超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
夕飯の買い出しにエヌラスとソラがプラネ商店街へと駆り出されている。そこにはプルルートもガイド役として同伴していた。ちゃんとエヌラスと手を繋いで歩く姿は通報されかねない絵面だがそこはそれ。市民の皆様のご協力に感謝いたします。
「向こうに比べると少し古い感じだな」
「なんていうか、一世代……二世代くらい前かな。そんな感じがする」
「っていうかなんでてめーも来てんだよクソメガネ」
「悪かったな、デートの邪魔をして。僕だって好きで邪魔してるわけじゃないんだよ」
「あたしは気にしてないよぉ~?」
「デート、ねぇ……どうせ一緒に出かけるなら、もう少しのんびりとしたデートがしたいな」
「はいはいノロケノロケ。勘弁してくれ」
ソラが呆れて肩をすくめる。プルルートはその言葉に嬉しそうにしていた。
「それじゃあ今度、一緒にピクニックに行こうよぉ~♪ 楽しみ~」
「……色々と事件が起きてるって自覚ある? この女神様」
「とはいっても、その対策がどうのこうのは後回しだ。まずは情報収集。それと」
「生活収入の安定。早急に解決させておかないとね。僕個人の問題もあるし」
シュミクラムユニットの不具合。それは、電脳国家インタースカイのマザーコンピューターとの接続不備。次元座標をもとに、その端末であるソラの手元からアプリケーションを起動させる為のタブレットが機能するはずだった。しかし、この次元に来た直後からそのシュミクラムユニットの展開に必要な通信が切断されている。それによってソラ自身の戦闘能力は大幅に減少していた。
一番ショックを受けているのは当人である。青いカードを召喚し、そこからインタースカイの武器庫へアクセスを試みるも、やはり失敗していた。肩を落としている。
「今、僕が使えるのは個人携行火器。ハンドガンとナイフくらいか……」
「大丈夫かよ、そんなんで」
「こんなんでも一国の王様だからね、なんとかするしかないよ」
「大変そう~」
普段は情報処理能力に任せた物量攻撃。そのせいか、個人での戦闘能力は決して高くない。
「僕は接続も回復させないといけないからね、それまでは戦力外と思ってくれよ?」
「結局、俺一人ってことか」
「そこまでは言わないよ。出来る範囲で手伝いはするさ。例えば聞き込みとか。君はそういうの苦手だろうし」
「バカ言うな、大得意だ」
「ほんとに?」
「胸ぐら掴み上げて武器を片手に問い詰める」
「それは脅迫っていうんだよ」
「エヌラスがこわい~」
いつものことだ。
ユウコからのおつかいを済ませて、教会に戻る。するとすぐに夕飯の支度に取り掛かり、キッチンは独占された。それから、アイエフとコンパもこちらの次元にいることが確認できたのだが──小さい。まだ幼かった。
ソラが二人の面倒を見ている間に、エヌラスはプルルートに部屋へ連れ込まれる。
ファンシーな寝室には、ぬいぐるみが山程並べられていた。そのどれもが見覚えのある顔だったり、マスコットキャラクターだったりと色とりどりだ。
「これぇ、全部あたしの手作りなんだ~。どやぁ~」
「全部? すごいな」
「そうでしょ~?」
「これ、プルルートのぬいぐるみか。へー。ぽふぽふ」
エヌラスが手にしたのは、プルルートが自分をモチーフにしたデフォルメのぬいぐるみ。その頭を手で軽く叩き、撫でる。
「良くできてるな。手触りもいいし。クッション性も高いし。サイズもちょうどいい。それに」
「それに~?」
「かわいい」
「えへへ~……もっと褒めて~」
「いやぁ、すげぇかわいいなこれ。一個欲しいくらいだ」
むにむにとほっぺたを撫で回して、ふと──スカートが気になった。プルルートが嬉しそうにしているのを盗み見てから、エヌラスは捲ってみる。無地の白。うん、そりゃそうか。
何事も無かったかのように向き直る。
「プル──」
「……じ~」
バッチリ見られてた。頬に人差し指を当てて、とても怪しい笑みを浮かべている。冷や汗が止まらない。
「……いや、これはな? 違うんだよ、プルルート。ちょっとした好奇心というか……な?」
「エヌラスの、えっち~……」
「すいませんでした……もうしません……」
「言ってくれたらぁ~……見せてあげても、いいのにぃ~……」
前垂をつまんで、持ち上げてみせる。見えそうで見えない細い太ももに視線を奪われながらもエヌラスは顔を逸らした。
「いや、その、ほんとそういうつもりじゃなくて……」
「あたしがいるのに~……ぬいぐるみの方がいいんだぁ~、ぐすん」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、いいよねぇ~?」
頬を赤らめながら、プルルートがスカートをたくし上げる。ぬいぐるみと同じく無地の白。
「……」
「ど~ぉ~?」
間延びした声で問いかけられてもエヌラスは答えることが出来なかった。
「その、綺麗──だと思う……」
「見るだけでぇ、いいのぉ~……」
「プルルート。このあとメシだから。もう、隠してくれ」
「はぁ~い」
スカートを下ろすと、耳打ちする。
「エヌラスのえっちぃ~……」
「……否定の言葉がございません」
視線を泳がせていると、ファンシーな部屋のぬいぐるみ山脈にひとつだけ異彩を放つものがあった。頭から足まで真っ黒のぬいぐるみは、赤い左目になにか縫った跡がある。だが、何故かやたらとボロボロなのが気にかかるが、それは後回しにして。
「これって……俺か?」
「うん、そうだよぉ~。でもボロボロになっちゃったから、またチクチクしないと~。えへへ、エヌラスに針をチクチクするの、すぅっごくたのしみぃ~~」
「なんでこんなにボロボロなんだ? いや、俺らしいんだけど」
明らかに、これだけ扱いが雑なような気がしてならない。頭から綿が出ていたり、左腕が少し取れかかっていたり、脚が緩かったりしている。
「う~んとねぇ~、あたしのお気に入りだったんだぁ~。ずっと使ってたら、ボロボロになっちゃった~。ごめんねぇ~」
「い、いや。別にいいんだけどな……」
「……でもエヌラスが一緒だから、こっちは大事にするねぇ~」
「おーっと俺がボロボロにされる番か?」
「そんなことしないよぉ~」
「……プルルートになら、されてもいいけどな」
──ポツリと呟いたこの一言が。後にあのようなことになるとは思いもしなかった。
「それってぇ──」
「ぷるちゃーん、エヌラスー、ご飯できたよー。何してんの、ぬいぐるみ持って?」
「ん、ああ。今行く」
「はぁ~い」
それぞれ手にしていたぬいぐるみを置いて、リビングへ。
そこではピーシェに馬乗りにされているソラがいた。アイエフとコンパも便乗して倒れている相手に座り込んでいる。
「ぴぃの勝ちー!」
「かちですぅ」
「ちょっと目を離した隙にそんな悪さしちゃうの子にはー。こうだー、うりゃうりゃー!」
「うきゃー!」
ユウコがピーシェを持ち上げて頬ずりし、コンパとアイエフも捕まえると同様にぐりぐりと撫で回す。すっかり打ち解けているようだが──ソラへのフォローは一切なし。
「大丈夫か、ソラ」
「見ての通りだよ。子供って強いね……」
「いや、お前が弱いだけだと思うが」
「ハッキリ言うなよ! ちょっと傷つくぞ僕!」
仲良くご飯を食べて、ユウコが食器を片付ける。その後に続くアイエフとコンパにピーシェ。エヌラスとソラは昼間の戦闘の疲れが残っているからか、食後の休憩。日も暮れている。土地勘のない旅行先で夜中に出歩くほど二人もバカではない。明日のスケジュールを話し合っていた。
「二人とも~、飲み物持ってきたよぉ~」
「お、ありがとな。プルルート」
「ありがとうございます」
「さて。それじゃ明日の予定だが」
「エヌラスはあたしとピクニックに行くんだもんねぇ~。たのしみだなぁ~」
「明日? いくらなんでも性急すぎないか。もう少し後でも」
「むぅ~」
「気持ちはわかるけど。俺達まだこっちでやることたくさんあるんだ」
「そうそう。例のリギホウテンについての調査、パンドラ・イルバートに関する情報収集。それとギルドでお金も稼がないといけないので。いつまでも教会でお世話になるのも悪いですし」
「あたしはずっといてくれてもいいけどぉ~……」
「そう言われると厚意に甘えたくなるな」
「こら」
ソラに注意されて「冗談だ」と返すエヌラスだが、あぐらをかいていた足の隙間にプルルートが座り込んだ。
「今日はやけに甘えてくるな」
「だってぇ、嬉しいんだもん~。ちょっとくらい~……」
「ダメとは言ってない。俺もお前に会いたくてこっちに来たんだから」
「えへ~」
「……元気でよかったよ、ほんとに」
すっぽりと収まる小さな身体を抱きしめてエヌラスが頭を乗せると、腕を抱き寄せて幸せそうに満面の笑みを浮かべていた。
「ま、向こうじゃ大変だったもんな。邪神の襲撃とかで色々と」
「思い出させんな。せっかく人がプルルートと和んでるのに」
「瀕死の重傷負ったのに戦い続けたの、君だろうに。なーにを今更」
「エヌラス、死んじゃやだぁ~!」
「落ち着けプルルート。怪我はもう治ってる。治ってるから」
「傷とかぁ縫わなくてもだいじょうぶ~?」
「完治してるんでマジ勘弁願います」
麻酔抜きで縫合手術なんてされてたまるか。エヌラスは心配してくるプルルートから見え隠れしている本性に背筋が凍る思いだった。