超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――守護女神が治める国の一つ、プラネテューヌでは平穏な日々を過ごしていた――かに、思われていた。
「ねぷっ!? あ~、やられちゃったぁ……」
プラネテューヌの教会。その上層階で過ごすのは守護女神の一人である『パープルハート』こと、ネプテューヌ。今日も仕事を放り投げてゲーム三昧、のはずだったのだが地震が起きて操作が狂った。そのせいでノーセーブで進めていたアクションゲームのボス戦で負けてしまう。
「もう、やんなっちゃうなー。ここ最近毎日のように揺れてばっかで……」
ブツブツ言いながらネプテューヌが改めてゲームを再開しようとした瞬間。
「こらー! ネプテューヌさん! またお仕事サボってゲームばっかり!」
「げぇっ、いーすん!?」
「そうだよ、お姉ちゃん。たまには真面目にお仕事しないと」
「ネプギアまで~……」
過去のプラネテューヌの女神が作り上げた人工生命体のイストワール。歴代女神の補佐役を務めてきた彼女であったが、ネプテューヌの不真面目さに手を焼いていた。遊んでばかりで職務に手を付けず、国民からのシェアを集めることにもさほど興味が無いようでプラネテューヌは最下位をキープしている。
イストワールがゲームの電源を落とす。それにガックリとうなだれてソファーから身を起こしたネプテューヌは妹のネプギアに抱きつく。
「ね~ネプギア~、いーすんみたいなこと言わないでよー。私の味方はネプギアだけなんだから」
「あ、あはは……」
「ネプギアさんも! ネプテューヌさんを甘やかし過ぎです。たまにはバシッと言い返して下さい。本来この国を治めている女神はネプテューヌさんなんですから、貴方が仕事をしないでどうするんですか!」
「えー、だってぇ」
「だって、なんですか?」
「私が仕事するよりもネプギアの方が早いんだもん」
「そ・れ・で・も! ネプテューヌさんがやってください!」
「ちぇー……」
「いいですか、そもそも女神というのはですね――」
(あ、これ長くなりそうだなぁ……)
嫌そうな顔を隠そうともしないネプテューヌの袖を引き、ネプギアが耳打ちする。イストワールは説教することに夢中で二人の様子には気づいていないようだ。
“でも、お姉ちゃん。最近おかしくない?”
“おかしい? 何が?”
“地震だよ。それだけじゃなくて山火事とか、地割れとか世界中で起きてるみたい。ラステイションでも似たような災害が頻繁に起きてて、ノワールさんが対策を練ってるってユニちゃんから聞いたの”
“おー、流石はネプギア。私の自慢の妹だよ! こうしちゃいられないね!”
自分がこうしてサボ……息抜きしている間に他の国の様子を調査していてくれたようだ。それには頭が上がらない。
「ねぇ、いーすん! 最近起きている災害のことについてなんだけどさ!」
「なんですか?」
「ノワールが対策を練ってて、その会議に私も誘われてるから行ってくるね! 行くよ、ネプギア!」
「えっ、えっ? お姉ちゃん!?」
「早くしないと置いてくよ~!」
「待ってよー! あ、いーすんさん。私も行ってきますね!」
「あ、はい……」
“逃げられた”――そう思うも、どこか釈然としないままイストワールは散らかった部屋を見て深い溜息をこぼす。だがそれでも、一抹の不安が胸中をよぎる。
今までも様々な危機に晒されてきた。このゲイムギョウ界は。プラネテューヌは。その度にネプテューヌが戦って、乗り越えてきた。時には他国の女神達と協力して問題を解決してきた。それでも、この頻繁な自然災害を前に人間が対策を練ってどうにかなるものなのだろうか?
守護女神『ブラックハート』こと、ノワールの治める国。ラステイション。この国でもまた、プラネテューヌ同様に頻繁に起きる自然災害に頭を悩ませていた。
「それで? 別に呼んでもいないのに来たわけ? 私だって忙しいのよ、せっかく来てくれたのに悪いわね」
執務室で仕事をしていたノワールはアポ無しで突撃してきたネプテューヌに呆れていた。なにも今回が初めてではないが、こうも毎度毎度やってくると逆にプラネテューヌが心配になってくる。こんな調子だからシェア最下位をキープしているのだ。しかし不思議とそれでもネプテューヌ自身が憎めないキャラをしているからか、どうにかなっている。
「いやーでもさぁ、私が来ないとノワールってぼっちじゃん? だからこうして遊びに来てあげてるんじゃない」
「だからぼっちって言うなぁ! ぼっちじゃないし!」
「あ、あの。それでノワールさん。ラステイションで起きている災害の被害はどれくらいなんですか?」
それとネプギアはまるっきり正反対に真面目だ。姉に見習えと言ってやりたい。
「そうね。最近起きている災害の規模からすればうちはまだ良い方よ。リーンボックスとルウィーはもっとひどいらしいわ。調査して分かったことなんだけど、これってシェアが低い順に被害が大きいみたいなのよ」
「そうなんですか!?」
「だからかもしれないけど、こっちはまだそれほど被害が出てないの。でも他の国がこれじゃ、私だけのんびりしてもいられないわ。国民の不安もあるからね」
「だからプラネテューヌであんなに頻繁に起きてるんだ……」
「そういうこと。それと、これはブランから聞いた話なんだけど、どうやら地割れとかも起きてて一部の地形が隆起してるらしいわ」
「それって結構危険なんじゃ」
「ええ。それだけじゃなくて、その亀裂の周囲にはモンスター達が群がるみたいなの。だからベールもブランもその駆除に乗り出してて大変みたいよ。分かった、ネプテューヌ」
「ありがとう、ノワール! ご丁寧に全部説明してくれて本当に優しいんだからぁ。私だけじゃなくて読者にも」
「アナタね……そのメタ発言自重しないといつか刺されるわよ? それで、私もこれからその実態調査に向かおうとしてるってわけ。その話が本当なら周囲の住人も避難させておかないと」
ノワールは実際、よくやっている。ラステイションがプラネテューヌと違いシェアのトップを維持しているのは、ノワール自身が精力的に国を良い方向に導いているからだ。環境改善に治安維持、加えて守護女神である自分のアピール。まさに模範解答と言うべき振る舞い。
「ユニ、私ちょっと出かけてくるけど、その間に資料とかまとめておいてもらえる?」
「あ、うん。頑張るね」
妹であるユニもノワールに瓜二つ。髪型から性格までよく似ている。仕事を手伝っているところはネプギアそっくりだ。対照的なのは、慕う姉の性格だろうか……。
「それじゃ行ってくるわ」
「気をつけてね、お姉ちゃん」
「まだ人の少ない街から遠く外れた場所みたいだからよかったけど、これが街中で起きてたらと思うとゾッとするわね」
ラステイションの外れに集まったノワール達の前には、地面が隆起して出来た断層があった。そして、奇妙な光を発している。それにモンスター達を引き寄せる効果でもあるのか無数に集まっていた。
「ネプテューヌ。変身して一気に片付けるわよ、亀裂の調査はその後。いいわね」
「オッケー! 行くよ、ノワール!」
『アクセス!』
ネプテューヌとノワールの手に現れるシェアクリスタル、それによる変身――女神化。
女神パープルハート――ネプテューヌの変身した姿。
女神ブラックハート――ノワールの変身した姿。
「よーし、私も!」
そして、その妹であるネプギアもパープルシスターへと変身すると、群がるモンスターに向かう。
最後の一匹を仕留めて、パープルハートが着地する。
「ま、初戦は雑魚って定番なのよね。数だけ揃ってるんじゃ経験値にもならないわ」
「大は小を兼ねるって言うじゃない、ネプテューヌ。少しは足しになるでしょ」
「お姉ちゃん、こっちも終わったよ」
「そう。ありがと、ネプギア」
変身を解除すると、改めて周囲の調査に乗り出す。元々モンスター達の生息する場所であったが、こうまで集まるとは思いもしなかった。ラステイションの地形やモンスターの生息範囲も把握してたノワールでも予想外の結果に、やはりこの自然災害には何か裏があると感じている。
「やっぱり、何か妙ね……」
「なにが?」
「だって、普通モンスター達は災害とか起きたら真っ先に逃げるじゃない」
「そうですよね。騒ぎ始めたら何かの前兆とも言いますし」
「うーん、そういうものかなぁ。ほら、もしかしたらモンスター達も物珍しさに見に来たとかじゃないの?」
「お姉ちゃん、さすがにそれはないよ……」
「いやいやいや、あり得るってー! だって、見てよコレ。どっからどう見ても怪しい光だよ! チェレンコフ光とか目じゃないくらいに危ない光出てるのに、こんなの見たらモンスターだって好奇心に駆られるよー」
「だからってアナタも興味津々で覗かないの! 落ちたらどうするつもりよ」
「だーいじょうぶだってー。押すなよ、絶対押すなよ!」
「いや、フリじゃないから」
「でも何なんでしょうね、この亀裂。この奥に何かあるみたいですけど……」
「そうよね。そうでもなかったらここまで光るはずがないもの」
三人の前に走っている亀裂。それは隆起した地面との境に新しく出来た割れ目のようだ。もしかすると古い地層が盛り上がっているのかもしれない。だが、このゲイムギョウ界全体でそれが起きているのは妙な話。単純に見ても規模がでかすぎる。
「もしかしたら、地底人がゲイムギョウ界侵略を企ててたりして! それで、地上と地底で戦争とか!」
「そんなアンダーグラウンドの住人が陽の光浴びてどうするってのよ。干からびるだけじゃない」
「あー……でもさぁ。たまにいるんだよねぇ。自滅するの見え見えなのに突っ込んで玉砕するカミカゼ精神の人」
「あの、これってどれくらい深いんでしょうか」
「さぁ? でもこうまで大きい亀裂だもの。相当深い場所まで続いてるんじゃないかしら。とにかく、危険だからこの周辺は立入禁止ね。落ちたら危険だし……って、ネプテューヌ。私の話聞いてたの!?」
危ない、と言っているのに興味津々で亀裂の奥を覗きこむネプテューヌを引っ張ろうとノワールが首根っこを掴む。
「あわわわわ、危ないってノワール!」
「危ないのはアナタの方でしょう!? 早く離れなさいってば!」
「大丈夫だよ、落ちても女神化して飛べばいいんだし!」
「そうかもしれないけど、どこまで続いてるか分からない穴になんて入りたいなんて思わないでしょ!?」
「穴があったら入りたくなるじゃん!」
「お姉ちゃん、本当に危ないから離れた方がいいよ。何か、見るからに身体に悪そうな光だし……」
蛍光色の緑色。明らかに長時間浴びていたら健康に支障をきたす光を見て、ネプテューヌも渋々覗きこむのを止めた。
「徹夜でゲーム三昧してるのに今更健康とか気にしてらんないって、ネプギア」
「そうかもしれないけど、本当に何が起こるか分からな――」
「あっ」
手を掛けていた亀裂の縁が崩れる→引っ張っていたノワールが思わずつんのめる→ネプテューヌに逆に引っ張られる→落ちそうになるのを見てネプギアが手を伸ばす→勢い余ってまとめて落ちる→お約束。
「『あっ』じゃないわよ、バカァァァァァッ!?」
「おーちーるーーーー!?!?」
三人が亀裂に消えて、森の中が静かになる――
はずだった。