超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――エヌラス達はまず、商店街で装備を整えてから向かうことにした。ただでさえ寝不足&過労&精神的疲労&気苦労&社会的地位の失墜でフルコンボッコでドン底テンションな男が目覚ましい活躍など出来るはずもなく、その前準備をするためだ。どうせなら一回や二回くらい力尽きて眠ってしまおうかと思っていた。だが、それを許さないほど元気なのが三名ほど。
胸に抱えたミニチュアHW型フォートクラブ(親衛隊仕様)がよほどお気に入りなのか、ネプギアは電源ボタンを入れて手足をバタつかせる一挙一動に心奪われていた。
「ハァ~……かわいいなぁ。プラネテューヌでいっぱい作りたいなぁこういうの……」
「なんか車とかに轢かれて問題になりそうだから量産体制は整えないからね?」
「あ~、美味しそうなクレープ屋さんだぁ~」
「いいねー、甘いもの! 戦いの前に腹ごしらえだよーエヌラス!」
「……俺、もう昼飯これでもかってほど食っちまったよ……」
今は食べ物など見たくないくらいに。だが、ねだる三人に負けてエヌラスはクレープを三人分購入した。
「ストロベリーの酸味が生クリームと合わさって、うンまぁ~い! プリンとかないかな!」
「はむはむ……美味しいっ! これなら何個でもいけちゃいそうです!」
「美味しいなぁ~、甘いモノはやっぱり別腹だよぉ~」
「…………」
あれ、俺達これからフォートクラブ生産工場の制圧に行くんだよな? 別にデートとか、そういうんじゃなくて本当に戦いに行くんだよなこれから。俺は何も間違ってないよなユウコ。
エヌラスは目の前の現実に打ちのめされそうになりながら目頭を押さえた。心なしか熱いものがこみ上げてくる。人は時に、現実と理想の摩擦に心が悲鳴をあげるものだ。
「あの、エヌラスさん」
「なんだ……」
「このフォートクラブですけれど、これの生産工場ってそんなに危ないんですか?」
「それミニチュアだからな」
「でも、そんなに大きくないと思うんですけれど」
「全長六メートルだぞ」
「…………」
「…………」
戦車が生物的挙動をしながら大挙して押し寄せてくる光景――歩兵でなくとも地上で生きる者にとってはそんなものは地獄絵図以外のなんでもない。地獄だ。地獄と呼ぶ暇さえあるかどうか、阿鼻叫喚の悲鳴すら掻き消す轟砲と銃火器による制圧、否、蹂躙は跡形も残らない。ネプテューヌとネプギアが固まった。
「生涯最後のデザートにならないといいな……」
「え、縁起でもないこと言わないでよエヌラス!?」
「うるせぇ。前みたいに守ってやれるかどうか分かんねぇんだよ」
今日のコンディションは、最悪だ。劣悪を極めている。頭痛と目眩と倦怠感に、眠気。術式の詳細な制御も出来るかどうか。こうなるともう子供の落書きのようにずさんな制御で魔力を垂れ流す方が効率的だ。そうなれば自然と消費も増える。そうすると短時間での制圧が望ましい。
「遊びに来たなら、頼むからここで大人しくしててくれ。先に行ってる、のんびり食ってろ」
ハンティングホラーを召喚してエヌラスは跨がり、エンジン音を残して先行した。どちらにしろ、変身できない二人の手を借りるほど落ちぶれていない。プルルートはともかくとして、守りきれる自信がないのだ。それならばいっそ自分一人が乗り込んで片付けてしまう方がいい。
何よりも怖いのは、今の自分が制御し切れていないことだ。自分で巻き込んでしまうよりは置いていった方がよっぽどいい。
“ああ、チクショウが……最悪の一日だ”
コンディションもテンションも機嫌も運勢もイベントも何もかも、最悪にして最低のどん底な一日はまだ半分終わったばかりだ。エヌラスは城門を飛び越えて森林へと駆り出す。
一方で、アルシュベイトとノワールの二人は歩いていた。目的地までのルートもマップも機人であるアルシュベイトの網膜ユニットにディスプレイされており、その道に疑いの余地はない。
「ねぇ、アルシュベイト」
《どうした》
腕を組みながら先行する大きな機械の背中を見て、ノワールがふと疑問を口にする。腰部ブースターを吹かして跳べば文字通りにひとっ飛びのはずだ。
「どうして徒歩なの?」
《不服か》
「そりゃそうよ。アナタのブースターは何のために付いてるのよ」
《
「じゃあ、背中に乗せてくれてもいいじゃない」
《断る》
即断だった。
《確か、名前は……》
「ノワールよ」
《記憶した。ノワール、俺のブースターは楽をするために使うべきものではない。生まれ持った二本の足があるだろう》
「そうだけど……効率が悪いと思わないの?」
《思わん。それに、こうして歩いていれば暴走するフォートクラブも道すがらに鎮圧できる。見逃して無辜の民が犠牲になるよりは遥かに良い》
「アナタって本当に、なんというか……清々しいほど真っ直ぐね。羨ましいくらいよ」
《そうか?》
言われても疑問に首を傾げるほど、アルシュベイトにとってはその振る舞いが“普通”ということになる。
《それで》
「えっ?」
《俺に尋ねたいことがあるからエヌラスから離れて同行したのだろう。ならば用件は今のうちに済ませた方が良い》
「ええ、そうね。ずっと疑問だったのよ。トライデントから聞いた一言がね」
《と、言うと?》
「貴方達、機械人類。機人は、元は人間だったって。それがどうして機械の身体を得たのか。それを知りたくてよ。機密事項であるのは承知しているわ」
《…………》
「黙秘するつもりなら別にいいわ。徒労に終わるというだけだもの」
《好奇心は猫を殺すという。だが俺とて、猫は愛でる性分でな》
それは、断っているということだろう。ノワールがソレ以上の言及を中断しようとした――
《しかし。興味を持たなければ心は動かん。死に至る好奇心であれど、今はお前の命を預かる身。全身全霊で守り通すだけだ。教えてやろう》
「い、いいの? だって、機密……」
《それがどうした。このアルシュベイト、腹を裂いても機械の部品しか詰まっておらん。隠し事などアゴウへの裏切りに等しい。王たるものとして嘘偽りのない姿を晒し、民への信頼に応えるのが当然だ。少なくとも、俺にとってはな》
「…………」
《隠し事など、国への謀反だ。俺は国王であり、アゴウに生きる“ひとり”だ。ならば、王にして民である。国に生かされている身だ、そこに身分の差などない》
それが“普通”なのだ、アルシュベイトにとって。軍事国家アゴウ国王にとって。アダルトゲイムギョウ界最強の称号を預かる軍神にとって。――敵うはずがない。
《我らが機人。元が人であった。俺とてその一人だ。バルド・ギアより聞き及んでいるとは思うが、不慮の事故によって仮想現実に取り残された者達がいる。それは知っているか》
「ええ、聞いてるわ」
《ならば説明は省く。俺もその被害者の一人だ》
「それって、アナタもインタースカイの住人だったってこと?」
《いいや。武装召喚アプリケーションは当時のアダルトゲイムギョウ界には革新的でな。普及するのにそう時間は掛からなかった。その恩恵に授かった者は国境を問わん。そして、俺やアゴウの者達は中でもその使用頻度の高さから殆どが被害を受けた》
今でもアゴウ国民は当時の七割ほどの人口しか残されていない。残りの三割はまだ仮想現実に囚われたままだ。
《バルド・ギアとエヌラスの二人が魔導的、技術的に救助へと乗り出した。ソコまでは良いな》
「ええ……」
エヌラスもその救助に一役買っていたというのは初耳だが、ノワールは聞き流す。
《仮想現実は、確かに魅力だ。年を取ることなく電子世界で無限に生き続けることが出来る。しかしそれは肉体を失ったものに取ってはただの“偽り”でしかないのだ。全てが電子的に取り決められた世界に生きる。それを良しとするものもいれば、快く思わん者も居た》
「それじゃあ、どうしたのよ」
《――その前に、二匹だ》
機械の駆動音。木々をなぎ倒す音にノワールが臨戦態勢を整えるまでの間にアルシュベイトは既にブースターを吹かして、出会い頭のフォートクラブを正面装甲から一刀の元に寸断した。二匹目を蹴り飛ばし、鈍い金属音と共に後退る口に長刀を突き刺す。そのまま持ち上げると地面に叩きつける。
流れるように二匹が沈黙すると、粒子の光となって分解して消えた。
何事もなかったようにアルシュベイトが長刀を右肩の背部ラックに納刀する。
“なによこれ、圧倒的じゃない……!”
《話が逸れたな。そういった者達の不平不満は全てバルド・ギアに向けられた。だが、エヌラスがその解決策を考えたのだ》
「……それが、機械の身体?」
背中越しにアルシュベイトが頷くのが気配で分かった。
《インタースカイのサーバーから、機械の肉体へ意識データをインストールする。その中には非合法な部分も含まれ、呪術要素もあるために道理に背く技術だ。“魂魄転写”と言ってな、過去に九龍アマルガムで流通した違法にして外法だ》
無機物に人間の魂をインストールする。当然、する側の人間が無事で済むはずがない。一度限りの大博打だ。わずか一グラムに満たない霊的物質である魂を転写するなど外法も外法、呪法の極み。
「でも、成功したんでしょ? アナタも」
《成功続きではなかったのだ。失敗もある。まともに言語を扱えぬ者もいた。獣のような者もいた。当然だ。この“ただの機械”に文字通り“魂の息吹を吹き込む”という作業が、どれほどの苦難で成り立っているのか俺には想像もつかん》
ただの機械――そう言われて、ノワールは驚く。アルシュベイトが、最強の軍神がただの機械であるはずがないとばかり思っていただけに、本人の口からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。アルシュベイトは《それでも》と続ける。
《それでもな、ノワール。あの男は、エヌラスは“諦めなかった”のだ。俺や、俺に連なる者達を救いたかったのだよ、あの愚か者は。非道に走り、手段を選ばず、悪鬼と罵られ、悪魔と呼ばれ、魔王と蔑まれ、犯罪王と呼ばれるまでに悪事に手を染めた男は、ただ救いたかっただけなのだ。何一つ報われないと知っていながら、アレは俺たちを助けたかったのだ。電子世界の牢獄から》
「…………」
《そして、俺の順番が来た。結果は失敗。俺は無意識のままに戦い続けた。アゴウを守るためにな。プログラムされた機械のように、ただひたすらに戦い続けた。アイツに、どうして“それ”が“俺”であると分かったのかは知らんが、俺はエヌラスに敗北した。そして、意識を取り戻した。アイツの行いの全てが報われずとも、俺は救われたのだ。他でもないエヌラスの手によってな》
あの男には感謝している、そう付け加える電子音声には確かな歓喜の色が混じっていた。
《しかし“それ”と“これ”では話が別でな。負けは負けだ、俺の敗北に変わりはない。命の恩人と言えど容赦はせん。加減もせん。決着は然るべき場所、然るべき時に着ける。それまで死なれては困るのだ――ノワール、お前の聞きたい話は以上の通りだ。他に質問はあるか?》
「そこまで話してくれてありがとう、アルシュベイト。降参するわ、白旗よ」
《意味がわからぬ。勝負などしていないだろう》
「ううん、そうじゃないの」
敵わない。これにはきっと、誰も敵わない。自分を偽り、虚勢で胸を張って渡り合える相手ではない。
「アナタの心構えに感服したってことよ。私もね、ラステイションという国を治める女神なの。よりよい国にしようと奮起してたけど――アナタの話を聞いていたら、とてもじゃないけど敵いそうにないもの」
《良い国か、そこは》
「ええ、とっても」
《ならば、覚えておけノワール。お前が国を愛し、誰かを愛し、お前がお前自身を裏切らない限り、その愛はお前を裏切らない。俺はアゴウを愛している。アゴウに生きる民を愛している。今こうしている間にも血は流れ、涙は流れ、声が枯れ果てるほど叫んでいる者達が戦っている。だが俺は、愛しているのだ。それ故の“最強”だ。いずれお前も辿り着く》
「……いつになるかしらね、そうなるのに」
《誰かを愛することに罪などない。それが犯罪王と呼ばれるエヌラスであってもな》
「ば――バカじゃないの!? なんでエヌラスが出てくるのよ!? 関係ないじゃない!」
《ふむ? 俺の見立てが間違ったか? 最初見た時より兄妹のように思えてならなくてな。俺としては我が身のように嬉しかったのだ》
「ば、バババババ馬鹿でしょ!? アナタ本当は馬鹿でしょ、ええそうに決まってるわ、馬鹿なんでしょ!? わ、私がエヌラスのこと愛してるとか、そんなこと」
《愛がなければ、身体を重ねることに意味は無い。変身できるのであれば、アレはお前を愛している裏付けだ。アイツは口で言うのが下手でな》
ノワールは絶望的なまでに顔を紅くした。――プルルートに先を越された二番目とはいえ、確かに今の自分は変身できるという確信があった。それが、愛の裏付けだと言われて死ぬほど恥ずかしくなった。足手まといになりたくないという理由だったが、そう言われては割り切れるものではない。
「は、早く行くわよアルシュベイト! 何してるのさっさと走りなさいよ、図体だけデカイわけじゃないでしょ!?」
《ハッハッハ。そのウブな反応もアイツは好みだろうな、急かされては仕方あるまい》
恥ずかしさを誤魔化すように走りだしたノワールに、アルシュベイトはブースターを吹かした。