超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──エヌラスとプルルートは採取クエストと討伐クエストを同時に済ませて、プラネテューヌへと戻ってきた。その足でギルドへ向かい、クエストの達成報告を済ませて報酬を受け取る。
「うんうん、労働にはそれに見合う対価ってのが支払われないとな。うんうん」
「おつかれさまでしたぁ~」
「ああ、お疲れさま。悪いな、簡単なクエストなのに付き合ってもらって」
「ぜんぜん平気だよ~」
ニコニコと満面の笑みを浮かべているプルルートと手を繋いで、教会に戻ろうとギルドを出るとなにやら騒ぎが起きていた。またか、と思いながらエヌラスは今度は無視して帰ろうとするもののプルルートが動かない。
「いかないのぉ~?」
「そう一日に何度も騒ぎに首を突っ込んでたまるか。無視」
「でもぉ、あたしは女神様だから~行ってくるね~」
「あ、プルルート……まったく、俺もずいぶん甘くなったもんだな……」
騒ぎのある方角へ向けて走り去る後ろ姿を追いかける。
人だかりの出来ている場所では、奇妙な人型の結晶体が歩いていた。それが、リギホウテンの指導者であることは人々が口にしている名前からすぐに察する。
プルルートを見つけると、歩み寄って頭を下げた。
《プラネテューヌの守護女神、アイリスハート……もとい、プルルート様。突然の来訪、申し訳ありません》
「気にしてないよぉ~」
《先日、モンスターの大量発生がプラネテューヌ方面で起きたと耳にしまして》
「うん~。大変だったんだからぁ~!」
《そちらの対処を四女神が行った、と》
「そうだよぉ~。あ、でもぉ……」
振り返り、後を追いかけてきたエヌラスに視線を向ける。
《…………》
「…………」
「エヌラスが一緒に戦ってくれたから、だいじょうぶだったんだぁ~♪ ね~」
「ああ、そうだな」
《はじめまして、私はリギホウテンの指導者。パンドラ・イルバード。あなたは》
「俺はエヌラス。訳あってプラネテューヌで世話になってる」
──互いに考えていることは同じだった。この世界の異端と呼ぶべき存在。
エヌラスはパンドラを睨みつけ、相手もまた同じように無貌の顔を向けている。手を差し出して握手を求める相手に応じた。
「ひとつ聞いてもいいか?」
《かまいません》
「不躾なようだが。お前はモンスターの一種か?」
《……わかりません。ただ、人ではないことだけは確かです》
自覚はあるらしい。しかし……エヌラスは怪訝な表情を見せる。
半無機物生命体。男でもなければ女でもない。存在そのものが奇妙だった。異端にして異聞にして異教徒。しかしながらそんなパンドラの存在を認めて仰ぐものもいることは確かだ。こうして話してみて、敵意も感じられない。穏やかな印象を受ける。
《私は、人々を導くために生を受けた、と。そう思っています》
「そのために国を?」
《はい。来るもの拒まず、去るもの追わず。私は、例えそれが人々に恐れられるモンスターであったとしても》
「……」
《不服ですか?》
「いいや、別に。お前の言っている事は至極真っ当で、納得もしている。敵意も害意も無い。こちらから手を出す理由が無い」
《そうですか》
だが──と。エヌラスは言葉を続けた。
「だが、そういうやつが一番厄介なんだ。自覚のない悪意、敵意、害意。自分が“正しい”と思い込んでいるやつがな」
《なるほど。ですがそれは、あなたもそうであると感じられますが》
「俺は、自分が正しい選択をしていると
《それは、大変失礼を。あなたが四女神の協力者と聞いたもので、どういった人物かと思いましたが……なるほど。警戒すべきでしょうね》
「はっきりと言ってくれるな」
《ええ。あなたもそうでしょう?》
「ああ。お前は安心ならない」
二人は睨み合い、緊張感が流れる。その空気に気圧されて周囲の人々も固唾を飲み込んで見守る中、ひとりだけそんな雰囲気をものともしない。
「ふたりともぉ~、喧嘩しちゃやだ~」
「…………」
《…………》
「ダメ、だからねぇ?」
『はい』
プルルートの黒い笑顔に、エヌラスとパンドラは頷いた。
《今回の目的は、四女神の協力者がどのような方かと思った次第ですので》
「そうかい。悪いな、こんな凶悪なやつで」
《いいえ。実に頼りになりそうな方で、私も安心いたしました》
「ところで──モンスター大量発生はお前の仕業か?」
《それが引き起こせるほどの力を、私は持ち合わせておりません》
「女神ブラックハートから聞いてるぞ。お前は強敵だってな」
《……あれは、ブラックハート様の早とちりです。こちらとしても不本意ながら応戦させていただきました》
「そうか。ならいいや。帰り道、気をつけてな」
《そちらこそ。それでは、プルルート様。私はこれで》
「ばいば~い」
手を振り、浮遊して移動するパンドラを見送る。エヌラスはその背中を睨みつけたままだった。
教会へと戻ってきたエヌラスとプルルートを、ユウコとピーシェ達が迎える。ソラはまだ帰ってきていないようだ。
「おかえりー、二人とも。あれ、メガネは?」
「あん? 帰ってきてねぇのかアイツ。ま、ちょいと距離があるから道草食ってんだろ」
「キミじゃあるまいし道草食べたりしないでしょ。雑草で腹の足しになるの?」
「意外と腹が膨れるんだ。特にタンポポとかチューリップとかは」
「皮肉で言ってるんだよ気づけよなに普通に食後の感想言ってるんだよ、というかそもそも食べたことあるのかい!」
「バカ言うな、大概のものは食ったことあるわ! 泥とか食ったことあるかお前!」
「あるわけないじゃん!?」
「エヌラスって、ほんとになんでも食べるんだねぇ~」
感心しているプルルートだが、海産物だけはノーサンキュー。食べられないわけではないのだがどうにも嫌な思い出があるために食指が伸びない。
「なんか連絡取れない? 電話とか」
「そうなぁ……」
言っている矢先にD-Phoneに着信。画面には非通知設定とだけ。
「もしもし? 誰だテメェ」
《もしもーし、僕だよ》
「誰だよ名乗れ」
《分かってて言ってんだな? ソラだよ。今、リギホウテンの公衆電話からかけてるんだけど》
「それで、どうした」
《こっちの方、もう少し探ってみるから今日は僕の夕飯はいらないってユウコに言っておいて。ここを攻めるってなると、相当難しいよ》
「難易度をアダルトゲイムギョウ界で例えろ」
《そうだねぇ……アゴウ以下インタースカイ以上ってところかな?》
最上級難易度は九龍アマルガム。天変地異クラス。次点、アゴウ。
「……」
《エヌラス。やれなくはねぇな、とか考えてるでしょ?》
「よくわかったなクソメガネ・オブ・ザ・メガネ」
《なんだその称号。とにかく、僕はもう少しリギホウテンに滞在してみる。なにかあったらラステイションに駆け込むからそのつもりで》
「ああ。ラステイションとルウィーの国境近くなんだったな、そこ」
《おっと、そろそろ切れる時間だ。悪いね、それじゃ》
「お前も気をつけろよ。じゃあ、またあとでな」
エヌラスが通話を終えてから一連の会話を説明する。
「そっかぁ~。ソラくん、今はリギホウテンにいるんだぁ~」
「大丈夫なの? 今は自慢のシュミクラムユニット使えないのに」
「自衛能力は高いから大丈夫だろ。アイツ仮にもアゴウで戦闘訓練受けてたし」
射撃能力だけで言えば、それこそアルシュベイトにも匹敵する。普段のお人好しからは想像も出来ないが、一時期はアゴウ軍にも籍を置いていた。
人間態の時に扱えるシュミクラムユニットはハンドガンとナイフのみ。だが、それもやはり規格外の容量を有している。ハンドガンだけで何丁持ち込んでいることやら……。エヌラスも何度かインタースカイとの接続を絶った状態のソラと交戦したことがあるが、攻め手に欠けるものの自衛能力だけは高いので、とても粘り強い。悪く言えばしぶとい。普段の物量攻撃を使いこなしているだけに隠れがちだがその性能を引き出せるだけの実力を備えているのがソラだ。
「ま、とにかく今は心配しなくても大丈夫そうだ。腹減ったし、メシにしよう」
「そうだねー。っていうか、エヌラス」
「なんだよ?」
「キミ、教会の世話になる気満々じゃない?」
「バレたか」
「あたしは全然かまわないけどぉ、ダメかなぁ~?」
「ん~……」
ユウコ、悩む。果たしてコイツをこのまま教会に置かせていいものか。いやまぁ私もぴぃちゃん目当てでこっち来たわけだし、正直な話ここに居座っちゃうのは流石にどうかなーとは思ったし? それならそれで私もこっちで手に職つけてどこかホテルとかで寝泊まりするべきなんだろうけれども。まぁちっちゃいーちゃんと話をした結果、教会で家政婦として雇ってくれそうだし? それはそれで解決しちゃうんだけど……さてコイツどーすっかなー……。
ユウコ、とても悩む。うんうん言いながら考え込む姿に、エヌラスが口を開いた。
「別に俺、野宿でも全然かまわないぞ? 慣れてるし」
「キミが慣れてても私がかまわねーんだよ!」
「そうだよぉ~! あたしもエヌラスと一緒がいい~!」
「うんとね、ぴぃも! ぴぃもえぬらーと一緒がいい!」
「え、なんで? ぴぃちゃんなんで?」
「えーとね。わかんない!」
「はぁぁぁぁぁ~…………! くっそきゃわぃいい……!」
ピーシェの無邪気な満開の笑顔に、ユウコが両手で顔を覆う。語彙力も死んでいる。エプロン姿の似合う国王、大丈夫か理性。エヌラスが心配するのをよそにユウコはかろうじて残っている理性と格闘しながらピーシェと目線を合わせる。
「だっこー!」
「あぁぁぁもうかわいいー!! ぴぃぃぃぃちゃぁぁぁぁんっ!!!」
「んきゃーー!!」
三秒で理性決壊。
「そっちの子煩悩国王は置いといて。いいのか? 面倒になって」
「うん~。せっかく来てくれたんだもん、一緒にいようよ~」
指先を合わせて、笑顔を向けてくるプルルートにエヌラスは視線を逸らした。
「……」
「嫌なのぉ……?」
「そうじゃなくて……なんていうか、嬉しいし、俺もそうしたい……」
「エヌラスの照れ屋さん~。かわいいなぁ~」
「かわいいはよしてくれ。男なんだから、そんな風に褒められたくない」
「じゃ~……ふふ……いじめたいなぁ……」
「…………そういうのは、二人きりの時にしてくれ……」
「もちろんだよぉ。えへへへぇ、たのしみにしてるね~?」
プルルートの言葉に、どこか期待してしまっている自分がいる。とはいえ、まずは食事だ。
「ユウコ、メシだけど──」
「ぐりぐりぃもふもふぅ、あぁぁぁ~もう辛坊たまらないなぁぴぃちゃん、ほんと持ち帰りたいなぁ私の子供になってくれないかなぁ籍とか移せないかなぁ!」
「くすぐったぁーい! あははははは!」
「……プルルート、メシ作るか」
「うん~。しばらく二人きりにしてあげるねぇ~」
「俺も手伝える範囲で手伝うわ……」
「ありがと~。なんだか、新婚さんみたいぃ~」
「それは俺が社会的に死ぬ。いや、死んでるのも同然だけど」
ピーシェと盛り上がっているユウコはさておき、エヌラスとプルルートは二人で夕飯の用意をすることにした。