超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
九龍アマルガム教会の大浴場は相変わらず空間に不釣り合いな広大な間取り。多種多様な浴槽はルウィーの温泉宿に引けを取らないほどだ。それを一室にまとめているのだから恐れ入る。
……そして、気のせいだろうか。浴槽が一個増えている。
「…………温泉卵専用風呂」
わざわざ卵用の風呂を新たに増設したのか。しかもしっかりと茹でてあった。注意書きに「持ち帰りは三個まで」と書き加えられている。持ち帰りってなんだ。
「まぁ風呂で食うものじゃないしな──」
視線を外して振り返れば、そこにはバスタオルを巻いたマリーと返り血で真っ赤になったサヤの二人。そして、更衣室から人の気配。大ネプテューヌとクロワールの二人が追加で入浴してきた。エヌラスは顔を覆う。
「あ、マリーちゃんもサヤちゃんもこれからお風呂? 奇遇だねー」
「なんでオメーもいるんだよ。魔人のくせに」
「それを言ったらてめーもだろうがクロワール!」
「オレはいーんだよ、大魔導師から許可貰ってるからな!」
あのクソ師匠め。だが、クロワールの手首に巻かれているブレスレットを見てエヌラスが怪訝な表情を浮かべた。
「その手首の、なんだ?」
「……監視装置の“ラブラスの魔眼”だとよ」
「ああ、俺も昔付けられたことあったな……」
何でも次元移動を抑制するとか何とか。とんでもないものをサラッと用意してくれるが、その協力者がムルフェストというのだから驚かされる。とはいえ、クロワールがそれを付けているということは、教会の中で悪さは出来ないだろう。
「うわ、サヤちゃん真っ赤っ赤!? どうしたのそれ、ペンキ?」
「……んーとねー」
「いいからまず身体を洗おうな!」
「じゃあ私がエヌラスの身体洗ったげるね、にゅるにゅるで」
「汚すなよ、絶対風呂場汚すなよサヤ。あとで大魔導師に半殺しにされるの俺なんだから」
「汚しちゃったら皆でお掃除すれば良くない? 楽しいよ?」
「よーし、思いっきりニュルニュルしたげるねエヌラス」
「俺の話ぃぃぃーーーーっ!!!」
誰も聞いてくれない悲しさと触手に襲われる。サヤの髪の毛が肉質的な光沢を帯び、その先端にスポンジを掴むとボディシャンプーを馴染ませて泡立たせた。
哀れ、エヌラスは触手の餌食となる。それを見ていたマリーは大ネプテューヌの後ろに座り込んで背中を洗い始めていた。
「ふしゅるー♪」
「サヤ、丁寧に洗ってくれるのはありがたいんだが、せめて自分の手を使ってくれ」
「え~やだー♪」
「そっかーいやかー」
後で覚えてろ、この美少女紛いの肉塊め。無数の触手が腋の下から足の裏まで這い寄っては絶妙な力加減でスポンジを押しつけてくる。手で触れば、粘液が表面を膜状に覆っているのか不快な触り心地。例えるならばナマコ。
「あはははは、くすぐったーい」
「逃げちゃダメですよー。ごしごし」
「マリーちゃんくすぐった、あはははは、くすぐったいってば! ちょ、ちょっと待って、ストップだってー!」
「あー、ネプテューヌさん逃げちゃダメって言ってるのに。もー洗ったげないよ?」
「だ、だってマリーちゃんの洗い方くすぐったいんだもん。はー、もう笑い死んじゃうかと思ったぁ。次は私がやってあげるね」
「いいの? ありがとー」
ほのぼのな一方で、クロワールは触手まみれになっているエヌラスを見て意地の悪い笑みを浮かべていた。
「アッハッハ、触手でいいようにされて無抵抗でやんの。見てて面白いぜ」
「クロワール、テメェ後で覚えてろ、うおぉぉぉ!?」
「ほーら、エヌラスじっとしてて。上手に洗えなくなっちゃうから」
サヤの触手が手首を拘束し、首周りをゴシゴシと洗いだす。それとは別に、背中と胸板と全身をくまなくスポンジを押しつけてくる触手。エヌラスの顔の前に一本だけ伸びてきたかと思うと頬を撫でてくる。
「どーお? 気持ちいい?」
「痛くないし、全身マッサージしてくれるのは嬉しいんだが……」
「だが?」
「ビジュアルがとてもよろしくない。俺が触手に襲われて悦ぶやつはいないだろ」
「オレは見てておもしれーぜ。いいぞもっとやれ」
「サヤ、クロワールにやってやれ」
「はーい。後は自分で流してね、エヌラス。じゃあクロワールちゃんにも、ふしゅるー♪」
「へっ? えっ、いや! オレは! やめ、うひゃあぁぁぁぁやめろぉ!!」
エヌラスからさっと触手の波が引いたかと思えば、次の矛先はクロワール。小さな身体で無数の触手から逃げ出せるはずもなければ為す術もなく、あっという間に身体を拘束されていた。涙目になりながら必死に抜け出そうとするが、サヤの触手は見た目から想像できない怪力で手首と足をがんじがらめにする。
「う、うぅ~!! バカ、離せ!」
「あーもう、暴れないでってば。そういうことしちゃうと……」
「ヒィ……!?」
無理やり足を開かせて触手を蠢かせる。それを見てクロワールが萎縮すると、力を緩めた。
エヌラスが自分の身体を洗い流すと、マリーと大ネプテューヌの様子を見る。
「マリーちゃん、髪の毛長いねー」
「ネプテューヌさんもサラサラでいいなぁ」
「えーそっかなー? おっぱいも大きいよね」
「いえいえそちらこそ」
「えいっ」
「うひゃ。もー、やったなー」
「……なぁ、ふたりとも。身体、洗えよ」
『??』
泡立った身体を合わせて洗いっこというのは、いささか健全な青少年に刺激が強すぎる。健全ではないエヌラスにとっても、少々刺激的な光景だ。視線をそらせば、そこには触手責めクロワールの姿。
褐色の肌に白い泡がとても映える。その全身を這う、小柄な身体にそぐわない太い触手。根本を辿れば黒髪美少女のサヤが満面の笑みで座り込んでいる。
「…………、」
「うんうん。おとなしくしててくれると、私も洗いやすくて助かるよ」
(う、うぅ……ニュルニュルが、気持ち悪い……!)
「エヌラスー、私の背中流してくれる?」
「へいへい……」
「……な、何見てんだこの変態ヤロー! オレがニュルニュルにされてるの見て楽しいか!」
「当たり前だろ何いってんだ。褐色は貴重なんだぞ。それが目の前で触手責めされてたらそりゃ見るだろ」
「ド変態ヤローじゃねぇかぁ! ネプテューヌ、助けてくれよー!」
「え~? でもクロちゃん、口で嫌がってるわりにはちょっと楽しそうだし」
「そんなわけないだろ! だ、誰が触手で──!」
必死に抗議するクロワールにエヌラスと大ネプテューヌが顔を見合わせた。
「どう思う、ネプテューヌ」
「うーん、本気で嫌がってるみたいだし……サヤちゃん、そのへんで」
「じゃあ次はお姉さんで!」
「え? ちょ、ちょっとわたしは大丈夫だってゔぁー!?」
「うわぁエっロ……」
「いやー見ないでエヌラスー!」
「見るなって言われても、俺の隣だしなぁ」
クロワールと大ネプテューヌがサヤの触手の餌食にされる中、マリーは自分の身体を洗い流してスッキリしている。だが、サヤだけが真っ赤なままだったことに気づいて泡立てたスポンジを手にして近づく。
「サヤちゃんも洗ってあげるね」
「いいの?」
「うん、みんなのこと綺麗にしてくれてるから」
「お前は目の前の触手についてノーコメントか、マリー」
「触手? 街の中で結構頻繁に見てるから、慣れてるかなー」
……念の為言っておくが、マリーは普通の女の子である。
「そうか、慣れてるか……」
「襲われてる人も結構見かけるし、でも大抵の場合手遅れなんだよね」
「見慣れた」
「うん、スプラッタなの見慣れちゃった」
「ちょっとその現場は見慣れたくないなぁ俺!」
話している間にも大ネプテューヌとクロワールの執拗な触手洗体は続いている。最初こそ抵抗したネプテューヌだったが、徐々にその力加減に慣れてきたのか、今はされるがまま身体を洗ってもらっている。クロワールはまだ慣れないのか、隙を見て抜け出そうとしていた。
「サヤ。もうその辺でいいだろ」
「はぁ~い」
「ふたりとも、流すぞ」
「う、うん……」
「うぅ……」
顔を赤らめるのとは対照的に、クロワールは涙ぐんでいる。サヤはマリーの手で背中を流してもらっていた。
「なんなんだよぉ、あいつ」
「サヤ。まぁ師匠が拾ってきた神性生物っぽい何か。クレームは全部そっちに言ってくれ、俺じゃどうしようもない」
「この役立たず! ド変態ヤロー! 助けてくれてもよかったじゃねーか! 人が触手に襲われてるの見て悦ぶ倒錯性癖ヤロー!」
「バカ言うな、クロワール。俺は美少女からの罵詈雑言には慣れてる」
「…………」
「いきなり黙るなよ、なんだ。俺がどうしようもないバカで屑でド変態の社会不適合者だって言いたいのか。自分で言っておきながらなんだが本当に生きててごめんなさいだ」
「エヌラス、そういう自虐的なのってわたし良くないと思うよ。自分に自信持って、胸を張って生きていかなくちゃ! えっへん」
こんな風に、とでも言いたげに大ネプテューヌが胸を張ると、胸が揺れた拍子にタオルがはだけて落ちた。それに気づかないまま、二秒、三秒……十秒経過、静まるエヌラスに片目を開けた大ネプテューヌがようやく気づき、顔を真赤にしてタオルで隠す。
「…………エヌラスってば、えっち」
「すまん、突然降って湧いたラッキースケベに脳みその処理速度が致命的なエラー吐き出してた」
「見た?」
「ばっちり目に焼き付けた。ありがとう、ネプテューヌ。今日はよく眠れそうだ」
「もう、そんなにえっちだと嫌われちゃうよ」
「俺のこと嫌いになったか?」
「……んー、エヌラスなら、まぁ仕方ないかなって感じ。それに」
「それに?」
「もっとえっちなこと、しちゃってるし……」
「…………そうだな」
「……したく、なっちゃった?」
「ちょっとまって」
理性と股間と、昨夜の出来事がフラッシュバックして色々と間に合わない。応急処置として股間を押さえるぐらいしか出来なかったエヌラスにマリーが後ろから抱きついた。
「じゃあ、お世話……しなきゃだね?」
「……そこまでするのか、メイドさん」
「今の私はメイド服着てないのでメイドさんじゃないよ?」
「夜の世話までしてくれる理由は」
「気持ちいいの、嫌いな人っていないと思うんだけど」
「俺の性癖歪んだの間違いなくお前のせいだと思うんだ」