超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
せっかくなので暇つぶしにでもと、エヌラスはルウィーのギルドでクエストを探す。なにかめぼしい物はないかと見繕っていたが……。
「モンスター討伐の依頼、一件もねぇな」
「ほとんど捜し物とかの依頼だね」
「よっぽどその団体様はモンスターを保護したいと見た」
確かに。労働力としての魅力はある。だが、過保護にすぎると痛い目を見る。九龍アマルガムではモンスター討伐も立派な仕事のうちだ。というのも、市街に入り込んで廃墟で繁殖した場合は、食料が人間になる。区画整理と称した大魔導師の破壊活動(なお仕事の範疇と言い張る)はそうしたモンスターの繁殖を未然に防ぐ行動でもあるのだが──ぶっちゃけ一番の加害者だ。
そんな頭のおかしな国はさておき……ギルドの受付嬢に声を掛ける。
話を聞けば、やはりモンスター保護の風潮らしい。
「そんな風に平和になれば苦労しねぇけどなぁ……」
「悲しいかな、モンスターも結局は動物だからね。どういうきっかけで襲ってくるかもわからないし」
「野宿してるとな、すーぐ襲ってくるんだよアイツら」
「むしろ、なんで君はモンスターがいるところで野宿するんだよ」
普通は安全を確保してからだ。なぜかと聞かれれば答えはひとつ。
「貴重な食糧だから」
「君はまず食生活を改善しろ。あと一般常識」
「ノワールにも言われた」
「で、治った?」
「多少は」
ギルドでクエストを受注しないのもなんだか腑に落ちないので、エヌラスは適当に見繕って数件を引き受ける。
「……そういや、プルルートはどこ行った?」
「あれ、君と一緒にいなかった?」
「そうだと思ったんだが……ちょっと探してくる」
いつの間にかいなくなっていたプルルートを探すためにエヌラスはルウィーの町並みを歩く。そして、ソラの手元には受注したクエストの資料。
「僕に押しつけやがったな……?」
仕方なく探しものをすることにした。当然ながら報酬はその分貰う。正当な対価として。
エヌラスがプルルートを探していると、コスチュームショップでゆるく編んだ髪を揺らして物色している姿を見つけた。
「プルルート」
「う~んとぉ~……こっちのがいいかなぁ~……あ~でもこっちも似合うかな~」
「もしもーし、聞こえてるか?」
「? どちら様ぁ~?」
「俺だよ」
「エヌラス、どうかしたの~?」
「いや、いつの間にかいなくなってたから探したんだよ……なに見てたんだ?」
ルウィーの文化に合わせた服のラインナップ。様々な和服が並ぶ店頭の商品は男性用と女性用のものが並んでいた。
「えっとねぇ~。あたしも着物着てみたいなぁ~って、思ったんだ~。でもそれならぁ、エヌラスにも着せてあげたくて見てたの~」
「なるほど。しっかし、着物を見ていると……昔俺を襲った赤い着物の剣客を思い出すな」
男なのか女なのかよくわからない相手だったが、剣の腕だけは確かだった記憶がある。今思い出しても冷や汗ものだ。
「ま、その話はいいや。どれがいいとか決まったのか?」
「ううん、全然~。ここの着物、どれも綺麗だからぁ~」
「たしかにそうだな」
値段は……。エヌラスが値札を確認すると、顔が引きつるようなクレジットの額だった。とてもではないが一朝一夕で稼げる額ではない。コツコツ稼いでいたら間に合わない。
「たっけぇな……」
「着物は高いんだよぉ~?」
「……これ、買うのか?」
「買わないよぉ~。お金も足りないし~。でもでもぉ、参考にはなるかなぁ~」
「参考? ……ああ、裁縫得意だもんな」
「うん~。楽しみにしててねぇ?」
「そうする。着物姿のプルルート、見てみたいしな」
エヌラスの目に留まったのは清涼感のある水色の着物。足元に紫陽花の刺繍を添えた一着はプルルートに似合いそうだと思った。
「それじゃ、いくぞ」
「どこにぃ?」
「目的忘れてないか?」
「目的ぃ…………え~っとぉ……なんだったっけぇ~……?」
「ルウィーの大臣に会って、リギホウテンの配管について聞くんだろ」
「そうだったような気がする~」
「時間の都合が取れるまでルウィーの観光と、小銭稼ぎのクエストを受注したから手伝ってくれるか?」
「はぁ~い♪」
手を繋ぎ、微笑むプルルートの体温をしっかりと握って歩き出す。
「エヌラスの手、あったかいねぇ~」
「……プルルートの手は、小さくてスベスベだな」
「おっきくて、柔らかいな~♪」
(……女神と手を繋いで町を歩いてるのに特に注目もされてないな。どうなってんだ?)
ふと気になって周囲を見渡すが、誰もプルルートに関心を示す気配はない。他国の女神に対する風当たりがないのはこちらも助かるが、なにか引っかかる。こうして白昼堂々と手を繋いで歩いても騒ぎにならないのは妙な話だ。
「……あー。コホン」
「うお!? びっくりした」
「ぷるっ!? なんだぁ、メガネくんかぁ~」
「声を掛けるか迷ったんだけどね。捜索クエスト、割とさっくり終わったからその報告。それとついでに、妙な話のクエストも引き受けてきたよ。こっちは君向けだろうね」
ソラから受け取ったクエストの資料に目を通す。依頼者は、ルウィーのギルド協会。内容はモンスターの生態調査。
「調査ならお前のほうが得意だろ」
「馬鹿言わないでくれ、よく読んで」
「んー? どれどれ……」
「エヌラス~、あたしにも見せて~」
「はいはい。ほら」
エヌラスが腰を曲げてプルルートにも見えるように資料を広げる。
ルウィー付近の洞窟で最近モンスターの姿が見かけられないらしく、その調査と原因の解明。調査に向かった数名が現在行方不明となっていた。
「……一気にきな臭いな」
「クエストランクも引き上げられてる。本来なら受注できないランクなんだけど、今回は特例ってことで引き受けた」
「勝手に?」
「君が一攫千金とか言ってたから。報酬も桁違いだよ」
「おーおー、とんでもねえ金額出しやがる。破棄していいか?」
「怖気づいた?」
「金で釣ろうって魂胆が丸見えだからだよ」
報酬金額は七桁。どう考えても普通の仕事内容じゃない。
「ちなみに、これを受注した人がいたらしいよ」
「そいつはどうなったんだ」
「帰ってこなかった、てさ」
「そんな危険な仕事なーんで持ってきた」
「好きだろう? 危険とスリルと冒険と、血なまぐさいの」
「よく知ってんなクソメガネ」
「エヌラス~……」
「……金額は魅力的だが、今は保留だ」
プルルートの心配そうな視線に、エヌラスはクエストの資料をポケットに突っ込んだ。
──時間を見て、三人は再びブランのもとを訪れた。傍らにはルウィーの大臣が腕を組んで立っている。
「大臣、来たわ。彼らよ」
「はい。ブラン様」
「どうも初めまして。あなたが例の大臣さん?」
「はい。リギホウテンの配管についてお尋ねしたいとか?」
「ええ、そうなんです。あそこの地図とかあれば、そちらで十分なんですが……」
「見取り図がこちらに」
「助かります」
配管の見取り図を広げて、エヌラスとソラが睨み始めた。
「生憎と担当したのはルウィー方面の居住区のみでして……」
「……エヌラス、どう見る?」
「迷路みたいでぇ、見てるだけで頭痛くなってきちゃう~」
プルルートの率直な感想は、二人も思う。しかし、水道管でもないしガス管でもない。そもそも配管を露出させている理由が分からない。考えられるものとしては──九龍アマルガムに準じれば、何らかのエネルギー循環用。あるいは供給用のものだろう。
「我々は設計に携わっただけで、何のためにとまでは」
「そういうことよ。残念だけどその配管についてはこちらもそこまでの情報しか持ち合わせていないわ」
「……毎日ガス抜きしてるって言ってたな、ソラ」
「ああ、この目で見たから間違いないよ。蒸気を噴き出してた」
「色は?」
「普通の色だったけど。無味無臭、薬物反応無し」
「九龍アマルガムだったら
「魔術関連になると僕は役に立たないからね。君に任せる。この見取り図、コピーとかいただいても?」
「ええ、構いません」
魔霧──端的に言ってしまえば、魔力の残り滓のようなものだ。ただ、魔力伝導率が桁違いに高いために広範囲に魔術を使用する時は一役買ってくれる。しかしその性質上、術者の魔力消費量もまた高くなり、一歩間違えれば魔力切れを引き起こしてしまう。人体には無害とされているが、それも長い目で見ればという話だ。極稀に、魔力酔いや魔術の素質が目覚めたりする場合があるが、近づかぬが吉である。
「ああ、それと──ブラン。ギルドからこんなクエストが。知ってるか?」
「なにこれ……モンスターの生態調査? 確かに、行方不明者が出ているのは聞いていたけれども……ここまでするほどのものじゃない」
「だろうな。俺もそう思う」
「……引き受けたの?」
「こいつが勝手に」
「こいつがやります」
エヌラスとソラがお互いを指差し、顔と指を交互に見つめていた。
「まぁ、あなたが解決してくれるならそれに越したことはないわ。わたしも忙しいの。被害者が出ている以上、無視できないのは事実だけど……」
「確かに、ブラン様の言う通りです。しかしながら、モンスターが居なくなったのなら、それは喜ばしいことなのでは?」
「動物ってのは、人間以上に危険には敏感なんだ。モンスターだって同じだろ。それがいなくなって、行方不明者も出ているってなら話は別だ。こっちは俺がなんとかする」
「……あなたの実力は、知っているつもりよ。だけど、ルウィーに被害だけは出さないでちょうだい」
「気をつける。ついでに行方不明者も捜索しておく。行くぞ、ソラ。プルルート」
「それではまた。機会があれば観光に来ます」
「ばいば~い、ブランちゃ~ん」
三人が教会を後にして去っていく。手を振ってブランが見送り、ため息をついた。
「どうされました、ブラン様」
「……なんでもないわ」
ルウィーでは対策を講じているというのに、プルルートのお気楽さときたら。真面目にやっているこちらの気苦労を分けてやりたいくらいだ。
「なんであたしがこんなに苦労してんのに、悠々自適に人の国でデートしてんだアイツはぁぁぁ! 納得いかねぇぇぇ! それもこれも全部パンドラって野郎が悪いに決まってんだろぉ!」
「お、落ち着いてくださいブラン様! 確かに、あのパンドラが国を立ち上げた時から様々なことが起きていますが、それを理由に戦闘を仕掛けてもルウィーの為になりません」
「ぐっ……! 大臣の言うことも一理あるわ……、だけど」
「それに。リギホウテンにはルウィーの国民達も暮らしているのですよ」
──それが、女神達が攻め入れない一番の理由。
「そんなことは言われなくても解ってる……! だからこうして、わたしが今、どうすればルウィーのみんなが戻ってきてくれるか考えてるんじゃない──!」
「……ブラン様、今日はもうお疲れでしょう。この後の仕事を片付けたら、休養すべきです」
「…………、」
大臣からの進言に、ブランはなにも答えずに歩き出した。唇を噛み締めて、その表情からは悔しさが滲み出ている。
だが──。だが、どうすることも出来ないのだ。女神達と敵対するわけでもなく、この世界に生まれたパンドラ・イルバードはただ人々を導くためだけに国を立ち上げた。争いのない平和な国を。だからこそ、その平和を享受しているルウィーの国民だけでなく、プラネテューヌ、ラステイション、リーンボックスの人々を女神が傷つける訳にはいかない。
自分たちがもっともっと努力して、帰ってきてくれるようにしなければ。目指す場所は同じはずだ。平和で、誰もが楽しい毎日を送れるように国を導くのが守護女神となった自分たちの使命なのだから。