超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ゲイムギョウ界──ラステイションではノワールがいつもの調子で女神の仕事に尽力していた。そんな時、ふと耳に入ったのは教会職員の雑談。
「なぁ、今夜行かないか? ほら、あの最近噂の……」
「もしかして……裏駅バーか?」
「ちょっと、貴方達。何を話しているの」
「ブ、ブラックハート様!? 申し訳ありません! 仕事に戻ります!」
「待ちなさい。私は、その……裏駅バー? とかいうのを聞いてるの。詳しく教えてもらえる?」
「はい……実は──」
教会職員からの話をまとめると──最近、巷では夜の間だけ営業しているバーが評判らしい。なんでも、従業員が二人しかいないのだが、恐ろしく仕事が早い。そのうえ料理も美味い。そして美少女だという。そんなお店になんの警戒心もなく通う教会職員を軽く注意したブラックハートだったが、そんな店があること自体初耳だった。
(これは、直接見に行く必要がありそうね)
あくまでも女神の仕事として、だが。とはいえ夜の酒場。女神化して行くのも目立つだろう。
ユニを連れて行くにしてもまだ早い。そうなれば自然と同伴する相手は限られるわけで。
「……あ、もしもし。エヌラス? ええ、ちょっと話があるんだけど。時間あるかしら?」
ちょうどアダルトゲイムギョウ界での用事も一段落がついて、こちらへ戻ってくる予定だったらしく教会で落ち合うことにした。
ハァド大戦での目覚ましい活躍とは裏腹に、エヌラスに向けられる視線は半信半疑。極東支部を除いてだが。
「なんだか久しぶりに貴方の顔を見た気がするわね」
「気のせいだろ。こっちはどんな調子だ?」
「特に大きな事件は起きてないわ。ま、そう何度もあんな大事件起きてほしくないけど」
「まったくだ」
「ところで……その荷物は?」
「ああ、これか? ユニに渡そうと思ってな」
エヌラスは片手にブリーフケースを持っていた。それに、ノワールは「ふーん……」と興味なさげに返答したが、唇を尖らせて拗ねている。
ラステイション教会の執務室。見晴らしのいいテラスでユニが外の風を浴びてリフレッシュしていると、二人が入ってきたのを見て身だしなみを整えた。
「エヌラスさん。こんにちは」
「よ、ユニ。お前にお土産だ」
「え? アタシにですか? こんな大きな荷物……結構、重いんですけど。中、見てもいいですか?」
「ああ。気に入ってくれるか不安だが」
(なに持ってきてくれたんだろ……?)
ファスナーを開けて、中を覗く。──銃だった。パーツごとに分けられているが、銃身の長さ。そして本体の重さからライフルだろう。
「……あの」
「なに持ってきたのよ。……ちょっと、エヌラス」
「なんかマズかったか?」
「こんな違法取引みたいな真似はちょっと感心しないんだけど」
「組み立ててみていいですか?」
「あ、ああ。いや、ノワール。そんな怒るなよ」
「怒るわよ! 人の国に銃持って、しかもそのまま教会に入ってくるって、テロリストかなにかと勘違いされたらどうするつもりよ!?」
「……すまん、考えてなかった。つい九龍アマルガムのノリで」
「ラステイションとあんな無法地帯を一緒にしないでもらえる?」
「だから、悪かったって。そこまで怒らなくてもいいだろ」
ライフルを組み立てていたユニだったが、途中で手を止める。
(普通の銃みたいだけど……他より少し口径が大きい気が)
疑問に思いながらも組み立てていくと、突撃銃が出来上がった。だが、付属していたバヨネットとその口径にユニは目を白黒させている。それはエヌラスが普段から愛用しているレイジング・ブルマキシカスタムと同口径の50口径弾だった。そんなものを突撃銃で連射する気などとてもではないが正気と思えない。
「……あのー」
「──大体、いつも言ってるじゃない! アナタはもうちょっと」
「はい、はい聞いてます……ごめんなさい……」
「えっと、お姉ちゃん? その辺で」
「ユニは黙ってて!」
「……はい」
ノワールに説教されているエヌラスがしょげながらもしきりに頷いている。怒りの炎が収まるまでの間、ユニは組み上げた突撃銃を軽く構えてみた。
全体のバランスは多少重いが、バランスが取れている。ストックを肩に当てて、照準を合わせてみた。大型のバヨネットを採用している割にはトップヘビーというわけではない。マガジンの重さが少し気になるが。
部品の強度はどれを取っても頑丈そうなものばかりで、悪環境下であっても動作に支障はなさそうだ。
「──わかった?」
「俺に話って、説教かなんかだったのか? 帰っていいか?」
「なに言ってるのよ!? そんなわけないでしょ!?」
「そっか……俺はてっきり日頃の不満爆発かと思ったわ……」
「だからって、そこまで落ち込まなくても……」
「俺はノワールに会う度に怒られている気がする」
「うっ……それは、その……」
言い過ぎたかもしれない、と反省しつつもノワールはどう言葉をかけたらいいかわからず濁してしまった。その隙を見てユニが手を挙げる。
「えっと、それで。エヌラスさん、この銃は?」
「ああ、それ? ちょっと九龍アマルガムのコネで入手してきた。使い勝手は悪くないと思うんだけどな」
「全体的にまとまっててアタシは悪くないと思いましたけど」
「よかったら使ってくれ。もし壊れても直してやるから」
「む~……!」
横で頬を膨らませるノワールに、エヌラスはハウンドスーツのポケットから小さな紙袋を取り出すと差し出した。
「な、なによこれ?」
「なにって……ノワールの分」
「……私の?」
「当たり前だろ……お前に何の手土産も無いと思ってたのか?」
「だって、ユニにそんな大荷物渡すから……」
「あー……それなんだが。一応お前の分も武器は調達しようとしたんだ……したんだが」
敵対組織の襲撃に巻き込まれて、ユニに渡した突撃銃を持って帰ってくるので精一杯だった。
「そんなわけで、ノワールにはそれしか無くて……悪い」
「そ、そう。開けてみて、いいかしら?」
「ああ」
紙袋の封を開けて、ノワールが中から取り出したのは──青く、大きな宝石のブローチ。鏡のように磨かれた表面に間の抜けた自分の顔が映り込んでいた。見つめているだけで心が安らぐ。奥に吸い込まれそうな深い青。その中で星が瞬いてるかの如く小さな光が反射していた。横から見つめていたユニも目を惹かれている。
「これ──」
「……似合うかと思ったんだが、着けてみてくれないか?」
一緒に封入されていたリボンも色を合わせてあるのか、黒地に青と金の刺繍が施されている。ノワールは襟元のリボンを緩めると、早速ブローチを着けてみることにした。
姿見の前に立って、傾いていないか確認しながら結ぶ。普段よりも引き締まった印象で、それでいて主張しすぎない色合い。愛用のクリアドレスにもマッチしていた。
「…………」
鏡の前に立って固まるノワールに、エヌラスとユニが目を合わせる。
「エヌラスさん。あれ、すごく高かったんじゃないですか?」
「え? いや別に。手作りだし」
「えっ」
「ちょっと時間掛かったけどな」
そもそも、九龍アマルガム教会で放置されていたマジックアイテムを加工し直しただけだ。リボンに関しては自分で縫い込んだが、それでも久しぶりの作業だったので勘を取り戻すのにちょうどよかった。
「──……コ、コホン。えっと、エヌラス。こういうプレゼントっていうのは」
「気に入らなかったか?」
「……気に入った、けども……そうじゃなくて! こういうのはもうちょっと早く渡してくれてもいいんじゃないかしら?」
「下で渡したら騒ぎになるだろうが。ケースの中身もそうだが」
「それもそうね……だから──」
喉まで出かかった言葉を飲み込んでノワールは一度だけ深呼吸をする。
(落ち着いて。落ち着いて、私。このままじゃまた怒ってるって思われるわ……冷静に)
「すぅー、はぁー……よし」
「?」
「……えっと。まずは、お礼言わなくちゃよね……ありがと、エヌラス。大事にするわ」
「ああ。金に困ったら売ってもいいぞ。また何か作るし」
「だーかーら、アナタはどうして……はぁ~……私がお金に困ってるように見える?」
「いいや?」
「じゃあ。どうしてそういうこと言うのよ」
「俺がしてやれるようなの、それぐらいだし。お前のためなら安いものだ」
欠伸を噛み殺すエヌラスを見て、ますます疑うような視線を向けた。
「寝てないの?」
「仮眠しようとしたら電話かかってきたもんでな……そのままこっちに来た」
「睡眠はしっかり摂りなさいってあれほど」
「ハイハイ、小言は結構です。それで? 俺に話って何だったんだ」
「そのことなんだけど──」
「なるほど? 最近ラステイションで噂の酒場に潜入調査」
「ええ。私が直接赴こうかと思ったんだけど、折角だしアナタも協力してもらえる?」
「それぐらいお安い御用だ」
「助かるわ。夜間営業のみらしいから、それまで休んでて。その間に私は他の仕事を片付けちゃうから。ユニも手伝ってもらえる?」
「うん、アタシはいつでもいけるよ」
「それじゃ、エヌラスはそれまでしっかり休んでること。いいわね? わかった? 女神からの命令よ、命令。返事は?」
「イエスしか言えない俺の情けなさ」
「もちろん断ったら……わかってるわね」
顔を近づけて睨みつけてくるノワールに、エヌラスは渋々頷く。
ソファーに座り、クッションを枕代わりにして持ってきてもらったシーツをかぶる。
「ノワール。ひとつだけわがまま言ってもいいか?」
「ええ。なにかしら?」
「膝枕かおやすみのキスしてくれ」
「真顔でなに言ってるのよ!? 私は夜までに仕事を片付けないといけないんだから、ひ……膝枕なんて出来るわけないじゃない」
「じゃあキスはしてくれるんだな?」
「~~~~! そ、それくらいだったら……してあげてもいいけど」
欠伸をもらすエヌラスの肩に手を置いて、ノワールは息を整えてから頬にキスをした。
「おやすみ、エヌラス。ちゃんと休むのよ?」
「ああ、悪いな。ノワール、夜になったら、ちゃんと仕事を手伝う」
「頼りにしてるわ」
耳元で囁いてから離れて、ソファーに横になったのを確認してからノワールとユニは女神の仕事へ戻る。
モンスター退治の最中、ブラックハートは普段以上の力を発揮して事態の早期解決に当たった。それを隣で見ていたブラックシスターも本人も驚いていたが、それがエヌラスから貰ったブローチである事は明白。
──普段からこういう職に手を付けていればいいのに、と二人で笑いながらモンスターを蹴散らす黒の姉妹だった。