超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──九龍アマルガム、スラム区画のとある廃ビルにて。
ボストンバッグから大量のクレジットをばら撒いて、その男たちは喜んでいた。額にして、一生は遊んで暮らせるだろう。
悪魔憑きになったことでシビュラの信託の目を逃れ、電子機器に対するアドバンテージを得た彼らの働かせた悪知恵による強盗事件は順風満帆。全てにおいて順調かに思えた。
上層都市での目的を達した彼らは地下から国外に逃亡を図ろうと計画を練り始める。潤沢な資金で逃亡経路の協力者を買収しようとしていた。目下、問題があるとするならば不測の事態だろう。どれだけの万全を期したとしても決してそれが成功するとは限らない。
「お、俺達……脱出できるか……?」
「何言ってんだ、当たり前だろ! この国の王様は俺達のことなんて歯牙にもかけないさ」
「だけどよぉ……」
かつて、エヌラスと大ネプテューヌに追われていた成人男性は頭を掻く。上層都市での前科だけでなく絶対規律であるシビュラの信託すら欺いた罪は重い。背筋が震えた。
「“鳥兜”の自動人形達も何体か買った。受け取り場所は──」
「ヒュー、大盤振る舞いだな。最高級品じゃないか」
「それだけじゃない。大手ガイノイド会社の技士公司からもサイバネ格闘家を雇った」
「人狼局も目じゃねぇな! ははは!」
いずれもマフィアとしては上位に位置する権力者達だ。そんな彼らからしたら、悪魔憑きの銀行強盗である相手はそれこそ野良犬相当。だからこそ、その羽振りの良さに免じて目を瞑っていた。
廃ビルの中で脱出計画を練り、空にしたペットボトルを投げ捨てて食料と水がなくなったことに気づく。
「うーし、メシと酒と女だな! 門出を祝って盛大にやろうぜ!」
「あんまり派手なことすると、バレるぞ?」
「何言ってんだ、今更! なんせ俺達は恐れ多くも悪魔憑きだぜ? 誰も近づくものかよ」
人ではなくなってしまった。なら法律に縛られることもない。メンバーの一人はそう言いたげに誇らしそうにしていた。国外逃亡を企てているのは、犯罪国家で戦々恐々と強者の顔色を窺うくらいならば、という理由からだ。
「うし、じゃあ飯でも買ってくる──」
メンバーの一人が歪んだ扉に手を掛けたが、ドアノブが回らなかった。首を傾げて、何度か回そうとするが建物の老朽化のせいかびくともしない。
「ったく、このボロめ」
「なにしてんだひ弱。ほら、行くぞ」
『せーのっ』
体当たりで無理やりドアを開けて、肩をさすりながらメンバーの一人は片手を挙げて廃ビルを後にする。
スラム区画はそう珍しくもない。厚手のブルゾン・コートを着直して、地下の寒気に身体を震わせた。
「……不気味な街だ、おっかねぇ」
そうぼやいた直後に、膝裏を蹴られてその場にへたりこんだ。立ち上がろうとする肩に、倭刀の冷たい刀身が当てられる。
「ヒッ──……!」
言葉はなかった。ただ、目と鼻の先で刀身が揺らめいた。
「……?」
「どうした」
「いや、なんか聞こえたような……」
「気のせいだろう。そら、続きだ。この川沿いに──」
「──気のせいじゃねぇ。下に誰かいるぞ!」
悪魔憑きになったことで得られた感覚に従って、メンバーに声を張り上げる。それぞれが手に武器を手にして応戦しようとする中で、半数以上は悪魔憑き本来の異形の姿となって銃と腕を一体化させる者と、光剣を出力するものに別れた。階下から銃声と悲鳴が聞こえてくる。
テーブルを倒して即席のバリケードを作り、バッグにクレジットを詰めて逃げ出す用意をしていた。
…………不意に、静まり返る。生唾を飲み込む音までがハッキリと聞こえてくる。
《……誰か、下に様子を見に行かないか》
「あ、ああ……オレが行く。一緒に来てくれ」
《わかった》
悪魔憑きと、トンプソン機関銃を手にした二人が階下に降りる。
そこで見た光景は、つい数分前まで笑い合っていたメンバー達の死体だった。いずれも綺麗な切り口を残して死んでいる。首を断たれ、折られ、心臓を一突き。或いは、傷一つ無い死体が転がっていた。人数にして、ざっと六人。音もなく殺害されていた。
「…………こいつは」
ヤバイ、と言葉にしようとして、隣に立っていた悪魔憑きに逃げないかと提案する。だが、相手は耳を貸そうともしなかった。既に首が落ちていたからだ。
ごとり──。物言わぬ首が地面を転がり、膝から崩れ落ちる。
立っていたのは、公安局制服の男性。黒髪で、左眼に刀傷のある相手は見覚えがあった。右手には倭刀。そして、左腰には違法改造されたマグナムリボルバー。有無を言わさず、黒髪の男性は頭を鷲掴みにすると倭刀で心臓を貫いた。声を挙げないように顎を固定して、刀を引き抜く。
膝をついた男性の首を刎ねる──エヌラスはそこでようやく、整息した。呆気なさ過ぎる。
(……そういや、普通の人間相手にするのすげぇ久しぶりだな)
普通じゃない相手も混じっているが、九龍アマルガムでは日常茶飯事だ。さっさとこんな仕事は終わらせて教会に戻って……手土産を用意してゲイムギョウ界に戻って……それからさてどうするか。
階段からの足音に、エヌラスはレイジング・ジャッジフリークスハントカスタムを向けた。
悪魔憑きが顔を覗かせた瞬間、スラグ弾によって頭部が木っ端微塵に中身をぶちまける。エヌラスは反動で左腕が痺れていた。
「~~、ってぇバカか! 火薬の分量間違えたわクソが!!」
「人を殺しておいて何を言っているんだお前!?」
「うっせーバーカ! 犯罪国家で殺人が罪に問われるわけねぇだろうが!!」
「理不尽の極み!」
「つぅわけで死ね」
試し撃ちも兼ねて、エヌラスは刃を閃かせて首を断つ。
階段を駆け上がって、室内から顔を覗かせた相手の首を飛び蹴りでへし折る。室内に向けてレイジング・ジャッジのショットシェルで牽制射撃。バリケードにしていた机が粉々に吹き飛んだ。エヌラスの腕も跳ね上がる。一気に応戦状態となった室内に飛び込み、
蹴り飛ばし、逆側の相手を倭刀で串刺しにすると、エヌラスは銃と刀を手放した。
「クトゥグア! イタクァ!」
そして、両手に深紅の自動式拳銃、白銀の回転式拳銃を掴むと室内に向けて乱射する。神性の炎熱と冷風が吹き荒ぶ嵐の如く廃ビルの階室で暴虐の限りを尽くした。
マガジンを空にして、倒れている相手から銃と刀を引き抜くと血振りをする。
「──、…………」
ものの数分で制圧が終わった。二十数名いた銀行強盗メンバーは一人残らず物言わぬ死体となっている。だが、悪魔憑きの体から流れる血液に触れていた一人の男性が立ち上がろうとしていた。それは大ネプテューヌの言っていた相手だったが──エヌラスはノールックで頭を吹き飛ばす。
大量の血痕を浴びたクレジット、脱出経路を記載した九龍アマルガムの地図。国外逃亡をどうこうしたところで、アダルトゲイムギョウ界で生き残れるとは思っていないが、エヌラスはなんともいえないやりきれない気持ちでいっぱいだった。
「…………帰るか」
懐かしい気分になりながら、エヌラスはスラム区画を後にする。──そういえば、昔はこんな風に面倒な仕事を押しつけられては、教会に戻ると……。
「遅かったなクソ弟子」
「ただいまだよバカ師匠」
「誰がバカだバカ弟子?」
「アンタ以外にいるのかクソ師匠?」
「エヌラス、おかえりー。ご飯? お風呂? お仕事? それとも」
「残業か? 腐るほどあるぞ」
「テメェの精神は腐れ爛れてんのか大魔導師!! テメェで片付けろ!」
「大魔導師って腐ってるの? お肌新鮮ぴちぴちなのに?」
「一国の王様の頬をペチペチする恐れ知らずホントお前だけだわ……」
教会に戻ってくるなり大魔導師が玄関ホールで出迎え、その隣にはマリー含める教会メイド達。そんな大魔導師の頬をペチペチと背伸びしながら叩く姿に悪寒がした。慌てて引き離すが、大魔導師は叩かれた頬に触れて笑みを浮かべている。
「ピチピチだぞ?」
「知ってるか大魔導師。今どきの若いやつはピチピチとか言わない」
「フレッシュだぞ?」
「新鮮さを言い換えるな」
「私もフレッシュだよ?」
「そーねー、お前は本当にもーいい加減にしろぉ? 頼むから、俺の心臓ひやっひやするわ」
「エヌラス。ペチペチしないで」
マリーの両頬を軽く叩きながらエヌラスは肌の柔らかさと温もりに触れて顔が緩んでいた。
「惚気るな、まだ仕事中だ」
「へぇいへい……」
「ふぁーいー」
大魔導師に言われるままに、エヌラスはその後も九龍アマルガム内で放置されている珍事件、怪事件の数々を片付ける。
それらが全て終わる頃には既に日が落ちている時間になっていた。
マリー達と一緒に夕飯を食べて、エヌラスはその日の疲れを洗い落として自室に向かう。
「エヌラス、お疲れ様ー!」
「よ!」
「おつかれーエヌラス」
「………………………………」
目頭を押さえて、自室のベッドでくつろいでいた大ネプテューヌとクロワールとマリーの三人を追い出すかどうか考えこんだ。
「なんで俺の部屋に集まってるんだ……」
「鍵が開いてたから!」
「面白そうだからに決まってんだろ?」
「おじゃましてまーす」
「よーしお前ら一発ずつ叩かせろ」
「あいたっ」
「いてっ」
「あうっ」
チョップ&デコピン&チョップ。
「いいかお前ら! 男の子の部屋に許可もなく入ってくるなよ!? っていうか入るなよ! なんでくつろいでるんだよ、おかしいだろ! なぁ!?」
「だって何か色々置いてあるし。昆虫図鑑とか持ってたなら言ってよぉ、もう。水臭いんだから」
「魔人のくせに部屋は人間くせーよな」
「あ、ちゃんとベッドメイキングはしておいたよ。私はできるメイドさんなので」
「さようなら俺の安住の地。二度と安らぐことはないでしょう」
大魔導師ですら暗黙の了承で無断で入ることはなかった自室が美少女達に占領されていた。消し飛ばされた仮眠室の数はいざ知らず。
無防備にベッドで寝転がる大ネプテューヌに、枕でくつろぐクロワール。そしてベッドに腰掛けているメイド服姿のマリー。
エヌラスはソファーで山積みになっていた書物を適当にどかして横になる。
「こっちで寝ないの?」
「お前らがいたら寝れないだろうが」
「昨日はあんなにぐっすり寝てたのに?」
「人の寝顔見て笑ってたのはどこの誰だ」
「私とネプテューヌさんとクロちゃんとサヤちゃんだよ?」
泣きたい。そんなエヌラスのことなど素知らぬ顔で、大ネプテューヌは腕を引っ張った。
「いいからいいから。エヌラスのお部屋なんだし、ちゃんとベッドで寝ないと。今日もお仕事お疲れ様」
「俺を労りながらナチュラルにベッドに誘う高等技術を無邪気に見せつけるな」
「いやらしいやつだなオメーは。エッチなことでも考えてたんだろ?」
「クロワール」
「んー? なんだ。ニヤニヤ……」
「言っておくがお前も対象だからな」
「………………」
「褐色って、いいよな♪」
「へ、変態野郎ーーーー!!」
「クロちゃんの褐色ってすべすべしてて気持ちいいよ? 今日もお風呂で」
「にゅるにゅるの話はやめろぉ! というかオレもっておかしいだろ! 無理だろぉ!? どうするつもりだよ!」
「知りたいか」
「知りたくねぇよ! やめろ、近づくんじゃねぇ! オレに近づくなぁーーー!!」