超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「さて、それでお前に頼む仕事だが──」
「はーい、大魔導師」
「どうした、マリー」
「多分エヌラスに聞こえてなーい」
吹っ飛ばされたエヌラスは現在、廊下でひっくり返っていた。ぺちぺちとマリーがその頬を叩いて起こすと、執務室に身体を慣らしながら入室する。
「一歩も動かねぇとかバケモノかよあんた……」
「それでお前に頼む仕事だが、色々と立て込んでいるから三日以内に片を付けろ」
「ちょっと待った、異議あり」
「……ところで雪まつり動物園パレードなんだが、ルウィーは小さいものが人気らしいからペンギンとか兎とかそういった小動物でまとめたほうが良いだろうか。大きな動物とかもやはりインパクトがあって客目を引けると思うが。やはりゾウか」
「私はやっぱりパンダがいいかなー」
「……雪像でパンダは難易度が高すぎないか?」
「そっかな?」
「俺の意見を無視して話を進めるんじゃない、師匠とマリー!」
「エヌラスはパンダ嫌い?」
「嫌いじゃないけどぉ!?」
違うそうではない、話を聞いてくれ。しかも何平然とした顔でルウィーに戻るつもり満々なんだ大魔導師。エヌラスが色々と追求したいところだったが、目の前で無数の頁が舞ったと思えば三冊の書物が書き上げられていた。
「──三週間分だ」
「ものの十数秒で終わるじゃねぇかぁぁぁぁ!!!」
「通常業務の話だ。イレギュラーな追加作業はこれでは片付けられない以上、仕方ないだろう」
「イレギュラーしか起きないだろ、この国……」
「毎日お祭りみたいで楽しいよね」
……楽しい!? エヌラスがマリーの正気を疑う。ニコニコ笑顔の顔を見て癒やされる自分がいた。しかし、それで思い出したことがある。
「そうだ、師匠。聞きたいことがあるんだが」
「なんだ? やはりゾウさんか」
「真顔でゾウさんとか言うな、腹筋千切れとぶ」
「じゃあなんだ、言ってみろ。チュパカブラか」
「動物園にチュパカブラはいねぇよ!!」
「……モスマン?」
「未確認生物から離れろ!」
「そうだ、ダンセイニを持っていこう」
「神性生物もいねえだろ普通はよぉっ!? 常識的に物事を考えろぉ!?」
「…………」
大魔導師、思案中──。
「……モンゴリアンデスワームはどうだ」
「理解の範疇で会話しろ。もういい、好きに──「責任はお前が負うのか?」……しないでくれ。なんでマリーが教会でバイトしてるんだ」
「えっとねー、お金がないからお仕事ないですかーって大魔導師に聞いたの」
犯罪国家国王に直談判とは恐れ入る。
「そうしたら「じゃあ教会で働け」って言われたので、今の私は教会職員マリーちゃんです! えへー、どやー」
「そうですか。うん、悪い。どうしても一言いいたい」
「?」
「バカかお前ら……」
頭が痛くなってきた。どうしてそう、人の過去を蒸し返すようなことをしているのか。大魔導師を睨めば、いつものように微笑を浮かべている。
「こうしていた方が、お前も安心できるだろう?」
「……」
「帰ってくる理由にもなるだろうしな。いちいち戦々恐々と街を歩く必要もなくなる。他に言うことは?」
「なにも……」
「あ、そうだ。私大事なこと忘れてた」
手を合わせるマリーの言葉に、思わずエヌラスが身構えた。いまいち心情の悟れない笑顔を向けて、唇の動きを見逃さない。
「お客様にお茶とお菓子出さなきゃ。紅茶? 緑茶? コーヒー? ホットとアイスあるけど」
「────水でいい」
「はーい。じゃあちょっとだけ待っててねー」
マリーがスカートを翻して執務室を後にする。エヌラスは深く息を吐きだして、ソファーに身体を投げ出した。ついでに手にしていた書類もぶん投げる。
「どうした、随分と疲れた様子だが」
「……アンタ、自分が何してるか分かってるか?」
「そこまでボケていないつもりだがな」
「…………マリーの記憶は」
「まず間違いなく戻っていない。心配するな。塔争の記憶は俺達神格者だけだ」
それはつまり──セロンの存在を認識している人物のみ。
「クロックサイコは」
「以下同文。アレも記憶を取り戻している。だが以前のような狂い時計ではないさ」
そも、世界の真実を前にして狂った神格剥奪者だ。例外ではない。エヌラスの妹を惨殺した記憶を取り戻した今は時計商店の経営に専念している。大魔導師と共謀していたとはいえ──やはり、それだけは未だに許せなかった。
「アイツからお前に伝言だ。許されることではないが、謝罪させてくれと」
「許しちゃいないが、謝罪は聞いておくって言っておく。それで、例の犯罪者のリスト。そう多くはないし、ざっと見て二十人の弱小組織なら楽勝だ」
「それならいいのだがな」
「……なんだよ、なんか言いたげだな師匠」
「一応言っておくが。その連中は上層都市の“シビュラの信託”による犯罪係数測定を逃れた連中だ。上の生まれとはいえ、侮れんぞ。こちらにまで逃げ込んだ以上は、合法違法問わない手段を用いてくる可能性がある」
「っていうか行動の目的は?」
「目先の金欲しさだろう。銀行強盗数件だしな」
「……欲は身を滅ぼすってこのことかねぇ」
ソファーにぐったりと倒れて堕落的な態度を見せるエヌラスに、大魔導師は鼻で笑う。
「なんだよ」
「いいや。こうしていると昔を思い出すな」
「……俺の妹が居ない。だから昔とは違う、以上この話終わり」
「お茶とお菓子お持ちしましたー、あっ」
「あっ」
執務室の扉、その縁に足を引っ掛けてマリーの手にしていたトレイから宙を舞う水の入ったコップが放物線を描いて飛んでいく。中身をテーブルの書類にぶちまけて、倒れそうになる身体をなんとか自力で踏みとどめた。
「……危なかったー」
「書類……これ、確か公安に返却しなきゃならないやつ……」
「そうだな。俺がなんとかしておこう。お前は準備しておけ」
「工房の方は勝手に使ってもいいのか?」
「好きに使え。元々お前の為に用意した場所だ」
魔術工房──主に倉庫として使われていた一室だったのだが、大魔導師が自ら手を加えたおかげで見かけ以上に広大な空間となっている。術式礼装やその他諸々の複製品を保管しているもののそれらは大魔導師が趣味で集めた蒐集品ばかり。中には手製の物もあるが、それきりで手を付けていないものが多い。
「???」
マリーは首を傾げている。とはいえ、書類を水浸しにしたことは素直に反省しているようで頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「怪我してないよな。んじゃ、師匠。ちょっと工房借りるわ」
「ああ」
「失礼しましたー」
エヌラスとマリーが執務室を後にする。
大魔導師は、頬杖をついて水浸しになったテーブルを盗み見る。
「……で、誰も片付けないのか」
ポツリとした呟きに返事をするのは、静寂ばかりだ。
九龍アマルガム教会魔術工房は、地下倉庫になっている。所狭しと並べられた魔術の蒐集品が棚に規則正しく並べられていた。掃除の手も行き届いているようで、埃ひとつかぶっていない。取扱要注意、下手をすれば教会が地下から吹っ飛ぶことになる。
エヌラスはその棚の中から薬剤と調合書、それと銃器をいくつか見繕って引っ張り出した。それらを作業机に並べていき、足りないものを追加で手にする。その後ろを忙しなくついてくるマリーの手を借りながら。
人の入らない空気の冷たさと、静寂感。白い吐息をこぼしながらエヌラスは身体を奮わせるメイドに視線を向ける。
「寒くないか、マリー」
「うん、ちょっと寒いです」
「上着貸してやるから……」
「わーい」
素直で正直に答えるマリーにエヌラスはスーツの上着を脱いで渡した。袖を捲り、作業机に並べた銃器と弾丸。薬剤の山を見渡してから息を吐き出す。壊れたレイジング・ブルマキシカスタムも応急処置で使っていたがこの度お役御免となった。
「……エヌラス、なにか手伝えることある?」
「ジッとしてて下さい」
「はぁい。じー」
「……っていうか、仕事はどうした」
「お客様のお世話もメイドの仕事なのです、ふすー」
「あぁ、そう。これからちょっと手が離せなくなるからマリーのことかまってやれなくなるがいいのか?」
「私は別にいいよ? 一緒にいれれば」
「……そっか」
手元が狂いそうになるので作業中断。まずは銃器を分解して、プランを練る。
(そういや、アイエフにもマジックアイテムとか用意してやらないとな……)
複製品とはいえ、取扱には苦戦しているはずだろうし。ブランにも何か面白そうな本を持っていかないと……ネプギア辺りにも手土産に技術書を、ノワールには何がいいだろうか。
あれやこれやと考え込んでいるうちに手が止まっていた。その横顔を覗き込んでくるマリーが頬をつついてくる。
「つんつん」
「……ん、なんだ?」
「手が止まってたから」
「あー……ほんとだ。ありがとな」
「どういたしまして。長くなりそう?」
「そうだな……ちょっと時間かかる」
「夜食とか必要になったら言ってね。すぐ持ってくるから」
「ん、わかった」
──つい。“昔の癖”で、マリーの頬にキスをしてしまった。
「…………」
「────あー……その、今のは……悪い」
顔を赤くして頬に手を当てる表情が、緩んでいく。
「びっくりしちゃった……ありがと」
「お、おう……」
「じゃあお返しね」
マリーの唇が頬に添えられる。工房の冷気で冷たくなった肌に、心地よい人肌の温もり。懐かしくもあり、同時に昔の記憶が蘇った。
──あの時も、今のように笑いながら作業している横で楽しそうに手元を見ていてくれた。
「……」
「?」
本当に、何一つ覚えていないのだろう。だがそれでも、昔と何一つ変わらない少女にエヌラスは笑みがこぼれる。
「んじゃ、本格的に作業始めるか」
「がんばってねー」
まずは──設計プラン。クトゥグアとイタクァのおかげで通常の銃器を使用する機会が減ってしまった。ドミネーションに至っては相手を選ぶ。非殺傷設定が楽なだけに制圧、もとい鎮圧の際は重宝するのだが……どうにも燃費がよろしくない。ユニ辺りならば喜びそうなものだが、おいそれと渡せるものではないので頭を悩ませるが後回しにしておく。電磁加速砲くらいならば自力で作れるだろうか……。
改めて、レイジング・ブルマキシカスタムの設計を見直す。装弾数五発。銃身下部のバヨネットに銃口のストライクカスタム仕様。ストッピングパワーに物を言わせた衝撃力は人間など軽く吹き飛ばすが、今後の戦いにおいて活用できるか否か。
(……まぁ、人間相手ならドミネーションあるしなー)
かといって、それ以上の相手をするのならばクトゥグアとイタクァがある。立ち位置として物理的な破壊力を求めている。はて、と並べた材料をざっと見てエヌラスは自分の中で結論を出した。
「まぁいいか。好きに作っちまえ」
「やっちゃえやっちゃえー」
マリーからの声援も背中を押してくれている。
エヌラスは作業を開始した。
……。
…………。
………………。
──なんだこれは? 改めて自分の手元を見つめ直す。
「……?」
「やべぇ、やり過ぎた……」
元のモデルから更に一歩踏み込んだ運用方法として、ストッピングパワーを高めるべく同モデルをベースとしたレイジングジャッジを採用。当然ながら45口径、装填数五発。そこは以前と変更点は無い。使用する弾丸がスラグ弾とショットシェル専用になっただけだ。ハントモデルであるロングバレルに変更を加えて、バヨネットも装着させている。前回からの変更点として、マウントした状態でも使用できるようにハンドアックスの機能も付属させた。当然、材質に水銀も含ませている。
最早レイジング・ジャッジフリークスハントカスタムとして生まれ変わった愛銃を見つめてエヌラスは目頭を押さえた。銃である以前に鈍器だ。そうでなくとも凶器でしかない。
「なんか……前よりゴツくなってない?」
「そうだな……」
手にしてみれば、片手で振るうには多少厳しい重量感がのしかかる。最早小型の大砲だ。専用ホルダーの制作にも取り掛からなくてはならない。が、その前に休憩がてら身体を軽く動かす。
「時間見てなかったけど、今何時だ?」
「えーっとねー……夜の九時」
「……八時間近くぶっ続けで作業してたのか、俺」
いや、自分のことはいい。それよりもマリーの方は大丈夫だったのだろうか。
「マリーは腹減ってないか?」
「お腹空いた」
「だよな……俺もだ」
「じゃあ遅いけど夕飯食べよー」
「……そういやお前、料理出来たっけ?」
「できないよ?」
記憶にある限りでは……、最低限できる。という手料理だった。一緒に食べていた妹の、まるで苦虫でも噛み潰しているかのような表情を思い出す。まずくはないはずだ。遠い記憶にある限りではそれなりに食べられる代物だった。
「まーでも、メイドなわけだし」
「じゃあ頑張ってご飯作ってあげる」
「……無理するなよ?」
「大丈夫、任せて! ダメだったら他の人に手伝ってもらうから!」
「そっかーむりすんなー最初から作ってもらえー? なー?」
手料理は食べたいが。