超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
01 静かな目覚めと波乱の予兆……
──リーンボックスの教会で眠り続けること丸一月。エヌラスの意識はまだ戻っていなかった。それを心配してベールは毎日様子を見に来ている。
今回の女神代理戦争──『ハァド大戦』はそれほどまでに身体を酷使していたようだ。
アダルトゲイムギョウ界の神格者各位は、各国の復興作業を終えるなり一部のものは早々と自分の国へと帰っている。ドラグレイスを筆頭に、アルシュベイト並びにソラの三人は既にいつもの調子で日々を過ごしていた。大魔導師は相変わらずルウィーに入り浸っており、今でも温泉街を堪能している。時たま、動く雪像祭りでサプライズイベントを始めてはブランに怒られているようだがまったく懲りていない。
ユウコは下方修正を余儀なくされたゲイムギョウ界の国家予算案を上方修正すべく尽力し、四国の教祖達と会議に顔を出していた。
剣姫はお忍び──もとい、外交の名目で遊びに来ている。だが、ただ遊んでいるだけではなく今回の戦いで傷ついた人々、特に兵士達を労っていた。
『このおれが手料理を振る舞うのだ、一滴残らず余さず喰らえッ!!!! 肉じゃがだッ!!』
ラステイション軍は胃袋を掌握されそうになったらしい。末恐ろしい話である。
ベールは、エヌラスが眠り続ける教会の一室に入ると、ベッドに腰を下ろした。すでに身体の怪我は治っている。あとは目を覚ますのを待つばかり。
「………………」
(……こうして寝顔を見ていると、おとなしくしている間は本当に普通の方ですのに)
いざ戦闘となると、凄まじい勢いで敵を倒していく。邪神狩りをたった一人で続けてきた精神力と戦闘能力、生存能力の高さには女神であるベールも呆れるばかりだ。MMORPGでもそこまでハイエンドな廃人はいないというのに──その台頭は自分だが。
エヌラスの頭を撫でて、髪を梳く。頬に手を添えて、指先で顎のラインをなぞって唇で止める。
外の月明かりで照らされる室内に、静かな寝息が僅かに聞こえた。
ベールは指先を離して、自分の唇に添える。指先の間接キスに、少しだけ頬がゆるむ。
(わたくしの教会で面倒を見ているんですもの、これくらいはさせていただきませんと)
こんな年端もいかない少女のような趣味を日課にしていてもバチは当たるまい。
「……──」
(今夜はもうちょっとだけ、いいですわよね)
ベッドに体重を預けて、髪を手で押さえながらベールは眠るエヌラスに顔を近づけていき──少しだけ息を整え、呼吸を止めてから唇を重ねた。
「ん…………、起きませんわよね……? ふふ。でしたら、もう一回だけ……」
「────」
離した顔を再び近づけて、今度は舌を出して唇を舐めてからキスをする。先程よりも長く、深く唇同士を触れさせたままベールは息を止めていられる限り続けた。やんわりと離れれば、唇に指を当ててまだ起きないエヌラスに微笑みかける。
「……ごちそうさま、ですわ」
「────ん……」
小さく声をもらす姿にドキリと心臓が跳ねた。
(ま、まさか今ので起きたりとかしませんわよね……?)
「…………、ん」
仰向けに眠っていたエヌラスが寝返りを打ち、横になる。それにベールは大きな胸をなでおろした。どうやらまだ目覚めない様子、それなら最後にもう一回。唇を舌で湿らせてから、再び覆いかぶさるように。
(なんだか、こうしていると……夜這いを仕掛けているような気分に……)
いや、そんなはずはない。身体が火照ってくるが、それはすぐに鎮められる。
「……エヌラス」
耳元で名前を囁き、ベールが頬に口づけをすると──突然、頭を掴まれた。そして、そのまま唇を塞がれる。
「ふ……、んッ!? ぅ、ん、んぅ!? む──!?」
舌が唇をかき分けて口内に入り込んでくるのを止める暇もなく、舌先が触れ合った。驚いてとっさに身体を離そうとするが、腰に手を回されて強く抱きしめられる。ベッドに倒れ込み、静かな脂室内に唾液の絡まる音がやけに大きく響いた。
「~~~~! んっ、っ~~~~!!」
「────ぷ、ハァ……。ベール、おはようのキスならもっと軽いのにしてくれ……」
耳まで赤くして、ベールはエヌラスの赤い瞳に意識が吸い込まれる。目と鼻の先のすぐそこにお互いの顔があった。
「お、起きていたならなにか一言くらい!?」
「いや、なんか唇に違和感あって……ちょっとだけ紅茶の味がしたから、多分ベールだろうと思ってな。大体今起きたばかりだ」
ベールの身体を放して、エヌラスは身体を起こすと欠伸をこぼす。少しだけ身体が重い。凝り固まった筋肉を解してから銀鍵守護器官の回転数を上げる。
肉体損傷は完全に回復したようだ。あれほど酷使していた身体も一月丸々眠れば完治している。しかし、その代償に身体は食事を求めていた。空きっ腹に手を当てて、エヌラスはベールの青い瞳を見つめる。
「おはよう、ベール。と言っても、夜みたいだが」
「……も、もう! 本当にわたくし達心配していたんですのよ! なにはともあれ……ええ、おはようございますわ、エヌラス」
「ところで毎日あんなキスしてたのか?」
「毎日はしてませんわよ!? 時々ですわ、時々!」
「なんだ、毎日じゃないのか……」
毎日してくれていたらもうちょっと復帰が早かったのになー、と意地悪してやろうかと思ったがエヌラスは言わないでおいた。どちらにせよ、今の身体では誤差程度でしかなかっただろう。
教会の廊下をベールと歩きながら、ゲイムギョウ界の近況に耳を傾ける。
あれから一月が経過していること。武装企業は通常営業していること。各国のシェアの推移。アダルトゲイムギョウ界の協力者達の現在。ハァドラインの現在について。
エヌラスはそれらの中から、自分に必要な情報だけ詳細を尋ねた。特に、神格者達について。
「じゃあ、今ゲイムギョウ界で残っているのは──」
「ユウコとつるちゃんと、大魔導師のお三方ですわ」
「なんで守銭奴と危険物と超常現象のフルセットが滞在してんだよ世界滅ぼしてーのか」
それも理由があってのことなのは理解しているが……、いざ記憶を取り戻した面々と顔を合わせるとなると、エヌラスは気が滅入る話だ。だが、その三人で良かったのかもしれない。
そして、言っているそばから剣姫が食堂から出てきた。エヌラスの顔を見るなり、破顔して手を挙げている。
「おう、エヌラス。やっと目を覚ましたか。調子はどうだ」
「寝起きだが、体調は万全だ。とはいえ、ちょっと身体が固い気がする」
「準備運動なら付き合うぞ」
「いや、いい。まずはメシが食いたい、たらふく」
「ははは、そうかそうか。うむ、そうだろうな。快眠快食快楽を貪ってこそのお前だ」
「てめーは俺を何だと思ってやがるんだ……」
快楽、という言葉にベールが顔を赤くしてそっぽを向いた。
「ふーむ、たらふくお前にメシを食わせたいところだが。実はついさっき食堂で作ってきてしまったばかりだからな、お前の分がない」
「期待はしちゃいないさ」
「なので、ユウコを呼んで大至急夕飯を作らせようと思う」
「てめーは本当に容赦ねぇな!? 大体あいつ今の時間、教祖様達と会議中じゃねぇのか!」
「バカ言うな、ユウコだぞ。とっくにそんなの終わらせて夕方には商店街でタイムセールに向かって突っ走っていたわ」
想像に易い。だが、リーンボックスは島国。他の三ヶ国と違い陸続きではない。移動手段はどうするのか、と剣姫に重ねて尋ねる。
「ベール、エヌラスが目を覚ましたと他の女神達に連絡は?」
「まだしていませんわ。これから教えようかと」
「ならそのついでに運んできてもらえば良かろう」
「やっべー、俺の逃げ場完全に殺しに来てるわ」
「ははは、積もる話もあるだろうからな。メシでも食いながらのんびりと話そう」
「なぁベール。おれやっぱ寝てていいか?」
「だぁめ、ですわ♪」
「そっかーダメかー」
──そして、ベールが連絡をするなり三十分足らずで三女神プラスおまけの四人がすっ飛んできた。両手いっぱいに買い物袋を持ったユウコと、それを置いてエヌラスに向けて眉をつりあげている三人の迫力ときたら、背景が揺らめくほどの怒りで。
『エヌラスッ!!!』
「はい。すいませんでした」
潔く正座して説教を受けるのを尻目に、ユウコは剣姫と一緒に厨房へと去っていく。
「あなた今回の件、忘れてないでしょうね! 何でもするって言ったわよね、なんでもって!」
「ネプテューヌの言う通りだ、アタシはちゃんと聞いたかんな。忘れてねぇぞ!」
「何回言っても聞いてくれないエヌラスにはお仕置きが必要よねぇ!」
「この場における唯一の味方であるという期待を込めて、ベール。助けてくれ」
「ん? いまなんでもって言いましたわよね?」
「テメェ等女神は俺の敵だ……いいよもう……」
煮ても焼いても食えそうにないが、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。エヌラスはそんな気持ちでいっぱいだった。だが、パープルハートはそんな頭を撫でてくる。
「わたし達、本当に心配していたのよ? わかってる?」
「俺もまさか一月も寝てたとか信じられないっての……」
今までそんなに長期間眠り続けていたことはなかった。長くても一週間程度で目を覚ましてきていたが、その原因はおそらく──出力の上がった魔術刻印のせいだろう。より一層の燃費の悪化を引き換えにして威力を増した。その調整に魔術回路が追いついていないせいだ。
「あれから大きな事件とか、無いんだろ?」
「ええ、そうよ。早々起きてたまるものですか」
「そうか……なら、今のうちに俺も身の回りのこと片付けておくか」
「なにか予定でもあるの?」
「ま、装備の調達とかその辺だ」
次から次へとやることばかり。今のうちにできることを片付けておきたい。のだが──エヌラスの前には四女神。逆らえるはずもなく、ブラックハートに腕を掴まれる。その逆側をホワイトハートが。
「さて、それじゃあベール。どこかいい部屋ないかしら」
「それでしたら、わたくしの部屋などいかがです? 今夜はチカも泊まりと聞いておりますし」
「先にメシを食いたいんだが、ダメか……?」
「あなたご飯食べ始めたら止まらないでしょ? 後回しよ、後回し」
「言っておくが俺一月丸々何も食ってねぇんだよ! なんか食わせろよ!」
「んもう、わがままねぇ……」
「それに風呂も入りたい。そっちはそっちで今後のこと話してればいいだろ、メシが済んだら行くから。頼む」
このとーり、とでもエヌラスは手を合わせる。パープルハートが顔を近づけ、耳元でつぶやく。
(あら、わたし達を食べるんじゃないのかしら……?)
「んんっ!! それはそれで大変魅力的ではあるんだが、その……準備をさせてくれ……」
「もー、仕方ないわね。そこまで言うなら、わたし達は一足先に部屋で待ちましょ」
「逃げたりしたら、わかってるわね。エヌラス」
「誰か見張りつけとくか?」
「俺に逃げ場があるなら教えてくれ……」