超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
足場の少ないエヌラスの自室を飛び回って逃げようとするクロワールだったが、不意に開いたドアに身体を強烈にぶつけて床に落ちたところを拾われて捕まった。入室してきたのは大魔導師とサヤの二人。それにますます顔を青ざめる顔を無視してエヌラスを手招きしていた。
「なんだよ、師匠。こんな夜中に」
「少し話がある、顔を貸せ」
「別にいいけどよ……」
「きゅう……」
目を回して伸びているクロワールを気にかけながらエヌラスは廊下で大魔導師と向かい合う。室内からはマリー達が楽しそうにしていた。
「報告書に不備でも?」
「いいや。それは問題なかった。今日の仕事で渡した二本は使ったか?」
「いや、使ってねぇけど……試射も兼ねてたから、ほとんど銃といつもの倭刀だが」
「そうか」
「あの二本がどうかしたのか、師匠」
「お前に渡したあの二本は少々特別でな。かいつまんで説明するなら、あれで敵を倒せば倒すほど強度が増すというものだ」
「剣に経験値が溜まる、みたいなものか?」
「そう思ってくれて構わない」
「妖刀か?」
「さてどうだったかな」
すっとぼける大魔導師に対して、エヌラスは自分の左手に紫電を奔らせる。使い勝手と相性の良さから活用する場面が多い稲妻の細剣。もう一振りはあまり活躍の場面が無かったが、腐ることはないだろう。
「……そういや、師匠。こいつ使ってる時に声が聞こえたんだが、なんだったんだ?」
「そうか」
「おい、なんでにやけてんだ」
「いいや別に?」
「女の声だったんだよ」
「そうかそうか」
「なんで嬉しそうにしてんだクソ師匠~? アンタまさかとは思うが」
「なに。お前とは相性が良さそうで何よりだ、はっはっは」
「笑って立ち去るんじゃねぇ!」
細剣を振るう、しかし大魔導師の白手袋によって阻まれた。
「……最近、重力障壁使わないのは何か理由があるのか?」
「術式ごと撃ち抜かれたからな、再構築が面倒というだけの話だ」
「出不精な。そんなんじゃそのうちやられちまうぞ」
「なに。二度と不覚は取らんさ。話はそれだけだ。できるだけ使ってやれ、ふてくされるぞ」
キン、と。細剣を払い除けて大魔導師は去っていく。その背中を見送って、エヌラスは改めて左手の細剣に視線を落とした。
「…………」
ぺちぺちと、刀身を軽く叩く。反応なし。エヌラスは細剣を霧散させると部屋に戻った。
そこには昨夜と同様の光景が広がっている。ベッドで四人の美少女が和気あいあい、野郎の寝る場所無し。エヌラスはソファーに座り込んだ。
「大魔導師と何の話だったの?」
「別に大した話じゃなかった。渡した武器使えってだけの話」
背もたれに体重を預ける姿を見て、マリーが駆け寄ってくるとエヌラスの膝の上に座り込む。おしりの弾力が心地よい。スカートの生地越しに押しつけられる温もりに、思わず顔が熱くなる。どうしても、つい意識してしまう。
「?」
「…………」
小動物のように首を傾げるのをやめてくれ。どうしても頬が緩む。エヌラスはごまかすようにマリーの頬をつまんだ。
「ふい?」
「……」
むにむに。すべすべ。むにむにむに。
「おひゃえし~」
「むぃ」
むにむにむにむにむに……。
二人で頬を何度も触ったり撫でたり引っ張ったり。マリーは楽しそうにしていたが、不意にエヌラスの前髪をかき上げた。左半分だけ伸ばして、少しでも刀傷を隠していたがそれが気になったらしい。
「まえひゃみじゃまひゃない?」
「何言っているかわっかんね」
「むー、まーえーがーみー、じゃーまーじゃーなーいー?」
「邪魔じゃないから、戻せ。でこ出してると落ち着かない」
「え~、エヌラスそっちのが似合うと思うけどなぁ」
「……そうは言われてもな」
大ネプテューヌの言葉は嬉しいが、そうもいかない。そもそも左眼の視力も魔力で補填している状態だ。こればかりは治療の施しようがない。手で隠そうとするのをマリーが止めて、顔を近づける。
鼻先が触れそうになるほど間近に、相手の顔があった。思わず息を止めてしまう。
「…………」
「…………」
「……マ、」
「エヌラスの眼って、左右で少しだけ色が違うんだね。綺麗な色……」
左眼の方が魔力光を含んだ虹彩によって、右目よりも色見が強い。それも顔を近づけなければ分からない差だが、マリーはそれが気に入ったのか手を伸ばしてくる。
白く、細い、長い女性的な指先。柔肌に、少しだけ冷たい指が頬からこめかみを、そして目蓋を撫でて鼻先で止まる。そのまま唇を撫でて自分の唇に当てると、はにかんだ。
「真っ赤っ赤で、血の色みたい」
「────」
不意に──ふと、思い出してしまう。自分が手にかけたその瞬間を。
今みたいに、頬に手を伸ばして笑いながら、血を流して──身体を貫いた剣を気にもせず。怒りに身を任せて笑顔を忘れた自分を気にかけていた。
「おまえは、いっつも笑ってるな。マリー」
「?」
あっけない最期だった。抵抗も、反撃もなく。ただ刃を受け入れて、血溜まりに沈んで──マリーはあの日、自分の手で殺した。既にそこから大魔導師の掌の上で踊らされていたのだと思うと、無性に腹が立つ。だが、今は違う。……いやまぁ確かに思い出す度に顔面は殴っておきたいが。
妹を失い、恋人を失い、それでもと前を向いて歩き出して、女神達と出会ったのだから。一応感謝はしておきたい。最低限、お世辞として。
そして今は、九龍アマルガムの中で最も危険で最も安全な教会で保護しているのだから、大魔導師の思惑はつかめないがそれなりに感謝している。
「わぷ……」
マリーの身体を抱きしめる。触れ合う肌と、髪の匂いが鼻をくすぐる。重なる心臓の鼓動が心地よい。驚いて固まるが、すぐに背中に手を回すと抱き返してきた。
「んー……やっぱ、抱き心地良いな」
「そーう? えへへ、嬉しい」
「む。それにはちょっとわたしもストップをかけるよー、エヌラス。二人きりのラブラブタイムを邪魔するようだけど、抱き心地でいったらわたしもかなりのものだと思うんだ」
「あー」
マリーに夢中で忘れてた、とは言えない。
「そこまで言うなら、エヌラスに確かめてもらう?」
「いいのか?」
「望むところだー! マリーちゃんには負けないんだからね」
「私だって、ネプテューヌさんには負けないつもりだよ」
「わたしもわたしもー!」
「サヤは座ってろ」
「しょぼーん……」
「ほら、クロワールで遊んでていいから」
「わーい」
「オレの命の危機を感じた!」
「あ、起きた」
サヤの手の中で飛び起きたクロワールはまっすぐエヌラスのところまで飛んでくると、ポカポカと頭を叩いた。
「てめーのせいで酷い目にあったじゃねぇか! この、この!」
「いててて、やめろクロ助。いてて」
「エヌラスがクロちゃんにエッチなことするなんて言うから」
「いや、してほしそうな口ぶりだったから」
「そんなわけねーだろ! だ、大体そんなの……」
「有言実行、アトラック=ナチャ!」
「ゔぁあああああああ!!」
奇声を挙げながら、エヌラスの蜘蛛の糸によって絡め取られたクロワールが床に落ちる。それをひょいと引き寄せるとつまみ上げた。
「う、うぅ~……!」
「……ふむ」
「何見てんだこんにゃろー!」
「いや、褐色肌は貴重だからな。ちょっと観察を」
「オレを昆虫扱いするんじゃねー!」
「バカ言うな。昆虫だったらとっくに食ってる。貴重なタンパク源だからな」
「何でも食っちまうのかよ!」
「腹壊したことないからな。どれどれ」
エヌラスは左右からマリーと大ネプテューヌにしがみつかれながら、クロワールの身体をまじまじと観察する。
まるで人形のような小さな身体。それでいながら、人間そっくりな作りに、妖精という言葉がふっと浮かぶ。頬をつついてみると、柔らかな弾力が押し返してきた。
「うぃ、こら、やめ、むいぃぃ~……!」
「……クロワールって、ほっぺたやわらかいな」
「褒められても嬉しくねーよ」
「どれどれ」
「うひゃ! おっぱい触んじゃねー! 離せ、この、変態! バカ、やめッ! う、触んな!」
むにっ。控えめではあるが、確かにある。悪くない弾力。ふにふに。
「エヌラス、どう? クロちゃんの触り心地」
「……割と自動人形作りの参考になるかもしれない。もうちょっと触ってていいか?」
「お人形さん作れるなんて、エヌラスって意外と少女趣味?」
「職人気質と言ってくれ。クロワール、ジタバタするな」
「う、うぅぅぅうるせぇー!!! オレのオッパイとか足とかほっぺたとか、んひゃあっ!? どこ触ってんだぁぁぁー!」
「…………」
真剣な表情でエヌラスはクロワールの全身を弄る。服の材質から、足の裏まで指先で触れて丹念に調べていた。暴れて抜け出そうと試みるが、蜘蛛の糸が羽をしっかり捕らえている。まさに掌の上で遊ばれていた。
痛くない程度に関節を確認する。しっかりと曲がる関節の肉質から、エヌラスは穴が開くほど見つめていた。
「……は、はなせよぉ…………」
「……クロワール」
「ぐすっ、なんだ」
「うるさい、黙ってろ」
「…………」
「さもなくば等身大スケールクロワール完全再現ラブドールを九龍アマルガムで通信販売するぞ。妖精サイズって一部のマニアから熱狂的な需要があるからな。ン十万はくだらない」
「ド変態野郎ぉぉぉーーーーーーー!!!」
「うるせぇ脱がすぞ」
先程よりも激しく抵抗するクロワールの必死の脱出が功を奏したのか、蜘蛛の糸をひきちぎって抜け出す。そのまま一目散に扉まで逃げ出そうとして──サヤの触手によって再び全身をがんじがらめにされて引き戻された。
「あ、つい捕まえちゃった」
「猫かお前は……」
「にゃへー」
猫だ。泣きじゃくるクロワールをサヤがなだめているが、逆効果ではないだろうか? そんなことはさておき、エヌラスは両手の感覚を忘れないように何度か反芻する。
(……そういえば、最近そういうのやってる暇がなかったな)
「あー、エヌラスってばやらしいんだー。クロちゃんのことまさぐった手を、そんなに熱っぽい目で見て」
「お客様ー、触るのはこちらのがおすすめです」
顔を覆った。無垢な笑顔がそこにはあった。あたかも「触れ」とでも言いたげに身体を押しつけている。エヌラスは半ばヤケになりながらマリーの胸に手を当てた。
「……」
「…………」
鷲掴みにされた自分の胸を見て、それからエヌラスの顔を見て。再び視線を落とした。
「服、邪魔じゃない?」
「……脱いでくれるか」
「いいよ? ネプテューヌさんも一緒がいいな」
「えっ。わ、わたしも!? え、えー……どーしよっかなぁ」
「じゃあ私の勝ちってことで、ここはひとつ」
「む、なんだかそれは譲れない気がする! 望むところ! ……だけどぉ、エヌラス。あっち向いててもらえると助かるなーって……」
「お前ら俺の理性と知性を殺しにきてるって自覚しよ? 俺死んじゃうから」