超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
リーンボックス教会までの道中、剣姫がベール共々チカを護衛を務めたが特に何事もなく。それからすぐにユウコを連れて二人もアダルトゲイムギョウ界へと帰っていった。プラネテューヌから始まり、ラステイション、ルウィー、リーンボックスの教会敷地内にのみ次元間テレポーターを許可したことであちらとこちらの行き来がだいぶ緩和されたものの、やはりその人数制限は一人から最大二人までに限定されている。エヌラスのように次元渡航能力を有していないユウコ達は、商業国家ユノスダス教会へと帰還した。
相も変わらず朝から夜まで大忙しの通常運転。それにユウコが満足そうに頷いていた。
「うんうん、時は金なり。タイム・イズ・マネーは偉大なり。頑張って働いてくれていると私もやっぱ頑張んないとなーって気になるね」
「うむ。いつ来ても良い活気だ。おれも負けじとアゴウで一肌脱ぎたくなってくるな」
主に拳で。
「んで、つるちゃん。このままアゴウに帰る?」
「そうさなぁ。今はそうする他にあるまい。おれも色々と忙しいからな」
「あはは、まっさかー」
「トライデントがいなくなった以上は仕方あるまい?」
「あはは……はぁ……」
トライデント分隊。わずか三名の国王親衛隊。白兵戦、射撃戦、そして統率能力に優れた三人はもういない。残されたのは唯一人だけ──シルフィ。ゼロワンだけだ。その機体も大破しており、人間であれば即死しているほどだった。頭部半壊、胴体大破、内部機関がほぼ全壊状態であり、修復されたにもかかわらずその日の内にひどく摩耗していたことから、ゼロワンの制御に身体がついてこなかったらしい。それを聞いて機人の設計データを引っ張り出して現在はソラが頭を悩ませているようだ。
「アイツの働きは、実に余りある戦果だ。それに見合うだけの資金を捻出して投資する」
「……」
「当然、邪神の手にかけられたおれの大事な兵達も弔った」
それでも、剣姫は止まらない。未来に向けた歩みに一寸の迷いもない。ユウコはそれに目を伏せた。あまりに眩しすぎるその生き方は、吸血鬼の自分には直視できやしない。
「ゆえに、お前の協力が必須だ、ユウコ」
「え、私?」
「当然だろう。金は天下の回り者、巡り巡って全てを手中に収めんとする天上人である商業国家国王以上に金銭に置いて頼れる相手などいない」
「やー、褒められてもねぇ。嬉しいんだけどねー、へへー」
ユノスダス教会、第一教会棟『ブラバン』区から二人が移動する。中央棟へ向かうまでの中庭からは黄色い歓声。
「きゃーユウコ様ー!」
「国王様ー、おかえりなさいませー!」
「いえいえーい。みんな元気ー! たっだいまー!」
「みゃーユウコー、おかえりーん」
「なにしてんのムルフェスト」
「お散歩!」
他人の国の政治中枢敷地を闊歩していた金髪セミロングの吸血姫がひとり、制服姿の教会職員に混じっていた。人からかけ離れたオーラを纏っているだけに、制服を着込んだところで隠せるものでもない。ひと目でバレた。それに照れたように笑いながら手を振って歩み寄る。
剣姫が手を挙げて、ハイタッチ。ぱちーん。
「おう、ムルフェスト。健勝か」
「ちょー健康体。昨日も半日も寝ちゃうほど快眠だったよ」
「ほー、羨ましい怠惰ぶりだな。おれもそれぐらい寝てみたいものだ」
「……あれ、ワタシけなされてね? ちょ~っとー、つるちゃーん」
「うん? そんなつもり欠片も無かったが」
「はいはいはい、ストップー。何しにきたの?」
「女子会!」
「はい帰れー、今すぐ回れ右してレッツゴーホーム。これからお仕事だから」
「にゃ~だ~よ~、かまってよ~。最近ソラもアルシュベイトもドラグレイスも大魔導師もワタシの顔見るだけで機嫌悪そうにするんだもぉん」
「…………そりゃあ、以前のようにはいかないでしょ」
塔争の記憶。奇妙な感覚だ。まるで昨日まで送っていた日常が偽りであったかのように。
真実はこんなにも残酷で。それをたった一人で覆い隠して黙っていた魔人、エヌラス。優しい嘘なんてどこにもない。それがどれだけの苦痛を伴うものだとしても、ただ笑って生きていてほしかっただけなのに。
ユウコは、それを考えないようにしていた。手を繋いでキンジ塔を一緒に駆け上がった記憶が蘇る──その時のエヌラスは、確かに泣いていたのだから。
「というか、当然だろう。お前はこれまで自分がしでかしてきた事を忘れたわけではあるまい」
「わすれましたーてへぺろーぬ。むーちゃんはいつだってその日気ままの自由な自堕落おべんちゃらんぽらんたんなお姫様なので」
「ハッハッハ、拳で性根を叩き直してやりたいな!」
「やめて!」
笑顔で胸ぐらを掴み上げている剣姫に、ムルフェストが涙目で降参の意思を見せている。
「しかしなぁ。あの男どもときたら、特にドラグレイスだ。記憶が戻った途端にすっかり自分の国に引きこもりおって」
「ソラも似たような感じだけどね」
最近はめっきりパルフェ通りに顔も見せなくなった。国務が忙しいとかなんとか理由をつけているが、電脳国家は現在全面的に立ち入り禁止となっている。
軍事国家アゴウは相も変わらず。アルシュベイトが以前にも増して富国強兵に尽力しているくらいのものだ。
犯罪国家九龍アマルガムは………………。
思考放棄。ユウコは何も考えないことにした。触らぬ神に祟りなし、触らぬ金に価値なし。使ってなんぼのものだ。
「はいお仕事モード!」
「わー赤縁メガネ」
「伊達だろうに」
「きーぶーんー! 気分の問題なんだってば! いいからつるちゃんも自分の国に戻りなさい! 守護女神でしょ! ムルフェストも! 女子会とかなんとか言ってるけど遊んでほしかったらちょっとくらい手伝って! 暇でしょ!」
「お、これはワタシが夕飯ご馳走パターン? やったね。ちょっとだけなら手伝うよ、一時間くらい」
「じゃあ残り四時間分の仕事一時間で片付けて」
「おっとー、時間という概念を越えてきたぞぅ。これはワタシまじヤバピンチなんじゃ?」
「ユウコに言われては仕方ない。おとなしくアゴウに戻るとするか」
「はい解散! またねー、つるちゃん」
「応! それではな!」
教会敷地から立ち去る剣姫の後ろ姿を見送り、ユウコはムルフェストの手を引っ張って道行く職員たちに指示を飛ばしつつ、近況報告に耳を傾ける。聖徳太子も驚きの十人以上の話を同時に聞き分けながら可能な限り作業を分担、単純なものに仕分けて人員を動かしていた。
「よーし、バリバリ働くぞー!」
「わーい、ダラダラ働くぞー」
ムルフェストがお尻を蹴られて猫のような悲鳴を挙げる。
──九龍アマルガム上層都市教会。公安局本局。
ハウンドスーツを着込んだエヌラスと、同様に白スーツ姿の大魔導師が病的なまでに清潔感を維持している廊下を肩を並べて歩く。
エヌラスの手には書類の束が。大魔導師の手にはバインダーが握られていた。
「上層での犯罪率は相変わらず一割にも満たないか」
「それでも一日百人単位で人口減ってるわけだが」
「全部犯罪者だ、問題ない」
「人道的に問題あるだろうが」
「今更お前の口から倫理的な話をされてもな」
「人の存在を正面から冒涜する国王に人権ないと思うんだが」
「魔人が何を言うか」
「生みの親が何を言ってんだ」
「…………お父さん、と呼んでくれてもいいぞ」「死ね」
食い気味に即答して、エヌラスは大魔導師の膝裏を蹴る。
大魔導師の回し蹴りで公安局本局地上三十二階の窓ガラスが割れた。降り注ぐガラス片で怪我人が十数名という被害が出たものの、相手が大魔導師と判明した途端に静まり返って人々は何事もなく日常へ戻っていく。
「さて、下層都市に逃げ込んだ犯罪者のリストは見てのとおりだ」
「何事もなかったかのように話を戻すなよ!? 大損害だからな!?」
「次からは強化繊維ガラスに貼り替えるか」
「破壊活動をリフォーム工事にすげ替えるなよ大魔導師? 聞いてるか師匠? 俺の話ガン無視決め込んで教会直通エレベーターに逃げ込むんじゃ──置いていきやがった!」
戻ってきたエレベーターに乗り込んだエヌラスだったが、教会に辿り着くまでのボタンを全て押された状態だったために半ギレになりながら公安局から飛び出して別な道を経由して下層都心部へとハンティングホラーを全速力でかっ飛ばした。時間にして、驚きの四分半。
九龍アマルガム地下教会、廃病棟に到着するまでに発生した交通事故四十件、傷害事件二十件、マフィアの抗争四件、火事場泥棒六十二件。エヌラスは全部見ないふりをして何人か轢きながら教会に到着した。
「邪魔だテメェ、死んでろ!」
「ぐえ……」
ハンティングホラーに張り付いていた瀕死の暴力団関係者を蹴り飛ばしてトドメを刺しておく。心肺停止した直後、教会の扉を開けて自動人形のメイド達が死体を片付けて戻る。それに続いてエヌラスが教会の玄関ホールに入ると、テキパキと働く中にまじって一人だけやけに人間臭いのがいた。
金髪ロングヘアーで──ロングスカートのエプロンドレスで──翡翠色の大きな瞳と目が合った瞬間、エヌラスは目眩がした。
「あっ」
という間に笑顔で駆け寄ってくる。行儀よく踵と手を揃えて頭を下げて、会釈。顔を上げると満面の笑み。
「いらっしゃいませー、おひとりさまですかー?」
「………………………あのね、マリー。ここそういう場所じゃないからな?」
「あれ、間違えてた? んー……じゃあねぇ」
ポン、と手を叩いて小首を傾げながら。
「おかえりなさい、ご飯にする? お風呂? それともぉ……お・し・ご・と?」
「んー、そのこっちの期待を裏切って全力でぶん殴ってくる姿勢大好きだぞ。仕 事 だ よ!」
「そっかー。がんばってね」
「うん、がんばる……」
頭が痛くなってきた。というよりも何故、教会でメイド服を着て掃除をしているのか。
「あ、やっほーエヌラスー! また会えたね! なんだか久しぶりー!」
「なんでテメェもいるんだネプテューヌゥゥゥッ!!!」
「それより、どうどう! このメイド服! 似合ってるかな! やっぱりご主人様ーってのは外せないよね、どーお?」
「はーお前ほんまめっちゃかわいいな畜生! プリティデビルかよ! かわいさの暴力!」
ミニスカメイド服の大ネプテューヌが胸を張っていた。その傍らには黒い蝶が飛んでいる。クロワールも一緒のようだ。
マリーと大ネプテューヌが笑顔で手を叩く。
「いえー、やったねマリーちゃーん! かわいいって言われちゃった!」
「メロメロだねー」
(とりあえず後で大魔導師ぶん殴っておくか……)
エヌラスは出来る限り二人から視線と意識を逸らして、大魔導師がいるであろう執務室へと足を運ぶことにした。何故かその後ろをマリーがついてくる。
「……メイドさん、俺に何か御用でしょうか?」
「メイドですからお客様のお世話をしよーかと思いまして、えっへん」
「……その言い方はとても心臓とかその他もろもろに危険だから絶対に他で言うなよ?」
「エヌラスにしか言わないよ?」
ズドォン!!(エヌラスが壁に全力で拳を叩きつけた音)
「あ、お仕事増えちゃった」
「すまんなごめんな許してくださいほんと勘弁して」
──なに? 俺を殺しにきてるのマリー? 多額の報酬で引き受けちゃったりしているの? そうでもなかったらこんな極悪教会でメイド服着て仕事なんかしてないもんな、そっかー。お前に殺されるんだったら悪くないかもなー、でも俺やらなきゃならないことあるからちょっと勘弁ね。ほんと許して。ごめん。記憶のない元カノがロングスカートのメイド服で「お世話してあげる」なんて言ってきたらどうなると思う? 俺は死ぬ。
とりあえず、執務室の扉をノックしてからクトゥグアとイタクァを全弾室内に撃ち込んだ。大魔導師は椅子に座ったまま全弾、超重力弾で相殺させた。バケモノめ。