超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
スタジオの熱気と拍手に迎え入れられて、ネプギアは戸惑いながらも手を振る。黄色い歓声の中に「かわいい」や「超好み!」とか聞こえて更に顔を赤くした。――事の顛末は十数分前に遡る。
ユノスダスに転送された二人が見たのは、言うならテレビの舞台裏。そこでは何やらスタッフが慌ただしく口論をしていた。聞こえてきた内容から察するに、本来出演予定のゲストが事故に巻き込まれて出演不可能になったらしい――まぁエヌラスのせいなのだが、知る由もない。
「あぁぁぁぁダメだぁぁぁぁ!! 私の番組でゲストがいないとかマジあいええええええ!? 少女、美少女ナンデ!?!? まぁいい千載一遇のチャンスはゲットバッカー! へい、そこな少女達よテレビに出てみないかい!!」
ハイテンションに気圧されながら顔を見合わせたネプテューヌとネプギアだったが、期待よりも不安が勝る。その二人の顔を見て、スタッフもとい番組責任者兼司会者はサングラスの奥にある瞳を光らせた。
「あぁスマナイ、何の説明もなく出演してくれと言っても怪しいだろう! お昼のバラエティ番組なんだ! カメラと観客の前で質疑応答、ちょっとしたパーティーゲームに参加してくれるだけでいいんだ! 頼むよぉぉぉぉ今日のゲストが出演できなくなったんだよぉぉぉ靴でもケツでも舐めるからぁぁぁぁぁお願いします! お願いしますっ!! そこを何とかぁぁぁぁお代官さまぁぁぁ!!! 三十分とまではいかずとも十分だけでもいいからぁぁぁ!!!」
結局、その熱意と謝罪と「楽しそう」というネプテューヌの理由により二人はゲスト出演を承諾したのだが思いの外、これがノリノリである。
「イエイエーイ、みんなーありがとー!」
ネプテューヌが笑顔で手を振る度に観客からは黄色い悲鳴。掴みは上々だ。
「はい、というわけで今回が初出演ということですが、よかったら今後ともヨロシクお願いしまっす! さぁそれでは早速お昼の一番ゲームいってみよー! まずは、こちら。スタァァァァッフ!」
華麗な指パッチンから番組スタッフが用意するのは巨大な射的ゲームのセットだった。
「『狙い撃つぜ、ロック・オン・ハート!』馴染みあるゲームですが今回はいつもより豪華景品を視聴者プレゼント! なんとこちら。軍事国家アゴウより発売されているミニチュアモデル『HW型フォートクラブ(親衛隊仕様)』をプレゼント!」
布を被せられていた景品の下からは精巧な技術によって仕上げられている確かな質感、そして完全再現されたフォルム。しかも驚くことに自立する上に電源ボタンひとつで動く(!?)という脅威のテクノロジー。挨拶代わりに手のひらサイズのフォートクラブは両腕のハサミを振り上げていた。
「か、かわいい……欲しい……!」
「おっとネプギアちゃんの目が輝いてるぅー! 最高得点出したら景品獲得も夢じゃない!」
「ホントですか! よーし……」
「はい今回の的はこちら、テメェの顔も見たくねぇことで愛嬌あるかと思ったけどそんなことは記憶にございません、クソみたいにキモい顔で定評のあるモンスターこと」
「あ、やな予感……」
「べまモンのぬいぐるみだー、ブチ殺せーー! 撃ちまくれーー!」
「ひぃぃやぁぁぁぁぁ!?!?」
ネプギアと観客席から悲鳴があがっていた。大量に現れる『
「ぎゃぁぁぁぁーー!!」「キモいぃぃぃ!!」「いあ! いあ!」「おろろろろ……!」「キモい! この上なくキモい!!」「番組スタッフふざけんなー!!」「ふたぐん! ふたぐん!」
「罵声も怒声も聞く耳持たずに当番組は放送事故でも生中継をモットーにしております! オラオラァ、観客どもー! 顔映されたくなかったら静かにしやがれー!」
そして出演者に渡されるのはそれぞれカラーリングが違うインクの詰まった水鉄砲のライフルモデル。
「ルールは説明不要! 俺色に染まれターゲット! 水性塗料だから安心してお使いいただけます! 市販でお求めいただく際はユノスダス商店街で! 詰替え用はリッターニーキュッパ! ぜひお子様にも!」
いい笑顔でサムズアップしながらカメラの前でポーズを決める司会者。セットの最上部には制限時間が表示された。
「今回のゲストはお二人、それも姉妹ということで二人分を一つに集計致します」
「あ、ホントですか。ありがとうございます」
「よーし、ねっぷねっぷに染め上げてやんよー!」
「それではぁぁぁ、ゲームスタート!」
「うぅ、キモいなぁ……でも私の景品のため! 覚悟です、べまモン!」
ゲームスタートから序盤こそターゲットに向けてインクを発射していたネプテューヌとネプギアだったが、インクの残量を見てふと疑問に感じることがある。
「あれ、もしこれインク使いきっちゃったらどうなるの?」
「ふふん、教えてやろうお嬢さん。使いきった場合は補充に戻るんだ、ほらあそこに補給所がある」
セットの外側にそれぞれの予備タンクが用意されているが、その間にも時間は減っていく。
「このゲームのポイントは、如何にインクの使用を控えて染めるかだ。補充に向かえばそのぶんロスにもなるからな」
「むむ、奥が深いですね。それにこれ、相手が染めた上からでも別にいいんですね」
「最終集計ポイントは塗った数だ。ならば過程や、方法など、どうでもいいのだァーッ!」
「あぁ!? 私達の染めたべまモンが!!」
「インクを垂れ流すも良し、狙い撃つも良し。妨害するも良し、勝てばよかろうなのだァー! 例え初心者でも手加減はしないぞ!」
「なんて大人気ない! でも、そっちの方が私のやる気はうなぎ登りだよー!」
何名かがインクを使いきって外へ補充に走る。二人も残量を見て、まだ消費の少ないネプギアが自分のタンクを取り外すとネプテューヌに渡した。空になったタンクを受け取り、ネプギアは補給所へ向かう。
「おーっと、さすが姉妹! 息のバッチリあったコンビネーションをまさかのアイコンタクト! ンッン~、美しきかな姉妹愛。大好物です!」
カメラ目線でサムズアップも忘れない。
補充のタンクを二つ持ってセットに戻ったネプギアにインクが浴びせられた。
「ひゃぷ!?」
「あ、ごめん」
「いえ、大丈夫です! お姉ちゃん、インク持ってきたよ!」
「おー、ありがとうネプギア! これならあと三年は戦えるよー!」
「さぁー、ゲームも制限時間が残り少なくなってまいりました! それではみなさん、カウントダウンご一緒にー! さーん、にーい、いーち!」
カウントがゼロになった瞬間、スタジオの天井が崩壊する。バイクのエンジン音と土煙が立ち込めて咳き込む司会者と出演者、ざわつく観客席の前に現れたのは――ここまでかっ飛ばしてきたエヌラスだった。
「お前らなんでテレビ出てんの!?」
「あ、エヌラス! もー、折角ゲーム楽しんでたんだから邪魔しないでよ! っていうかなんでいるのさ!」
「俺のセリフだよなぁそれ!? なんで戻ってきた挙句にテレビ出演してしっかり遊んでんだよバカか!」
「さぁーそれでは集計結果を見てみましょー!」
「おいぃぃハプニングだろうがカメラ止めろやぁぁぁ!!」
「例え私が死んでもカメラだけは止めない! スタッフ根性をなめないでいただきたい!」
「いや、ていうか死ぬのかお前……!?」
エヌラスの妨害も空しく、集計結果がまとめられていく。だが、先ほどの衝撃で集計機械が故障したのか、画像がエラーを吐いていた。それでもスタッフは手作業で瓦礫の下からべまモンを発掘しては色ごとに仕分けていく。しかし、悪辣な顔ぶりにめちゃくちゃに染まったソレはもはや一種の生物兵器と化していた。テロだ、バイオテロだ。この世の生命に対する挑戦状だ。自然から生まれてはならぬ邪悪な顔、顔面テロリストがべまモンなのだ!
「あっるぇ、おかしいなぁ……一匹足りない……」
「ああ。あまりにキモくて今しがた俺が焼いた」
「貴方、番組の備品を……!?」
「キモくて……」
「分かります」
エヌラスの足元にあった消し炭がもはや何色であったのかまでは分からない。だがそこはそれ、初めてのゲスト出演ということでネプテューヌ達に景品である『ミニチュアHW型フォートクラブ』が手渡される。
「ありがとうございます!」
「いえ、こちらも良い物を拝ませていただいているので!」
「…………へ?」
ネプギアがふと、自分の服に視線を落とした。誤射とはいえインクを浴びせられてネプギアのワンピースがピッチリと肌に張り付いている。そこからは身体のラインがハッキリと浮かび上がっていた。それに今まで気づかずにゲームに没頭していたのだが、胸から腰、更にはパンツまで透けて見えるようだ。
「釘付けだわ……」
「あ、あわ――!?」
「今日の番組は店じまいだオラァァァァァァ!!!」
「それではみなさんまた来週、よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁっす!!!」
スタジオが消し飛んだが、その日の死傷者は奇跡的にゼロ人であったという。