超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「帰れ。帰れよ。頼むよ帰れ。お願いだから帰れってぇぇぇ! なんでうちの店に来るんだよお前さー! ほんとさぁぁぁっ!!」
「うるせぇぞクソメガネ」
エヌラスが向かった先は、パルフェ通り。インタースカイ管轄の喫茶店。ソラがいつもどおりタブレット端末を操作しながら店の軒先でブレイクタイムを満喫していたところを襲撃した。泣きながら帰れと連呼する相手に、エヌラスは無視して席に着く。
「思い切り嫌がられているみたいだけど」
「いつものことだ。気にするな、ブラン」
「ここがオススメのお店なの?」
「まぁな。顔なじみってのもあるが」
「……なんで僕のお店を勧めるんだよ。他にもいい店あるだろ」
「うっせぇ。人が折角勧めてんだから文句言うな」
しばし無言でにらみ合い、ソラが呆れたようにため息をつくとメニュー表を差し出してオープンカフェから厨房へと引っ込んだ。
「何がいいかしら……」
「やっぱりパフェだなー。クソメガネが作るやつは結構美味しいぞ」
「そうなの? それじゃあ、ストロベリーパフェがいいわね」
「俺はコーヒーで」
テーブルに運び込まれる二人の注文を置いて、エプロン姿のソラは腰に手を当てる。
「一応、言っておくけれども。ちゃんと金は払ってくれよ」
「食い逃げなんてしねぇよ」
「どうだか」
「女神様と一緒に喫茶店に来てるのに出来るか、そんなマネ」
「ひとりで来ててもやるなよ!? というか君もコーヒーだけじゃなくて他に何か注文すればいいだろ」
「大体ここのは食ったしなぁ……」
「だったら新メニュー持ってくるから試食してくれよ。もちろんお代は貰うけど」
「じゃあそれで。はよ」
「ちょっと待ってろこのやろう!」
横暴な態度のエヌラスに怒りながらソラは厨房に再び消えていった。
向かい合うテーブル席で、ブランは目を輝かせながらパフェの生クリームをスプーンで掬って口に運んでいる。
「とても美味しいわ……」
「気に入ってくれたならよかった。あのクソメガネの作るパフェは美味いんだが、国王の仕事が忙しいせいで、中々市場に出回らない。だからここの店の評判もボチボチなんだ」
都合よく店にいてくれて助かった。そんなことを思いながら、パフェを食べるブランの顔を眺める。すると、その視線に気づいたのか生クリームの付いた顔を上げた。
「なに?」
不機嫌そうに眉をつり上げるブランがおかしくて、つい笑ってしまう。それにますます頬を膨らませていた。
「ブラン、頬に生クリームついてるぞ。そんなに美味しかったのか?」
「──それなら、そうと言ってくれればいいのに」
今度は顔を赤くして頬についた生クリームを取るが、まだ残っている。エヌラスは手を伸ばしてブランの頬からクリームを拭う。それを自分の口に運んで舐め取った。なめらかで、それでいて甘すぎないホイップの絶妙な加減。流石はソラのお手製クリーム、普段からこれを出していれば売上も伸びるだろうに。エヌラスはそんな事を考えていた。
「……どうした、固まって」
「な、なんでも……ないわよ……」
「そうか。にしてもやっぱり美味いな、あいつの作るパフェ」
悔しい事に、家事全般は壊滅的。料理など以ての外。菓子作りなど論外だ。今までも何回か挑戦してみたことはあるが、厨房が爆発したりと散々な目に遭っている。苦い思い出をコーヒーと共に飲み込んでいると、ソラが新作のパフェを持ってきてエヌラスの前に置いた。ついでに伝票にも追加料金を書き加えている。
「新作って、これか?」
「そ。ユウコから「うちで店だしてるんだからそれっぽいコラボメニュー置いとけクソメガネ」って言われた手前、作らないわけにもいかなくて」
言いそうだ。というか実際に言われて一言一句覚えているのだろう。ソラは目頭を押さえて深くため息をついている。
「一応、それっぽくは作ったんだけどね」
「やっぱり柑橘系か。爽やかそうでいいな」
「まだユウコからゴーサインもらってないから何とも。溶ける前にどうぞ」
「んじゃ、ありがたく」
スプーンでアイスクリームを軽くすくって、クリームと一緒に口の中へ。ゆずみかんパルフェの爽やかな刺激と甘さが程よく混ざり合い、酸味と甘味が主張しすぎない程度に溶ける。悪くない。このままメニューに加えてもいいくらいだが。
「ブランも食べてみてくれるか。ほら」
「……わたしも?」
「ああ。ほら、あーん」
「!? そういうのは、あの……えっと。あ、あ~ん……」
エヌラスがスプーンを差し出して、ブランに向ける。躊躇していたが、やがて生唾を飲み込んでから小さな口を開けた。その口の中へとアイスクリームと生クリームを滑り込ませる。
「ん……」
「どうだ?」
「おいしい、わ……味はよくわからないけども」
「だ、そうだ。聞いてるかクソメガネ」
「聞いてるよチクショウ、見せつけやがって」
「は?」
眉をひそめるエヌラスに「なんでもない」とだけ告げてソラは顎に手を当てて考えていた。
「やっぱりインパクトに欠けるかな」
「発想がスタンダード過ぎるんだよ。もうちょい挑戦したメニューとかどうだ?」
「例えば」
「……まるごとみかん、とか」
「面白そうではあるけれど」
「シャーベットで作ったのみかんの皮にまるごとパフェぶち込んどきゃいいだろ」
「なんで君はそうぶっ飛んだ発想が出てくるんだよ。言われたからには作ってみるけど」
(なんだかんだ言いながら作るのね……)
ブランはストロベリーパフェを頬張りながら、二人のことを眺める。こうして話しているのを見ている分には、仲の良い友人同士だ。
「ブラン、まだ何か注文はあるか?」
「そうね……せっかくだから、わたしも同じのを食べてみるわ」
「なら俺のやつあげるぞ? ほら、あーん」
「……あーんは、遠慮しておくわ」
緊張で味がわからなくなる。
エヌラスとソラはあれやこれやと新作メニューの案を出し合いながらコーヒーやメロンソーダやら何やらと口に運んでいた。
「てーんちょ~、お客さんと話していないでお店を手伝ってくださいよぉ」
「ああ、はいはい。こっちもこっちで一応お仕事中だったんだけどね。それじゃ、エヌラス」
「お会計よろしく。行くぞ、ブラン」
支払いを済ませてから、エヌラスとブランは喫茶店を後にする。
どこか行ってみたい場所はないか、と尋ねると本屋がいいと言われたのでユノスダスの本屋を巡り、ブランの眼鏡にかなう小説を探して回った。
ユノスダス教会に到着する頃には、両手に紙袋を下げるほどの量になってしまったが。これではまるでコミケ帰りだ。教会で待っていたユウコも首を傾げている。
「なんでそんなに大量に買い込んだの?」
「いやぁ、ははは……ブランがな」
「ちょっと、買いすぎたかしら。ごめんなさい。珍しい本ばかりだったから」
「ま、荷物持ちくらいだったら軽いもんさ」
エヌラスは教会の応接室のソファーに紙袋を下ろして、肩を回した。扉のノック音から、入室してくるのは相変わらず教会でバイト中のムルフェスト。
「たのもー! お茶持ってきたよー」
「お前はまぁだバイトしてんのかよ。いい加減国に帰れ」
「やだよぅ。つまんない」
「ブラン、コイツはムルフェスト。こんなんだけど、一応。一国を預かる王様」
「よろしくねー」
「わたしはブラン。ルウィーの守護女神よ。こちらこそよろしく」
それにしたって、随分とゆるい。まるでネプテューヌのようだ。自分の国のことなどほっぽって遊び呆ける様はまるっきりそれである。が、バイト中ということは一応働いているようだ。その点ではムルフェストに軍配が上がる。
金髪セミロング。教会制服に、胸が少し窮屈そうにしていた。ブランの視線に気づいたのか、ムルフェストが小首を傾げる。
「ん? なになにどうかした? 着てみたいとか?」
「別にそういうわけじゃない。あなた、国王なのに油売ってていいの?」
「あーいいのいいの。私の国なんて国王様不在の方がいっそ上手くいくから、あっはっは」
「コイツがこんなあっぱらぱーでなけりゃあ、もうちょっと月面国家も住みやすいんだけどな」
「む、失礼な。これでもむーちゃんは御国の為に頑張りましたー、がんばってましたー。でもね、飽きた」
「飽きた!?」
「そんなわけでむーちゃん現在出張中でーす」
どこの国に統制を飽きた、などと放置する国王がいるのか。あの大魔導師でさえ「暇つぶし」という建前で九龍アマルガム国王として振る舞っているのに。まさに自由奔放。堕落したお姫様である。アゴウの守護女神とは対照的だ。
「飽きたって、あなた……」
「だーって代わり映えしないんだもぉんよー。だけどむーちゃんは自分の国以外は好きなのであちこち行ったりします。あ、でも九龍アマルガムは論外なので行きません。極力」
「ま、でも一応真面目にバイトしてくれてるし私としては助かってるんだけどね。ムルフェストはさておき、こっちの話」
ユノスダス経営のカジノは、その名も「アクア・エデン」という国家公認の合法カジノ。人種問わず、認定証の発行さえ可能であれば出入り自由な娯楽庭園。観光名所としても名を馳せるのだがエヌラスは好んで足を運ぼうとはしなかった。
理由は出禁食らってブラックリスト登録。ブランがジト目で睨む。
「いや、違うんだ。話を聞いてくれ、ブラン。別に俺は何も悪いことはしてない」
「そうなの?」
てっきり暴力沙汰、流血沙汰でも引き起こしているのだとばかり。
「俺はあくまでも合法的に、かつ認められている手段で稼いだだけなんだ」
「稼ぎすぎなの。なんだよ一晩で二千万クレジットの儲けって」
「──は?」
元手は落ちていたカジノのコインのため実質タダ。その荒稼ぎにはユウコも流石にストップを掛けた。そのため、エヌラスの認定証は現在消去済みである。
「で、そのブツの特徴とか何かあるのか? 犯罪組織の裏とか」
「一応、あるにはあるけど不鮮明。ぶっちゃけテロリスト」
「ゼンゴロでオッケー?」
「なんで殺害前提なんだよぅ、ここ私の国なんだからできるだけとっ捕まえてきて。一人残らず地下強制労働収容所送りにするから」
「へいへい」
ブランは顎に手を添えて、アクア・エデンの見取り図を見つめていた。
「……犯罪組織の違法取引……潜入調査に向かう二人……これは、次の小説の良いネタになりそうね……協力するわ、ユウコ」
「ありがと、ブランちゃん。現地入りしているうちのエージェント達と合流して、二人もカジノのディーラーとして変装、そこから捜査開始ってことで」
「俺の認定証とかどうするんだ? ブランも。あそこ未成年者立ち入り禁止だろ」
「あ、私が許可出すから大丈夫。連絡しとくよ。宿泊施設も充実してるし、寝泊まりは特に心配しなくていいかな」
「ユウコユウコー、私もさー」
「ムルフェストはダメ。私のお仕事のお手伝い」
「ぷえー、わかりましたぁ」
「じゃ、そっちはよろしくね。エヌラス、ブランちゃん」
「とんだ旅行になっちまったな……」
ぼやくエヌラスがため息をつくが、ブランはその潜入調査に胸を踊らせている。こんなお仕事、ゲイムギョウ界では早々体験できるものでもない。