※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード300 ラストスタンドヒーロー

 

 

 

 ──プレジレントに導かれるままにグランドマザーウィル本社へ乗り込み、アルシュベイトはその姿を追っていた。

 スケート走行のように地面を軽やかに滑りながら時折振り返ってはスラグ弾や狙撃銃で狙ってくるが、アルシュベイトは難なく打ち払う。

 

《鬼さんこちらー!》

《鬼神と呼ばれるだけあって否定し難いな!》

《童心に帰るのも悪かないだろう!? おっと道を間違えた!》

《しかし秘密基地か、一体どこに?》

《聞きたいか! 聞きたいだろう! いいや喋りたい! 聞いてくれアルシュベイト! 俺の秘密基地は──宇宙だ!》

《……なに?》

《宇宙さ、宇宙! 大気圏と成層圏を突破した先のマァイホォーム! 誰もが夢見るプラットフォーム! 何者にも邪魔されず何者にも侵されず遠く離れた広大なスペース! さぁ行こうぜぇ、アルシュベイトォ! 女神にも邪魔されない俺達のコロシアムに! キャロライン!》

『了解致しました、社長。多少揺れますのでご注意を』

《だそうだ、アルシュベイト。手短なものに掴まっておきな?》

 プレジレントがスラスターを吹かした先、なにもない広大な空間に出た。無意味なデッドスペースにアルシュベイトが着地した瞬間、本社が揺れた。咄嗟に長刀を突き立ててしがみつく。プレジレントもまた、壁に手を着いていた。

 

《HEY、キャロライン! 気のせいかめっちゃ揺れるんだが!?》

『揺れると仰ったはずですが?』

《女神様の豊満バストばりに揺れるな、ハッハッハァ! キャロりんは揺れそうにないが!》

『…………──面白い御冗談を』

《おっと背筋が震える寒さだ。暖房きかせてくれないかアルシュベイト?》

《魂を燃やせ!》

《オーケイ、ファッキンホット!》

 お互いにサムズアップで応えて、その振動が収まるのを待つ。やがて揺れが少なくなり、窓から外を眺めれば、ゲイムギョウ界を見下ろす形でリーンボックスが遠ざかっていく。自分達が射出されたのだと改めて確認する。

 グランドマザーウィルから発車するシャトルを見上げて、剣姫はそれに向けて刀を地面に突き刺すと腕を組んだ。

 ──その凛とした青い瞳に射抜かれる。口を閉ざし、見送る姿を目に焼き付けて。

 横から迫るプレデターを蹴り飛ばし、剣姫は刀を手にすると再び女神達と共に敵の包囲網を壊滅させていく。

 

《おっととと……揺れも収まってきたか? 次からは乗り心地も改良しなきゃな》

《次などあるのか?》

《常に万事に備えあり、だ。まぁ一休みといこうじゃあないか。ここでぶっ放したら二人仲良く放り出される》

《いいだろう》

 しかし、宇宙とは──また随分と粋な計らいをしてくれる。アルシュベイトは長刀を引き抜いて背面に背負う。プレジレントも武装をコンテナに収納した。

 外の景色が青空から、宇宙に変わっていく。その途中で人工衛星が見えた。

 

《あれはリーンボックスの軍事衛星さ。ラステイションと共同開発したがね》

《ほう……初めての宇宙旅行というのは、こう……そわそわするな!》

《だよな、わかるぜその気持ち! 俺だって初めてだ!》

《…………待て、プレジレント。お前今なんと言った?》

《二度も言わせるなよ恥ずかしい! ()()()()()()()()()、と言ったんだが?》

《秘密基地だろう!? お前の! 何故それが宇宙にあると言っておきながら、お前も初体験なんだ!?》

《HAHAHA! なんのことだアルシュベイト? 地上で作って宇宙に打ち上げて、そこに俺も今日初めて行くから初体験ってことだ、そーらなにもおかしくない!》

《なるほど、その認識は正しい! すまなかったな!》

《いいってことさぁ! おっと、終点にご到着だ。お降りの際は足元にご注意を?》

《気遣い痛み入る》

 最後に一度だけ揺れてから、静まり返る。それから間もなく自動ドアが開き、プレジレントが先を譲った。アルシュベイトはそれに会釈してからシャトルから出る。

 

《あいたぁ!》

《お前が転んでどうする》

《ハッハッハ、いやはやまったくだ!》

 何故か自分で言っておきながら段差に脚を引っ掛けたプレジレントを立たせながら、二人で秘密基地を歩く。

 

『──……ザッ──、…………!』

《……悪いなぁ、キャロライン。此処じゃ通話禁止だ。悪く思うな》

『…………』

 ノイズを残して通信が切れる。プレジレントの背中を眺めながら、アルシュベイトは基地の中を見渡す。一点の汚れもない、無音にして無菌の白い鉄色の世界。

 

《……アルシュベイト。此処で俺達の決着をつけよう》

《望むところだ》

《最高のロケーションだ。言うことはなにもない》

 通路を歩き、隔壁を開けながらプレジレントは静かに言葉を続けた。地上では今頃グランドマザーウィルが女神達の猛攻に晒されて攻略されている頃だろう。

 

《俺も武器の弾薬を補給したいんだが、いいかい?》

《ああ、構わんさ。こちらも推進剤を補充させてもらう》

 

 一回り大きい隔壁を開けて、アルシュベイトはその光景に足を止める。

 ガラス張りの天窓からは、無数の星が見えた。光源によって照らされる無数の影の中をプレジレントは歩く。

 壁面を埋め尽くす無数の機影。その全ては旧型と捨てられた第一世代機。まるで展示室だ。武装企業の歩んできた歴史の博物館のように。しかし、その中でも一際目を引くのが、巨大な一枚の肖像画だった。

 スーツを着た男性が、今よりも一回り大きいプレジレントと並んでいる。その男性の隣には、秘書官と思わしき女性が立っていた。二人ともに笑顔で描かれている。

 そして──その肖像画の下に展示されている機体はプレジレントそのものだった。しかしその全長は一回りほど大きい。背負い込んでいるコンテナは取り外されていた。

 

《…………俺は機械だ。技術力とノウハウさえあれば無限に量産される、鉄と螺子と歯車と燃料の塊だ》

 ガラス張りの展示室に手を当てて、プレジレントは静かに語りだす。こうして、過去と対峙すると嫌でもわかる。自分が機械なのだと。どこにでもいる、何の変哲もない鋼鉄の人形なんだと。

 

《この肖像画に描かれたのは俺の人格の元となった人間だ。守護女神が生まれる以前、リーンボックスを治めていたらしい。今はゲイムギョウ界を離れて“外の世界”ってやつで熱弁を振るっているだろう》

《……お前は》

《ああそうさ。俺は偉大なる父の、レプリカ品──偉大なる“大統領(プレジデント)”のレプリカントとして。彼の席を継ぐために作られた。遠い昔の話さ。元々人間が着込むパワードスーツとして開発された。だが、技術力が発展すると部品の小型化と高性能が顕著になった。その結果、俺はここまでのシェイプアップが可能になったってわけだ》

 全高二メートル程の機体にまでリサイズされたのは、時代の流れだ。だが、とプレジレントは続けた。

 

《だが、そいつは続かなかった。俺の時代は来なかった。俺の時代は終わったんだよ、アルシュベイト》

《それは、なぜだ》

《それが望まれなかったからさ。他でもない、偉大なる父本人が望まなかった。世界に自由と愛と平和を。ラブ・アンド・ピース──世に平穏のあらんことを。今頃は、政治の席でよろしくやってるんだろう。なぁ? 俺は時代に取り残されちまった。俺はたった独り、時代に乗り遅れた。それでも今日まで会社を背負って戦ってきた。褒めてくれよ、偉大なる父(グランドファザー)

 肖像画に語りかけるプレジレントの背中が、小さく見える。

 一大軍事企業をここまで成長させたのも、ここまでの偉業も、プレジレントの行いの全ては所詮偉大なる先人である“父親”の真似事。模倣でしかない。だからこその、偉大なる模倣者(プレジレント)

 

《アンタは強かった。アンタは素晴らしかった。俺じゃあとてもじゃないが届かない。辿り着かない。なぜなら俺は機械だ。プログラムに従う他にない存在だ。数値以上の結果と性能を発揮することができない。俺がどれだけ声を張り上げても人の心には届かない。俺がどれだけ愛を叫んでも伝わるはずがない。なぜなら俺には血も涙も、心も無いんだ……そんなものは、無いんだよ。アルシュベイト》

 残されたのは、かつての技術力。もはや失われた時代の遺産。それを奪おうとラステイションの企業とリーンボックスの競合会社は躍起になった。その台頭がアームドソウルス。アーマード・カンパニアはその経済力と戦力でプレジレントの技術を守ってきた。存在そのものがブラックボックスである、武装企業代表取締役を。

 

《うちの企業がロボットを採用しているのもそれが理由さ。機械は命令に逆らえない。だから俺の言葉に社員の誰もが従う。役員の誰もが疑わない。人間の社員は、俺の命令に従わない。誰も俺に理解を示しちゃくれなかった。ただ一人……キャロラインを除いてな》

《秘書官殿のことか》

 プレジレントは静かに頷いた。企業提携の折に、入社してきた敏腕秘書官。何かと企業間で衝突してきたアームドソウルスとアーマード・カンパニアを治めてきた。だが、その正体がなにかなどとっくにお見通しだ。

 反女神派にして、女神不要論者。ハァドラインの敵だ。仇敵だ。決して相容れることのない水と油の関係だ。しかし、プレジレントはそんな彼女だけを秘書官に任命してからずっと手元に置いている。それは、キャロライン自身も望んだことだった。

 

《キャロラインがうちに配属された初日に、なんて言ったと思う? あいつは俺にこう言った。

 「はじめまして、社長。私は貴方のデータを解析するために配属となりました、キャロラインです。女神不要論者で、狂信者であるあなた方の敵ですが、よろしくお願いします」ってな。驚いたよ、正々堂々と目的を明かした挙げ句にいけしゃあしゃあと頭を下げる彼女に度肝を抜かれた!》

《そして、今日まで秘書官として働いてきた》

《ああそうさ。だが解雇する気なんてサラサラ無い。今後も俺の秘書官として、そして俺が亡くなった後は──社長の座を継いでもらうさ》

《それを彼女に相談したか?》

《いつもの調子で「縁起でもない、断固辞退させていただきます」って突っぱねられちまった! ハハハハハハハ、ギャーッハッハッハ、ゲホッゴホッ! ストッ、ゲホッゲホッ──!》

 咳き込み、むせている……だがそれも“ふり”でしかない。人間らしくあろうとする道化の真似事。不確定要素と不確定事項の連続と予想出来ない結果と未来。その不規則性の連続こそが、人間なのだろうと。

 

《ハァ──。なぁ、アルシュベイト。女神様は好きか?》

《愛している》

《即答かい。そりゃいい、結構なことだ。大変幸せなことだ……お前は、人間だったんだろう? これまでの口ぶりから察するに》

《……ああ、そうだ。そして命を落として、機械の体となった》

《人であった頃から、女神を愛していたか》

《そうだ。俺は、それを実現するために。女神に知らしめるために最強の座を目指した》

《そして勝ち取った》

 アルシュベイトは深く、静かに頷いた。それが、プレジレントにとってどれだけ残酷な事を伝えることになろうとも。

 

《……俺は機械だ》

 拳を開き、ゆっくりと握りながらプレジレントはじっと自分の手を見ていた。動作確認のテストを兼ねて、アームを伸ばす。

 

《俺は愛国者だ。リーンボックスを愛している。守護女神を、グリーンハートを愛している。俺の部品は全部純国産だ。武装企業の利益は国に還元している。俺達の信仰を示すためにシェアドライブなんて物も作った。三国を相手に俺達の威光を示した! 女神達と対等に渡り合ってすら見せた! だがまだ足りないってのか。まだ俺に足りないものがあるってのか! 何が足りない!? 血の代わりにオイルの流れる体か!? 涙の代わりの硝煙か!? 心の代わりにぶっ壊れた個性満載の人格搭載人工知能か!? 答えてくれ、アルシュベイト──》

《……プレジレント》

《俺と、今のお前に、何の違いがあるっていうんだ? 女神の寵愛を受けたお前と、それを壊れるほど手を伸ばした俺のどこが違う! なぁ教えてくれマイフレンド……()()()()()()()()()()()()()()()()()ってのに》

 ──、アルシュベイトはその言葉に一人の好敵手(せんゆう)の姿がよぎった。

 いつかの記憶。いつかも定かではない塔争の記憶。女神達を置き去りにして立ち向かい、立ち上がってきた血に濡れた姿。

 自分に手を掛けるその時、確かに泣いて、謝って──壊れそうな心を繋ぎ留めてきた謝罪の言葉がある。

 世界の全てを救おうと。友達を助けたくて、救いたくて地獄を独り歩いた男がいた。

 目の前に立つ機械が。プレジレントが。同じように苦しんでいる。

 心などない。感情もない。その人格も全ては模倣された物だ。それに従うことを良しとせず、狂う他になかった。女神の愛を手にする為に。ただ一言を、伝えるために。

 

《──誰も、俺達を救っちゃくれなかったんだ。女神でさえも》

 ──誰か、こいつらを救ってくれ。俺はどうなってもいいから。

 

《……》

 この男の敵が、自分で本当に良かった。一目見た瞬間から、宿敵であると理解した。それは、何故か。

 身の程を弁えないバカの相手は、身の程を弁えないバカが相応しい。

 女神への愛を叫ぶ馬鹿が、此処にもいた。改めて、自分が相手で良かったと、心底そう思う。

 エヌラスではこうもいかなかった。血まみれで、ボロボロで、何度でも立ち上がって──みんなを悲しませていただろう。

 自分が機械の身体で良かった。鋼鉄の肉体で良かった。壊れてしまえば取り替えて、直る自分で良かった。

 もうあの日のように──御姫が涙を流した時のように。

 誰も悲しませない俺で、本当に良かった。

 

《プレジレント。俺達に救いなどない。俺は人間だった。かつて、俺には血が流れていた。俺は涙を流した。俺には人としての心があった。だが、この機械の身体で残されたのは俺の魂だけだ》

 熱い血潮も。頬の涙も。手にすることが出来た女神の愛も何もかも失った。

 ならば今もなお、なぜ戦うのだろう。何一つ得られるものがないこの戦いに。

 

《俺達は、戦う為に作られた。その手に人の愛を握れば潰してしまう。女神の寵愛など、以ての外だ。この手に人の温もりを抱くことも、愛する者の涙も拭うことも、誰かを助けることなど出来ない。この手に握ることが出来るのは、武器だけだ。戦うための力だ。武力だ。誰かを傷つける為の力でしかない。俺は言ったな、愛とは無力なものだ。守らねばならないものだと》

《ああ、覚えているさ》

《女神の愛も同じことだ。だから俺は剣を手に執る》

 片刃型長刀を引き抜いて、アルシュベイトは床に突き立てて腕を組んだ。

 

《プレジレントッ! 愛など仰げば尊きもの!! 救いを求めるなど言語道断ッ! 機械の身体ならば尚更! 俺は、御姫の(アゴウ)を守るッ! 女神が愛する全てを! それに理由も見返りも必要ない! 俺は戦う為に機械の身体となったのだから!》

《──────》

《認めよう、プレジレント。お前もまた、俺の好敵手(せんゆう)だ。鋼鉄の戦友(とも)だ。銃を手にするがいい。その撃鉄を起こせ。それもまたお前の愛の形なのだから》

 プレジレントは静かに首を振る。そして、肖像画を見上げた。

 

《……なぁ、グランドファザー。聞いてくれよ。見てくれたかい。俺に“トモダチ”ってのが、出来たらしい。生まれて初めてだ。嗚呼、初体験だ────今日は死ぬにはいい日だ。そうだろう》

 背を向けて、背面の重装甲特殊機動コンテナを開く。その中から銃器を手にしてアルシュベイトと向かい合う。腕を組み、威風堂々と仁王立ちで迎え撃つ護国の鬼神を。

 

《最高の戦場にしよう、アルシュベイト。最高の最期(ラスト)にしようじゃあないか》

《無論だ。プレジレント。此処が》

《ああそうだ! この戦場が──!》

《俺の、否! “俺達”の!》

『──魂の場所だッ!!』

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