※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピローグ 戦いを乗り越えて──

 ……プレジレントの起こした女神代理戦争『ハァド大戦』から数日が経過。リーンボックスから始まった戦争によって各国のシェアは大幅に低下、世界は混迷を極めた──とは、不思議とならなかった。驚くべきことに、女神へのシェアが増加している。それが一時的なものとはいえ、それには四国の教祖達も首を傾げていた。特にリーンボックスのシェアの増加は目を見張り、案の定と言うべきかプラネテューヌは現在も最下位を維持している。

 そして、各国の復興作業。それに武装企業に所属する残存社員、ロボット達が派遣され、現在も各国でその姿は確認されていた。異を唱える者達もいるが、グリーンハート直々の契約書を見せられては文句も言えない。プレジレントは最初からそこまでを計算に入れていたということだ。どこまでも一筋縄ではいかないビジネス根性によって、武装企業が抱えている負債も凄まじい勢いで返済されていた。

 目下、不安視されていることといえば──エヌラスの容態。そして、塔争の記憶を取り戻した神格者達の今後の動向。だがそれも現在は鳴りを潜めている、というのも復興作業に駆り出されているからだ。

 

「ヒィー、ヒィー……なんで僕の仕事量だけ他の三倍なんだ!? おかしいだろう!」

「グズグズ文句を言うなクソメガネ! 俺の肉体労働量も三倍だ!」

《そこ、サボるな! 次の現場はラステイション首都だ、行くぞ! 現場入りは三十分後だ!》

「君は身体が治るなりリハビリで復興作業に全力出しすぎなんだよ、アルシュベイト!」

 ソラは調子の戻ったシュミクラムユニットによって動員したフォートクラブの管理、運営。

 ドラグレイスはその持ち前の体力と怪力で肉体労働。

 アルシュベイトは完全復活を果たすなり、アゴウの作業員達を連れて全力で復興作業。

 その連携プレーを監視しているのはラステイションの守護女神、ブラックハート。その妹である女神候補生、ブラックシスター。

 

「……相変わらず凄い速度ね」

「もうこの区画の復旧率、七割を突破しているんだけど……」

 フォートクラブが資材運搬、機人が超速度で組み立て、建設。仕上げをフォートクラブが再び担当という流れ作業は、一時間足らずで家が一軒出来上がっていた。しかし、そこに筆頭であるゼロスリーのバカやかましい叫びがないのは少しだけブラックハートは寂しく思う。もう彼は戦場で散ったのだと、否応にも思い知らされる。

 

「いやだから休ませてくれよ!? 僕がここ以外にいくつ掛け持ちで仕事してると思ってるんだ!? ラステイションとプラネテューヌとリーンボックスで運用しているフォートクラブほぼ全部だからな!? あと僕は自分の仕事もあるんだから!」

「デスクワークで泣き言を言うくらいなら貴様、鉄骨の除去作業やってみろ! 自力でな!」

「そんなん出来るかバカァァァァァ!!!」

《む、アクシデント発生だ! モンスターの討伐依頼だ、作業中断! 行くぞドラグレイス!》

「人の同意を得る前に手を掴むな貴様ァァァァァァ──!!!!」

「あはははははは、ざまーみろバーカバーカ! いってらっしゃーい!」

 

「…………まぁ、放置で良さそうね」

「う、うん……」

 塔争の記憶が戻ったというのに、この始末。以前のような血で血を洗う戦いが始まるかと思いきや、そうでもなかった。……むしろ以前に増して騒がしくなったことを喜ばしく思うべきか。

 

 

 

 ──プラネテューヌ。

 

 国境防衛隊、ならびにアイエフが借り受けたフォートクラブによって順調に作業が進んでいた。そこには武装企業の機体も見受けられる。

 

「えーと、次はこっちとこっち。それで八番機が瓦礫を集荷場に運搬、と」

「あいちゃん、流石手慣れてるですぅ」

「まぁね。レオルド達も流石は資源採掘用ロボットね、こういう仕事は安心して任せられるわ」

 アイエフとコンパが見守る中で、目の前を通過するのは大量の瓦礫を担いだロゼ。いつもの鈍足っぷりだが、その積載量は他の追随を許さない。重火部門のディルとゴウがそれに次いで瓦礫を運搬していた。

 ツキカゲ、バズといった軽量級機体は道路に散らばる破片の撤去作業。シャニは武装企業側のロボット達と喧嘩しながらも適確に指示を出している。

 レオルドも部隊を率いて市街地にモンスターが侵入しないように目を光らせていた。

 

《だから何度言えばわかるのだお前は! 先程から言っているとおりにこのプラネ商店街に商品が入荷しない状態を長引かせるとプラネテューヌのシェアに関わると!》

《そんなのを言われても、こちらの知ったることではないわ! それよりも大事なのは全体像だろうに、そんなこともわからんか貴様のような痩せっ子は!》

《あわわわ……警備隊長と正面から言い合いしている青い機体怖い……》

《うーわー、シャニと正面から口論かましてる赤い機体こわいわー》

『見ていないで仕事に戻れ貴様らぁぁぁぁ!!! このバカどもめ!』

 喧嘩と衝突を繰り返しながらも、なんだかんだと作業は順調に進んでいる。アイエフはその騒がしさに頭を痛めながら、フォートクラブの操作端末タブレットの画面をタッチして復興作業に専念することにした。相手をしていたらキリがない。

 

《おい見ろよ皆! 路地裏で捨てられてたエロ本の束見っけた!》

《ちょっと古いやつだけどこれ結構マニア向けだぞ! 読んでこうぜ!》

「仕事をせんか変態共っ!!!」

『ありがとうございます! ありがとうございますっ!!』

 前言撤回。手綱はしっかり握っておこう。

 

 

 

 ──ルウィー。

 

 比較的被害の少ないルウィーだが、それでも被害の及んだ地域には大魔導師がひとりで作業に勤しんでいた。

 本を片手に現場に突っ立っているだけだが、壊れた機材や建造物がポルターガイスト現象の如く動き出して撤去されていく。その手伝いに来ていた教会職員達が唖然としている。

 

「……おれたち、必要か?」

「全部あの人ひとりでいいんじゃないか?」

「な、なぁ帰ろうぜ……」

「いや、でもなぁ……任せっきりもまずいだろ……」

「帰っていいぞお前ら。私ひとりで十分だ」

 ヒソヒソと話していた教会職員に、大魔導師は一声だけ浴びせた。しかし、愛想笑いを浮かべるばかりで何をするでもなく突っ立っている教会職員にため息をつくと──。

 

「貴様らに取って代わる便利な労働力ならいくらでも量産できる、さっさと失せろ」

『ぎゃぁぁぁあああああ、八頭身雪だるまああああぁぁぁぁっ!!!!』

 地面が盛り上がったと思えば、首から下がいやに筋骨隆々な雪像が続々と教会職員を追い出し始めた。何故か顔だけはデフォルメされているために絶妙なキモさ加減である。

 その現場を見ていたホワイトハート、そしてホワイトシスターの三人は追い回されている教会職員達を遠巻きに見守っていた。特にこれといって危害は加えられていないようだ。

 

「相変わらず魔法はすげーな……」

「あのおじちゃん、こわいから嫌い……でも」

「魔法は凄いと思う! わたしにも出来るかな!」

「できなくていい」

「えー。でも、ほら。あれ」

 ホワイトシスター・ロムの指し示す先で、ぴょこぴょこと雪うさぎが跳ね回っていた。他にも雪像が動き出して雪の動物園のような賑やかさが大魔導師の周りにはあり、それはルウィーの温泉街の通りに向けて移動を始めている。

 

「……今回だけ、大目に見てやるか」

 それを見たルウィーの観光客達は笑顔で雪の動物達に触れ、楽しそうにしていた。その全てから目を背けて大魔導師は一冊の書物を熱心に読みふけっている。ホワイトハートが近くに降り立つと一瞬だけ横目で盗み見て、すぐに読書に戻った。

 

「さっきっからなに読んでんだ?」

「見てわからないか?」

「……────」

「続きはまだか、作者様?」

 大魔導師が不敵な笑みを浮かべる。その本のタイトルは、他でもないホワイトハート……ブランが著者の、同人小説。どこから入手したのか、と記憶を掘り返せば──ぶん殴って本棚に叩きつけた記憶が蘇る。

 

「ど、どう……だ?」

 恐る恐る感想を尋ねて、鼻で笑われた。

 

「先の展開が予想できない点は評価する」

「……ほかは?」

「…………ふっ」

「なんか言いやがれテメェェェェェェッ!!!」

 作業、一時中断。

 

 

 

 ──リーンボックス。

 

 武装企業のロボット達が復興作業ならびに大破した機体の回収、そしてインフラ整備に精を出している中──二人の女性が混じっている。

 

「はいそこ! 次は南の商店街! 運送会社が三十分後に到着予定だから荷物を受け取って! 作業班は今朝のミーティングで知らせた通り! はい動く、作業はそこまで!」

《忙しすぎる! 多忙を極めている! もう少し配慮してくれ──》

「寝言いってんじゃねぇ、働けッ! テメェを解体して雑貨店にしてくれようか、おぉん!?」

《ひぃ、滅相もございません!! すいませんでした、勘弁してくださいぃ!》

 商業国家国王が直々に出張して武装企業ロボット達を働かせていた。半ばロボハラ(=ロボットハラスメント)に近い勢いで酷使している。だが壊れたところで何の問題があるというのか、会社の設備で直せばいいだけの話。

 そしてその一方で、剣姫もまた、壊した機体をぶん投げていた。

 

「おーい、ユウコ! これはそこでいいのか!」

「あーいいよいいよ。ぶん投げて! こっちで分別しておくから!」

「あい分かった! ふんっ!」

《クラウンブレイカァァァァァ!?》

 全高四メートルはあろう、もの言わぬクラウンブレイカーがぞんざいにぶん投げられて更に部品が何個か取れているが、剣姫は知らんぷり。安全ヘルメットをかぶり、軍手を着けたユウコも見て見ぬふりでバインダーに綴じた予定表に目を通していた。

 その作業の様子を見に来たグリーンハートが呆れている。

 

「……心配するまでもありませんでしたか」

「あ、べるちゃん。やっほーい」

「ベールか! こちらは順調だ! はっはっは、任せておけ!」

「よろしかったのですか、つるちゃん。アゴウの守護女神であるあなたに手伝ってもらって」

「おれが良いと言ったんだ、文句はない! それにこういうのも楽しいしな!」

「つーちゃん、次の現場なんだけど──」

「おう、任された! 次はどこだ!」

「ダイアルゼブラ荒原で放置されている山のようなスクラップ回収」

「大掃除だな、楽しそうだ! 任せておけ!」

「お願いねー。終わったらご飯作ったげる。なにがいい?」

「焼き魚と味噌汁と山菜の天ぷら! 漬物でもおれは嬉しい!」

「黄金のモーニング和食セットね。はいはーい、いってらっしゃい」

「行ってきます! そら行くぞガラクタ共、おれに遅れを取るな!」

《ヒエェェェェェ~~!! なんでこんなに元気なんだこの人達ぃぃ~!!》

 アダルトゲイムギョウ界の双角にロボット達は歯が立たず、いいようにこき使われていた。それに安心してグリーンハートは胸をなでおろした。

 

「あ、べるちゃんべるちゃん」

「はい? なんでしょうか」

「エヌラスの意識、戻った?」

「……いいえ、まだですね」

 ──あの戦いの後、エヌラスは眠るように気を失ってから目を覚ましていない。今まで何度かこういった事はあった。しかし、それでもグリーンハートは豊満な胸を持ち上げながら顎に指を当てて思案するような表情を見せる。

 

「心配ですわ」

「あー、大丈夫大丈夫。あいつこんなん毎度だから。で、目を覚ましたら「腹減ったー」とか「メシないかー」って言うに決まってるし。心配しなくても大丈夫だって」

「……そうでしょうか?」

「うん、そんなもん。だからこっちはこっちでやれる仕事を──おいソコォ! もう休憩時間だから燃料の補給と部品のメンテナンスしてこいってんだろぉ!? 金属疲労でぶっ壊れたらそのぶん周囲が迷惑するんだからさっさと休めコラー!」

《す、すいませんでしたぁ!? 休憩入ります!》

「うむ、行ってきなさい!」

 ユウコはすっかり武装企業を馬車馬のごとく働かせながらも、自らの手中に収めていた。グリーンハートもそれに肩の力を抜く。

 

「エヌラスのこと、随分と理解していますのね」

「え? そりゃー……まぁ……一応、付き合い、長かったみたいだし……なんで忘れてたんだろ、私。いや、まぁそりゃ色々あるけども……」

「気にしてますの?」

「そりゃあ──! そりゃあ……気にしちゃうじゃん? っていうか、あいつ毎回私に悪びれもなくメシをたかりにきてたのか。なんか思い出したらめっちゃ腹立ってきた……いや、毎回ご飯作ってあげてた私も私なんだけど……」

「……夫婦みたいですね」

「………………~~~~……、いや、その、そういう関係は嫌じゃないけど、もうちょっと私としては段階を踏んでおきたいと言うか……あいつとはそういう関係でありたいとかじゃなくてね? 違うからね? あの、恋人とかでもなくて…………」

「ふふ……にやにや」

「う、うぅ~……! にゃー! うるせー、笑うなー! べるちゃんも働けー! 見てないで働け女神様、ふしゃー!」

「わ、わたくしもですか!?」

「働かざる者食うべからずだこんちきしょー! 頑張らない子には手料理作ってあげないかんな! べるちゃんの国でしょうが、自分でどうにかしなさい!!」

 顔を真赤にしならも、ユウコはグリーンハートの背中を押して他の現場に送り出した。それを見ていたロボット達の手が止まったのを見逃さない。

 メガホンを持ち出して、息を吸い込む。

 

『溶鉱炉送りにされてぇかテメェ等ぁぁぁぁぁ、働けぇぇぇぇぇぇ!!!』

《すいませんでしたぁぁぁ!!!》

 作業再開。武装企業のロボット達は壊れるほど働かされた。

 

 

 

 

 ──次元の狭間。無限に続く深淵の荒野。あらゆる可能性の境界線。無数に連なる世界線において、その神は孤独だった。黄金の玉座に腰を下ろして幾星霜。あらゆる結末を目にして幾星霜。

 それら全てに目を瞑って幾星霜、次元神セロンは書物を閉じる。

 

「…………退屈、であるな」

「……」

「そうは思わないか? いや、お前は思わないか。エヌラス」

 自身を睨む偽りの旧神、絶望の魔人エヌラスを右目で眺めながらセロンは微笑みかけた。

 

「安心しろ、“門”は閉じられている。というのも、アイツが向こうで傷を癒やすためだ」

「……どうして記憶を取り戻させた、セロン」

「塔争のことか? ああ、それは私ではないさ。アイツが……いいや、お前が、と言うべきか?」

「止してくれ。アイツは俺じゃない。そして、俺もアイツじゃない」

「そうか? そう言うのならば、私は構わないがな」

 文庫本の背表紙で自らの肩を叩き、セロンが左眼の眼帯を指し示す。

 

「知っての通り、今アイツの左眼はこの私の左眼だ。絶望の邪神を通して、私は全てを目の当たりにすることが出来ている。見ていることしか出来ない私にとって、これ以上無いほどの臨場感だ。間近で映画のスクリーンを映し出しているようなもの。だからといってアイツに加担するような真似はしない」

「こちらにも加担はしない、だろ?」

「当然だ。私が手を下せば“そこで終わってしまう”のだからな。エヌラス。抗うがいい、挑むがいい。自らの起源に、原種に──終わりなき絶望、果てなき終焉。始まることすら許されなかった絶望の邪神に。お前の持つ全てをもって、お前の愛する女神たちと共に」

「…………負けねえよ。負けてたまるかよ」

「全力で衝突し、死力を尽くし、そしてその最後に立っていたものの手にする“結末(エンディング)”こそ、私が目にしたいものなのだから。それは、この次元神の座に位置する私の何よりの願いだ」

 とはいえ、ここまでよく戦った。それには、それ相応の褒美を与えなくてはならない。セロンは顎に手を添えて、唸る。

 

「……ふむ」

「なに考えてやがる、テメェ」

「いやなに、別段大した事ではない。実際、お前はよくやっている。しばらく休んでもいいだろうと思ってな?」

「────」

「この私の無聊の慰みとなってくれた礼のひとつでもせねば、な。折れてしまっては困る。せっかくここまで楽しませてくれたのだから。なんだその顔は?」

「あ、いやー……なんつうか、テメェの口からそんな言葉が出るとは思ってなかったからな」

「万物に平等であるだけのことさ。アレが今、身体を休めているのであれば、お前もそうするがいい。今しばらくは、こちらで“門”を塞ぎ止めておこう」

 邪神狩りは、一旦休憩ということだろうか。それならそれに越したことはないのだが──エヌラスは何故か、顔に手を当てて、深く息を吐いた。

 

「どうした? 嬉しくないのか? ようやく邪神との戦いに休息が訪れたというのに」

「いや、ありがとう。そればっかりは礼を言いたい。心から助かる……」

「それにしては、あまり嬉しくなさそうだが……」

 セロンから出された休暇は、これ以上ない褒美だ。次元神が邪神の出現を防いでくれるというのならそれに越したことはない。だが、問題は──。

 

「……俺の戦いは、こっからなんだよなぁ…………」

「? 言っている言葉の意味がわからないが、まぁいい。お前もそろそろ起きる時間だ。目を覚ませ、エヌラス。おはようの時間だ」

「あーはいはいクソッタレ、いつまでも寝てても仕方ねぇのは分かってる。目を覚ませばいいんだろうが!」

 

 ──これ以上先延ばしにしていても仕方ないことだ。

 おとなしく女神の説教を受けることにしよう。

 それと、過去の精算も。

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