超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プレジレントの秘密基地──そう銘打たれたのは、彼が生まれた生産工場。アーマード・カンパニアが初めてゲイムギョウ界に作った会社。軍事用ロボットの開発を主にしていた。高度な戦闘AIによる自律戦闘支援ロボット。人間の代替品として。ラステイションから始まり、リーンボックスで第一号の支社が作られた。その工場を宇宙に打ち上げたのは、そこに詰め込まれたこれまでの技術力の集大成を他社へ譲らない為。誰にも触れさせない為に。そして、そこへのアクセス権限を有しているのはただ一人だけ──武装企業代表取締役。
防弾ガラスによって守られている展示されている旧世代の機体はスラグ弾、徹甲弾、はてはマルチミサイルの直撃を受けてもヒビ一つ入らない。特殊重装甲機動コンテナを開いて、その中から次々と際限なく武装を取り出しては持ち替えるプレジレントの、最後の猛攻。対するアルシュベイトは突撃砲で応戦し、マガジンを交換しながらも長刀を片手に凌いでいた。
《ハハハハハハハ! ハーッハッハッハ! ──アルシュベイトォ!》
プレジレントは叫ぶ。そこに込められた激情も感情も、歓喜を滲ませる上ずった笑い声も何もかも造り物。鋼鉄の道化師は嘲笑う。ああ俺はこんなにも滑稽な奴だったのか。だが、と。その思考プログラムにノイズが走る。
《コォォォルミィィィ! コール・ミー、コール・ミー! マイネーム!!》
初めてのトモダチだ。部下は掃いて捨てるほどいる。上司と呼べる相手は居ない。有能な秘書官もいる。愛した相手は女神だ。──孤独だった。ずっと独りだった。このゲイムギョウ界においてオンリーワンだった。量産されるアームドビット達。肩を並べて足並みを揃えて進軍する第二世代機体。性能を突き詰めた傑作の第三世代。生存性と耐久性に特化した第四世代。そのどれにも自分は属さない。ゲイムギョウ界のロボット達のどれにも自分のデータは存在しない。抹消された存在だった。
武装企業代表取締役という座席だけが、自分に居場所を与えてくれた。戦闘用に作られておきながら、会社の経営に専念しなければならない矛盾の毎日に刺激が欲しくてたまらなかった。
“俺も皆のように戦える”と証明したかった。蓄積されている戦闘データの全ては、かつて国を取り戻した偉大なる父の英雄譚。そんな歴史は存在しない。当然だ、守護女神がいるのだから。彼は戦った。女神の華々しい戦果の裏で、水面下で。人々の自由と愛と平和の為に。
《プレジレントォォォッ!!》
《サァァァンキュゥゥゥッ!!!》
残弾の尽きたショットガンを放り捨て、マシンガンを掴み取る。防壁を構えて突撃してくるアルシュベイトの長刀が胴体を叩きつけた。踏ん張り、背面スラスターを噴射して蹴り返す。転がり、受け身を取った相手へ追撃のマガジンを撃ち続ける。
──トモダチってなんだ。そんなもの俺には今までいなかった。お前には沢山いたんだろう? アルシュベイト。軍事国家アゴウ国王。だがそれすら失って、まだ立ち上がる。お前はそれほどまでに熱い愛の抱擁を国に捧げているっていうのに。嗚呼まったく。俺がバカみたいじゃないか。
感情があるのなら、泣いて喜びたい。諸手を叩いて喝采と共にお前を抱きしめたい。こんなデータは初めてだ。何もかも新鮮な気分だ。
《──ハッ、ハッハッハ! ハッハッハッハッハ、ギャーッハッハッハッハ!》
《ちぃっ!!》
トモダチ。トモダチだって? お前が? 俺の? ──こんな、模倣品の俺の。道化を演じ続けていた俺の初めてのトモダチだって? 女神にすら助けてもらえなかった俺の? なぁ教えてくれよ、マイフレンド。
空撃ちするマシンガンを廃棄して、プレジレントはアルシュベイトにハンドガンを撃ちながら接近する。
《最高だ──! お前は最高だ、アルシュベイトォ──!》
──どうしたら、俺はお前みたいに強くなれるんだ?
《最高にイカしてるぜ! 最高にイカれている俺の! 最高のベスト・フレンドだ!》
至近距離からのハンドガンを避け、切り捌きながら距離を取り、着地と同時に長刀を打ち下ろす。接近していたプレジレントはハンドガンを回して受け流し、銃口を顔に突きつけた。
アルシュベイトの顔面装甲の左半分を掠めて、弾丸が外れる。
《ああ──お前は……! お前は! まったく、どうして!》
ハンドガンが弾切れを起こす。アルシュベイトの突撃砲も残弾が尽きたのか、武装ラックに戻した。残るは長刀一本。天下無双の不退転。
《俺をこんなに夢中にさせてくれるんだ、アルシュベイト! 罪作りな野郎だな! お前は俺から女神への信仰心すら奪うってのか! お前に夢中だぜアルシュベイトォォォッ!!!》
特殊重装甲機動コンテナを開く。その内部機構は文字通りの企業秘密が詰め込まれている。収まりきらないサイズの連装砲を取り出して、連結させる。
《──愛してるぜぇぇぇぇぇっ!!》
プレジレントが反動で後退り、白い床に線を描きながら対艦連装主砲《パーレイクイーン》の砲弾を撃つ。アルシュベイトは砲煙と爆炎によって送り出される四・一インチの砲弾に向けて、片刃型長刀を全力で振り下ろした。
《つぉ──!》
しかし、その質量と物量は明らかなオーバーキルサイズだった。一発、二発と長刀で切り払うが右腕部の人工筋肉が耐えきれずに幾つか断絶する。防ぎきれなかった砲弾を腰をひねって避けようとするが、張り出した左肩部装甲が引っかかった。それに引っ張られるようにアルシュベイトが吹き飛ぶ。
プレジレントもまた、その砲塔の連結を解除させてその場に落とした。両腕の関節部が悲鳴を挙げている。バチバチと火花を散らして鬱陶しく手を振りながら。
《ああ、愛してるぜ。女神グリーンハートに向ける信仰なんかじゃあない。この俺のちっぽけな人工知能がお前の戦闘記録で一杯だ。お前に夢中だ、どうしてくれるんだ?》
大きなモノアイカメラの頭部を叩き、プレジレントは立ち上がるアルシュベイトを見つめる。
砲弾によって大きくえぐられた左肩。弾丸を掠めた左顔。傷つき、自分と同じように火花を散らしながらも、二本の足で立っていた。
壊れていく軍神。一国の主でありながら、不退転の進撃を敢行する。その傷を。その怪我を。その名誉の負傷を誰が笑うものか。
《どうするもこうするもあるか。存分に。気の済むまで。心ゆくまで、戦えばいい。俺が受け止めてやる。俺も貴様に叩きつける。この俺の、女神への愛を。……プレジレント、貴様もそうするがいい。女神グリーンハートへの信仰。純然たる狂気の信仰を撃鉄に乗せて、俺に撃ち込め。その全てを凌いだ後、一太刀だ──その一撃を持って、決着としよう》
ギギ──……、アルシュベイトがぎこちなく動く左手で長刀を掴み、構える。
《ああそいつはいい。最高だ。お前は本当に俺の最高記録を全部塗り潰してくれるな。俺の会社をくれてやりたいくらいだ。アルシュベイト……全弾、持っていきな。次で撃ち尽くしてやる》
ヂッ──……、プレジレントのカメラにノイズが走る。既に照準装置は壊れている。全手動で火器管制装置を制御していた。段差に足を引っ掛けたのも、すでに距離を測るだけの機能が残されていないからだった。機体損傷は過半数を超えている。これ以上の損傷は間違いなく戦闘行動に支障をきたす。通常業務にも問題が起きるだろう。ナンセンスなことは全て後回しだ。戦場は楽しまなければ、戦場は最高のエンターテイメントだ。
《俺の信仰を、俺の全部を余さず持っていけ! お前にくれてやるぜ、アルシュベイトッ! ラストショーダウン、だッ!》
特殊重装甲機動コンテナの内部機構、サブアームを全て展開する。内臓している銃器のトリガーに指を掛けてアルシュベイトを睨んでいた。文字通りの全弾発射。
《
ガトリング砲が。マルチミサイルが。無反動砲が。
プレジレントの持つ重武装の全てがアルシュベイトに牙を剥く。
《チェェェストォォォオオオオッ!!!》
片刃型長刀一振りで、跳躍ユニットを全開にしながらアルシュベイトはその砲火の中へと駆け出す。弾丸が、砲弾が、榴弾が全身を打ちのめす。HUD表示される体の損傷が次々と赤く染まっていくが、それに恐怖はない。痛みもない。あるのはただ、異常値を叩き出す心金の燃焼効率だけだ。
風になびく黒い髪を思い出す。あらゆる困難と絶望を前にして、なおも敢行する不退転の神撃。太陽のようにまばゆい笑顔を思い出す。笑顔で差し出してくれた手を忘れはしない──。
──アルシュベイト。おれは、お前を──。
《──ォォォォオオオオオオオオオッ!!!!》
《まぁだだぁぁぁぁっ!!!》
プレジレントが特殊重装甲機動コンテナの銃器を全て撃ち尽くし、空っぽになったコンテナを閉じて自らの胸部装甲を突き出す。装甲を展開して現れるのはエネルギー砲。機体動力に直結されたプレジレントの切り札。
秘密基地で衝突する光条と、長刀。狂信の切り札を切り裂きながら、不退転の進撃はなおも止まらない。だが、その歩みが止まる。その出力に押し負けつつあった。
長刀の背に手を押し当てて、アルシュベイトは踏みとどまっている。だが熱までは防げないのか装甲が融解していた。
プレジレントの機体からエネルギー残量がみるみる減少していく。機体の耐久値すら度外視したエネルギーキャノンの出力に砲門が焼き切れつつあった。
胸部装甲内臓エネルギー砲《キャロルカノン》によって自壊しつつあるプレジレントのカメラがひび割れていく。
《────
閃光と爆炎が、視界を焼いた。
限界まで放出した砲塔は焼け付き、使い物にならなくなっている。
ノイズだらけの視界に映るのは、白銀の武神。
《──、ああ、まったく……反則だぜ、アルシュベイト──》
《…………》
《お前は、その鋼鉄の身体に“奇跡”を宿していたんじゃあ……勝てるはずがないだろう?》
二天一流。不退転の神撃、仕る。アルシュベイト=シャイニングソウルは静かに踏み込み、そして二刀を掲げて飛びかかる。その姿を見上げて、映像記録に焼きつけていた。
《俺に奇跡は微笑まない。嗚呼、なんて──美しいんだ》
《──チェェェストォォォッ!!!!》
そして。プレジレントはシャイニングソウルの二刀を受け止めた。重装甲を切り裂き、叩き割りながら動力部にまで到達する奇跡を宿した一撃はその斬撃の余波で秘密基地の隔壁すら破壊する。
壁面に激突して、プレジレントの身体は止まった。シャイニングソウルはその両手の長刀を床に突き立てて柄頭に手を置いている。
《──残酷な、ようだがね……アルシュベイト……俺に、奇跡なんてものは……起こせないんだ。一発逆転の英雄譚は、俺に微笑まないんだよ……》
《…………》
《嗚呼、まったく──この手にしてみたかったぜ……》
右腕を伸ばし、拳を形作る。
《……ハンズ、アップ──グローリー…………一度で、いいから……“
《…………プレジレント。お前は手にしていただろう。それに気がつかなかっただけだ》
《────》
《俺は、お前を愛していたよ。親愛なる友として。鋼鉄の
プレジレントの眼の前で、シャイニングソウルは変神を解除した。それと同時に、館内警報が鳴り渡る。秘密基地の破損によって空気圧チェックのエラーが吐き出され、プレジレントの機体信号が弱まったことによってアルシュベイトを侵入者と判断し、排除しようと自動防衛機構が稼動。展示されていた旧世代の機体達が一斉に起動しようとしていた。
プレジレントの左腕が指し示した先は、緊急脱出用の非常口。壁面に背中を押しつけながら立ち上がり、壊れた隔壁から宇宙を見渡してプレジレントは振り返った。
《……さて、それじゃあ……サヨナラの時間だ。お帰りはあちらの脱出ポッドからだ》
《お前はどうするつもりだ、プレジレント》
《せっかくの宇宙旅行だ。大気圏突入くらいノーロープバンジーで経験しておかなくちゃな》
親指を立てて、サムズアップすると宇宙空間へと身を投げる。プレジレントはアルシュベイトが止める間もなくあのままゲイムギョウ界へ向けて一直線に落下していくだろう。
《…………》
プレジレントは言っていた。俺に奇跡は微笑まない、と──。あの損傷では、とてもではないが無事に帰れるとは思えない。燃え尽きて、跡形もなくなるだろう。
アルシュベイトは一度だけ、非常口に視線を向ける。
──遥かな星空。宇宙、太陽に月に、青く輝くゲイムギョウ界。重力に引かれて真っ逆さまに落ちていくプレジレントが機体の補助動力に切り替えて摩擦熱で全身が赤熱化し始めた頃に、ノイズだらけだが通信が繋がった。相手は、例のごとく有能だが冷徹な秘書官、キャロラインからだ。
『──ザ──ッ……、社長? ああ、やっと繋がりましたか。今どちらに?』
《キャロライン……いや、キャロりんか》
『言い直す必要はございません。キャロラインで結構です。酷く機体が損傷しているようですが』
《負けたよ。完敗だ、清々した》
『それはよかったですね。どちらに?』
《大気圏突入中さ》
『お早いお帰りなようで結構です。こちらも、グランドマザーウィルは女神達の攻撃に耐えきれず甚大な被害です。そう長くはありませんね』
そのせいか、キャロラインからの通信には雑音が多い。時折地鳴りのような音まで聞こえた。そんな状況下にありながら、まだ席を離れないでいるのはどうしてか。
《逃げないのかい、キャロりん》
『まだ仕事中ですので。早退する理由がございません』
《俺の無茶に付き合う必要なんてない》
『……まだ終わっていない職務がありますので。今後のスケジュールをご確認されますか?』
《Ah…………これは、参った》
『それに──』
《それに?》
『どうやら、まだ終わっていないようですよ? ──敵機接近中』
敵? 敵なんて、どこにいるって言うんだ? 周囲を索敵するプレジレントの、壊れたカメラレンズが辛うじてブースターの炎を確認する。
──秘密基地から飛び出し、その手に壊れた隔壁を手にしてアルシュベイトが追ってきていた。
《──────》
『よかったですね、社長。どうやら、とことん貴方にお付き合いしていただけるようです』
《──ハ、ハハハ。ハハハハハハハハハハハハハハ──!!》
──ああ、バカだ。天下無双の大バカ野郎だ。今更なにをしにきたっていうんだ、アルシュベイト。俺に奇跡は微笑まないって言ったばかりじゃあないか。
《プレジレントォォォーッ!!》
《アルシュベイトォッ! ハハハ、何をしに来た!?》
《当然、貴様と宇宙旅行だ! 水臭いことを言うな、俺もまぜろ! このような機会二度と無いのだからな!》
《オーケェイ、お前バカだな!? とてもじゃないが耐えられそうにないぜ、お互い! 二人仲良く爆散して流れ星確定だ!》
《帰るぞ、プレジレント! お前の愛したリーンボックスへ! ゲイムギョウ界に!》
《俺の話を聞く気はないってのかぁ!? どうして敵に手を差し伸べる、アルシュベイト!》
《
アルシュベイトが手を伸ばす。隔壁で自分の身体を摩擦熱から守りながら、跳躍ユニットを吹かして。その手がプレジレントにあともう一歩のところで届かない。
《────》
この手を、伸ばしてもいいのだろうか。奇跡も掴めない、鋼鉄の指先を。
そんな俺を、トモダチと呼んで……お前は──俺を、助けようってのか?
《プレジレント。最高の戦場だった。だから今度は、俺がお前に最高の軍事国家を見せてやる。俺の国に遊びに来い、歓迎してやる! 約束だ!》
《……──キャロライン。仕事の予定はキャンセルだ》
『そうですか。どちらへ?』
《“友達”のホームパーティーさ!》
『──ふふ。そうですか』
《初めて笑ってくれたな》
『そうでしょうか? では、こちらで突入角度を計算いたします。とはいえ、ほとんど手遅れですが──』
《
アルシュベイトが変神する。そして、身を守っていた隔壁が摩擦熱に耐えきれずにとうとう溶解していった。今度こそ二人ともにその熱にさらされることとなったが、プレジレントが特殊重装甲機動コンテナのカバーを開いて反転する。
《HEY、アルシュベイト。俺の後ろに来な》
《いけるのか、プレジレント》
《いけるさ! なぜなら俺が──》
『武装企業代表取締役だからだっ!』
『……仲が大変よろしいようで』
プレジレントは、自らの戦闘記録データからそれを導き出した。それはかつて、偉大なる父がやったように。コンテナを重ね合わせて、自身の身体を覆いながら大気圏を突入するという離れ業。だが、それでもやはり真似事の自分には耐えきれないのか、機体の各所から黒煙が噴き出した。全身真っ赤なエラーコードに、生還の望みはない。
しかし、シャイニングソウルが大型防壁を二枚転送して、プレジレントのコンテナカバーに重ね合わせる。機体負荷限界を突破しようとしていた熱量が減少していた。
キャロラインから転送される射角に合わせて、機体のブースターを調整する。
全身を襲う熱量が、一気に増した。
《ハッハッハ、ファーッキンホォォォットッ!! くっそ熱いな!!》
《真夏の砂浜を思い出す! 地獄の山中訓練に比べればこの程度!》
《いいねぇブートキャンプ、今度一緒にどうだい!》
『グランドマザーウィル、陥落いたしました。我々の敗北です、社長』
《ハハハハハ、その程度想定の範囲内さ! さぁキャロライン! 帰ったら山程事務作業が待ってるぜ、楽しみに待ってなぁぁぁぁぁっ!》
『今から有給を申請してもよろしいでしょうか?』