超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──湯船に肩まで浸かり、エヌラスは今日の疲れを洗い流す。簡単なクエストとはいえ、それ相応に稼げるクレジットも少ない。だが、ソラに言われた通りに小さなことからコツコツとやらなければ。一攫千金、億万長者! ──という夢のような話は、そう上手く転がっていないのだ。
プルルートの厚意(好意?)で教会でしばらく世話になることになったが、その親切心におんぶに抱っこも気が引ける。だが一緒にいたいというのもまた自分の中にある素直な感情だ。できることならば、ずっと居たい。
(……なぁに考えてんだろうなぁ俺は)
ブクブクと顔を湯船に漬けてエヌラスはそんな考えを流そうとするが、離れなかった。
パンドラ・イルバード──人型結晶体。モンスターでもなく人間でもなかった、というのは驚きだが、それにしても奇妙な相手だ。
女神でもないのに国を建て、そこに人々が集まっているのだから。どうやって信仰を集めているのかが気にかかる。
そして、なぜモンスターを保護しているのかも。単純に労働力として? それとも戦力としてだろうか。偶発しているモンスターの大量発生の原因もまだ定かではない。
(ま、事を急ぎ過ぎか……)
その気になれば国ごと潰せる──。そんなことを考えて、脳裏を掠めるのは救えなかった遠い地獄の日々。繰り返して、繰り返して繰り返して。幾度となく滅ぼして、壊して、破壊の限りを繰り返して──この手に掛けてきた罪のない笑顔。目蓋を閉じれば浮かぶのは、大切な友達の最期。
もう二度と繰り返すものか。もう二度と過ちを繰り返すものか。二度と。そう、二度とこんな奇跡は起きないのだから。
次など許されない。これで最後だ。例え、全てを終えた最期に自分の死が待っていたとしても。
──笑顔でお別れだ。自分は女神と共に生きていけない魔人なのだから。邪神に成り損なった出来損ないだ。
だから、今だけは夢を見させてくれ。甘く蕩けてしまいそうな、悪い夢を。
(……ん?)
脱衣場から人の気配がする。エヌラスは顔を上げると、すりガラスの向こうで服を脱いでいる人影に視線を向けた。ボサボサと伸びた紫の髪に、小さな身体──カラカラと引き戸を開けてプルルートがバスタオルを巻いて入ってくる。
「プルルート?」
「えっとぉ、背中。流してほしいなぁ~♪」
「あ、はい」
最早ツッコミをする気もなかった。
プルルートの背中を流す。ボディシャンプーを付けたスポンジで優しく撫でると、くすぐったそうに身体を震わせた。
「エヌラス、くすぐったいよぉ~」
「我慢してくれ」
「うぅ~……!」
「ほら、プルルート。上手く洗えないだろ」
「だって、エヌラスの手付きがやらしいんだもん~」
「そんなにいやらしく触ってないだろうが……」
肌を傷めないようにと気を遣っているのにこの言われよう。腰まで届く長い髪の毛をかき分けながら、エヌラスはプルルートの背中にスポンジを押し当てた。くすぐったいと言われるのならもう少しだけ力を入れてみる。
「ん……」
「……」
ゴシゴシ。
「ひゃ……!」
ゴシゴシ……。
「ん、ひゃうぅ~……」
「…………」
ゴシ、ゴシ──。エヌラスの手が止まった。プルルートが肩越しに振り返ると、肩を震わせている。
「エヌラス~?」
「声、我慢してもらえないでしょうかプルルート様……!」
「だぁってぇ……」
こっちが我慢できなくなる。いや、お風呂場でそういうことをしてはいけないとわかっている。こちらの次元では節度を保って生活すると決めたのだ。固く誓ったんだ、そうそう破ってたまるものか。エヌラスは深く息を吸い込み、深呼吸を繰り返す。
「──よし」
「???」
「プルルート。ひとつだけ、約束する」
「約束?」
「ああ。俺はこっちの次元で、他の女神に手を出さない。ノワールとか、ブランとか、ベールとか……ピーシェとか」
「…………」
目を丸くして驚いているプルルートの頬が、みるみる紅潮していく。
「まぁ、その……浮気性でどうしようもない奴だけど。これくらいは約束させてくれ」
「……それってぇ……あたしだけってことぉ……?」
「迷惑か……? いや、決して変な意味じゃないんだ。もう経験済みだから、とか。ガードが緩そうとかじゃなくて──」
「あたし、ちゃんとガードしてるもん~」
あんな無防備なガードがあってたまるか。エヌラスは言葉を飲み込んだ。
「──プルルートのこと、好きだから。もちろん、ノワール達が嫌いってわけじゃないんだ。同じ顔の初対面なわけだし。そっくりさんなんて理由で向こうも手を出されたくないだろうしな」
「……エヌラス~」
「ん?」
「もう一回。好きって言ってぇ~♪」
「改まって言うの、めちゃくちゃ恥ずかしいんだからな? もう一回だけだぞ」
「うん~」
「大好きだ、プルルート」
「あたしもぉ~。えへへぇ、エヌラスのことだぁいすきぃ~♪」
「──背中、流すぞ」
プルルートの笑顔を見て胸が満たされる感覚に、つい頬が綻ぶ。
──心底、自分は女神という存在に惹かれているんだな。そんなことを他人事のように考えながらエヌラスは背中を洗い流す。
白く、小さな背中。薄っすらと浮かぶ肩甲骨。健康的な柔肌。浴場の湯気とお湯でほのかに火照った背中は色づいていた。それに、つい今しがた触れていたのだと思うと、もう少し、もう少しだけ──触れてもいいだろうかと思ってしまう。だが、触れたい一心を堪えて、エヌラスはプルルートの背中から視線を外す。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとぉ~。じゃあ、次はあたしが背中洗ってあげるねぇ~?」
「いや、実はもう一通り洗った後なんだ……」
「えぇ~? しょぼ~ん」
「また今度。頼むよ」
「その時はぁ、全身ぴっかぴかにしてあげるねぇ~」
「程々で頼む」
たわしで背中を擦られてはたまったものではない。
「ね~ぇ~」
「今度はどうしたんだ、プルルート」
「あたしの髪もぉ、手伝って欲しいなぁ~? 長くてお手入れ大変だからぁ~」
「いいのか? 髪は女の命って聞くけど。そんな風に触らせちゃって」
「やさしく、してねぇ?」
「ちょっとその言い方は俺の心臓に悪いなー……」
頼む股間、反応するな。人が必死に意識しないようにしているんだから。頬を赤らめて振り返るプルルートが色っぽいとか反応するんじゃねぇぞ殺されてぇか、舌を噛み切るぞ──エヌラスは必死に目を合わせないようにしてシャンプーへ手を伸ばす。
(えーっと、シャンプーは……こっちか)
ボトルに手を伸ばしたエヌラスが前かがみになると、プルルートの背中に手が触れて身体を跳ねさせる。
「ひゃう……!」
「悪い、びっくりさせて。っていうか、プルルートが取ってくれても良かったんじゃ……?」
「…………」
「プルルート?」
「……ぅ~。エヌラスのえっちぃ~……」
「いや、なんでだよ……」
「だってぇ……えっとぉ~……う~……」
言葉を待っている間に、シャンプーを手にしてよく伸ばす。それから、プルルートの髪を絹を触るように優しく手に取る。それにますます頬を赤らめていた。
「髪、洗うからな」
「うん~……」
蚊の鳴くような声で、小さく頷く。
シャンプーを染み込ませるように、指先で叩く。全体的に伸ばしてから、毛先に向けて手のひらで撫でていくと、首を傾げていた。
「エヌラス、手慣れてる~」
「まぁ……な」
「髪の毛ぼさぼさなのにねぇ~? なんでぇ~?」
「プルルートも人のこと言えないだろが。こーんなに伸ばして」
「あははぁ、ごめんね~?」
「……触ってて楽しいから、いいけどよ」
エヌラスが髪を洗う手付きをプルルートはじっと見つめる。
「妹がな──よく、髪を洗ってくれってワガママ言ってくれたんだ。俺は下手くそだったのに。それでも毎回頼まれたもんだから、いつの間にか慣れちまった。プルルートの髪の毛は洗いやすくていいな」
「そうかなぁ~」
「ああ。俺は好きだぞ」
「えへへ、ありがと~。今日のエヌラスは、やっぱりかわいいよぉ~」
「だーから、かわいいって言うな。褒めてるのか?」
「褒めてるよぉ~」
「ほんとかー?」
「ほんとだよぉ~、疑うの~?」
「いーやー? プルルートに褒められるのは、嬉しいさ」
ただ、かわいいと言われるのはくすぐったいからやめてもらいたい。
泡立てたシャンプーを頭に乗せて、撫でるように優しく髪を手櫛で梳いていく。それに、プルルートが背中を預けてきた。ちゃんとバスタオルで胸を隠しているが、それが一層閉じられた太ももの隙間を色っぽく強調している。
「……♪」
「……どうしたんだ。甘えてきて」
「気持ちよくってぇ……眠くなってきちゃう~」
「寝るならちゃんとベッドで寝てくれよ。裸のプルルート運ぶわけにはいかないんだから」
「……あたしはぁ、いいけどぉ……」
「ほんっとマジで俺が持たないから勘弁してくれよ!? ただでさえ今も相当ギリギリなんだからな俺! ──って、ああああぁぁぁもぉぉっ!」
「へぇ~……♪」
怪しい笑みを浮かべるプルルートに、エヌラスは頭を抱えた。つい口を滑らせた結果がこれである。
バスタオルを外して身体を寄せてくるプルルートの身体が光に包まれ──アイリスハートが降臨した。シャンプーの途中だったからか、濡れた髪が身体に張り付いている。ぺろり、と舌なめずりをすると胸を押し当ててきた。
「ふふ、なぁにエヌラス? あなたって、そぉんなに我慢強かったかしらぁ」
「我慢弱い俺が必死に克服しようとしてんだから煽るんじゃねぇ……!」
「アタシのことぉ、ベッドに運びたくないの? ふふ、嘘はいけないわねぇ。女神様に向かって嘘はダメよぉ、ウ・ソ・は♪ 素直にならなきゃ」
「ぬぅううぅ……! 髪、洗ってる最中なんだからそういうのは後回しだ! な、プルルート!」
「嫌よ」
「おーっとこの女神様お願い聞いてくれないぞぉ? 俺すげぇ困ったなーはっはっは」
「ね~え、エヌラス? 自分に、素直になりなさいよ。正直な気持ちを聞かせてくれたら……サービス、してあげてもいいわよぉ?」
耳元で囁き、優しく顎をなぞる指先に背筋が震える。その反応に、アイリスハートはますます機嫌を良くしたのか意地の悪い笑みを浮かべていた。
「本当に、いやらしいのねぇ♪ アタシからのサービスで、どんなことを想像したのかしらぁ?」
「…………黙秘で」
「ダメよ」
「チクショウ、すぱっと言い切られた」
「ほらほらぁ。どんないやらしいことを考えたのよ、エヌラス?」
「胸を押しつけるな……!」
「うふふ……こっちは、こんなにしてるのにねぇ?」
するりと伸ばした手が、タオルで隠された腰をまさぐる。触れられた陰茎が反り立ち、それにアイリスハートはますます笑顔になっていた。
「ちょ~っと触っただけで、こぉんなにしちゃって──えっち」
「すいませんでした……! ああそうだよ変なこと考えてたよ、悪いか!」
「なぁにやけっぱちになっちゃってぇ~。ちゃんと、素直な気持ち聞かせてくれるかしら?」
「……あー……その……エッチ、したいと思ってました」
「……♪ それだけかしら~? ほんとうに、それだけ? 女神様に嘘は無しよぉ」
「めちゃくちゃエッチしたいと思ってました……」
「……」
「…………」
鼻先が触れ合うほど近い場所に、アイリスハートの顔がある。細目で挑発するような視線はこちらが言い出すのを待っていた。
「──な……」
「な?」
「あー……その、ですね……」
視線を泳がせるエヌラスの頬を、がっちりと固定して自分に向かせる。絶対に逃さないという強い意思表示なのか、爪を立てていた。
「ハッキリと。言ってくれるとアタシ、とっても嬉しいわぁ♪」
「──プルルートと生ハメセックスでガンガン突いて中出ししたいと思ってましたごめんなさい。シェアとかそういうの抜きで、セックスしたい」
「……~~~~」
「あーはいそうですよ悪かったですね! 俺はそういう理屈抜きでお前とセックスしたいと思ってましたー、エッチしたいですー。めちゃくちゃに犯したいと思ってんだよ悪いか! はーもうプルルートお前ほんといい加減にしろよ、泣くぞ俺! なんか、もう敗北感でいっぱいだ。屈辱的だこんな仕打ち……!」
耳まで赤くしたエヌラスが顔を覆う。その手を止めて、アイリスハートが頬にキスをする。
「そぉんなに、アタシとエッチしたいのかしらぁ。ここに、い~っぱい出したくて我慢してるエヌラスってば、ふふふ……ほぉんと食べちゃいたいくらい、かわいいわぁ……♪」
「……ほんとに、我慢してるんだから止めてくれ」
「大丈夫よ、エヌラス──ちゃ~んと後で楽しませてあげるわよぉ。でも、ほぉら。その前に、ちゃんと綺麗にしてくれるかしら?」
髪を指で掬いながら、妖しく微笑む姿に背中を撫でられたような気がしてエヌラスは口をへの字に曲げていた。自分がいいようにされているのが気に食わないのを態度で示しているが、それがますますアイリスハートの嗜虐心を煽る。
「ほぉんと、どうしちゃったのかしらねぇ……?」
「誰が? お前が?」
「違うわよぉ。あなたのこと」
「俺がどうかしたか。流すぞ」
「んっ……だって、前に比べると、随分とおとなしくなったじゃない? 前は──」
「プルルート、止めてくれ。その話は」
「……そうね。荒れてた頃の話は無しにしましょ」
泡を流された自分の髪を撫でて、アイリスハートが嬉しそうにしていた。髪の匂いを嗅いで、熱い吐息を漏らす。
「いい匂い……♪」
「いつも使ってるシャンプーだろ?」
「そうだけど、今日は特別よ♪」
「……身体が冷えるといけないから、ちゃんと風呂には入れよ」
「あら、一緒に入ってくれるんでしょ?」
「──のぼせちまう」
「アタシが、逃がすと思ってるのなら大間違いよ」
「あぁ~もう! はいはい分かりました、ご一緒させていただきます、女神様!」
「そうこなくっちゃ♪」
──ああ、俺。すげぇ弄ばれてんな。エヌラスはちょっぴり泣きたくなった。だが、それを楽しんでいる自分がいるのも否定できなかった。