超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスがベッドで仰向けになること数分、D-Phoneが着信音を鳴らす。
『紅蓮の業火燃える──』
「はいもしもし、エヌラスです」
《事務的な返事だな》
「珍しいな、師匠から電話なんて」
《たまには悪くないだろう。ハンティングホラーの件でな》
ああ、そういえば預けたままだ。あれから音沙汰が無かったもので不安だったが、どうなっているだろうか。
「整備、終わったのか?」
《難航してる》
「正直かよ」
《というのも、どこからどこまで手を加えていいものか悩んでいる。好き勝手していいと言うのなら原型を留めないが》
「留めてくれ原型」
《了解した。原型を留めていればいいな?》
「おーっと俺はなにか間違えた気がする」
《ちなみに現在は魔導エンジン改良中だ》
「バイクの心臓を持ち主に不許可で改造してる時点でどうかと思うぞ」
《私に任せた、お前が悪い》
反論の余地欠片もなし。
「用件はそれだけか?」
《いや。実はユウコから電話が来てな》
「どういうことだ……」
《悪魔憑きが確認されたからだが? 始末は任せる》
「了解、適当にやっておく。それと師匠、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
《手短にな》
「月面国家神格候補七十二柱って、知ってるか?」
《知っているが、話せば長い。割愛》
「いや話せよ!?」
大魔導師曰く──本来であれば、月面国家の国王は魔術王と呼ばれる。だが、ムルフェストはそれを『大魔導師とかぶるから、ヤ!』と権利を放棄。月から捨てた。……月から、捨てた。違法投棄された権利に大激怒した、その神格候補達が結託して叛逆。返り討ち。残された者達はその権利を探し求めているらしい。
ちなみに、現在その権利は大魔導師が所有している。詰んだ。
《そのための人狼局だ、知らなかったのか?》
「対超常現象対策チームってことくらいしか聞かされてなかったし、そこまで知らなかった」
《勉強不足だな》
だから九龍アマルガムでは吸血鬼関連の事件が多かったのか。露払い、という名目だろう。おそらくは大魔導師の戦闘規模を最小限に抑えるために。
《お前は知らないだろうが、既に過半数を消去済みだ。そのうちのひとりは中々歯ごたえがあったがな》
「へぇ、師匠がそこまで言うのは珍しいな」
《名前が、ベイ……だったか、なんだったか。あ、やべ》
「おいちょっと待て」
手元大丈夫か。任せて本当に大丈夫か。通話しながら改良していて本当に大丈夫だろうか? 電話の向こうからちょっと名状しがたい騒音が聞こえてくる。なんで粘着音と金属音と破壊音と異教徒の呪文が聞こえてくるんだ。エヌラスは冷や汗を流していた。
《……ふむ。マズイな、制御を誤った》
「だ、大丈夫だよな……?」
《教会が消し飛ぶくらいだ、心配するな》
「今すぐ通話切るからさっさと作業に集中しろクソ師匠!!」
ブツッ。
深く息を吐き出して、大の字になる。再び着信。
「はいもしー」
《あ、エヌラスだー》
「……マリー?」
《大魔導師から電話借りてるんだ、なんか大変な事になっちゃってるみたいで。ほら──》
──ヰグナイィィィィィ!!
《──ね?》
「ね、じゃねぇよ」
ちょっと普通の女の子が聞いていい声ではないのだが、聞き流している。しかもやけに嬉しそうだが、背後の戦闘音が一層激しさを増していた。
《わー、なんかメイドさん総出で大変そう。大魔導師ー、がんばれー》
「……なにが起きてるか、ちょっと説明してくれ」
《えーっとね~。なんかこー、ぶわーってなって、空間から……タコ? みたいなのが出てきて警報が鳴って大魔導師がぐわしゃーって潰されてる》
「オーケー今すぐ逃げろ」
軽く教会で邪神災害が発生している。しかも現在進行系で。
《あ》
「どうした」
《街に行っちゃった。わー、すごい騒ぎ》
「……悪いマリー、電話切っていいか」
聞いてるだけで疲れてきた。言葉を交わして、通話を切る。
なんで九龍アマルガムに平和の二文字が存在しないのか。ベストアンサー、国王が原因。
シャワールームから出てきたブランが首を傾げていた。
「お風呂、上がったわよ……どうしたの? さっきより疲れた様子だけど」
「なんでもない……」
どっと疲れた。せめて静かな時間が欲しい。ブランの落ち着いた声が何よりも心地よかった。顔が赤いのは、風呂上がりだからだろう。ホテル貸出のナイトウェアに身を包んだブランがベッドに腰を下ろした。
財布事情により、ダブルベッドがひとつ。ソファーと備え付けの冷蔵庫と、テレビと。お手頃価格の宿泊プラン。
「シャワー、浴びてきたらどうかしら」
「ああ……そうする。なんか疲れてきた……」
主に大魔導師からの電話のせいで。のっそりと起き上がったエヌラスが服の裾に違和感を覚えて振り返ると、ブランがつまんでいた。
「……あ」
「どうした?」
「な、なんでもないわ……」
「そうか」
「えっと……待ってる、から……」
「先に寝ててもいいぞ。俺もシャワー浴びたら、すぐ寝るつもりだし」
「ん……」
そわそわした様子でブランが小さく手を振る。
エヌラスは替えの下着とナイトウェアのズボンだけを持ち出すと、脱衣室の扉を閉めた。
ひとり、部屋に残されたブランは自分の胸に手を当ててから紙袋に視線を向ける──。
湯船に張ってあったお湯に浸かり、エヌラスは深く息を吐きだして肩まで沈ませる。一日の疲れが汗と共に染み出していくかのような感覚に思わず声が出た。
「あ~……」
誰にも邪魔されない静かな入浴タイム。思い返せば最近は誰かと一緒にいることが多かった。賑やかなのは嫌いではないが、それでもやはり男の子にはひとりの時間が欲しい時がある。
そこ、「男の、子?」とかいう疑問は野暮なのでしないように。
髪を洗い、身体も洗い、しっかりと身体をマッサージでほぐしてからシャワールームから出る。脱衣場でしっかりと髪を拭き、身体も拭ってから部屋へ戻った。
「はー、サッパリした。師匠じゃないが風呂はいいな──」
「ぁ──」
「…………あー」
ナイトウェアを脱ぎ捨て、バニースーツを着ようとしていたブランと目が合う。またたく間に顔を赤くして素肌を隠した。
「み、見ないでもらえるかしら……恥ずかしいわ」
「すまん……」
悪いのは自分か? そんな疑問はともかくとして、エヌラスはブランから目を背ける。やけに心臓の鼓動がうるさく感じられた。
「な、なんで着替えてるんだ?」
「えっと……明日も、着るから慣れておこうと思ったの」
「そっか。それだけか?」
「…………」
エヌラスの問いに、ブランは答えない。しかし、背後の気配が動く。肩越しに盗み見ると、パンツも脱いで素足のままバニースーツに足を通していた。
「ん、しょ……エヌラス」
「なんだ」
「背中のチャック、閉めてもらえる? 手が、届かなくて……」
振り向いて、大きく開いた背中を見せるブラン。白い肌に、肩甲骨がはっきりと照明で主張されていた。開きっぱなしの背中のチャックをエヌラスが閉じると、少しだけ胸元を直して振り返る。
うさみみカチューシャも忘れず着けて、じっと見上げて言葉を待っていた。
「……似合って、る?」
「──すごく、魅力的だと、思う」
「ちゃんとわたしの方を見て」
視線を逸らしていたが、エヌラスはブランに言われた通りに向き合う。カジノ場で見た時は、まだ他のことを意識していたからいいものの、いざこうして二人きりの部屋でブランのバニーガール姿を見るというのは、また別な緊張があった。
不安そうに胸元で指先を合わせて、落ち着かない様子で視線を逸らしている。
すらりとした細い素足に、エヌラスがベッドの上に置かれたままの黒タイツを見つけた。
「……タイツ、履かないのか」
「……邪魔になるかと、思って」
「それはつまり誘ってるんだな?」
「~~~~」
小さく、ほんとうに小さく、ブランは一度だけ頷いた。
「今なら、二人きりよ……? ねぇ。わたし……食べちゃいたいくらい、かわいい?」
「そこまで言うなら──いただきます」
「きゃふ──」
手を差し出して、怖がらせないように頬を撫でてからエヌラスはベッドにゆっくりと押し倒す。顔を近づけようとして、唇を指で止められた。
「電気は消してもらえる……? 思った以上に、恥ずかしくって……」
「わかった」
蚊の鳴くような声で懇願するブランに従ってエヌラスは部屋の電気を消す。一気に暗闇の支配する室内となったが、ぼんやりとした輪郭を頼りにベッドに戻る。
そのままブランと一緒に横になって、頬を撫でた。柔らかく、すべすべとした肌はいつまでも触っていたくなる。
「……ブラン」
「ん──エヌラス」
名前を囁いて、顔を近づけていき──今度こそ、唇が重ねられた。