超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──とあるバーにて、四教祖達が集まって話し合いをしていた。ルウィーにあるそのバーは、毎日と言っていいほど教祖である西沢ミナが足を運んでいる。
プラネテューヌの教祖、イストワール。
ラステイションの教祖、神宮寺ケイ。
リーンボックスの教祖、箱崎チカ。
昼にはユウコを交えて国家予算案を出し合った。きっかり予定時刻である夕方五時には話をまとめてタイムセールへと走り去る背中を思い出す。
『なに!? 文句ある!? 椅子に座って机囲んでくっちゃべるだけの会議なんて一日で十分だよ! 私これからタイムセール制覇してみんなに御飯作らなきゃいけないんだから! つるちゃんのせいで! じゃーね!』
カラン……。
グラスの氷が溶けて小さく音を立てた。それを回しながら、ケイは吐息をこぼす。
「商業国家ユノスダス、か……興味深い」
「一時期、四女神に取って代わって政治の舵を切った結果、経済競争が起きたくらいですからね」
イストワールが思い出すのは、ピーシェと遊びながら猛スピードで仕事を終わらせているユウコの姿。朝起きて、ご飯を作って掃除洗濯、お弁当作り。それから朝の職員会議。終わるなり業務に着手。昼の休憩を挟み、午後の業務。きっかり定時に終了して、それから夕飯作りや家事の片付け──今にして思えば、どれがどれだけ超人的なスケジュール管理だったのか末恐ろしい。
「そんなことより、問題なのは」
「ええ、わかっています。エヌラスさんの処遇ですね」
「どうしてよりにもよってリーンボックスで……アタクシのベールお姉さまが毎日寝顔を観察に行くくらいですし……このままでは……よよよ」
「チカの危機感はなにか違う気が……」
「だって! だって毎日ですよ! 毎日、毎朝と毎晩ベールお姉さまがあの人の様子を見に行くたびにアタクシはもう……ケホ、ケホ……!」
「はいはい。まぁそれはともかくとして……ま、彼個人の評価として、僕は決して低くないよ」
「私も同意見です。一応、ルウィーを守ってくれましたし」
ラステイションでは、女神候補生の救出および、ハァド大戦の戦績とラステイション軍極東支部からの支持がある。
ルウィーでも、生き残りの兵士が邪神と交戦している姿を目撃した者多数。なによりも、規格外の魔術でアルカトラズ砲から教会を守った。
リーンボックスでは暴走した武装企業のロボットから市民を逃がす為に満身創痍ながら尽力したと報告が上がっている。
プラネテューヌでもそれらの報告と、国境付近での戦闘を見かけた兵士達の報告から指名手配犯に疑問を感じてる者もいた。だからといって、おいそれと撤回するわけにもいかない。それで納得する者はそう多くないだろう。
「困ったことに、今回の事件でも多少。やり過ぎた、という評価ですね」
「あれだけの破壊力を見せられたら当然だと思うよ。ラステイション全体の支持は高くない」
女神が手綱を握っている。その一点に尽きる。アダルトゲイムギョウ界の協力者達はエヌラスが連れてきたようなものだ。そうだとしても、世間的な目もある。
四教祖の深い溜息が重なると同時に、新たな来客を知らせるベルが鳴った。
その姿を見て、店内の時間が止まる。誰もが目を奪われた。
黄金の髪を静かに揺らしながら、その男性客は店内を悠然と歩く。その存在感が、あまりに異質であり、異彩を放っていた。
──何故か、浴衣姿のまま大魔導師がバーに訪れている。違和感の塊でしかないのだが、不思議なことにそれを受け入れていた。
「……大魔導師」
イストワールの静かな声に、視線を向けると気さくに手を振る。
「これはこれは。四国の教祖様方が揃い踏みで」
「どうしてこのお店に?」
「何故か、と聞かれれば……噂によれば教祖行きつけのバーがある、との話で。それほどの名店かと思い足を運んだ次第だが」
視線がミナに集中した。それに顔を赤くしながら、ノンアルコールカクテルで隠す。
「しかし、教祖が揃って酒盛りとは」
「い、いえこれはノンアルコールでして……」
「せっかくのバーだと言うのにか?」
大魔導師はカウンター席に座ると、バーテンダーに手を挙げた。
「カルーアミルク」
「意外と甘いので攻めるんですね……」
「最初だからな」
間もなくして、大魔導師の前にカルーアミルクが置かれる。一口含み、飲み込む。
「それで? ただ飲んでいただけではあるまい?」
「ええ、そうなんですが……」
イストワールが事情を話す。それを聞いている間に、グラスを空にして、追加の注文をすべく手を挙げた。
「スピリトゥス。ロックで」
『!?』
師弟共々、加減というものを知らないらしい──むしろこの師にしてあの弟子あり。バーテンダーも内心驚愕しながら用意する。
「つまりは──あの、バカ弟子の今後の取扱について話がまとまらない、と」
「ば、バカ弟子……」
ケイからの視線はあまり喜ばしいものではない。歓迎すらしていなかった。それも当然と言えるのだが、大魔導師が気にする素振りはない。当然のことと受け入れて不敵な笑みを返していた。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって……エヌラスさん、貴方の弟子なのでは……」
「俺は放任スパルタ主義の教育方針を執っている」
(どっちなんだ一体……)
「あいつの悪評が広まり、それで身動きが取れなくなろうが自己責任だ。その程度の風評、自分で払拭ぐらいしてもらわなくてはな。俺は保護者ではない」
「一理ありますね。場合によってはそのまま投獄してしまっても……」
「私怨が混じってませんか……?」
「だってベールお姉さまがぁ~。まるで乙女ゲームの主人公のように熱っぽい視線で……」
「投獄するのは勝手だが、脱獄常習犯でもあるぞ」
──むしろ犯罪を犯さない方が難しいのでは? 四教祖の脳裏を不穏な一言がよぎった。
「あえて聞きたいんだけど。彼……エヌラスは、真っ当に生活できるのか?」
「無理だろうな」
鼻で笑いながら大魔導師はスピリタスを空にする。
「スピリトゥス追加で」
(どれだけお酒強いんだこの人……)
「さて、エヌラスがまともな生活を出来るかと聞かれれば……至難の業だろうな。なんせ純正の犯罪国家育ちだ。一般教養なぞ糞の役にも立たん国柄である以上、あいつは必要とあれば道を踏み外して突っ走った挙げ句に大惨事だ」
「止めてあげてくださいよ……」
「業務管轄外、以上」
「……絶対に残業とか嫌いですよね」
「部下が悶え苦しみながら残業を片付けている様を見るのは笑いが止まらん」
血も涙もない良い趣味をしている大魔導師に引きつった笑みを浮かべながらも、イストワールがなにか妙案はないかと尋ねた。
それに対して、スピリタスを一息に飲み干すとグラスを置いて一拍の間を置く。
「簡単な話だろう。それなら────」
リーンボックス教会大食堂で行われた百人前炒飯チャレンジは開始一時間で見事に達成され、その一部始終を見ていた職員たちから拍手喝采が送られる中、エヌラスは水を注いだコップを空にした。空になった皿を剣姫がまとめ、厨房へと片付けていく。それと入れ替わる形でユウコが呆れていた。
「まさか本当に百人前平らげるやつがいるかっつーの……」
「いいか、ユウコ? 一日三食、それを一月抜きにしたら約90食だ。主食副食惣菜を計算にいれたら270食。つまり俺はそれだけ必要な栄養が足りていないということになるな?」
「……言いたいことは?」
「あともう百人前用意出来ないか?」
「土でも食ってろ、と思ったけどキミ本当に食いそうだから雑草でも食べ……いや食いそうだからやっぱ無し。えーと、ネズ……食ったことあるんだっけね」
「あるな、大体」
「むしろ何食ったことないんだよ!」
「あー……高級料理? 馴染みあるのは大体手作りで食ったことあるし」
「誰の手作りで」
「主にユウコ。それ以外にいると思うか?」
「なんで誰も料理出来ないの……」
そもそもにしてその計算自体がなにかおかしい気がするのだが、長い付き合いなのでユウコはツッコミを放棄した。
「さて、食うもの食ったし。エヌラス、風呂だな! 背中を流してやろう、遠慮するな。そーら遠慮するな。何一つ気兼ねなくおれに任せろ。前も後ろも必要とあれば髪も洗ってやるぞなぁにおれとおまえの仲だ、裸の付き合いといこうか」
「テメェは一国背負ってる自覚あるんか……」
「あるぞ。当然だろう? それはそれ、これはこれ。さぁ風呂に行くぞ!」
「へぇーいちょっと待ってつるちゃん? その前に後片付け一緒にいいかな? いいよね、いいでしょ? 有無を言わさずそーらレッツゴー!」
「あーれ~~……ユウコも一緒に入りたいならそう言──」
厨房から何やら凄い音がした。金属を力任せにへし折るような鈍い打撃音、それから間もなくしてユウコの怒号と剣姫の笑い声が聞こえてきたが、エヌラスは見て見ぬふりをして近くにいた教会職員を捕まえる。
「風呂場はどっちだ……」
「あの、いいんですかアレ……」
「女の喧嘩に男が首を突っ込んでも締め上げられて終わりだ」
「はぁ……そう言うのであれば、ご案内いたします」
教会職員の案内でリーンボックスの浴場へと案内してもらい、エヌラスは身体の汚れを洗い流すと湯船に肩まで浸かる。少し肌が痛むくらいの熱さだが、それぐらいがちょうどいい。そして、自分の身体の調子を改めて確かめる。
ストレッチをして凝り固まった筋肉を解し、全身の魔術回路にも魔力を通して励起させる。
「よっ。ほっ……! ──あぁ~……」
静かな入浴。一人で過ごす短い時間ではあるが、久しぶりな気がした。それに少しだけ物寂しさを感じるのはきっとこの次元での生活に慣れてしまったせいだろう。
しかし──平和だ。天井を見上げながら、心底思う。
あんまり風呂に長居して女神達の機嫌をこれ以上損ね、命にかかわる“お仕置き”がされるのも時間の問題かと思い、エヌラスは堪能するのもそこそこに、風呂から上がろうとして──脱衣場の人の気配に嫌な予感がした。
「待たせたなエヌラス! 思いの外ユウコが手強くていやぁ参った! はっはっは!」
「ちったぁ隠せバカァァァァァッ!!」
「風呂なんだから裸になるのは当然だろう!」
剣姫、強襲。相変わらず裸を隠す気などないのか、タオルを肩に掛けているだけだった。腕を組んで、ベールやユウコに負けず劣らずの豊満なバストを持ち上げている。当然ながら、下を隠すつもりなど微塵もない。
有事の際は結い上げている艶のある長い黒髪は背中を隠すほど。裸身は、流石は守護女神と呼ぶべきか傷一つない。恵まれた肢体に、引き締められた肉体美。やや筋肉質な体つきには女性らしさよりも武人としての気質が見て取れる。それでも、女性特有の腰のくびれや豊満な胸、ハリのある臀部の柔肌は隠しきれない。
「俺はもう風呂から出るからお前一人でゆっくりな!」
「なんだよぅ背中くらいは流してくれてもいいだろうに。ちょっとくらい付き合え」
青い瞳に見つめられて、エヌラスは視線を逸らした。剣姫の眼は苦手だ、子供のように真っ直ぐで隠し事をするのがはばかられる。そのくせ体つきは一人前でとても心臓に悪い。
エヌラスの手を取り、剣姫は笑いながら風呂場へと引き戻す。
「なんなら前も洗ってくれていいぞ?」
「頼むから、ほんとにお前は……隠せ、恥じらえ」
「お前だから頼んでいるんだ。アルシュベイトはもうおれの背中を流せないからな」
「そういう爆弾発言を唐突にぶん投げんの本当にやめろ」
「あいつの
「いや当たり前だろ!? 何考えてんだ!?」
「裸の付き合いくらい別にいいだろうに。どうせお前は見慣れているんだから」
「いつ見ても他人の裸なんぞ慣れるかぁ! 特に御姫は! はーなんだおまえこれ! これなんだよ! 毎回風呂場で見せつけやがってこの野郎!」
胸を鷲掴みにするが、剣姫は頬を綻ばせるだけでその手を振り払う素振りを見せなかった。エヌラスがわずかに力を入れて揉んでみるも、くすぐったそうにしている。
「ふふ、なんだ。くすぐったいぞコラ。洗うならちゃんとしてくれないか?」
「~~~~、あぁもう! わかった! 背中だけだからな!」
「最初からそう言えばいいだろうに。ところでエヌラス」
「今度はなんだ!」
「勃起してるがそっちの世話はいいのか?」
「ぶん殴られてぇかバカ姫!」
「裸のどつき合いでもおれは構わんぞ!」
「気にしろぉぉぉぉぉっ!!!」