超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ミリオンアーサーに促されて、エヌラス達は教会に帰ってきた。それからも四女神がゲームで対戦をするのを眺めていたり、混ぜてもらって白熱したりと、夕飯までの間遊び尽くす。
日が傾いてから、ノワール達は自分たちの国に戻っていった。
コンパもそれから夕飯の用意に取り掛かり、ネプテューヌだけはネプギアと一緒に協力してゲームに夢中になっている。エヌラスはアイエフと共にイストワールにプラネテューヌの近況に耳を傾けていた。ある程度情報をまとめてから、エヌラスが会話を切り出す。
「イストワール、質問。いいか?」
「はい、かまいません。何でしょうか」
「プルルートのことなんだが……今、どうしているとか、聞いてないか」
R18アイランドから戻ってくるなり、慌てて自分の次元に帰っていった。それきり音信不通。こちらから接触しようにも、エヌラスはプルルートの元の世界の事を全く知らない。それどころではなかったというのもある。しかし、ようやく状況が落ち着いてきた今なら会いに行きたいと考えていた。
エヌラスの質問に、イストワールは首を横に振る。
「いえ、プルルートさんとはあれから……」
「そうか……なら、最後に何か聞いてないか? 帰る時に」
「あちらの次元の私から聞いたのは、とにかく緊急事態なのでみっか以内に帰ってきて下さい。ということだけでしたので」
「イストワール様。プルルート様から、それきり連絡がないというのも気になりませんか?」
「アイエフさんの言う通りです。あちらの次元の私とも、連絡が中々繋がりませんし……」
「ちょっと待った」
「? どうかしましたか?」
さらっと聞き流していたが、エヌラスが眉を寄せていた。
「“あちらの次元の私”ってなんだ。イストワールってそんなたくさんいるものなのか?」
「はい、そうですが……?」
(まぁネプテューヌも別次元にいるくらいだし、並行世界とかパラレルワールド的なのがあっておかしくないのか……? いやおかしいのは俺か? むしろなんで今までそんな世界線にたどり着かなかったんだ? そっちの方が奇跡的じゃねぇの?)
「難しい顔をして考えても仕方ないわよ、エヌラス」
「そだな……とにかく。プルルートに会いに行こうと思ってるんだ」
「そうですか。それなら、あちらの次元と連絡を取ってみます。みっかくらい掛かりますが、そこはご了承くださいね」
「ああ、もちろんだ。いくらでも待つ」
「向こうの次元とのパスがご用意できたら、報告します。では、これくらいにしておきましょう」
リビングルームに戻ると、ネプテューヌとミリオンアーサーが協力アクションでステージのギミックを解いている最中だった。ネプギアはミニちゃんの設定をNギアでいじっているようで、それをチーカマが横から眺めている。人差し指で突くと、前腕部を持ち上げて威嚇していた。
「ちゃんと動くのね、ていてい」
《キュキュー、フシャー》
「えっとぉ、ここの設定を変えると……あ、メモリとか記憶容量とか増設できるんだ。明日電気屋さんに行って買ってこよーっと」
和やかな空間を素通りして、エヌラスは夕飯の支度をしているコンパのもとへ顔を覗かせる。空腹に響く美味しそうな匂いがキッチンに漂っていた。
「あ、えぬえぬ。まだ料理中ですよ、座って待っててくださいですぅ」
「コンパ。ちょっと、頼みがあるんだけどいいか?」
「はいです?」
「そのー……ネプテューヌのプリン、俺が作ってもいいか?」
「…………はい、ですぅ?」
素っ頓狂な声をあげて、コンパは頷く。いまいち言葉の意味を理解していないようにも思えた。
『いただきまーす』
食卓をみんなで囲み、コンパ特製の夕飯に手をつける。いつもより気合の入った献立でテーブルが埋められていた。
「んん~、おいひぃ~!」
「ねぷねぷが喜んでくれてよかったですぅ」
「そうね。今日はいつもより美味しく感じるわ。もちろん、いつも美味しいんだけど」
「あいちゃんもありがとです。えぬえぬ、どうですか?」
「おいひぃ、もぐもぐ」
「エヌラスさん。口の中にご飯を入れたまま喋るのはお行儀が悪いですよ」
「むぐもぐ……すいません」
イストワールに怒られて頭を下げながらも、エヌラスはスプーンを止めない。
「こうして食卓をみんなで囲んで賑やかだと、ブリテンに戻る日に恋しくなってしまうな」
「そっか。ミリアサちゃんはいつか自分の国に戻らないといけないんだもんね」
「騎士探しの旅もずっと続けていられるわけではない。もっとも、エヌラスがついてきくれるなら万事解決するんだが。ちらっちらっ」
「無理を言うな、俺だってそこまで手が回らない。他を当たってくれ」
「残念だ。まーエヌラスが美少女だったら何が何でも連れて行くつもりだったけどな、私は!」
それはない。絶対にない。美少女とか寝言を言うな。エヌラスはオニオンスープを一口。
「エヌラスが……」
「……美少女?」
「お前ら、何か変なこと考えてないか?」
「い、いやぁ~。さすがにそれはねぇ。ちょっと見てみたい気もするけど」
誰が美少女になどなるものか。そんなことを考えながら、チキンナゲットに伸ばしたフォークが横から伸びるフォークによって遮られた。その視線の先、ミリオンアーサーと火花を散らす。
「むっ……」
「アーサー、俺が先だ」
「エヌラス。王への献上と見て、ここはひとつ譲ってはくれないか?」
「ならば偉大なるアーサー王につきましては、労いのひとつとして譲ってはいただけまいか」
「むむむ……」
「ぐぬぬ……」
「喧嘩しちゃうようなチキンナゲットはわたしが美味しくいただきまーす、ぱくっ」
『あー!』
「もぐもぐ。うん、美味しい。ごちそうさま♪」
チーカマがその隙に最後のひとつを胃袋の中へと収めたことにより、二人の間に終戦が訪れた。
『ごちそうさまでしたー』
「はぁい、お粗末様ですぅ。それじゃあ、食器片付けるです」
「俺も手伝うぞ、コンパ」
「ありがとですぅ。そうだ、ねぷねぷ」
「ん? なになに、どうしたのコンパー?」
「デザートのプリン、楽しみにしてるですよ」
「もっちろーん! まだかなまだかな~」
大好物のプリンを心待ちにして足をブラブラと揺らすネプテューヌに、コンパがニコニコと笑っている。口をへの字に曲げて、食器を片付けていたエヌラスが落ち着かない様子でキッチンへと消えた。その後にコンパも続いて洗い始める。
「えぬえぬ、ファイトですぅ」
「不安だな……ユウコと一緒の時は上手くいったんだが」
「大丈夫です。ねぷねぷ、きっと喜んでくれるですよ」
「そうだといいんだけどなぁ……」
エヌラスが冷蔵庫の中からプリンを取り出して、ネプギア達に配っていく。
「待ってましたー! プッリン♪ プッリン♪」
「…………」
「んもー、心待ちにしてたんだからここでお預けは無し! こうなったら奪い取ってやるもんね、てやー!」
プリンを渡すか迷っていたエヌラスに飛びかかるネプテューヌ。しかし、それを軽々と避ける姿に頬を膨らませていた。
「もー、おこだよ! 激おこだよ! 流石にプリン関係だと、いくら寛大なわたしでも怒るんだからね、エヌラス!」
「わかってるっつの。……ほら」
「わーい♪ ネプギアも一緒に食べよー!」
「うん! あれ? エヌラスさんは食べないんですか?」
「いや、俺はいらん」
「そうですか……もしよかったら、一口」
「遠慮しとく。しばらくプリンは食いたくない」
「いっただっきまーす♪ あ~ん……」
ネプテューヌがプリンを一口食べると、微妙な表情をする。隣に座ったネプギアは舌鼓を打っていた。
「美味しいね、お姉ちゃん」
「うーん……? ネプギア、そっちの一口貰ってもいい?」
「いいよ。はい、あーん」
「あーん。もぐもぐ──ん~、そうだよね、やっぱりプリンってこういう味だよねぇ」
「どうかしたの?」
「なんかいつもと味が違うっていうか……」
「やっぱ失敗したか……」
ポツリと呟き、エヌラスがネプテューヌの手からスプーンを奪うとプリンを一口食べる。そしてやはり微妙な顔をした。
「替えのやつ、持ってくるか?」
「エヌラス、なんか知ってるの? 変なの入れてないよね?」
「あー……ネプテューヌのだけ、俺の手作りだったんだが……」
「ねぷっ!? これ、エヌラスが作ったの!? 料理スキル皆無、キッチンが壊滅するって噂の家事スキルだったのに!?」
「その噂流したやつぜってぇ許さねぇ。無理して食わなくていいぞ」
「──ううん、わたしはこれでいいよ。せっかく作ってくれたんだもん。味は微妙だけど」
「悪かったな……」
味は薄いし、プリンの柔らかさも微妙だけど。
「うーん、プリンソムリエのわたしとしては、あんまり評価できないかなぁ」
「ユウコに作り方教えてもらったんだが、うまくいかないもんだ」
「もしかして、エヌラス……わたしの為にわざわざ作ってくれたの?」
「そうだよ、悪いか。本当は美味しいって言ってもらいたかったんだけど、ちょっと失敗した。ごめんな、ネプテューヌ」
珍しく素直に謝るエヌラスに、ネプテューヌは笑顔で首を横に振った。
「わたしの為に頑張ってくれたんだから、気にしてないよ。それより、エヌラスも一緒にプリン食べよう?」
「遠慮する。散々作って食ってきたから、しばらく食いたくないんだよ」
ユノスダス教会でアホみたいなトライアンドエラーを繰り返して、出来上がる山のような失敗作のプリンを全部平らげた。それにはユウコも苦笑して「キミってほんと料理の才能だけは死んでるよね。ゾンビレベル」と言っていた。正直泣きそうだったし投げ出そうとも思ったが、せめてプリンだけでも作れるように一昼夜で作り方だけは覚えている。
その結果が──なんとも微妙な出来だ。
「プリン食べて幸せそうにしてるお前のことを見てるだけで、腹いっぱいだ」
「プリンと甘い物は別腹だもんねー、はむ」
スプーンで掬い、下のカラメルソースと一緒に口に入れる。なんとも言えない苦味とプリンらしからぬ味にネプテューヌは苦笑した。
「うへぇ、苦い……エヌラス」
「なんだよ、今ちょっと泣きそうなんだ……」
「ありがとね」
「……こちらこそ」
屈託のない笑みを見せて、プリンを食べ続けるネプテューヌにエヌラスは視線を逸らす。
美味しい、とは言ってもらえなかったけれど──見たかった笑顔がそこにはあった。それだけでエヌラスは満足だった。自然と、頬が緩む。
その横顔を見ていたネプテューヌがスプーンを咥えて固まっていた。
「なんだよ、ネプテューヌ」
「エヌラスの笑顔、久しぶりに見たような気がして。えへへ、ごちそうさま♪」
「……どういたしまして」
気恥ずかしくなってエヌラスは視線を他の場所に移す。だが、そこにはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるミリオンアーサーとチーカマ、そしてアイエフがプリンを食べていた。
「うーむ、今日のプリンは一段と甘い気がするなぁチーカマ? にやにや」
「そーねーなんででしょうねー? なんでかなー? にやにや」
「甘いものは嫌いじゃないけど、今日のはちょっと甘すぎる気がするわねー。ニヤニヤ」
「も、もー三人共! なんだかわたしまで恥ずかしくなってきたじゃーん! エヌラスも何か言ってよー!」
「しにたい……!」
両手で顔を覆ってエヌラスが天井を仰ぐ。
そんな二人の様子を隣で眺めていたネプギアの隣に、ミニちゃんが昇ってきた。
「えへへ、お姉ちゃんの喜ぶ顔を見て、わたしもなんだか嬉しくなってきちゃった」
《キューイー?》
「エヌラスさん。わたしも一口食べてみていいですか?」
「あんまり美味しくないよ、ネプギア」
「ハッキリ言うな」
「次作る時は、わたしが美味しいって言うプリンを作ってね」
「頑張るよ、お前の笑顔の為に」
「あ、あはは……なんだかわたしまでお腹いっぱいになってきちゃった……」
ネプテューヌから分けてもらったプリンの味は微妙だったが、ネプギアの頬が綻ぶ。
こんな風に、みんなで笑っていられる毎日が続けばいいのに──そう願いながら。