※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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26 デートとバニーガールとディーラーと

 

 

 

 アクア・エデンはユノスダスの北西にある湖畔、その中央に建設されている。吸血鬼が嫌うという聖水の成分を含んだ湖の上に浮かぶ合法娯楽庭園への通行手段は一本の大橋のみ。そこも厳重な警備と審査チェックによってガードされている。遠目からはまるで要塞のような風体ではあるが中身は楽園のような場所。

 エヌラスとブランは教会から送迎の車によってアクア・エデンのチェックを通過──、するかに思われたのだが一悶着。というのもブラックリスト登録されている相手が教会公認の特別通行証を手にしていたからだ。

 

「あなた、相当嫌われてるのね」

「荒稼ぎした挙げ句に警備員呼ばれて、そのあと全員撃退した上に金持って逃げたからな」

 やっている事が強盗では? ブランは訝しんだ。ちなみにその稼ぎ分は全額ユウコに没収されてアクア・エデンの改築費用に当てられた。

 何はともあれ、二人はアクア・エデンへの入園を果たす。

 都市規模で経営される合法カジノはユノスダスの貴重な資金源であると同時に、集客力もある。普通の街と同じように生活基盤はしっかりと整えられており、ここで一生遊んで暮らす、なんて夢を見る者もいるほど。……現実はそう甘くないが。

 

 ブランが車から降りて、町並みを眺める。合法カジノ場、と聞いていただけにきらびやかな場所を想像していたのだが、その期待は大きく外れた。

 

「普通の都市に見えるわ。どういうこと?」

「そりゃ、メインは夜だからな。昼間は鳴りを潜めてる。少し歩くか」

 手をつないでアクア・エデンを歩く。噴水のある広場、住宅街、アーケード街、飲食店が並ぶ通り。そして、メインとなるカジノ場。一通りを見て歩く二人の手には、アイスクリーム。

 

「あむ、あむ……やっぱり柑橘系が推しなのね」

「もぐ。そりゃ、ユノスダスの特産品だからな」

 ブランはバニラアイスを舐めながら、エヌラスはチョコアイスを食べながら歩く。街の清掃はインタースカイ製のフォートクラブがやっているのか、巨大な前腕部の回転型モップを掛けながら公園を歩いている。道路でもタクシー代わりに背中に客を乗せて移動していた。

 なんだかこうしていると、普通の女の子になったようで、ブランは新鮮な気分で隣を歩く。

 

「ふふ」

「どうした?」

「考えてみれば、これってデートよね」

「…………」

「ちゃんとエスコートしてくれて、ありがとう。今日は良い思い出になりそう」

「気を抜くなよ、この後も仕事あるんだから」

 口では注意しながらも、エヌラスは繋いだ手をしっかりと握っていた。

 

「そう言いながらも、ちゃんと手は離さないのね」

「それは、その……デートなんて意識してなかったし。言ってくれたらもうちょっと俺もしっかり案内してたんだけどな」

「じゃあ、何のつもりだったの?」

「観光案内──いやだめだこりゃ、デートだわ」

 どう取り繕ってもデートだ。言い訳無用。二人の前を清掃用フォートクラブが通過する。

 時計を確認すると、合流予定時間が迫っていた。急いでアイスを頬張り、頭痛に悩まされながらエヌラスはブランの身体を抱きかかえる。

 

「きゃっ! エヌラス?」

「デートで時間忘れてた、そろそろ行かないと遅刻する。ブラン、アイス落とすなよ」

「わかってるけど……この格好、恥ずかしい」

「我慢してくれ、お姫様。少し揺れるぞ」

 お姫様抱っこをしたまま駆け出し、合流場所へと先を急いだ。

 

 

 

 予定されていた場所は、カジノのバックヤード。というのも、夜の活動が主流となるアクア・エデンでは好都合だからだ。二人はディーラーに変装して内部を探るという形になる。

 スタッフ達と挨拶を交わし、こちらに先行しているエージェントは誰か、とエヌラスが尋ねた。まずはそちらと話をしなければ始まらない。

 

「ハーイ、私だよー! 久しぶり、エヌラスー」

「……、よりによってお前か……」

 銀髪のポニーテール。赤い瞳。年齢は十代後半といったところだろう。そこにいた相手を見てエヌラスが早々にやる気が下がっていた。

 

「一応、こんなんでもエージェント。エリナだ」

「ヨロシクねー」

「よ、よろしく……」

 妙な片言でブランと自己紹介を済ませて、握手をする。他にも、黒服の男たちがいたが、いずれもカジノの店員だ。

 エリナは吸血鬼のエージェント、とはいえ諜報班。情報収集と提供が役目だ。実働部隊はまた他に存在する。

 

「風紀班じゃ手に負えないのか?」

「うん。相手方が、中々手強くて……実際に被害者も何人か」

「特徴は?」

「吸血鬼が何人か。それと──悪魔憑き」

 聞き慣れない単語に、ブランが小首をかしげた。そしてエヌラスは目頭を押さえる。よりによってこちらでその存在が確認されるとは。病原菌が苗床と街の中を歩いているようなものだ。

 

「あーのー……えーっと、風紀班のあの赤い子」

「ミウ?」

「そう。あいつはどうした」

「不覚を取って、やられちゃった。今は入院中」

「それで俺ってわけか……」

 どうやら思いの外、事は重大らしい。咳払いをひとつ挟んでから、黒服の男性が手元の資料を差し出す。エヌラスはそれに目を通し、ブランにも見えるように少し屈んだ。

 

「相手は、反吸血派閥の勢力と思われます。そのため、対吸血鬼用の道具もいくつか。確認された薬物も吸血鬼の生命活動を抑制するものです」

「悪魔憑きもいるって話だが」

「はい。そのため、通常のエージェントでは太刀打ちが出来ずに……」

 悪魔憑きで吸血鬼ともなればそれこそ一般人には手に負えない相手だろう。下手をすれば神格者でも手こずる。とはいえ、その分弱点も多い。

 

「吸血鬼なのに、反吸血勢力って矛盾してない?」

「要約すると女神反対派、以上」

「把握したわ」

 つまりは、商業国家を牛耳る国王が吸血鬼であることに不満を抱いている、ということか。ブランは納得したようにひとり頷く。

 資料をめくっていくと、そこには現場の写真が一枚。おびただしい血痕に、破壊されたコンテナがめちゃくちゃに散らかっていた。その中に、異形の怪物が数匹。悪魔憑きだ。

 

「国王に、この一件は」

「まだ伝達しておりません。そのため、こちらも出来る限り不明瞭として報告を」

 それは、国王への配慮として。ユウコはただでさえ国の運営にかかりっきりだ。こんな事件が起きていると耳にしたら気に病むだろう。ただでさえ自分が吸血鬼であることを気にしているというのに、そんな反吸血勢力がいると知ったら何をしでかすか分からない。

 国家公認カジノ、というのもまた場所が悪い。言ってしまえば閉鎖された都市だ。何が起きようとその内部で起きている事は外部に漏れ出すことはない。こうして情報操作でもされない限りは。

 

「了解。なら俺に任せろ。連中を一人残らず殺──」

「じー……」

「……捕まえます、善処する」

 隣にいるブランからの視線が痛い。

 

「事の重要さはわかるけど、人殺しはダメよ」

「なまっちょろいこと言ってもいられないんだ」

 特に、悪魔憑きは。犯罪者とあっては生かしておくわけにはいかない。正体を隠して平和に生きていこうとするのならまだ見逃しておくが──。

 

「とにかく、頼りにしていいんでしょ?」

「まぁな。エリナもそれらしいやつを見かけたら俺に連絡してくれ」

「ちょっと。わたしもいるんだから、分かってる?」

「ブランにも」

「わかりました。我々もサポートに回ります」

「それじゃ、早速着替えなきゃ! ブランちゃんはこっち」

 カジノの開店に合わせて、ブランとエヌラスは着替えることにした。エリナに背中を押されて更衣室へと向かうブランの背中を見送ってから、エヌラスも男性更衣室へと。

 

 

 

 アクア・エデンのカジノは六割を占めている。半数以上が娯楽施設であり、その中には飲食店やショットバーなども含まれていた。風俗も込みで。

 ルーレット、ポーカー、ブラックジャック、スロットにビンゴ。目白押しのラインナップであると同時に、そのゲームの進行を行うディーラーもまた目玉のひとつだ。テーブルに着くかどうかを左右する要因でもある美男美女。

 中でも、エリナの担当するポーカーの席は人気だった。当人の人当たりと、話術によるものだ。若くて美人で胸もある。

 そして、そんなエリナのバニーガールコスチュームに胸を打たれて鳴かず飛ばずのチップを奪われて涙する者が多数。散財したものはアクア・エデンを後にして商業国家で血眼になって働く。稼いだお金を再び溶かしにアクア・エデンに。無限ループってこわくね?

 そんな天然魔性蠱惑のバニーガールの隣には、もうひとり並んでいた。

 

「似合ってるよ、ブランちゃん」

「う、うぅ……変装とは聞いていたけど、どうしてわたしがこんな……恥ずかしい格好を」

「白いうさみみもキュートだし、尻尾なんて特に小さなおしりにピッタリ」

 ブランがバニーガールのコスプレをさせられている。しきりに胸元を気にしては、慣れない露出の格好に戸惑っていた。ちゃんと白いうさみみカチューシャを着けて、手首にはカフスも着用している。

 

「恥ずかしいと思うから恥ずかしくなっちゃうんだよ。水着と一緒、見せるための格好なんだから恥ずかしがってちゃダメ」

「そ、そんなこと言われても……」

 落ち着かない。こんな格好で人前に出るなんて、とてもではないが出来ない。羞恥心で顔を赤くして店に出ようとしないブランにエリナが困っていた。そこへ、着替えを終えたエヌラスがやってくる。いつまでたっても出てこない二人の様子を見に来た。

 

「どうした、エリナ、ブラン。もう店始まってるぞ?」

「あ、エヌラス。それが、ブランちゃんが恥ずかしがって……」

「お前は慣れてるからいいだろうけど、ブランはこういう格好初めてなんだから加減してやれ」

 黒のベストに、ワイシャツにスラックスとスタンダードなディーラースタイル。髪もハーフアップにしてまとめている。前髪もしっかりヘアピンで分けていた。普段よりも清潔感の増した格好と髪型に、ブランが思わず言葉を失っている。

 

「……やっぱ、変か? 左目の傷も目立つし」

「そうじゃなくて……その、似合ってると思うわよ」

「おう……ありがと。ブランもバニーガール似合ってるぞ。普段よりかわいさ三割増しくらいで」

「うーん、甘々だねー。イチャイチャ空間にエリナさんもトロトロになっちゃいそう」

「おめーは一人でもいいから店に出ろ、客が待ってるんだから」

「じゃあブランちゃんのことよろしくね。あ、二人きりだからってここでエッチなことしちゃダメだからね?」

「しねぇよ、お前じゃないんだから」

「私だってそんな過激なのしたことないよ。でも、興味ないわけじゃ……ちらっ」

「はよいけ!」

 エヌラスにお尻を叩かれて、エリナは「ぴゃうん!」と鳴いてから店内に顔を出した。すぐさま黄色い歓声が上がる。

 

「エヌラス……」

「まーなんだ。そこまで恥ずかしいなら、裏方に回ってもらっても」

「いいの?」

「無理して付き合わせるのも悪いし。表の方は俺一人でも大丈夫そうだしな」

 首を横に振るブランに合わせて、うさみみも揺れていた。服の裾を掴み、弱々しく呟く。

 

「いっしょに、いてくれる?」

「……その格好でそのセリフは反則だ」

 不覚にもキュンとしてしまった。とはいえ、いつまでもバックヤードでこもっているわけにもいかない。なんとかブランを勇気づけてあげなければ。

 

「よし──、ブラン」

「な、なに?」

 白くて細い肩に手を置いて、エヌラスは深呼吸する。顔を赤くしながら見上げてくるブランの青い瞳に吸い込まれそうになるのをぐっと堪えながら口を開いた。

 

「自信を持ってくれ。正直、ものすごく魅力的だ。人目をはばからないなら食べたくなるくらいには、とても似合ってるしかわいいと思ってる」

「え、あ……い、いきなりなにを言ってるの?」

「なにって、素直な感想。大丈夫だ、ブラン。誰も笑ったりなんかしないって」

「……本当?」

「ああ。本当だ」

「でも、ディーラーなんてやったことないから……不安で」

「それなら、ウェイトレス係でいいんじゃないか。俺も一緒にいてやるから」

「……そこまで言うなら、やってみるわ」

「よし、決まりだな」

 ブランの肩から手を離すが、手首を掴まれる。そのまま頬に添えて、何かを言おうとしていた。その言葉を静かに待つ。

 

「えっと……勇気づけてほしいわ」

「今のじゃ足りなかったか?」

「もうひと押し……ん」

 小さく唇を突き出すブランに、エヌラスは苦笑して顔を近づける。

 

「エヌラスー、お知り合いの人がー……あちゃー……」

『────』

 キスをした直後、エリナが戻ってきた。何も見ていないふりをして天井や壁を見ている。

 

「エリナー、ナニモーミテナイヨー、ホントダヨー?」

 真っ赤になった顔を俯かせるブランに、エヌラスは高鳴る胸の鼓動を気取らせないように咳払いを挟んでから、何事もなかったかのようにエリナに会話を切り出した。さりげなくブランとは手を繋いで。

 

「知り合い? 俺がここにいるって話は誰も知らないはずだが」

「なんでも国王様からの紹介で。確かー……シルヴィオ? って人。知ってるの?」

「ああ、九龍アマルガム人狼局OBの爺さんだ。来てるのか」

 それならば、挨拶をしておこう。エヌラスはブランの手を引いてアクア・エデンの園であるカジノ場へと姿を見せる。

 目もくらむほどの賑わいと人だかり。その熱気と活気は凄まじく、その場に居合わせるだけでこちらまでつられてテンションが上がってしまう。黒い服のディーラー達は目を合わせると会釈し、エヌラスとブランもそれに合わせて頭を下げた。

 

「……すごい、熱気ね」

「そりゃ、疲れも吹っ飛ぶ程の娯楽庭園だからな。えーと、爺さんはどこだ……?」

「ほらほら、あそこ! あのカウンター!」

「あー居たわ。ありがとな、エリナ。そっちも頑張れよ」

「それなら、相手してあげてもいいけどぉ」

「悪いな、ユウコから釘刺されてるんだ。「君はギャンブル禁止」って」

「そっかぁ、残念」

 エリナと別れて、シルヴィオが客の相手をしているカウンターへと向かう。

 ギャンブルの合間、その休憩としてお酒を飲むのはそう珍しいことではない。やけ酒をする客もいるが、そういった手合を止めるのもスタッフの仕事のひとつだ。

 グラスを磨いていたシルヴィオもまたスタンダードなディーラースタイルだが、蝶ネクタイではなくこちらは何も着用していなかった。代わりに、黒と金の腕章を着けている。

 

「おぉ、久しぶりだな」

「どうも、爺さん。今日はどうしてここに?」

「商業国家国王より、人手が足りていないから手伝いをと。老骨に染みる若者の活気よ」

 朗らかに笑って見せるが、元・伝説のヴァンパイアハンターがいるとなれば心強い。エヌラスは事情を説明した。その話に頷いて、シルヴィオはカウンター裏、足元に置いてあるブリーフケースを足で小突く。

 

「なに、私も商売道具を持ち込んでいる。場合によっては手を貸そう」

「助かるよ、爺さん」

「ところで、そちらのかわいらしいお嬢さんは?」

「ああ、俺の──」

 一瞬血迷った言葉を口走りそうになって、エヌラスは必死に頭の中で最適な言葉を探した。

 

「──俺の、勝利の女神様」

「なんだ、てっきり恋人とでも言うかと思ったが」

「やかましいわクソじじい!」

「ははは! はじめまして、かわいらしいお嬢さん。私はシルヴィオ、この仕事は初めてかな?」

「わたしはブラン、よろしく。ええ、ディーラーなんて初めての経験」

「なら何かと戸惑うだろう。こちらで飲み物を運んでいただけるかな? まずは場の空気に慣れることだ」

 シルヴィオはトレイにグラスを並べてカクテルを注ぐ。それらはあくまでもサービスの一環として無料で提供されるものだ。

 

「これを持って、まずはカジノの中をぐるりと歩いてもらえるかな? 飲み物がなくなったらまた此処へ戻ってきてくれれば追加の物を用意しよう。空になったグラスを見かけても、同じように回収してもらえると助かるよ」

「わ、わかったわ」

「俺はブランに付き添う形で見回りをしてくる」

 ブランがトレイを持って離れる。エヌラスも、最後に一度だけ手を振るとシルヴィオの担当するバーカウンターを後にした。

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