超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
朝を迎えて、夜勤明けの職員達が食堂へ向かうと空腹に響く美味しそうな匂い。厨房に顔を覗かせるとそこでは既にユウコがエプロンを着けて朝食の用意をしていた。その隣では剣姫が同様に三角巾を着けて、凄まじい勢いで包丁を振るっている。
「ふむ、ざっとこの通りか」
「ありがとー。じゃあ次そっちの火加減よろしくね」
「応、任された!」
「うん? 夜勤お疲れ様でーす。ご飯もうちょっとで出来るから待っててくださーい」
「大盛りにしてやる、楽しみにな!」
「……あ、はい」
髪を結い上げて邪魔にならないようお団子ヘアにしている二人のうなじがとても眩しい。
そして、夜勤明けの職員たちがテーブルで待っていると朝食が並べられていく。リーンボックスでは馴染みの薄い和食ではあるものの、身体は栄養を求めていた。
白米、味噌汁、焼き魚。そしてなぜかポテトサラダとベーコンエッグ。どことなく和洋折衷な組み合わせであるが、気にしてもいられない。厨房担当のコックも何故か一緒になって朝食に手を伸ばしている。
「……うめぇ」
「味噌汁の塩辛さが染みる……」
「ポテトサラダのこのまったりとした食感、口の中に広がる風味……」
「焼き魚も皮の焦げ具合と、中まで火の通った脂身のハーモニー……」
「おかわりあるよー、ジャンジャン食べてねー」
(そしてなにより、国王様の満面の笑顔とおっぱい……)
疲れた身体に染み渡る。仕事で消耗した精神にとても心地よい。
「お水いる?」
「ぁ、あ……お願いします……」
「いいよー。はいどうぞ」
「あざっす……」
「すいませーん、おかわりいいですかー!」
「応、いくらでも食べるが良い! 労働の証拠だ!」
「山盛りッ!」
「食べ終わった人は食器片付けておいてね。ゆっくり休んで、次もよろしく!」
『……お母さん』
「誰がお母さんだこんにゃろー!! いいから食えー!」
朝食を終えて、食堂から出てくる職員達はとても和やかな笑顔を浮かべていた。それを見てこれから勤務時間になる職員達が顔を見合わせる。
「ど、どうした夜勤組。そんな幸せそうな顔して……」
「……俺、リーンボックスの教会職員で良かったといつも思ってたけど今日は格別だった」
「うんうん。商業国家、かぁ……あんなうまい飯、作ってもらえるのかぁ」
「疲れも吹っ飛ぶってものだ。くっそう羨ましすぎるだろ向こうの人達……」
口々に感想を述べながら立ち去っていく姿に首を傾げていたが──食堂に入って、その理由が身に染みてわかった。
教会で通常業務を片付けていると、やけに疲れた様子の男性が一人。壁によりかかっていたので声をかける。
「あのー、どうされました。エヌラスさん」
首には包帯を巻いて、ひどく疲れた顔で眠そうに欠伸をもらしていた。
「ああ、悪い……女神達にやっと解放されてな……」
「……そういえば、グリーンハート様達にお仕置きされていたんでしたね。どのような責め苦を」
「俺が普通の人間だったら、死んでた」
「そ、それほどの拷問を……!?」
「四女神に勝てるわけないだろ……。とりあえず、風呂場まで手を貸してくれると助かる……」
「自分で良ければ、肩をお貸しします」
「ありがとう……」
教会職員の肩を借りて、朝風呂を浴びてサッパリと疲れを流れ落としたエヌラスはその足で人気の減った食堂へ向かった。そこではユウコと剣姫が休憩中の職員達と談笑している。
「お、エヌラス。おはよう」
「ういー、ユウコ。御姫も一緒か」
「うむ、実に気分の良い朝だな! おはよう、エヌラス」
「おはよう。ユウコー、メシー」
「君は人の顔見てそれ以外に言うことねーのか! ちょっと待ってろ!」
「挨拶しただろうが!!」
「うむうむ、実に良い
『夫婦じゃねぇし!』
まさに阿吽の呼吸で切り返す二人に、ますます剣姫は笑った。
「朝日に勝る良いものを見た。今日は良い日になるな!」
「ったく、テメーは……」
「エヌラス。今日の予定は? おれは教祖様方の護衛と出迎えの後にあちらへ戻るが」
「俺も似たようなものだよ」
「ほう。して、どちらへ」
「九龍アマルガム。クソ師匠のところに戻って色々と装備新調したら、またこっち来て……ちょいと会いに行きたい相手がいる」
「なるほどな。大魔導師にはよろしくと伝えておけ」
「へいへい」
けだるげに手を振るエヌラスの首元。雑に巻かれた包帯を見て剣姫が手を伸ばす。
「お前、首の包帯はどうした? 怪我でもしたか?」
「あー……まぁな」
「そのような雑な巻き方では治るものも治らんだろう。おれが直してやる」
「あ、おい。勝手に触るな」
しゅるり、と緩めた包帯の下。エヌラスの首元にはクッキリと残されたキスマーク。それもひとつやふたつではない。それにバツが悪そうな顔をするエヌラスに剣姫は微笑んで手早く包帯を巻き直した。
「これで良し、だ。すぐにでも治せるのに、なぜそうしない?」
「…………」
テーブルに頬杖をついて、黙り込む。剣姫が顔を覗き込むと頬を赤くして照れていた。
「……なんか、嬉しいから治したくない」
「…………」
「悪いかよ」
「いいやぁ~? ふふふ、いやぁ別に悪いとは一言もぉ~?」
「なんだそのくっそムカつくニヤケ面ぁ!! 表出ろテメェ、朝の準備体操だ!」
「応、いいだろう! いくらでも付き合ってやるとも!」
「喧嘩する前に飯食ってからにしろエヌラス! はい残り物!!」
「超大盛りじゃねぇかよ!? 朝から食えるかバカ、加減しろ!」
エヌラスのテーブルに叩きつけられる山盛りのモーニングセット。それが明らかに出来たてであるのは明白だった。
それを少し離れたテーブルから眺めていた職員達がコーヒーを口に含む。
「いやぁ~、砂糖いらねえな」
「ちょっと多かったなー、シュガースティック」
『アッハッハ』
「ふごごごごごご!(訳・テメェ等黙ってろ!)」
「物を口に入れて喋るな!」
ユウコに怒られながら、エヌラスは朝食を平らげ始めていた。その量、実に四人前。完食した。
昼前になって、ようやくベールの部屋から出てきた四女神達もそれぞれ自分達の国の教祖達を迎えに行くと言って帰っていく。エヌラスだけはベールと一緒にリーンボックスの首都空港へ足を運んでいた。
女神が一人で大丈夫なのか、という護衛の言葉に対しエヌラスが睨みを利かせて黙らせている。
箱崎チカ。リーンボックスの教祖であり、ベールにとっては妹のようにかわいがっている存在であり、病弱らしい。エヌラスも直接見たわけではないので、聞いた限りではそういった人物像でしかない。
「エヌラスの国には、教祖はいないんですの?」
「一応いる。だけど会ったことは一度も無いな」
それと訂正してほしい。今は大魔導師の国だ。犯罪国家、九龍アマルガムにも教祖の存在はほのめかされているが、一度もその存在を目にした事がない。それも大魔導師から直々に。
ハンティングホラーでリーンボックス首都空港までベールを送迎し、影に戻す。それを見ていた通行人が腰を抜かしていた。
小奇麗な空港を見渡して、見知った顔がないか探す。だがそこにはやはり知った顔は無かった。あれから一月も経っているのだから、流石にリーンボックスを離れているだろう。ベールに尋ねると、事件の終結後すぐに武装企業は待っていました、と言わんばかりに各国の企業と提携。自社製品を格安の値段で提供。教会にも賠償金の担保として贈呈。会社の責任者であるプレジデントの暴走によるものとして、秘書官であるキャロラインから謝罪会見で発表されている。
現在、凄まじい勢いで武装企業は信頼回復と業務成績を伸ばしていた。三国を相手に数日互角に渡り合った自社製品のアピールは既に済ませていただけに、業務提携を断る企業はほぼ皆無。
「……とんでもねぇマッチポンプだな」
「ですが、それが無ければリーンボックスのシェアも市場も崩壊していたのは事実ですわ」
「まぁ軍事企業の大黒柱だったわけだし」
「それを一人だけ、頭飛び抜けて撃墜してたのはエヌラスですわよ?」
「……あー……なんかトンデモねぇ数落としてた気がするが忘れた」
必死だっただけに、いちいち数えていない。はー、と頬に手を当ててベールが呆れ顔で胸を持ち上げて横目で見つめる。
「わたくし達女神の撃墜数が、ざっと平均して千体以上。エヌラス、貴方が撃墜したと思われる原因不明の機体が、おおよそ一万以上ですわ」
「……ちなみに師匠は?」
「…………一撃で、五千以上」
そりゃあ──あんな規模の攻撃をすればそうもなろう。現在もルウィーで温泉旅行を楽しんでいるらしいが、国務はどうしたのだろうか。犯罪国家の特徴として法律などケツを拭く紙にもなりはしないもののそれとこれでは話が別である。
「うちの師匠は手段選ばねぇから……」
「そうですわね。スコアだけで評価されるのは音ゲーだけで十分です」
「おいゲーム脳」
「大事なのはプレイング。勝つために手段を選ばない格ゲーの試合なんて見ていても盛り上がりませんもの。一流であるならばやはり魅せるものもなければ」
「おい、聞こえてるかゲーム脳」
「なんですの?」
「……教祖様って、あのー……なんかすげぇこっちを睨んでるポニーテールの女の子でいいのか」
エヌラスの視線の先、そこにはお土産を持って睨んでいるチカがいた。その目は明らかにエヌラスを敵視していたものの、ベールが微笑んで駆け寄ると優しい笑みを浮かべる。
「ベールお姉さま」
「チカ、おかえりなさいませ。会議の方はどうでしたか?」
「ええ。詳しいことは、後日改めて行われる各国の女神達との協議で決めることに」
「こちらはお土産ですの?」
「はい。ベールお姉さまが喜ぶかと思って」
「どれどれ……まぁ、これは……」
ベールが袋の中を覗いて驚いていた。その中には今では入手困難とされているルウィーのレトロゲーム、どれも状態の良いものばかりだ。
「どこでこれらの品を? ネットで検索しても出てこなかったものばかり」
「とある御仁の紹介で。ルウィーの温泉宿の一角で取り扱っていた物を譲っていただいたとか」
(うわー、心当たりしかねー。何してんだあの人は)
エヌラスが頭を抱えていると、チカの後ろから大魔導師が片手を挙げてベールに挨拶をする。
「こちらの方でして」
「うちのバカ弟子が世話になったな」
「まぁ、大魔導師。わたくしがゲーム好きと知っていてこちらを?」
「手土産が無いと嘆いていた酔っぱらいの教祖があまりに惨めだったものでな」
「…………」
ベールとエヌラスの視線がチカを見つめ、顔を逸らしていた。酔っ払うほど飲んでいたのか。
「と、とにかくベールお姉さま。こうして無事に戻りましてよ」
「それでは、急ぎ教会に戻りましょうか。大魔導師は?」
「ふむ、そうだな。そこで顔面蒼白になってるバカを連れて戻ろうかというところだが」
「……なんで俺を連れて戻ろうと?」
「一月丸々惰眠を貪っていた貴様に、俺が一月丸々投げ出していた国務を押しつけるためだが?」
「あんたマジで温泉旅行しかしてねぇのかよ!? バカなのかバァァーカ!!」
「寝言を言うな。きちんと宿泊したルウィーの宿の観光アピールで集客率が以前の三割増しにしてやった。今では観光大使任命直前だ」
「俺は今すぐあんたを九龍アマルガムに連れて帰らなきゃならない使命感に駆られてる」
「……来週には雪まつり動物園パレードの開催予定なんだが」
「なんで自分がそんなことをしているのか考える脳みそあるか!? 一ミクロンでも!」
「公共の場で騒ぐな」
エヌラスが大魔導師の手で叩き伏せられ、沈黙した。
「さて、それではな。また縁があれば顔を合わせることもあるだろう」
「ええ。道中、お気をつけて」
「エヌラスは大丈夫なんですの?」
「いつものことだ」