超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
裏駅バーを後にして、ノワールとエヌラスは夜のラステイションを歩く。
「悔しいけど美味しかったわね。あのピザ……」
ワインにチーズにマルゲリータ。それにパスタ。取り扱うメニューは決して多くないが、厳選されていた。それでエヌラスはひとつ思い出した事がある。
「そういや、九龍アマルガムでもあんな感じの店やってたな」
「そうなの?」
「ああ。確か店の名前が、裏オータムリーフ」
「……裏?」
「裏。表向き出せない店だからな。なんたって食材が非合法だし。それにあやかってあの店も出したんだろう」
流石にラステイションで非合法食材の取扱をするわけにもいかないだろう。裏も取れている。ちゃんと合法的な取引による入出荷の伝票も見せてもらった。
しこたまぶん殴った後、スピカとカルネには黙っていた罰としてタダ飯を作らせた。当人達もそれには反省した様子だったが、ノワールとしては知人が経営してるとわかっただけでも十分な収穫だ。今後、機会があれば立ち寄らせてもらうことにしよう。
夜風がラステイションの街を吹き抜けていく。それにノワールが少しだけ身体を震わせると、スーツの上着を羽織らせた。
「あ、ありがと……」
「それにしても意外だったな。ノワールがあんな飲むなんて」
「勧められたんだもの、仕方ないでしょ。それを言ったらエヌラスなんて倍以上食べたじゃない」
「飯食ってなかったからな」
ピザ三枚とパスタ五皿を平らげたが、まだ入る余地はあった。エヌラスが食事をしている様子を見ていたスピカとカルネも嬉しそうにしていたことをノワールは思い返す。
「あの二人、エヌラスのこと嬉しそうに見てたわね。たまには顔を見せてあげたら?」
「そうだな。家のことも任せっきりだったし、今度なんか作ってやるか」
「そのことで思いついたんだけど、いいかしら。エヌラス、アクセサリーショップとかやってみる気はない?」
「ノワール達以外になんか作ってやる気はない」
「そう言わないの。何かしら手に職つけておかないと、こっちも手元に置いておくだけになっちゃうんだから」
「それを言われると、俺は何も言えないんだよな……」
とはいえ、アクセサリー作成だけでなく薬剤の調合や、必要とあれば武器の製造、果ては人形製作に銃器製作。できることといえばそれぐらいだ。
「じゃあ決まりね。まずは簡単な依頼を教会で引き受けて、それをあなたにやってもらう形でいいかしら?」
「ただ、そうなるとラステイションだけじゃなくて全国でやることになるな。専属ってわけじゃないし」
「う、そういえばそうよね……」
「ラステイションに滞在してる間だけやってみるか」
教会までに戻るまでの道のりで、曲がり角から現れた人影を見てエヌラスが眉を寄せる。ノワールも立ち止まった。
つばの広い帽子を深くかぶった、厚手のロングコートを着込んだ人影。鼻まで覆う形でマスクを着けている相手からは、濃厚な血の臭いが漂っている。
「……獣狩?」
「なんだ、その獣狩ってのは」
「ヤーナム・シティの狩人のことよ。珍しいわね、街の中にまで来るなんて……」
そういえば、報告書の中にはロボットを撃退する時に協力してくれたともあった。
「そこのあなた、待ちなさい」
「……?」
「ええ。ヤーナム・シティの狩人よね? どうして街の方に来ているのかしら。滅多なことじゃ出てこないと思っていたのだけれど」
「…………探しものを」
目を逸らしながら、獣狩は短く告げた。探しもの? ノワールとエヌラスは顔を見合わせる。
「何を探してるの?」
「……関係のない話だ」
「ちょっと、人がせっかく尋ねているのにそれは無いんじゃない?」
「なぁ獣狩。話してくれたら力になれるかもしれないんだから、いいだろう?」
「……、ヤーナム・シティに来たら、話してやってもいい」
二人の間をすり抜けて、獣狩はそそくさと立ち去ってしまった。なにか隠している様子だが、ノワールはあまりいい顔をしていない。
「なんだ、アイツ……?」
「ヤーナム・シティはモンスターの群生地の真ん中にあるのよ。だから私も直接立ち寄ったことはないわ。謎の多い土地なの」
「じゃあどうやって此処まで来たんだ?」
「それもそうね。それに、夜の間しか狩人は活動しないって聞いてたのに……」
「考えても仕方ない。身体、冷えるだろ。早く教会に戻るぞ、ノワール」
「そうね」
しかし、とエヌラスは一度だけ獣狩の背中を見つめる。
あの血の臭いは、真新しいものだ。
教会に戻ってきてからエヌラスはシャワーを浴びて、ノワールと今後の予定について話し合う。ラステイションでの目的は果たしたので、次はルウィーかリーンボックス、プラネテューヌに向かおうとしていた。ただ、その際に手土産もないのは申し訳ないので何か渡そうと思っている。しかし何を渡すかまでは決めていなかった。何人かは候補が上がっているのでいいが……。
「んー……ベールって何を渡せば喜ぶんだ……? やっぱり紅茶か?」
「それならティーカップとかどう?」
「それだったらユノスダスで用意できそうだな」
「……ねぇ、もしかしてとは思うんだけど」
「ベールにはティーカップ、と……ん?」
「まさか、全員分用意するつもりじゃないわよね」
「え?」
「え? お金とか大丈夫なの?」
「自前で用意するし、問題ない。アダルトゲイムギョウ界ならこっちより自由に動けるしな」
「気を遣ってくれるのは嬉しいんだけど、あんまり根を詰めないようにね」
「よほど辛かったら情けなく泣きつくから安心してくれ」
それは……どう安心したらいいのだろうか。ノワールはそんなことを考えながらも、頼りにされている事実に嬉しくなった。
翌日。エヌラスはユノスダスへ早々に戻り、ベールへの連絡はノワールに任せる。何しろ、一応は指名手配人。リーンボックスに護送という形でブラックハートに同伴してもらわなければ他国への移動が難しい。それらを無視して一人で行動してもいいのだが、生憎とハンティングホラーは九龍アマルガムに預けたままだ。そのため、正規の移動手段でなくてはならない。一応、護送という形なので手錠を掛けて空港から向かう形となる。
リーンボックスでは、ベールにティーカップと茶葉を。
ルウィーではブランに魔導書と小説と、ロムラムの二人にもマジックアイテムを。
それぞれ、渡してから喜んでもらえるか不安だったが気に入ってもらえたようで胸を撫で下ろす。そして最後はプラネテューヌに向かうだけとなったのだが──。
今、エヌラスはブランと一緒にユノスダスへと来ていた。というのも、他の三人はアダルトゲイムギョウ界へ来たことがある。それなのにわたしだけが行っていないのは不公平だ、という本人からの申し出によるもの。それを断りきれず、確かに一理あるということでエヌラスは承諾した。
商業国家の賑やかさにブランは驚いている様子で呆然としている。
「こんなに活気があるとは思わなかったわ」
「ま、そりゃあ。天下のアダルトゲイムギョウ界、その台所だからな。はぐれないように手を繋いでいくか」
「子供扱いしないでほしいのだけれど」
「違うっての。何が起きてもいいようにだよ、ただでさえこっちは物騒なんだから」
言っている間に、大通りの方で騒ぎが起きた。どうやら強盗らしい。警笛を鳴らして教会の警備職員が制圧に掛かっている。しかし、相手は犯罪国家の生まれなのか魔術で応戦、その場から逃亡しようとしていた。
エヌラスは後ろ腰からドミネーションを持ち出すとアプリケーションを起動。狙いをつけると引き金を引いた。打ち出された高電圧圧縮弾が強盗犯の背中に当たり、全身を痙攣させて倒れ込む。
「確保! 確保です!」
『おりゃーーー!!』
「と、まぁ。こんな調子だ」
「本当に物騒ね……」
「いやー、誰だか知りませんが助かり──なんだあなたですか」
「誰だか知ってんじゃねぇかこの野郎」
赤髪ケモミミ教会警備職員、アイルはエヌラスの顔を見るなりげんなりとしていた。その隣に並ぶブランのことを見て、交互に見比べて腕を組む。
「……誘拐事件ですか?」
「傷害事件に発展しないうちに回れ右で教会に帰れテメェ」
「ほほう、つまり教会印の警備職員を脅迫ですね? ん? ん?」
「殺人事件にランクアップしてやろうか……!」
次の瞬間、エヌラスが踏み潰された。というのも、屋上を飛び移っていたユウコが飛び降りてきたからである。いつもの制服姿に、エプロンを着けて。
「よいせーっと。騒ぎがあると聞きつけてきたんだけど、終わっちゃってるね」
「国王様! お疲れ様です! 先程の犯人はすでに拘束済み、これから取り調べの予定です」
「うんうん、よく働いてくれるねー。私も嬉しい」
「……あの」
「ん? こんにちは。どうしたの、ランちゃん」
「ちゃん付けはやめてほしい。こんにちわ、ユウコ。エヌラスのこと、踏んでいるんだけど」
「うん、知ってる」
「知ってて踏んでいるなら退けろやテメェェェ……!」
メゴキャッ。エヌラスの頭が強烈に踏みつけられた。
「今日は観光に来たのよ。わたしだけアダルトゲイムギョウ界に来たことがなかったから」
「そうなんだ。それなら私が観光案内したげるよ? どうどう?」
「でも、あなたも国王のお仕事があるじゃない。エヌラスと一緒でいいわ」
「そっか。んー……でもちょうどいいかな……あ、いやでもなぁ……」
「どうかしたの?」
「うん、実はちょっと困ったことがあってね。ちょうどコレも来てたなら頼もうかなと思ったんだけど」
「困っているならわたしも手伝うわよ」
「そっかー。いや実はねー、ユノスダスで経営しているカジノがあるんだけど。そこで違法薬物の取引があったらしいんだよね。それが最近出回ってて大迷惑してるの」
なるほど。とブランは考える。そういった事件はゲイムギョウ界では中々お目にかかれない。少し危険かもしれないが、困っているのなら手を貸すべきだ。
「その犯人ないし、組織の尻尾だけでも掴んできてくれないかなーって。危険な仕事だからエヌラスに任せようと思ってて」
「あなた、こっちでそんな危険な仕事をしていたの……?」
「バカ言うな、ユノスダスの危険レベルは九龍アマルガムのままごとレベルだ」
どれだけ危険なんだ犯罪国家。絶対に近づかないとブランは決意を固めた。ユウコの足をどかして、エヌラスは首を慣らしながら立ち上がる。
「引き受けてくれる?」
「断らせないくせに。詳細よこせ」
「んじゃ決まり。詳しくは教会で、それじゃね」
言うが早いか、再び建物の屋上に飛び上がるとそのまま走り出してしまった。その様子を見ていたブランも、呆然としている。吸血鬼としての身体能力を十分に活かした移動方法に、あれで国中駆け回っているのだから驚きだ。
アイルも仕事に戻り、エヌラスはブランの手を引いて歩き出す。
「どこに行くの?」
「ま、せっかくだし軽く観光案内だ。俺の知ってるオススメの店でも紹介してやる」
「それは楽しみだわ」