超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──プラネテューヌで世話になった翌日。
エヌラスとソラはプルルートの案内でギルドに足を運んでいた。基本的なクエストの受注方法などは超次元と変わりないらしい。だが、クエストランクに応じた仕事しか受注できないことからしばらくは簡単な仕事ばかりになることに、エヌラスが不満そうにしていた。
「うーん、もっとこう一攫千金なのはないか」
「無いよ。地道にコツコツ働け」
「……例えば、株とか」
「やめろ?」
「金鉱採掘とか」
「やめような?」
「やらねぇよ、冗談だ」
「ホントか……? 神に誓って?」
「女神に誓って」
「誓われちゃったぁ~」
隙あらば惚気ようとする二人にソラが肩をすくめる。とりあえず、近場のクエストを数件まとめて受注してギルドを後にした。
「リギホウテンって国は、どのへんにあるんだ?」
「え~っとねぇ、あの辺? だったかなぁ~……向こう、だったような気もするしぃ~」
「そ、そうか……プルルートもよくわかってないんだな?」
「そんなことないよ~!」
ぷんすかと怒るプルルートに、エヌラスとソラが和んでいたのも束の間。プラネテューヌの通りで口論の声が聞こえてきた。
何事かと足を向けてみれば、荷物を持った男性と、それを引き止めようとする男性が今にも殴り合いそうな剣幕で怒鳴り合っている。
「お前って言うやつは! 言っても聞いてくれないのか!」
「悪いかよ! 俺だってお前がそんなやつだと思わなかった!」
「喧嘩かな?」
「にしちゃ、大荷物だな。なぁ、何が原因なんだ、あの喧嘩」
「例のリギホウテンへの移住希望者だよ。それを止めようとしてるみたいなんだ」
「へぇ……? そりゃどうも」
「エヌラス、どうするつもりだ」
「なぁに、ちょいと“お話し”してくる」
指を鳴らし、肩を回すエヌラスに対して、ソラはとても嫌な予感がした。そしてそれは間もなく実行される。こともあろうに、二人の間に割って入って胸ぐらを掴み上げたと思ったら片手で成人男性を持ち上げてみせた。
「ぐぇ!?」
「ぎゃ!? な、なんだアンタ!?」
「往来の邪魔だ、喧嘩両成敗。リギホウテンって国への移住希望はお前か」
「そ、そうだよ! 悪いかよ! 離せ!」
「いやぁ、別に引き止めるつもりはねぇよ。ただ、俺もその国にちょっと用事があるんだ。案内してくれるってなら、離してやってもいいが?」
「ひ、ひぇぇ……!」
凶悪な笑みを浮かべるエヌラスに、移住希望していた男性は何度も首を縦に振る。すぐに開放されて、引き止めていた男性の肩をソラが叩いた。
「お疲れ様。災難だったね」
「あんたは……?」
「非常に不本意なんだけど、いやどうして自分でもそう言わなきゃならないのかとっても不満なんだけれどもね? アレの知り合いって名乗りたくないけども、友達なんだ。ごめんよ。よかったらリギホウテンについて話してもらえないかな」
「まさか、アンタ等も移住希望者か?」
「違うよ。ちょっと、最近有名みたいだからね。どんな国なのかと思って」
「なんでも、モンスターに怯えなくていい国らしいけど。俺はそんなの信じないね。女神様に守られるのが一番だ」
ちらりと、ソラはプルルートを横目で見てみると、嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「えへへぇ、ありがとう~」
「そうなると、二手に別れた方がいいかな。エヌラス」
「あん、なんだ?」
「僕がそのリギホウテンにその人と行くから、解放してあげて。頼むから。君はプルルートさんとクエストをこなせばいいだろう?」
「お前一人で大丈夫かよ」
「君を行かせて戦争起こされるよりマシだと思うよ」
「ちげぇねぇ。そっちは任せた」
「任された。すいませんね、僕の連れが」
解放された移住希望者を何度も慰めながらソラはプラネテューヌを後にしてリギホウテンへと向かう。
エヌラスはプルルートと一緒に簡単なクエストをこなすことにした。
リギホウテン──第五の国家として建国されたその国の指導者は、パンドラ・イルバード。ソラはその情報を再三確認して、移住希望の男性と共に入国審査を受けていた。驚くことに、その国ではモンスターを労働力の一環として組み込んでいる。なるほど、と。最初こそ面食らった思いだがすぐに慣れた。襲ってこないならばこちらから手を出す理由もない。
外観は、スチームパンク。蒸気を主とした文化のようだ。重苦しい扉と跳ね橋を抜けて、国内に足を踏み入れる事に成功した移住希望者と、観光客という名目のソラ。
外敵からの侵入を妨げる防壁は、さながら要塞のようだった。中に入ってしまえば、そうでもないらしい。モンスター達が市民と一緒になって働いている。スライヌ、ひよこ虫、ヤンキーキャットに、リザードマン。ちらりとすれ違っただけでも多種多様なエネミーがいた。しかし、敵意のようなものは一切感じられない。
「す、すいません。リギホウテンまでの護衛までも引き受けてもらって」
「いえ、お気になさらず。僕としても気になる国だったので。それに連れが迷惑をかけたのでそのお詫びです」
ソラはメガネを直しながら、改めてリギホウテンを見渡す。国内は平和そのもの。争いとは無縁なように感じられた。ただ、蒸気文化が主体なせいで服が湿気に悩まされるのだけが気になるくらいだろう。
ソラと男性の二人で歩いていると、甲冑を着込んだ警備兵達が歩み寄ってきた。
「失礼いたします。リギホウテンに移住希望者の方は」
「は、はい! 私です!」
「パンドラ様が、面会を希望されております。どうされますか」
(国の指導者が直々に面会を?)
「もちろんです! 願ってもないことです!」
「よろしい。では、こちらへ。……アナタは?」
「僕は観光客で、彼の付き添いです。パンドラ・イルバード様との面会は、自分も同行可能でしょうか?」
「申し訳ありませんが、国内移住者でないと許可できません」
「そうですか。すいません」
ソラは、頭を下げて会釈すると背中を向けた警備兵に向けてメガネを調整して、解析する。
──中身は空洞だった。そして、その甲冑も真鍮であることを確認した。
(……なるほどね。こりゃあ一筋縄じゃいきそうにない)
一人となったことで自由を得たソラは、リギホウテンの地理を確認すると同時に何か手がかりのようなものはないかと散策する。とはいえ、観光目的であって長居は無用だ。
案内板を見て、確認できたのはこの国が大きく別けて四つのエリアが存在すること。
東西南北。それは──プラネテューヌ、ルウィー、ラステイション、リーンボックス。その四つにそれぞれ向けられたエリア。ソラはプラネテューヌ区画に居た。
(国内への居住者は生まれの国によって別けられる、と。ただそれはあくまでも住まいの問題であって他に理由はない、か……)
百聞は一見に如かず。ソラは他の区域にも足を運ぶことにした。
──リギホウテン・謁見の間
国内への移住希望者であったプラネテューヌ市民の男性。その両脇にはリギホウテン教会職員である甲冑騎士が並び立っている。
玉座に座り込んでいたのは、人ではなかった。女神ですらないという話は耳にしていた。だが、目に映るのは人の姿をした結晶体のような存在。
それこそが、パンドラ・イルバードに他ならない。クリスタルの輝きを全身から放つまばゆい存在だった。
《……あなたが、リギホウテンへの移住希望者ですか》
「は、はい!」
《生まれはプラネテューヌである、と。間違いありませんか》
「間違いありません」
《生まれ育った国を捨て、私の国へと遠路はるばるようこそおいでくださりました。私は、あなたを歓迎しましょう。しかし──》
「?」
《しかしながら、プラネテューヌからの移民が、少々多くて。居住地の拡大が必要になります。今しばらくは、他のエリアでの滞在となりますが、そこはどうかご容赦を》
「いえ、構いません! ありがとうございます!」
《いいえ、こちらこそ。誰か、彼を案内してあげてくれないだろうか》
「では、自分が。こちらへどうぞ」
甲冑騎士に案内されて、居住希望の男性は空きのあるラステイション方面へと送り出されることとなった。
「パンドラ様」
《どうかしたかね》
「はっ。勢力拡大に伴う居住区不足が最近目立つようになってまいりました。それに伴う国民の不満も」
《早急に対応しよう》
特にプラネテューヌ方面での居住地不足は深刻な問題とされている。パンドラもまた、それには頭を悩ませていた。そこへ、甲冑騎士のひとりが耳打ちする。
「それとひとつ、耳に入れたいことがございます」
《話せ》
「昨日のモンスターの大量発生。四女神が掃討されたようです。が……イレギュラーが発生しております」
《イレギュラー……》
「四女神の協力者がいる、と。市民から報告が」
《……》
「どうされますか」
《私が直接赴こう》
「はっ? いや、ですが……」
《私が不在の間は、彼女に任せる。何かあれば、そちらへ》
玉座から立ち上がり、パンドラが謁見の間を後にした。
リギホウテン教会は清潔感のある白でまとめられたゴシック調の王城。もはやこの国は要塞と化していた。労働力でもあるモンスター達は一声かければそのまま戦力へと転じる。教会を守る職員である甲冑騎士──“教会騎士”達が主力となっていた。
パンドラが、教会敷地内の菜園に顔を見せる。青々とした葉の波の中、揺れるカゴにナスを入れている女性へと声を掛けた。
《マジェコンヌ──少々、よろしいだろうか?》
「ん? なんだ、貴様か。私はナスの収穫で忙しい。手短にな」
《私は今しばらく席を外す。その間、何かあれば任せたい。よろしいか?》
「はん。私に任せるよりもあの小娘に任せればいいだろうに」
《いいや。いいや。彼女は特別だ。アナタに任せたい》
「ふん。まぁいいだろう。それよりもどうだ、このナスは? 私の自信作だ」
《すまないが、私は食べる口がないもので。しかしながら、色合い、ツヤといい。さぞ味も良いことだろう。ぜひ市民たちに振る舞ってもらいたい》
手を差し出すパンドラに、マジェコンヌは鼻を鳴らす。大きなツバの麦わら帽子を外して、木箱の上に置いていた魔女の帽子をかぶるとナスが詰まったカゴを持って横を抜ける。
「私も暇ではないのだ。さっさと済ませてこい、パンドラ・イルバード」
《あなたに感謝を。マジェコンヌ》