超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
カジノから叩き出される武装集団。なます切りにされる悪魔憑き。拳で強烈に顎を打ち砕かれる吸血鬼。ハンマーで横殴りにされて吹っ飛ぶ以下同文。たった三人を相手に反吸血勢力の数十名が手も足も出なかった。
「ハハハハハハハ、オラどうした吸血鬼共ォ! さっきまでの威勢はどこいった!」
吸血鬼が頭部を掴まれ、地面に叩きつけられるとエヌラスのアクセル・ストライクによってボールのように蹴り飛ばされる。他の仲間が受け止めると感電して動きが止まった。そこへブランがまとめてハンマーで殴りつける。
「あなた、ちょっと人にあるまじき顔をしてるんだけど……」
「生まれつきだ!」
手からエネルギー刃を生やした悪魔憑きが斬りかかるが、それを最小限の動きで避けるとみぞおち、膝裏と立て続けに拳と蹴りを見舞い、動きを止める。膝をついた相手に手のひらをかざして発勁──鬼哭掌。黒煙を吐きながら絶命して朽ちていくデモニアックを踏み越えてエヌラスは倭刀を構えて駆け出す。
その一方で、シルヴィオ。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
四方から飛びかかる吸血鬼を、拳ひとつで全て迎撃してのける。拳闘だけで打ちのめされた相手はピクリとも動かない。よく見ると、その身体には銀色の杭のようなものが突き立てられていた。
対吸血鬼専用ガントレットグローブ。水銀を用いた拳闘術がシルヴィオの基本スタイル。しかしてその拳は人の領分を越えている。
ブランの目の前で、格闘ゲームよろしく、人が浮いた。強烈なヘヴィブローからのアッパー、浮いた身体にジャブ、ジャブ、ストレート。殴り飛ばされた吸血鬼が口から大量に吐血して息絶えている。
「吸血鬼に慈悲はない。例え若造でもな」
生涯の全てを吸血鬼狩りに費やした復讐者は、しかし。その途方もない戦いに明け暮れる毎日に疲弊した。心が、精神が摩耗した。老いた銀の狼は牙を置いて、静かな余生を望んでいた。
それでもやはり、人の領域に吸血鬼の牙が伸びるその時、彼は伝説と共に舞い戻る。
圧倒的身体能力の差を物ともしない反射神経、動体視力。爪をスウェーで避けて、カウンターフックが強烈に顎をかすめ取る。揺さぶられた脳が平衡感覚を失い、体勢を崩された吸血鬼が全身をバネにして振るわれるボディブローで背骨まで達する拳によって壁に激突して落ちた。
エヌラスも吸血鬼を相手にしているが、いつもの調子でスプラッタな事になっている。紫電を纏わせた蹴りで動きを止めて、左手にレイジング・ジャッジフリークスハントカスタムを召喚すると額に突きつけて引き金を引く。脳天を撃ち抜いて、見向きもせずに次の獲物を探していた。
とてもではないがゲイムギョウ界では見せられない。
二人に敵わないならば──! そう思ってブランに襲いかかる吸血鬼、悪魔憑きもまた、守護女神であるブランのハンマーで殴り飛ばされて撃沈していく。
「ち、ちくしょう! なんなんだこいつら!? めちゃくちゃ強いじゃねぇか!」
「極悪人とヴァンパイアハンターはともかく、そこの幼女までなんて強さだ!」
「誰が極悪人だテメェ!!」
エヌラスが銃剣斧で吸血鬼の頭をかち割り、倭刀で心臓を貫いてから引き抜くと頭をふっとばした。肉片とか骨とか中身とか、なんか色々ぶちまけて死んでいる。
「あなた、自分がしている事を鏡で見たらいいわよ」
「呆れるほど有効な戦法、以上!」
「いや全くだ。吸血鬼を殺すのにこれ以上ないほどの最適解。フンッ!」
壁に叩きつけた吸血鬼の頭部に素早く二発の拳を叩き込んで、潰れたトマトにしているシルヴィオは手短な吸血鬼を捕捉すると小刻みなステップで銃弾を
「……本当に人間なの?」
「正直俺も不思議に思ってるが、正真正銘人間。邪魔だテメェ」
「グゲギャッ!」
悪魔憑きが頭をふっ飛ばされて死んだ。
神格候補の吸血鬼が手をかざすと、魔法円が浮かび上がり、店内に衝撃波が走る。エヌラスはそれをバルザイの偃月刀で切り伏せてブランを庇った。シルヴィオは足元に倒れていた吸血鬼を足で持ち上げて拳で打ち出して防ぐ。こと吸血鬼相手になると普段の温和な性格など消え失せる、あるのはただただ復讐の炎に身を焦がす銀狼。
「さて? 残すところは貴様ばかりだが……」
「ククク、流石にこれだけの人数を連れてきておきながら手も足も出せずに返り討ちに遭うとはこれっぽっちも思わなかったぞ……」
「完全に想定外じゃねぇか」
「その割に冷静ね。何か隠しているのかしら」
「フフフ、何も考えてない」
「よし、バカだ殺そう」
話し合いの余地など欠片もない。エヌラスとシルヴィオが拳を鳴らし、刃を向ける。ブランもハンマーを担ぎ上げた。
「だがそいつらと私を一緒にしてもらっては困るな」
「神格候補って事は、わたし達の言う女神候補生のようなもの? そんなのが七十二人もいたの? とんだ大家族ね」
「冥土の土産に教えてやろう」
「おう、テメェの遺言になるだろうがな」
「やめて、心を折りにこないで。六人の国王候補、その配下十二名! 通称十二使徒! 合計七十二柱! そんな我々を出し抜いてどこの馬の骨だか知らない吸血鬼が国王の座を掠め取り、あまつさえ魔術王の権利放棄したら誰だって反乱するだろう! しかもろくに政治なんかしないと来たら誰でも抗議するだろう!? それを探しに地上に来たらこの有様だ! ようやく見つけたと思ったら……なんだあのバケモノは! そこにいる貴様もだ、シルヴィオ!」
大魔導師。稀代の暇神にして超人、犯罪国家国王。だが、その権利を手にする以前より大魔導師はあらゆる魔道に精通していた。宝の持ち腐れである。
「このままでは国に帰れないと思ったら、後天性吸血鬼が商業国家とか建設しちゃって! 私達のしてきた事はなんだったんだ! ちくしょー! 何のために権力争いをしていたんだ我々は! なんでこんな目に遭っているんだ私は! 思い返していたらだんだん泣きたくなってきた!」
「八つ当たりじゃねぇか」
「ああそうだよ!」
「開き直った……」
「悪いか! ああ悪いか!? あーそうだよ、八つ当たりだよ!! 商業国家国王の吸血鬼など、我らの中でも
エヌラスが眉を動かした。表情が消える。それに気づいたものは、誰もいなかった。
「そんな吸血鬼の出来損ないが! 国を束ねる立場にあるなど──!」
レイジングジャッジから放たれた弾丸を防御魔法円で防ぐ。衝撃で左手が跳ね、苦痛に呻く相手の顔を蹴り飛ばす。そのまま外まで吹き飛ばされて、受け身を取った神格候補が立ち上がった。
真紅の自動式拳銃が灼熱の魔弾を放つと、背後の車両を爆発、炎上させる。その爆風に煽られた相手は炎の中に消えた。
「エヌラス……?」
「……何が、どうあれ。ユウコのやつを出来損ないとか、なり損ないなんて言わせない。俺じゃねぇんだからな」
「……あなたは、そんなのじゃないでしょ」
「そう言ってくれてありがとよ、ブラン」
だが、自分は絶望の邪神ではない。出来損ないの魔人なのだ。他でもない“自分”から言われたのだから。
それでも、と。ブランの顔を見て思う。願うのはただ、女神達の平和で平穏無事な日々の笑顔。そこに後悔など一つもない。
「人が話している最中に攻撃をするなど、無作法にも程がないだろうか?」
「うるせぇ。テメェの御託はまっぴら御免だ。さっさとくたばれ、
「いやまったく、エヌラスの言う通りだ。私としても、この世からご退場願おう」
「散々言ってくれるものだ、人間程度の劣等種が──!」
「わたし、女神なんだけど」
「俺は魔人だが?」
「バケモノの巣窟ですかここは!」
腕の一振りで炎をかき消しながら出てきた吸血鬼だが、あまりにやるせない現実を前にして乗用車のボンネットをバンバンと叩いていた。だが、ハッと気づいたように顔をあげてブランに指を突きつける。
「女神!? 女神だって!? 貴様のようなちんちくりんの幼女でつるぺたバニーガールが!? なんの冗談だ、キツすぎる! そもそもなんでそんな格好をしているんだ、公序良俗に違反すると思わないのか! 仮にそうだとしてもカジノは未成年者禁止のはずだろう!? さては貴様か! 貴様が連れてきたんだな魔人め! こんないたいけなぺたんこ幼女にこんなコスプレをさせるだなんて、とんだド変態ロリコン野郎だな! そんな連中を野放しにしているとは、やはり商業国家国王の吸血鬼は愚かの極みよ!」
──ブチッ。
何か、キレてはいけないものがキレる音が聞こえた気がして……シルヴィオは恐る恐るエヌラスとブランに視線を向けた。
二人が吸血鬼に歩を進めている。手をかざすと──そこにはシェアクリスタルが浮かんだ。
「
「
エヌラスが、ブラッドソウルへと──。
ブランが、ホワイトハートへと──。
それは、死刑宣告に他ならない無言の判決だった。
「ぶっ殺す」
「ぶっ潰す」
人間、感情が振り切れると一周回って表情が消えるものだ。二人の威圧感に気圧されて、黒いローブ姿の神格候補はたじろいでいる。
戦斧を突きつけられ、偃月刀を突きつけられて、銀の篭手を構えられて。逃げ場はなかった。
「……あれ、もしかして私、詰んだ?」
合掌。神格候補は逃げようとする算段をつけるが、その目論見はシルヴィオによってことごとくが阻まれた。逃亡に失敗し、ならばと応戦しようとするも、ブラッドソウルのクトゥグア&イタクァによる容赦ない銃撃を前にして手も足も出ない。その合間にホワイトハートの戦斧による強烈な殴打、そしてハードブレイクを打ち込まれてアクア・エデンの道路に転がされる。
トドメと言わんばかりにエヌラスが
「止めるな、爺さん。もうちょい焼く」
「アタシももう一発くらい殴らないと気が済まねぇ!」
「もう虫の息だぞ」
「はんっ。人間には骨が何百本もあるんだ、一本くらいがなんだってんだ!」
「ブラン。人間の骨の数は215本だ。十本くらいへし折っちまえ」
「よっしゃ」
「待て待て待て、頼むから落ち着いてくれ」
最近の若いのは血の気が多くていけない。瓦礫の下から這いつくばって逃げようとする神格候補の足に、シルヴィオは銀の短剣を撃ち出した。コンクリートに縫いつけられた相手がうめき声を挙げている。
「なんで止めんだよ」
「良いか。今、ここでアイツを浄化した場合。誰がここの損害賠償を請求されると思う?」
「俺だ」
ブラッドソウルが即答した。もちろん請求されたところで一銭も払う気などない。九龍アマルガム国王にツケておく。
「分かっているのなら何故殺そうとする」
「アイツは俺を怒らせた」
「アタシも以下同文だ」
「短気は損気と知らんのか、まったく……」
「そういう爺さんはどうなんだよ。吸血鬼に慈悲はないと言っておきながら生かすつもりか?」
「そんなつもりなど毛頭ない。然るべき処置をしてから葬り去るつもりだ」
落ち着いているが、やはりそこに慈悲などない。シルヴィオは神格候補の吸血鬼の首根っこを掴み、片手で持ち上げた。ミシミシと頭蓋骨が軋みをあげている。肉体の損傷は致命傷ではない限り再生するが、銀の短剣で貫かれた両足だけは再生していなかった。
「ぎ、貴様ら……! こんなことをして、ただで済むと思うなよ……」
「我らの生き残りが、必ずや報復に来るか? ふん、同じ言葉を何度聞いたことか」
信仰の力を乗せた戦斧、超魔術火力による暴威、それらであっても致命傷には至らないレベルにまで防御されている。伊達に年季のある吸血鬼ではないらしいが、逆にどれだけの歳月を重ねてもたった一つの弱点だけは克服には至らない。それこそが、水銀だった。例えどれだけ自らの身体を蝕もうとも、シルヴィオは吸血鬼殺しに特化したその武器を手放すことはしない。
「知っているか? ヴァンパイアハンターと貴様ら吸血鬼とでは、意味の違う言葉を」
「なん、だ……」
「今夜は月が綺麗だな──」
世間的には、愛している。しかし人狼局ではその言葉の意味が違う。吸血鬼に向けるそれは──お前を、今夜殺すという宣言になる。背筋が凍るような思いで神格候補は歯を食い縛った。
「まだ、殺さんよ」
「どうするつもりだ……!」
「なぁに。緑竜会の関係者とあれば当然。九龍アマルガム行きだ」
「ヒェ……! 頼む、頼むからそれだけはやめてくれ!!」
「ははは、慈悲はない。ほら行くぞ、吸血鬼」
「いっそ私を殺せぇぇぇぇぇぇっ!!」
神格候補の吸血鬼が悲痛な叫びを挙げる。しかし、シルヴィオはまったく聞く耳を持たずに引きずって去っていった。
事の顛末をユノスダス教会、ユウコが手元を見ながらエヌラスとブランの話に耳を傾ける。
「──と、まぁそういうわけだ」
「なるほどねー。そうだったんだ。事件は解決、一件落着ってことで。ありがとね、エヌラス。ブランちゃんも」
「どういたしまして。それにしても、今回は珍しい体験が出来たわ」
「エヌラスはこの後……」
「ゲイムギョウ界に戻る予定だ。だけど、その前にひとつだけ用事が残ってる」
「ん、なんかある? 私手伝うよ?」
「助かる。ちょうど頼もうと思ってたところだ」
「何を頼もうと思ってたの?」
「いやぁ、その……ちょっと、料理教えてくれねぇかな……と」
エヌラスの言葉に、ユウコが手にしていたボールペンを握り潰した。