがえ、ドラグレイスの身体を射抜く。そして、絶対零度によってソラの足を凍りつかせると重力を纏わせた回し蹴りで吹き飛ばす。
今度こそ、二人まとめて重縛結界の餌食となった。
「お前達の相手は、暇潰しにもならんな……」
「カッ……、くそが……!」
「……、──!」
「塔争の記憶を思い出したところで、どうなる? それがどうした。所詮は過去の遺物。次元神の掌の上で踊りたければ、好きにするがいいさ。だがな──エヌラスに手を出すと言うのなら、私は容赦しないぞ? アイツだけが今は頼りなのだから」
「……あく、までも……あの男の味方をするつもりか、大魔導師!」
「当然だ。そのために呼んだのだからな」
「っ……貴様ぁぁぁぁぁっ!!」
ドラグレイスが力づくで重縛結界を跳ね除けて大魔導師に向かって走り出す。金属バットを振り下ろすが、それを指先ひとつで受け止めた。
「頭を冷やせ、ドラグレイス? “黄金の魔女”に手を伸ばそうなどと、思うなよ。貴様の手に余る理想郷なのだからな」
そして、大魔導師のデコピンがドラグレイスの身体と意識を吹き飛ばす。身体を受け止めたビルが一棟倒壊するものの、神格者がこの程度で死ぬはずがない。ソラの頭にもブラックシスターがピタリと銃口を突きつけていた。
「……~~、降参。降参します、勘弁してください」
「……念のために拘束させていただきます。ご容赦くださいね、メガネさん」
「なんでみんなボクの名前覚えてくれないんだ……」
ボヤくソラの両腕を拘束して、ドラグレイスともどもに留置場へ送る。大魔導師は腕を組み、なにかを考えている様子だった。
「とりあえず一件落着ですけど……一体、何が起きたんですか?」
「……アダルトゲイムギョウ界における神格者が、記憶を取り戻した。エヌラスが殺し続けてきた前世の記憶とでも言えばいいか。さて、面倒だな」
「…………」
「次元神が戯れに行うにしては、冗談が悪すぎる。となれば、やはり仮面の邪神だろう。あいつは次元神の能力を奪ったのだから因果律操作くらいは出来るはずだ」
「それじゃあ……以前のように戦うしかないんですか?」
「そうはさせるものかよ。この私がいる以上は、そんなつまらん戦いを繰り返させてたまるか。嗚呼退屈だ、暇潰しにもならん話だ。どうにかしなければな……」
肩をすくめてみせる大魔導師の頬が、少しだけ緩んでいるのをブラックシスターは見逃さない。
「内心、楽しんでませんか」
「当然だ。今は、な。ゲイムギョウ界で見る全てが真新しい。新鮮な気分だ。この世界の全てを紐解きたいくらいだ。──だからこそ、今度は繰り返させんと言っている」
「ちょっとでも感心したアタシがバカでした。結局自分本位なんですね」
「アイツが心配か?」
「…………どうして、エヌラスさんばかりがこんな辛い目に遭うんですか?」
「どう言い繕おうが絶望の魔人は世界の敵だ。女神達が力を増せば増すほど、アイツは追い込まれていく。そういう均衡で成り立っているのだろう? 破壊者は守護者と共にあることは出来ない」
「……」
「だがそうと知っていながらアイツは、お前達と共にあり続けるだろう。それこそお前達に殺されるまでな」
「そんなこと──!」
するはずがない。できるはずがない。しかし、大魔導師は断言した。
「いつか来る。いつの日か、アイツはお前達女神によって討たれなければならない。それだけは覚悟しておけ。そうしなければゲイムギョウ界も、アダルトゲイムギョウ界も滅ぶ時が来る」
「…………そんなの、あたしに言われても。どうしようも」
「ふむ、それもそうか。すまんな、言う相手を間違えたようだ」
「なんかそう言われると途端に腹が立ってきたんですけど!?」
「ははは、さて」
──どうするかな。大魔導師は思案する。面倒なことになったのは事実だ。厄介なことになったのもまた真実であり、まごうことなき現実なのだ。
(……やってくれるな、ヌルズ・エクス・モルテス。だが貴様の思いどおりなどさせるものか)
ここまできたのだから──、やっと。ここまで“手がかり”を得ることができたのだから。