超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
剣姫は、プレジレントの演説に心底感動した様子で拍手を送っていた。
なるほど、狂信にはこのような形があったか。それほどまでの愛を秘めて狂う者もいるのかと。そして思い返す──第三帝都の反逆、反乱。反旗を翻し、劣勢と見るや否や白旗を挙げた半端者達の事を。深く恥じる、おれはそうまで愛されていなかったのかと。
「ベール。お前は幸せ者だな。これほどまでに愛されているとは」
「そうは言われましても、嬉しくありませんわ」
「何故だ? 首謀者の言い分は理解しただろう」
「ええ、まぁ……しかし、それがこのような形では」
然り。道理である。これほどの大規模軍事クーデターを起こされたとあっては、リーンボックスを治めている守護女神である自分の立場が危うい。だが、それでも不思議とグリーンハートのシェアエネルギーに衰えは感じられなかった。それどころか増加している気さえする。
──キャロラインによる電波ジャック。ゲイムギョウ界中に報道されている女神たちの活躍によって、各国のシェアは増加の一途を辿っていた。転換期を目前に控えた超次元において前代未聞の現象。
「誇れ、ベール。お前は確かに愛されているのだから。ベールだけではない、他の女神達も」
「つるちゃん……」
「おれは、独りだった。アダルトゲイムギョウ界において、たった独りぼっちの女神だ。だから今お前達を見て、羨ましいと思う。素晴らしいと思っている。女神達が肩を並べて共に戦っていることを。それほどまでに強大な敵を前にして、それほどの狂信を示したのだ。あのプレジレントは」
それを、誇らしく感じる。だからこそ、応えねばならぬ。グリーンハートの友達として。
アダルトゲイムギョウ界唯一の守護女神にして絶対勝利の女神として。
「──武装企業! ならびにプレジレント! お前達の覚悟、気概、社訓、熱意の全てにおいておれは敬意を表する! 誇るが良い、胸を張れ! お前達は確かに、その信仰を。その愛を。己の全てを世界に示したのだと! 誠に天晴である!」
剣姫の声は、プレジレントに負けぬほど響いた。腕を組み、声を張り上げる。グランドマザーウィルから発艦した大型自律兵器達が女神たちを包囲した。
「機械の身体でありながらその信念、人の魂に負けぬと存ずる! ならば問おう! その信念に殉ずる覚悟有りや否か!」
《死してなお貫いてこそ狂信だ、当然!》
「重ねて問おう! その覚悟、偽りはないか!」
《ハハハハハ! 答えはイエスだ! 虚偽報告は会社の沽券に関わる、当然イエスだ!!》
「よく言った狂信者ぁっ!! よくぞ吼えたな、武装企業ッ!
──誇るが良い。このおれ手ずから相手をしてやろう」
剣姫が左手を伸ばす。その掌に集まる輝きに、シェアエネルギーを感じ取ったパープルハート達が目を見開く。
シェアクリスタル──ではない。その手には、黒塗りの鞘。日本刀が一振り握られていた。しかし、剣姫自身からは確かに女神の力を感じている。
「つるちゃん、女神化は」
「二度も言わせるな。女神化はしない──が。アゴウの守護女神として、お前達を“敵”と認識した。国家に仇なす逆賊ではなく、国家に忠する反骨の愛国者。改めて──おれの力を貸そう、リーンボックスの守護女神グリーンハート。アゴウの守護女神、剣姫ことブレイドハートがお前の剣となろうではないか」
キン、──。
空を断つ、澄んだ風切り音。ゆらめく刀身には一点の曇りも汚れもない。
「もはや貴様らを笑いなどせん。貴様らを道端の小石が如く蹴り飛ばしもせん、戯れに殴るなど恐れ多い。刀の錆にするのも惜しいほどだ」
静かに剣姫は語る。その言葉に一欠片の感情も見せず。刀のように鋭く、鋼のように冷たい態度へ豹変した姿に四女神は背筋が凍る。
「貴様らの最前線は、此処だ。おれが終わらせてやる。このおれが、女神としての名を振るって手向けとしてやる。来るがいい武装企業──“私”が相手をしてやる」
「つ、つるちゃん……? 雰囲気が……」
「……もしかして、中身だけ女神化してねぇか?」
「器用なことするわね……」
一斉に襲いかかる大型自律兵器の群れ。その一部の機体は制御を離れてリーンボックス市街の方へと暴走を始めている。
プレジレントは、その様子を見てからキャロラインに無線を繋いだ。
《へい、キャロりん。特急便は用意できてるかい?》
『随分と前から既にスタンバイしております、いつでも』
《オーケェイ、それじゃあ──ヘェーイ! アルシュベイトォ!》
両手の散弾銃をひとしきり撃ってから、プレジレントは本社ビル前に着地するとアルシュベイトを手招きする。
《ステージを変えよう! ついてきな! せっかくだ、とっておきの秘密基地へご招待だ!》
《秘密基地とは、良い趣味をしている! 幼少時代を思い出すな!》
《ハハハハハハ! いつだって心は少年時代さ! カモォォォォンッ!!》
《待てぇぇぇぇい、フハハハハハハ!!》
『子供ですか、あなた達は。それと社長? キャロラインです』
笑い合いながらグランドマザーウィル本社ビルへと消えていく二人をよそに、女神たちは自分達を包囲する自律兵器の群れと交戦を始めた。
剣姫の一閃で小型ドローンが次々と撃墜されていく。納刀、からの居合抜き──。
「アゴウ国防剣術──“紫電”」
振り抜かれた刃に沿って、稲妻が走る。そして、剣姫は刀を大上段に構えて一歩踏み込んだ。
「“天山”──! チェェストォォォオオオッ!!!」
打ち下ろすと、空気が歪む。巨人の鉄槌が如く衝撃波から一瞬遅れて、道路にクレーターが出来上がった。一度剣を振るえば、拳とは比較にならない速度で武装企業の戦力が根こそぎ破壊されていく。まさに天下無双の守護女神。
「クロスコンビネーション!」
パープルハートが包囲網を切り抜ける。そちらに注意が逸れた先に、ブラックハートが後ろから大剣で斬り裂いていった。敵陣を掻き乱した中枢で、ホワイトハートが力任せに戦斧を振り回して大多数の敵を巻き込んで吹き飛ばす。その残党をグリーンハートが槍で貫いて確実に自律兵器の数を減らしていた。だが──グランドマザーウィルと警備部隊はまだ残っている。
《もーだめだぁー! 警備隊長、申し訳ありませんが自分は退勤させていただきます! お疲れ様でした!》
《お勤めご苦労! 交通事故に気をつけて帰るがいい!》
《止めないんですか!?》
《部下の面倒も見れない上司なぞ死ねばいい!》
《やだ、ツンデレ……!》
《おい! 暴走したドローンは何体だ! なに、百体以上だと!? どういうことだ! コマンドスクリプトの異常速度の書き込みエラーによる誤動作!? 馬鹿者、あれほど生産速度の過剰出力は業務に支障をきたすと言っていただろうが! 減給二ヶ月と反省文提出! それと今夜の飲み会は貴様の自腹を切ってもらうからな、覚悟しろ! 幹事は私だ! 生き残った者は奢ってやる!》
《すいません退勤取り消します!》
武装企業警備部隊は明るく楽しい職場です。隊長の口の悪さに目を瞑りさえすれば。
──リーンボックス市街地に向かって暴走を始めた自律兵器の中には、武装企業独自の改修機であるハードブレイカーも存在した。飛行能力を有する女神に対抗する為に、高機動に特化。接地性能を度外視した脚は細く、腰には補助ブースター。背面の翼状のスラスターも廃止、肩部装甲と一体化したメインブースターによる加速力は目を見張るものがある。
武装企業改修ハードブレイカー、改め《クラウンブレイカー》はその高速機動戦闘によってリーンボックス軍を翻弄していた。高層ビルの隙間を縫うように飛行する全高四メートル前後の機影は戦闘ヘリによる追撃も、戦闘機による迎撃も困難を極めている。陸軍に至ってはまるで話にならない。そのため、リーンボックス兵士達は市民の避難を最優先させていた。
その中にはシーシャ達の姿もある。
「あわわわわわ、大事になっちゃってるよぉ……」
「落ち着きなよビーシャ。しっかし、なんだってあんな速度で飛べるかねぇ……」
「あの機体、基になったハードブレイカーに旧時代の軍用兵器の設計思想をかぶせているみたいです」
「興味ないね。避難させてもらえるなら、従おう」
「とはいっても、そう簡単にアタシ達も避難できそうにないみたいだ。こっちに何体か来るみたいだよ!」
リーンボックス軍も応戦しているが、数に押されてジリジリとラインを下げていた。
シーシャはグローブを詰め直し、ビーシャはバズーカを担ぎ出す。ケーシャはサブマシンガンのマガジンをチェックしてから初弾を装填して構え、エスーシャは一度だけ肩をすくめると面倒臭そうにクリスタルの剣を持ちだした。
「あ、おい君たち! 危ないぞ!」
「なぁに、ハンター稼業に比べれば機械相手くらいどうってことないさ!」
「わたしのバズーカ砲の餌食にしてやるんだから!」
「こちらで敵の陽動は引き受ける。足を止めたら、後は任せた」
「動きはいつもと一緒だ」
リーンボックス兵士の止める声も聞かず、シーシャ達は目の前に迫る人型ロボットの群れと戦闘を開始。それに支援射撃しながらも、一般市民の避難を最優先させていた兵士達に新手のドローンと航空兵力を制圧したクラウンブレイカーが接近する。
「くっ、ここを離れるわけには──!」
「来るぞぉー!」
《────!》
右腕のガトリング砲で相手の動きを制限してからの、左腕のブレードを振り上げ──次の瞬間、クラウンブレイカーの真っ赤な機体が横殴りに吹き飛ばされた。死を覚悟した兵士達の前に現れたのは、大型自動二輪に跨った血まみれのスーツ姿の青年。その顔がちょっと形容しがたい凶悪な人相に、避難していた子供が何人か泣き出した。
「おい、無事か」
「いや君の方こそ大丈夫か!? 血まみれだぞ!?」
「え? あぁ、いいんだよ俺は。いつものことだし」
「いつも血まみれってどういうことだ!? い、いやそれはともかく。助かった、ありがとう」
「ロボット共はこっちで引き受ける。そっちは市民の避難を優先してくれ」
「本来なら我々がやるべき仕事だが……すまない、君たちに任せてしまって」
「いいんだよ、市民の安全守るのが仕事なんだからそっちは。俺なんて戦うくらいしか脳がねぇ穀潰しの人でなしで本当に甲斐性なしで、なんか、こう……ほんとにもう生きててすいませんでした……ミジンコに土下座しなきゃな……」
「いやもうちょっと自分に自信を持ってくれていいぞ!? ミジンコだって君を責めたりしないから! な!? 生きてていいからな! 職に悩むようならいい場所紹介するから!」
スーツの袖で顔の血を拭うと、エヌラスはシーシャに声を掛けられてそちらに視線を向ける。
「エヌラス! アンタ、その、大丈夫かい? 怪我だらけの血まみれで」
「いつものことだ。そっちはなんでリーンボックスに」
「まぁ小旅行で。こっちはアタシの友達」
「よろしく」
簡単な自己紹介だけを済ませて、エヌラスは起き上がるクラウンブレイカーに肩をすくめた。
「いい加減、疲れたからさっさと休みたいんだけどな……」
「バカ言わないでくれよ。これが終わったらアタシと手合わせだ。約束したじゃないか」
「その約束はまた今度にしてくれるか? 今日は調子が悪いんだ」
「泣き言言わない、男の子だろ?」
「男の子でもつい昨日まで瀕死の重傷で今日の朝からほぼぶっ通しで武装企業相手にしてたら疲れるんだよ」
「……なんでそれで生きていられるんだい?」
「人体の神秘。そら来るぞ、あいつは俺が相手する。雑魚はそっちに任せるぞシーシャ」
「こっちの手が空いたら手を貸すよ、それまで頑張っておくれよ」
「善処する」
後ろ手に手を振りながら、エヌラスは気合を入れ直して意識を左手に集中させる。
武装の“形成”。コツを掴みさえすれば、一瞬で稲妻を纏う細剣を手に握ることができる。大魔導師も人が悪い。これほど便利な魔術をなぜ教えてくれなかったのか。
「……俺がぶっ倒れる前に、決着つけてくれよ」
そろそろ限界だ。眠気と空腹と疲労感と、心が押し潰されそうな塔争の記憶で。