超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイション教会で睡眠を摂っていたエヌラスが、ふと目を覚ます。開けたままのテラスから入り込んでくる風が、冷たくなっていた。ソファーから起き上がると窓を閉める。
空を見上げると、三日月が浮かんで夜のラステイションを照らしていた。だいぶ長い時間、眠っていたらしい。ノワール達はまだ戻ってきていなかった。しかし、昇降機の動く音に振り返る。
銀のショートカットに、男装姿。手には書類を持っている。エヌラスの顔を見ると、小さく会釈だけをした。
「やぁ、こんばんわ」
「どうも」
「こうして話すのは初めてだね。僕は神宮寺ケイ。ラステイションの教祖を務めてる。君のことはノワールから聞いているよ」
「世話になってます」
「こちらこそ。……あの二人はまだ戻ってないか、なら好都合だ」
執務机の上に書類を置いて、その中から一枚だけエヌラスに差し出す。『重要通達』とだけ大きく書かれていた。
「……これは?」
「君の、今後の処遇に関するもの。本来ならもう少し他の国と話を詰めておきたかったんだけど、当人に抜きで進めるのも気が引けていたから」
「…………ラステイション教会に、無期懲役?」
「うちだけじゃない。他の三国にも同上の文面で出ている。あとは教会で承認するだけだ」
「────ちょっと待ってくれ」
「ま、その書類の意味するところは、君は今後四女神の監視下に置かれて教会で管理・運用される犯罪者。ということ」
「俺の意思完っ全に無視か」
「ただこれは、あくまでも表向き。君のことをこちらの手元に置いておくための理由。今後、四女神の声明で大々的に発表される予定だから」
「そんなことを本人に相談無しで」
「これは君の師匠、大魔導師からの提案だ。以上、なにか?」
ケイの言葉に、エヌラスは何も言えなくなる。
「……どうやら、言われた通りみたいだ。もし君がなにか言おうとしたら、名前を出せ、と」
「お見通しってわけかよ……どこで」
「ルウィーの酒場で一月ほど前に。それじゃ、そのつもりでよろしく」
それでもどこか、不服そうにしている顔を見て「ああ、そうそう」と思い出したようにケイは足を止めた。
「君個人の力を野放しにしておくのは、ゲイムギョウ界にとっても不利益だからね。それに、大魔導師からも聞いてるよ。腕は立つ、生活能力皆無で──ノワール達が、大好きだって」
「……」
「ああ、それと手先が器用だとも。色々と便利そうだから、僕個人としては興味深いんだ」
手を振って、ケイは再び昇降機で執務室を後にする。
エヌラスはしばし、手元の書類を見下ろしていた。──ゲイムギョウ界、黒の大地ラステイション教会に無期懲役に服すものとする。大罪人、エヌラス。
甚大な被害をもたらしたものとして──。
「……戦禍の破壊神、か」
いつから、そう呼ばれるようになったのかさえ、今となっては朧気だ。
テラスに人の気配を感じて、ブラックハートとブラックシスターの二人が降りてくる。
「お疲れ様、ユニ」
「うん。お姉ちゃんも」
「おつかれさん」
「ええ、ただいま。……どうしたのよ?」
「いや……さっき、教祖様がな──」
エヌラスはケイから聞いた話をすると、ノワールが目を逸らした。
「知ってたのか?」
「言うタイミング、無かったのよ。もちろん、私だって抗議したけども……他に良い案なかったから。なんだかんだ言って、有名人になっちゃってるし」
「……気がつきゃ、ゲイムギョウ界中飛び回ってるしな」
「それよりも支度しなくちゃ。私、シャワー浴びてくるわね」
「え? あぁ、そういやそうだったな」
裏駅バー。まったくの謎だ。しかし、なぜかエヌラスは引っかかっていた。はて、何か忘れているような気がする。
考え込んでいたエヌラスの顔を覗き込むようにユニが見ていた。
「どうか、したんですか?」
「いや、別に。ユニもシャワー浴びてきたらどうだ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。そうさせてもらいますね」
ツインテールを揺らし、ふわりと離れる。エヌラスが鼻を擦ると、ユニが少しだけ身だしなみを気にしだした。
「あの、アタシ。臭いましたか……?」
「いい匂いはした。気にしなくていい」
「気にしますよ!」
「ちょっとエヌラス。ユニに変なこと言ってないでしょうね」
「俺は正直に思ったこと言っただけだ」
「……お姉ちゃん、エヌラスさんってそういう趣味の人?」
「別にそういう趣味なら私はなにも言わないけど、隠しなさいよ。言ってくれれば、嗅ぐくらいは……」
「お姉ちゃん?」
「な、なんでもないわよ~! さぁユニ、背中流してあげるわね! じゃあエヌラス、もうちょっとだけ待っててね!」
「わ、わ……!」
ノワールはユニの背中を押して、汗を流しに浴場へと向かって消えていく。
二人の背中を見送ってから、エヌラスは再びソファーに座り込んだ。
「…………いや、いい匂いだったな」
ラステイション教会職員から聞いた場所に向かう。街から少しだけ離れた、寂れた工業地帯の一角──はて?
エヌラスは歩きながらずっと考えていた。なーんか忘れてるよなー、と。隣を歩くノワールもその顔を何度も盗み見ていたが、聞き出せずにいる。
「どうしたのよ、ずっと考え込んでて」
「……なーんか気になるんだよな」
「? それにしても、まさかこんなところに新しいお店が出来ていたなんて……」
「店、というわりには随分とこざっぱりしてるよーな」
店の立て看板が置かれていたが、そこには『裏駅バー・営業中!』としか書かれていない。店のメニューも何も書かれていなかった。だが、店内からは確かに人の賑わいが感じられる。
(バーって聞いてたから、もうちょっと落ち着いた感じのお店かと思ってたんだけど……)
「……行くぞ」
「ええ」
ノワールの手を引いて、いざ謎の満ちる裏駅バーへと潜入調査へ乗り出す──!
「いらっしゃいませー! 何名様ですか、おタバコ吸いますか!? 店内全面禁煙となっておりますがテーブル席でよろしいでごじゃーーーーー!!??」
「…………カルネ?」
「なーにしてんだお前……」
店の中に遭遇した第一店員、見慣れた銀髪のポニーテールのダメイド二号、カルネだった。しっかりとエプロンドレスを着用して両手にはカクテル。
「あっばっばっばばばばば、ご主人様!? なにゆえ私達の隠れ家的趣味のショットバーへ!?」
「うるさいですよカルネ。一体なにを騒いでいるのですかっぱのまーーーーーーく!?」
「まぁ、スピカもいるわよね」
「そりゃそうだよなぁ……」
ひょっこりと顔を出した銀髪ツインテールのスピカも当然ながら料理を作っていた。とりあえず──エヌラスは二人を殴ってから正座させる。
裏駅バー。本日臨時休業のお知らせ。
「で? つい癖でぶん殴っちまったが……どういうことだ?」
「うぇへへへ、ご主人様の折檻……すごい久しぶり……」
「申し訳ありません、エヌラス様。説明不足ですね。と、いうよりも一月ほど眠りこけていた上に我々に何の連絡もなしにアダルトゲイムギョウ界へお戻りになられてたので。我々も退屈を持て余しておりました。生活費も稼ぐために、ちょっと出店を」
「……すまん、ノワール。俺のせいみたいだ」
「そうみたいね……」
「ごめんな」
「別に謝らなくていいわよ。私も噂で気になっただけだもの。それが、まさか……エヌラスの監督不足だとは思わなかったけど」
「ええまったくです。リフォーム代も稼がないとならないので」
「そーなんですよ、ノワール様。聞いて下さいます? エヌラス様からリフォーム工事を言い渡されてからずっとスピカ姉と二人で頑張ってきたのに、全然顔見せてくれないんですよ! そりゃあ枕も濡れちゃいますよ! え、何でって……いやん」
とりあえずカルネにはもう一発、拳を叩き込んでおいた。
「あひゃん! ぐへへ……ご主人様の拳、やっぱり好きぃ」
「拳かよ」
「いえ、全面的にご主人様にイジメられるのが好きです!」
「もう二、三発殴っとくか……!」
「ご褒美にしかならないでしょ? やめときなさいよ」
ノワールが止めるのも聞かず、エヌラスはゲンコツから、倒れるカルネの背中に腰を下ろす。
「久しぶりに見るけど、痛そうね……」
「当たり前だろ、割と本気で殴ってる」
「あ、私そういう趣味なので良い子は真似しないでね! 痛いよ!」
「しないわよ!」
額に手を当てて、ノワールは深く息を吐いた。
改めて見回した内装は、表のこざっぱりとした立て看板からは想像出来ないほどシック調の落ち着いた雰囲気をしている。先程までの喧騒は、エヌラスの起こした騒ぎによってあっという間に閑古鳥が鳴いていた。
「こうして見ると、中々いいお店じゃない」
「当然です。リフォーム代をちょろまかし……いえ、パクリ……あー、横領し……いえ、正直に申し上げておきますが、決してやましい気持ちでお店を始めたわけではなくてですね? 長期的な目で見ていただければ必ず儲けになると思った次第でして──」
「よーしスピカ、ちょっとお前黙れ?」
「はい、黙ります」
口にすればするほどボロが出る上に後半から開き直っている。だが、エヌラスに椅子にされていたカルネが元気よく手を挙げた。
「カルネちゃん天才的な発想が浮かびました」
「言ってみろ天才カルネちゃん」
「もしかして今、お店貸し切り状態じゃないですか!? ここはひとつ、女神様とご主人様にお店をアピールするチャンスなのでは!? どう思うスピカ姉!」
「うるさいですよ愚妹。お二人の距離を縮めるチャンスくらい考えられないのですか愚妹。カクテルに媚薬入れて後は若い者同士で朝まで絡みつくような一晩を過ごしていただくというのも」
「エヌラス、ゴー」
「任せろ。二度と朝日が拝めない身体にしてやる」
スピカとカルネはエヌラスにこれでもか、というほどにしこたまぶん殴られた。