超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
昼食会――もとい、ミーティングはテーブルを囲むエヌラス、プルルート、ノワール、ユウコを見守る形でアルシュベイト、ドラグレイスが壁際で待機するという奇妙な光景に落ち着いた。一口食べるだけでもその材料の質が明らかに違うことにエヌラスは驚きながらも、悔しいので何も言わずひたすら手を動かして胃袋に料理を流し込む。一口大に刻んだ肉に、野菜を煮込んだスープは香りだけでもないはずの食欲をそそる。そんな自分を見て、手も動かさずニコニコ笑顔のユウコに怪訝な表情をしながらもエヌラスはサラダを取り分ける。
「ンフフゥ……」
「なんだよ、笑い出して……」
「美味しい?」
「眠気と疲労がなけりゃ、泣くほど喜んで食ってた。味はともかくな」
「で、味はどうかな」
「まずい飯をかっこむ男に見えるか?」
《エヌラス。お前確か、空腹のあまりネズミを丸焼きにして食っていなかったか?》
「飯食ってる最中にそれを言うんじゃねぇ!! 思い出しちまうだろうが!」
「食ったことは否定しないの!?」
残念ながら過去に前科有。人間、貧しくなると蓼食う虫も選んでいられないのだ。明らかに引きつった顔でノワールがスプーンに乗せた肉を見ている。
「……物凄く美味しいネズミとかじゃないわよね」
「だーいじょうぶだよ。ネズミの肉ぶっこむ料理なんてそこの馬鹿にしか出さないから!」
「テメェ!」
《うむ。仲睦まじき食事風景は我が腹を満たすに充分だ。なぁ、ドラグレイス》
「生憎と俺は貴様ほど呑気ではない」
《相も変わらず剣呑な男よ。息抜きの一つ、休息一つ挟んでもバチは当たるまい》
「ほざけ、軍神。今こうしている間に貴様の国民がどれだけ血を流していると思っている」
《還らぬ命があることは百も承知。戦禍の只中にあっても“ヒト”を忘れるべからず。貴様のようなケダモノと一緒にするな》
「……抜かしたな、アルシュベイト」
《ほざいたのは貴様だ、ドラグレイス。決闘ならばいつなりとも受け入れ――》
バガァン――!
「へーい、へーいへーいへーい? そこの二人は私達の愉しい楽しいランチタイムでなーにーをお話してくれるのかなー? 楽しそうだねぇ……!」
《…………》
「…………」
二人の顔の間に、壁に“突き刺さっている”のは鈍器だ。正確には調理器具の一つだが――フライパンが、壁に刺さっていた。ヒビ一つ入れず、綺麗に埋まっている。笑顔で頬杖を着いているユウコは一見すればいつもと変わらない。……こめかみの青筋さえなければの話だが。
「た の し そ う だ ねぇ……?」
《……すまなかった》
「……ちっ」
「はい、よし。じゃあご飯終わるまで大人しく待っててねーそこの二人。返事は?」
《了解した》
「さっさと済ませろ、エヌラス」
「ほほへおへにふふんはふぇぇ」
「“そこで俺に振るんじゃねぇ”と言いたいのは分かるが、食い終わってから話せ」
“今の分かるんだ!?”
ノワールが驚いていたが、ユウコの反応から察するにこの三人は付き合いが長いようだ。
「あ~」
「どした、プルルート」
「エヌラス、ちょっとジッとしてて~」
「ん?」
プルルートに言われて、エヌラスがスプーンをくわえて固まる。すると、徐々に顔を近づけて――ちゅ――口の端に付いていた食べカスが舌の上に乗せられていた。咀嚼して飲み込む。
「えへぇ~」
「……いや、普通に取れよ」
「やぁだ~」
一部始終を見ていたユウコが頬を赤らめて視線を逸らしていた。ノワールは腹立たしそうに食事に手を付けていたが、勢い余ってむせている。咄嗟に手を伸ばした水の入ったコップが空になっていることに気づいて、エヌラスがそれとなく自分のコップを渡すと一も二もなく飲み干した。
「――ん、ハァ。危なかった……つまらないことで死ぬところだったわ……」
「お、おう。落ち着いて食えっての……悪い、ユウコ。水取ってくれ」
「自分で取れば」
「……なんで怒ってんだ」
「怒ってないもん」
「……え、あれ。エヌラス……アナタ、いつ水飲ん――」
そこでノワールが気づく。
自分の手元にあったコップが空で、今手にしているコップも空で、エヌラスの側にあるはずのものがない。つまりは、間接キスということだ。
「あ……ぁ……ァ――――」
「いいからはよコップ返せや、水飲まないと喉通らねえ量なんだか――」
「か、返すわよっ!」
「べぼぁ!?」
耳まで真っ赤になりながら突き出したコップがエヌラスの顔面を殴打する。それを受け取り、水瓶に手を伸ばそうとしたが、やけに遠い。
「……おい、ユウコ」
「なにー」
「水、取ってください……」
「当店ではセルフサービスとなっておりまーす」
意地でも手元に寄せた水は渡さないつもりのようだ。機嫌を損ねた相手にねだっても仕方がない。
「プルルート、悪い。取ってくれるか?」
「え~? あたしのあげるよ~?」
「いえ結構です。新しい水をください」
「む~……あたしのは嫌なのぉ?」
「いやじゃないです……」
「じゃあ、いいよねぇ~。はい」
「ありがとうございます……」
敢えなく玉砕。エヌラスはテーブルに突っ伏した。違うんです、そうじゃないんです。俺が欲しいのは貴方の水ではなく私のコップに注いだお水なんです。ああほらノワールとユウコがスッゲェ怖い顔してる。――エヌラスは自分がプルルートの良い玩具にされているのだと改めて思い知らされた。
「……何故アイツはああも女に頭が上がらないのだ?」
《ふむ。察するに、性根がヒモだからではないか?》
「ヒモの神様か」
《うむ。ヒモ神様だな》
『ハッハッハ』
「今の一言はゼッテェ許さねぇからな!! お前ら赦さねぇからなッ!」
手持ち無沙汰なアルシュベイトもドラグレイスも見ているのに飽きたのか口を挟む。
「甲斐性なしめが何か言っているぞ、アルシュベイト……」
《エヌラス、お前は真っ当に稼ぐということを知らんのか……》
「犯罪王に向かって何言ってやがんだこの鋼の軍神!? 俺の国で真っ当に生きろとか稼げとか無理だぞ! 無理無茶無謀の三段論法だ!」
《なら出稼ぎすればいいだろう。論破》
「ぐぅの音も出ねぇ……!!」
完・全・敗・北――!
「あ、そうだ。お昼のバラエティ見なきゃ、テレビの電源ポチッとね」
「……おい、ミーティングはどうした」
「いいじゃん後でも」
「これではただの昼飯だろう……まぁいい、分かっていたことだ」
「ふふん、ユノスダスではメジャーな長寿番組『笑えばいいとも!』は国民的バラエティなのだ! さーて今日の放送どんなハプニング起きるかなー」
「まともに放送終了したの見たことねぇぞ俺……」
《前回はスタジオ爆破で終わったな》
「爆発オチとか最低ね!? 大丈夫なのその番組!?」
「何が起きても生中継がモットーだもんね」
「放送事故とか毎度だぞ?」
「たくましい放送局ね……」
ちょうどコマーシャル明けだったのか、馴染みある司会者といつものメンバーが観客席からの拍手に迎えられてお辞儀をしていた。新聞欄には番組タイトルがあるものの、その説明には『いつもの生中継で刺激的にお送りします!』と書かれている。
『はーいどうも! それでは今回のゲストをお呼びしましょう! 毎度ながらトンデモないゲストを呼んでは番組に収拾がつかなくなることに定評のある当番組ですが、今回は一際どえらいことをしでかしてくれました! 番組スタッフ、ナイスです!』
いつもの司会者はマイクを手にしてハキハキと進行するが、毎度ながらテメェはどうやって生き残ってんだと首を傾げていた。なお、前回放送終了直前では爆心地でマイク片手に「それではみなさんまた来週お会いしましょう――!」と言いながら満面の笑みで閃光の中に消えている。
「相ッ変わらずこの司会者すげぇよな……」
「実は私もあの司会者が何者の誰なのか知らないんだよね。でも放送初期から毎週欠かさず出てくるし、別にいいかなって」
「お前の国だよな!? 国営放送だよなコレ!?」
『さぁそれではご紹介しましょう。本日の犠牲――もとい特別ゲスト!』
「今犠牲者って言いそうになってなかった!?」
『なんと、別次元からやってきたという自称女神様、ネプテューヌちゃんです! ではどうぞー!』
『もー、だから私は本当に女神なんだってばー! みんなー、見てるー!? イエーイ! プラネテューヌの女神、ネプテューヌだよー!』
『さらにさらに、なんと妹のネプギアちゃんも特別出演! あ、本人は許可取ってまーす』
『は、はひ! 不束者ですがよろしくお願いします!』
『ぶぅーーーーーー!?!?!?』
その場にいた全員が吹き出した。
何やってんだあの女神は、と。